過去の罪

「さてと、話がずれちゃったけど最後に一つ」


クルスは稟に視線を向けて真剣な表情で口を開いた。


「稟、これから僕達はキミの護衛としてここにいるけどいいかな?」

「護衛って何で!?」

「お前が神にも悪魔にもなれる男だからだよ……稟」


樹が眼鏡を光らせて稟を指差した。

稟は訳がわからないって顔をしているけど、


「シアちゃんやネリネちゃんの婚約者候補No.1のお前を憎む奴はいるはずだ。現に親衛隊や裏組織も動き始めている」

「だから俺達でお前を守るって事だよ…」


樹の言葉に付け足すようにトレインがハーディスを器用に回しながら稟に言った。


「まぁ…稟だけじゃなくハヤテもだけどね」

「僕もですか!?」


まさか自分もそうなっているとは知らずハヤテは目を丸くする。


「三千院の財産はキミにかかっているし。稟同様に親衛隊や裏組織に狙われる可能性だってあるからね…」


樹の言葉に稟とハヤテは顔を真っ青にした。


「まぁ、僕らは管理局に協力する形になるからこれからよろしく頼むよ」

「つまりファントムナイツとはお前達の事で間違いないんだな」


クルスの言葉にクロノが真剣な表情で聞くと、クルスは微かに笑みを浮かべて頷いていた。


「とりあえず、話しはここまでにしよっか」


時間はいつの間にか21:00を過ぎていた。


「全員晩御飯は食べてなかったでしょ?上にあがって食べよっか」


クルスがそう言った瞬間両王がどこからか酒を持ってきた。


「んじゃ!クルス殿とナイツの歓迎会を…」

「始めまーす!!」


この二人のハイテンションによって悲劇が始まった。


ちなみに―――

「にゃにゃにゃにゃぁぁぁぁ~~~!!(俺も参加だぁぁぁ~~~!!)」


突如虎のような生き物が現れたがハヤテによって空の彼方に消えていった。






~大宴会場~

両王によって開始された宴だが両王は二人とも姿を消していた。

ちゃっかり酒だけを置いて。

その酒のせいでただいま大変な事が起きています。


「ニャハハハ!ショウく~ん!」


なのはがニコニコしながらショウに抱きついており酔ったせいなのか頬は赤く瞳も潤んでいる。


「な…なのは!酔ってるな!?」

「ムッ!酔ってないよ!」


なのはがショウの腕を強く抱き締めると、そのせいでショウの腕になのはの胸の膨らみが当たりショウは理性と戦う羽目になる。


(まだ大丈夫だ!耐えろ……俺の理性よ!)


そんな努力をするショウに更なる追い討ちが、


「なのはちゃん!抜け駆けはズルいで!私もや!」

「はやてちゃん!ショウちゃんはボクんだよ!」

はやてと亜沙がショウの空いた片腕を取り合いして、


「アホやな二人とも!正面がインパクトがあるんやで!」


ニヤリと笑いながら酔った咲夜が正面に抱きついた。


(ガハッ…!耐えろ!耐えろ!耐えろ!稟やハヤテだって頑張っているんだ!)


ショウの視線の先には、同じように理性と戦っている稟とハヤテがいる。


(叔父さん達の目的はこれだったのか!?)

(僕は執事!僕は執事!僕は執事!僕は執事!)


稟は両王を憎みながらハヤテは訳が分からない事を頭の中で繰り返していた。


何とも言えない光景だがクルスは小さく笑っている。


すると――


「久しぶりだな、クルス」


「シグナムか。久しぶりだね」


グラスを持ってシグナムがクルスの隣に現れた。


「随分と成長したなお前は」

「いろいろあったから嫌でも変わるよ」


クルスはそう言って手摺に寄りかかると、シグナムもまた手摺に寄りかかる。


「あれから私は強くなるために修行をした。だがまだ……お前に勝てるという自信がこなくてな」

「シグナムは強いよ。僕が出会った剣士の中でもね」

「そっ、そうか」


クルスの言葉が嬉しかったのかシグナムは笑みを浮かべている。

さすがはバトルジャンキーである。


「クルス、もしお前さえよければ私と戦ってくれないか?」

「僕はかまわない。シグナムの腕がどれだけ成長したか気になるしね」

「ふっ、相変わらず余裕のある発言だな」

「そういえば他の守護騎士達は元気?」

「あぁ、変わらずな。今日は連れて来たんだがおそらく主の傍だろ」

「まぁ…元気ならそれでいいや。シグナムの顔も見れたし僕はクロノのところに行くね」


柔らかな笑みを浮かべながらクルスはその場から離れていった。


「まだ話したかったんだがな…(それにしてもクルスの腕から見えた黒いタトゥーは一体?)」


クルスの後ろ姿を見ながらシグナムは首を傾げていた。








△▼△▼△▼

「やぁ、クロノ」

「クルス元気そうだな」

「クロノの方こそね。アルフから聞いたよエイミィとはいい感じなんだってね」


クルスの言葉にエイミィとクロノは顔を赤くする。

僕が知らない間に進展したようで何よりだ。


「それよりもクルスには感謝している」


クロノが急にそんな事を言うからエイミィとリンディはびっくりしている。


「お前が裏で皆のサポートをしてくれていたおかげでロストロギアの回収もすぐに終わっていた。それにお前が帰ってきてくれてフェイトが今まで以上に笑っているからな」

「フェイトに寂しい思いさせたくなかったから。ただそれだけだよ」

「フェイトちゃんは愛されてるね~」

「将来はどこで式を挙げようかしら?」


エイミィとリンディは何やらいつの間にかパンフレットを見ながら話している。


「クロノこれから忙しくなると思うからキミの力も借りたい。大丈夫かな?」


「あぁ…!僕でよかったらいつでも力になるさ!」


クルスとクロノは拳をぶつけあい笑い合った。

その光景を見ながらリンディが、


(クロノもクルス君を認めたって事は、フェイトの将来にも障害はないわね)


ニコニコしながらそんな事を思っているなど誰にも分からなかった。










△▼△▼△▼

「マー坊、ここがクルス殿が言ってた部屋か?」

「そうだよ。部屋の中心に小さなお墓があるからね」

二人の視線の先には花に囲まれた小さなお墓に向けられている。

「クルス殿が頭を下げて頼んだ部屋だから、気にはなったんだがマー坊はどう思う?」

頭をかく神王に魔王は顎に手を置いて考えた。

「う~ん、多分クルスちゃんにとって大切な人のお墓だと「その墓は…僕やショウの幼馴染みだった人のなんですよ」…クルスちゃん」


魔王の言葉を遮るように背後から現れたクルスが悲しげな表情で答えた。


「お二人がいなくなったから気になりましたがこの部屋にいたんですね」


クルスはゆっくりとお墓の前に歩き片膝をつくとゆっくり口を開いた。


「両王様、お願いがあります。今は一人にしてくれませんか?」

「クルス殿!そりゃあねぇぜ!親子との間に隠し事は「この部屋にいる間は一人になりたいんです」…」

振り返って答えるクルスの表情を見た途端に、両王は驚いて『えっ…』と声を出してしまった。


「お願いします」


クルスの瞳には微かに涙がたまって悲しげな表情を浮かべていた。

その表情と涙に両王は顔を見合わせて頷くと部屋から去っていった。








「佑奈、今日ショウと会ったよ」


お墓の前でクルスは静かに話を始めた。

最初は嬉しそうに話していたが次第に表情が変わり瞳から涙が流れ始めた。


「佑奈…ごめん…僕が…弱かったから…キミを死なせてしまった…。僕にもっと…力があれば…守れたのに…」

止めようがない程の涙がお墓を濡らしていく――








部屋の前で話を聞いていた両王はどちらも口を開かず黙っていたのだが、


「ねぇシンちゃん」

「どうしたマー坊?」

「今夜の事は二人だけの秘密にしておこう。特にショウちゃんには気付かれないようにね」


魔王の言葉に神王は頷くとゆっくりとその場から消えていった。







こうして夜は終わりを告げた。

これから先―――

何が起きるかは――

まだ誰も知らない――







次回予告

トレイン
「稟の護衛と同時に始まった新たな戦い…」

シャオ
「それは学生にとって地獄なものだそうです…」

セフィリア
「私達には関係はありませんが気にはなります」

ジェノス
「次回S.H.D.C.――
第四話――
【地獄ペーパーテスト!!】」




「わかんねぇ…!」
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