神魔杯ダイジェストその一

クルスの温もりに耐えきれなくなり涙を流すフェイト。

今にも壊れそうな心と身体にクルスは唇を噛み締めたままフェイトを強く抱き締めた。

自分の胸でなくフェイトの姿にクルスはただ苦痛の表情を浮かべることしか出来なかった。

こんなに自分を想ってくれるフェイトにただ申し訳なく、自分はやはり後戻り出来ないと覚悟したのである。















クロノVS裕理
男としての意地


クルスが戻ってくる前に始まっていたクロノと裕理の戦い。

クルスとの修行でユーノ同様に強くなったクロノは、己のデバイスデュランダルを巧みに使いながら裕理を追い詰めていく。

先程のクルスの戦い。

覚悟して見ていたとはいえやはり納得できるものではない。

一人の男として友としてクルスに言わなければならない。

その為にも自分は戦う。


「フリージングスフィア!!」


氷の球体をいくつも作り出し裕理の身体を氷付けにしていく。

氷を使うのに闘志は燃え上がるクロノに裕理は戦いながら舌を巻く。

自分自身、クロノを攻めたりしているがそれでも目の前にいる男はそれを上回るように魔法をうまく使い、肉弾戦にも瞬時に対応していた。

その実力は過去に戦ったリグレットやシンク達を越えているのではないかと裕理は感じる。


「デュランダル!」

『エクスキューションバースト』


クロノの繰り出した氷結砲撃を喰らい吹き飛ばされる裕理。

裕理自身、管理局に所属している人間は把握していたつもりだった。

しかし、目の前の男は把握していたデータとは違う。

ならば――

「少しアナタを甘く見ていたようだ。こっからは俺も本気でいく」

「なにっ……」


氷結砲撃を喰らい立ち上がる裕理に目を丸くするクロノ。

あれを喰らって目の前の男はぴんぴんしていたのだ。

クロノは裕理の動きに注意するようにデュランダルを構える。


「こいキバットⅡ世」

『了解だ相棒』


上空から現れたコウモリのような機械が裕理の手を噛むと、裕理の顔に何かが浮かび上がり腰にはベルトのようなものが出現して、裕理はコウモリをベルトに装着する。


「変身…」

「その姿は!?」


突如黒い光が輝くと同時にクロノが目にしたのは鎧を身に纏った裕理の姿だった。

その姿こそダアトでリグレットとシンクを倒した姿であり、その姿に特別席で見ていたルークやピオニー達は立ち上がりモニターを見つめる。

倒れた二人が言った情報と裕理の姿が合致したからだ。

裕理の姿にクロノはデュランダルを握り締める一息吐く。


「悪いがこちらも負けるつもりはない。いや、負けられないんだ」

このまま闇に堕ちていく友を放っておく訳にはいかない。
大切な義妹の為にも。

何より―――

「一人の友として!」

「いい覚悟だ。なら俺も全力で貴様を倒す!」

「それはこっちの台詞だ!」

ぶつかり合うクロノのデュランダルと裕理の拳。

鎧があるぶん、裕理が優勢なのだがそれでもクロノは魔法を放ち裕里はクロノと距離を離される。


「フリージングスフィア!」

「無駄だ!」


氷の球体を蹴りで破壊しクロノに接近する裕理。

キバットⅡ世がダークウェイクアップフエッスルを小さく吹くと同時に何かがクロノを拘束した。

フィールドに赤い満月が浮かび上がり、裕理は遥か上空に飛び上がるとその上空から急降下しながら、ストレートパンチをクロノに対して叩き込んだ。


「ガッ!!」


その威力と破壊力にクロノは自分の身体の骨が砕けるのと、口から血が吐き出されたのを感じながら地面に倒れていく。

しかし―――


『クロノ君!!』

「……まだだっ!!」


聞こえてくる筈がない恋人の声に目を開き歯を食い縛り踏みとどまるクロノ。

客室にいる筈のエイミィの声にクロノは闘志を再び燃やし、裕理に仕掛けていたバインドを発動させた。


「あれを喰らって意識があるだと?しかもいつの間にバインドを?」


バインドで縛られながら唖然とする裕理。

普通に考えてありえないクロノの姿に驚くしかない。

あの一撃は普通に意識を刈り取る威力はあるのだ。

それを目の前の男は喰らって踏みとどまりバインドを発動させたのだ。


「僕だって男だしな。…………惚れた女の前でカッコ悪いところなんか見せられないんだよ!!」


デュランに全ての魔力を注ぎ込み、ただ全力で己の使う最大魔法を放つ。


「『オーロラエクスキューション!』」

「なっ!?」


クロノの使う氷結最強魔法。

それは裕理だけでなくフィールドや放ったクロノまでも凍らせる威力だったようだ。

薄れていく意識の中で、クロノは「あぁ…」と呟く。

勝つと決めたのに引き分けることしか出来なかった。

友を止めるためにも勝つつもりだったが自分ではそれが出来なかったようだ。

目が覚めたらエイミィに怒られてしまうなと思いつつクロノはゆっくり倒れていき、鎧を身に纏っていた裕理は変身が解けて自分を追い詰めたクロノを見ながらただ一言呟く。


「俺が引き分けとはいえ変身を解かれるとはな……」

バインドの拘束も消滅してクロノの放ったオーロラエクスキューションを喰らった裕理の身体もゆっくり倒れるのであった。

これにより両者ノックダウンとなり引き分けとなるのだった。














終わる一回戦と始まる二回戦
組み合わせ決まる


激闘の一回戦を勝ち上がった者達。

ユーノ・エグザ・なのは・フェイト・紅牙・総也・淳・将輝・湊・ショウ・クルスの十一人。

一回戦で敗北した者達は観客席や客室でモニターを見ていた。

重体のクロノと稟の二人は病院で治療中なので会場にはいない。

休む暇もなく二回戦の組み合わせは発表される。

フィールドA
【ユーノVS湊】

フィールドB
【ショウVS将輝】

フィールドC
【なのはVSノヴァ】

フィールドD
【フェイトVS紅牙】

フィールドE
【クルスVS淳】

不戦勝
エグザ

電工掲示板に表示された組み合わせに様々な表情を浮かべる者達。

その中でなのはVSノヴァとフェイトVS紅牙の組み合わせに不安気な表情を浮かべるショウとクルスの二人。

よりにもよってこの組み合わせになるなんて―――


ショウはなのはの元に向かい、クルスは先程から一緒にいるフェイトに視線を向けて二人ともが同じことを口にしていた。


「なのは、相手はあのノヴァだぞ。大丈夫なのか?」

「フェイト、あの男は危険すぎる。このままじゃ…」


二人の心配する声になのはとフェイトは首を横に振る。


「ショウ君、私はいつだってどんな時だって逃げたりしなかった。ショウ君の隣に立てるまで私は戦うの」

「なのは…」

「クルス、確かにあの人の相手をするのは怖いよ。もしかしたら死ぬかもしれない。だけど、クルスと一緒に過ごす未来が私を支えてくれてる。だから私は負けないよ。クルスの分まで戦う」

「フェイト…」

「「だから……」」


なのはとフェイトは目の前にいる愛しい人に向かって決意した表情で口を開く。


「「私を信じてほしいの」」


なのはの言葉にショウは頷きなのはの頭を優しく撫でて、フェイトの言葉にクルスはギュッとフェイトを抱き締める。


胸に不安を抱えたまま二回戦はゆっくりと始まるのだった。





ユーノVS湊
モードシジフォス


シグナムと戦って勝利したユーノとアシュトンと戦って勝利した湊の試合。

最初から全力で戦うユーノに対して湊はどこか集中していないのか意識がどこか別の方に向けられている。

「湊、僕と戦っているのに余所見かい?」

「…俺にもわからない。ただ……」

「ただ?」

「……さっきクロノが戦っていた男が気になって」


クロノと引き分けた男。

裕里という名前で登録されていた人物に何故か懐かしさと疑念を抱いていた湊。

先程クロノと同じ病院に運ばれたようだがどうしても気になって仕方ない。


「じゃあ仕方ないね……とか言わないよ。勝負は本気でやるのが醍醐味だからね」

「分かってるよユーノ…」


メディから放たれるディバインバスターをプロテクションで防ぎ、湊は己のデバイス二丁拳銃で応戦する湊。

「…ライジングレイザー」


湊のデバイス、アルテミスの銃口から放れる砲撃。

今のデバイスの形態は二丁拳銃の為銃口二つから砲撃は放たれている。


「なのはのディバインバスタークラスを二発も一気に放ったなんて信じられない」

「まだまだ…。…アルトレイズシューター……」

「今度はアクセルシューターか。まるでなのはと戦ってるみたいだよ」


悪夢だとは絶対に口にしないユーノは自分を褒める。

口にしたならばなのはからのSLBを覚悟しなければならないからだ。

「仕方ない。メディ!カートリッジロード、secondモード展開!」

『secondモード承認、モードシジフォス展開』


三発マガジンを消費させてメディの形態が杖から弓へと変化する。

それに伴いユーノのバリアジャケットも変わり、ユーノの右肩には緑色の羽のようなものが生えて手にはガントレットが装着された。


「それが……ユーノの本気?」

「今はね。このモードってかなり魔力使うし一撃必殺とかにしか使えないから。でもね……」


ユーノが手を弓の方に手を添えると、弓はそれに答えるように輝きユーノの手には巨大な矢が握られて今にも放たれんと鼓動していた。

その矢だけを見るとまるでなのはのSLBのような魔力が込められているようにも見える。


「湊、僕の全力全開受けてみるかい?」

「……よく言うよ。最初から撃つくせに……」

そう苦笑して湊もまたアルテミスを強く握り魔方陣を展開する。

ユーノが全力であの矢を放つなら俺もその全力に答えるまで。

アルテミスの全力を使う。


「……確かに迷いはある。けど今はユーノの本気に答えるのみ」


膨れ上がる湊の魔力。

その魔力にユーノは笑みを浮かべながらも引いている矢を下ろすことなく力強く精一杯引いていく。


「いくよ湊!」

「こい…っ!ユーノ!」

「アトミックイレイザー!」

「メギドアポリカスプスブレイカー……」


巨大な矢と巨大な砲撃が一気に放たれて中心地点でぶつかり合う。

矢を放ったユーノは顔を歪め膝をつくのに対して湊は砲撃を撃ちながら舌打ちする。


(威力がけた違いだ…。このままだと俺のブレイカーを打ち消してくる……。だけど俺だって負けられない……。負けるわけにはいかないんだ……っ!)


アルテミスを握り歯を食い縛り砲撃を放つ湊。

叶がモニターで見ているはずだ無様な姿だけは見せられない。

ユーノが見せたように、こちらも本気を見せてやる。


「アルテミス、カートリッジロード」

『しかし、それでは貴方の身体が……』

「アルテミス、ユーノの本気に答えるんだ。……頼む」

『貴方という人は仕方ありませんね』

マガジンを三発使い湊のブレイカーの威力が微かにだが上がった。

そのブレイカーはユーノの放った巨大な矢を飲み込んで膝をついていたユーノに迫り来る。

迫り来る巨大な砲撃にユーノは力なく笑いメディを地面につける。


「……悔しいな」

己の放ったアトミックイレイザーを飲み込んで迫り来る湊のブレイカー。

まるで漫画のような展開だと苦笑しながらユーノは目を閉じて湊の全力を受け止めたのだった。










神魔杯ダイジェストその一
END
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