神魔杯ダイジェストその二

フェイトVS紅牙
ただ貴方を想う

なのはの敗北により続いて始まったフェイトと紅牙の試合。

クルスの最も殺したい相手でクルスが復讐者となるきっかけを作った男。

黒色の髪にオッドアイという容姿の男は自分の目の前にいる、フェイトを見つめながらただ手をポケットに入れて立ち尽くしている。


「貴方がクルスを傷つけた人ですね?」

「その通りだが、お前のような女に何の関係がある?あの復讐者とお前はただの仲間だろう?」

「クルスは私の大切な人です」

「ほぅ。あの復讐者を大切に想う者がまだこの世にいたとはな」


クックックッと笑いフェイトだけでなくクルスまでバカにしている紅牙に、フェイトはキッと目を細めてバルディッシュを起動させて構える。

最初から全力でいく、と決めていたフェイトはただジッと紅牙を見ながら動きを観察していく。


「加減して終わらせるつもりだったが気が変わった。クルスの憎しみを増やすためにも覚悟してもらうぞ」

「そう簡単にいくと思い……えっ?」


速さになら誰よりも自信があったフェイトだが次の瞬間、間抜けな声を出してしまう。

突如風のようなものが頬を撫でたと思っていたら自分は弾き飛ばされてフィールドの近くに生えていた樹にぶつかっていたのだ。

何が起こったのかフェイトは理解できずにモニターで見ていたシグナムやヴィータ達は目を見開いていた。


「見えたかシグナム?」

「私でもギリギリだった。テスタロッサ自身見えていなかったようだ。現に吹き飛ばされて困惑しているからな。しかし――速すぎる」


その光景にクルスは目を閉じて拳を握り締め床にポツポツと血が流れていた。

これはフェイトが決めた戦いだ。

介入する訳にはいかない。

でも―――


『マスター』

『レン、僕は――』


フェイトに拳を突き出してフィールドに立っている紅牙はゆっくりとフェイトに向かって歩いていく。

その表情は何も感じていないのか無表情だった。


「バルディッシュ!」

『フォトンランサー』

「ファイヤ!」


雷の球体が数発紅牙に向かって放たれていく。

その雷の球体は紅牙に当たることなく消滅して次の瞬間には、フェイトのバリアジャケットは切り裂かれて頬からはうっすらと血が流れていた。


「どうして私のフォトンランサーが」

「答える義理はない。お前は何も出来ず俺に倒されればいい」


ゆっくりと右手を天に掲げて紅牙はゆっくりとその手を降ろす。

それは一回戦で悠太を真っ二つにした技でありモニターで見ていたフェイトはすぐにそれに気づいて横に回避するとフェイトがいた場所はなにかが切り裂いたように真っ二つに変わり果てていた。


「バルディッシュ、魔力反応は感じられた?」

『全く感じられません。あの男は先程から魔力の類いすら使ってないようです』

「うそ……」


ありえないの一言としか口に出来ない。

魔法を消滅させバリアジャケットを切り裂き謎の攻撃を仕掛けてきた。

それなのに魔力反応がなかったのだからフェイトは驚くしかない。


「ならっ!ここは」


フェイトはバルディッシュをザンバーフォームに形態を変え勢いよく振り払い構え物理的破壊力を持つ衝撃波が紅牙に襲い掛かり、さらにカートリッジを三発消費してバルディッシュを掲げるとバルディッシュの刃は大きく伸びてさらに雷を纏う。


「撃ち抜け、雷刃!」

『ジェットザンバー!』


身体全体を使っておもいっきり降り降ろすとバルディッシュの金色の刀身は紅牙に向かって伸びていく。

紅牙はその刀身を―――


「シヴァ、起きろ」

『……』


デバイスを起動させてバルディッシュの刀身を受け止めたのだ。

かなりの一撃とも言っていいジェットザンバーを受け止める紅牙にフェイトはその目を丸くする。


「嘘っ……!?」

「流石に素手では掴めないからな。だが……この程度か」


紅牙のデバイスがカートリッジを二発消費して紅牙の足元には魔方陣が浮かび上がり紅牙は口を開く。


「空絶」

その魔法はバルディッシュの刀身を砕き紅牙はそのまま無防備となったフェイトを弾き飛ばし地面に叩きつける。

「……クッ!」

すぐにリカバリーしてバルディッシュを戻すが、ザンバーフォームではなくアサルトモードになってしまう。


「まだ……」

「そうこなくてはな。お前にはクルスにとっての起爆剤になってもらわねばならない」

「アナタはクルスをどうするつもりですか?」

「俺もアイツもどちらかが死ぬまで戦うだろうな。しかしアイツが本気で戦うにはまだ足りないんだ」

「足りない?」

「そう――――憎しみがな」


パチッと指を鳴らしたと同時に再び切り裂かれるフェイトのバリアジャケット。

次第にフェイトのバリアジャケットが赤く染まっていく。


(ここで私が負けたら、クルスが壊れる。それだけは……ダメ!)

見たくない。

クルスの悲しい表情だけは見たくない。

これ以上クルスの心を傷つけちゃいけない。


「プラズマスマッシャー!」


中距離砲撃魔法。

雷光を伴う魔力攻撃を左手一つで紅牙に放つ。

その砲撃を紅牙はシヴァを構えただ一言呟く。


「空壁」


砲撃はシールドのようなものに塞がれ紅牙に届かない。

しかし、フェイトも負けるわけにはいかなかった。

倒れる訳にはいかない。

魔力が底を尽きてもこの一撃だけは届かせてみせる。


「はぁぁぁぁぁ!!」

「……むっ!?」


フェイトの声と共にプラズマスマッシャーの威力が上がり、紅牙の表情が一瞬驚愕に染まる。

油断していたとはいえ、まさか空壁を破るとは――と砲撃を喰らった紅牙は左腕から血を流しながら笑っていた。


「いい一撃だ。お前の想いとやらは確かに届いた。褒美として―――楽にしてやる」

「何をいっ……」


フェイトが言い終える前に紅牙は動きフェイトに拳を降り下ろしていた。

その速さになんとかついていったフェイトは瞬時に後ろに飛び回避したが、紅牙はそのまま回り込み拳を振り降ろす。


『プロテクション』


拳がフェイトに触れる前にバリアを張り拳を防いだが、紅牙はそれでも何回も殴りながらフェイトに休む暇を与えず徐々に追い詰めていた。


(ソニックムーヴすら使えないなんて……)


プロテクションもいつまでもつか分からない。

このままだとヤバいと思うフェイトは裏腹に紅牙は狂気の笑みを浮かべカートリッジを二発消費して拳を高くあげる。


「消えろ…」

「……っ!!」

「聖拳!」


振り下ろされた紅牙の重い一撃。

その一撃はフェイトの相棒バルディッシュの刃を粉々に砕き、カートリッジや本体にまでヒビを入れて生身に近いフェイトにもかなりのダメージを与え、フェイトはゆっくり仰向けに倒れていく。


「まさか聖拳まで使う事になるとわな。お前はよくやった、そのままクルスが死ぬまで眠っていろ」


ゆっくりとフェイトに背を向け歩き出す紅牙はふと背後に違和感を感じて足を止める。

背後から感じる違和感の正体は微かな呼吸音と何かが起き上がる音。

まさかと思い振り返った紅牙の目に入ったのは、ボロボロで立つのもやっとの筈のフェイトが立ち上がり虚ろな瞳で紅牙を見つめていたのだ。


「……まだ…終わってない…」

「ほぅ……」

「クルスの……為にも……私は負けられない……」


魔法を使う事も戦う事も出来ないフェイトだが心はまだ死んではいなかった。

ただ大好きなあの人の為に諦めないフェイトに対し紅牙は、目を細めゆっくり拳を前に突きだし口を開く。


「眠れ……小娘」


迫り来る拳を防ぐことが出来ないフェイトは目を瞑る。


『フェイトちゃん!』

『テスタロッサ!!』

『フェイト!!』


モニターで見ていたなのはやシグナムやリンディが悲鳴に近い声を上げる。

誰もがフェイトが地面に叩きつけられると目を瞑っていると、


『プロテクション!』


蒼い壁が出現して紅牙の拳を防ぎ倒れていくフェイトを誰かが抱き止めていた。


その人物は今にも壊れそうな表情を浮かべてフェイトを強く抱き締めていた。


「やはり止めに来たかクルスよ」

「紅牙!貴様!」


殺気を放ち今にも紅牙に向かっていきそうなクルスだが、キュッと服を掴まれ視線はその服を掴んだフェイトに向けられる。


「ごめんねクルス……。私……クルスの事……助けたかったのに……負けちゃった…」

「フェイト……」


儚げに笑うフェイトを強く抱き締めクルスは唇を噛みしめ、唇から血が流れても関係ないように紅牙を睨み付けながら口を開く。


「そのままこのフィールドにいろ。フェイトを医務室に運んだら、そのまま僕とお前の殺し合いを始める」

「そうか。ならばそれまで待っているぞクルス」


フェイトをお姫様抱っこしてフィールドを去っていくクルス。

瞳には憎しみが宿り身体中から殺気が溢れだし誰も寄せ付けない雰囲気を出しながらクルスは医務室に向かうのだった。

こうしてフェイトと紅牙の戦いはフェイトの重体で終わり、ついにクルスと紅牙の戦いが始まろうとしていた。










次回予告

エイミィ
「フェイトちゃんを傷つけられて憎しみを増幅させるクルス君」

リンディ
「憎しみに染まったクルス君はただ相手を殺す為に戦う」

アルフ
「そして、戦いの中で起こる奇跡と決意」

クロノ
「次回S.H.D.C~第二十八話~
『復讐者の最期』に……』

フェイト
「ドライブイグニッション」

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「私の分まで生きて」
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