始動!神魔杯

苦笑しながら修行の事を思い出すクルスにショウやなのは達は改めてユーノとクロノに視線を向ける。

あの夏の修行ではユリナさんに『まだまだね…』とかなり酷評を受けていたのに、今ではクルスと対等に戦えるようになっている。

身体の傷もガッチリとした身体もそれが成長した事で身に付いたもの。

実際戦えば分かるかもしれないが本気の二人がどれだけ強いのかバトルマニアじゃなくても気になることである。


「それでフェイト、いつまでクルスに引っ付いているつもりだ?」

「もうちょっとだけ……。ダメ…かな…クロノ?」


涙目で訴えかけるフェイトにクロノが勝てるはずもなく、『うっ…』とダメージを負ったかのような後退り小さな溜め息を吐きながら口を開く。


「全く、我が義妹ながらたまに予想できないものだな」


(シスコンだな)

(シスコンなの)

(シスコンだよ)

(シスコンだったのか)

(かったるい…)

(シスコンですね)


クロノの言葉にショウとなのはとユーノと稟と純一とハヤテが意志疎通するように意見が揃った。

クロノにシスコンというレッテルが貼られたのは言うまでもない。

そんなシスコンクロノは頭をガシガシと掻き苦笑していたが、フェイトのこんな姿を見るとどこか微笑ましく感じていた。

義妹の幸せを見れて義兄として嬉しいことだが、逆に不安要素がないわけでもないのだ。

クルスは今ユリナさんに警戒や監視されて立場的に危ない。

ジョーカーズの秘密を一番知っているのはおそらくクルスだけ。

何故それを話さないのか分からない。

自分達を信用していないのかと思ったがおそらく違うだろう。


(今は考えても答えは出ない………。でももしこのままクルスが話さなかったら…)


顔を歪めてクロノは視線をフェイトに抱きつかれながらも笑っているクルスに向ける。

せめて自分の予感している事だけにはなってほしくないかのようにクロノはただ複雑な表情をしていたのだった。


『これより開会式を始めます。参加者以外の皆様はご退場ください。参加者の方々はその場で待機してください』


会場のアナウンスと同時にその場から去っていく参加者以外の者達。

チアガールの格好をした女の子がいたがその女の子も緑色の髪をした青年に引き摺られていく。

その場に残った参加者はそれでもかなりの数が残っており大会主催者の一人でもあるクルスは驚いていた。

第一回でこの人数は凄い。

本当に大丈夫なんだろうか?


『それでは開会式の言葉を神王ユーストマ様からお願いします』


ガシッ!という力強い効果音と同時に耳に響いてきたのはこの声。

神王からの開会式の言葉だった。


『これより!!第一回神魔杯を開始する!!お前ら!気合い入れて戦えよーーーー!!』


神王の大声に耳を塞ぐ参加者と雄叫びを上げて手をつき出す神族の参加者――

別室にいる三人の妻やシアやキキョウは珍しく王としての姿を見せた神王にパチパチと拍手する。


『次はルール説明を魔王フォーベシイ様からお願いします』


スッと立ち上がりマイクを握った魔王はニコッと柔らかな笑みを浮かべて口を開く。


『えーっと、この大会は原則として一対一での試合でおこなうよ。ただ今回は第一回でもあったため参加者が予定よりも多かったから、まずは予選でかなりの人数を減らさせてもらうよ。それと、試合の勝敗はどちらかが戦闘不能か降参の合図を出したところで決着となる。もし試合中にどちらかが死亡しても責任は一切こちらにはないからね。最後に優勝商品だけど……』


ゴクリと息を飲む参加者。

これの為に参加した者がほとんどだろうが果たして優勝商品を手にする事が出来るかな――


『優勝した人にしか分からないようにしているから楽しみにしておくように』


ルール説明を終えて最後に手を振りながら魔王は直席した。

こちらもまた魔族の参加者が先程の神族同様に雄叫びを上げて、別室にいる魔王の妻やネリネやリコリスやプリムラがパチパチと拍手をしていたのだった。

神王と魔王の出現に会場はかなり盛り上がるが正直五月蝿いです。


『それでは次にこの大会の為だけに視察なされた方々のご紹介をします。まず神王様の右横にいらっしゃるのは【マルクト帝国現皇帝】ピオニー・ウパラ・マルクト九世様』

スッと立ち上がりピオニーが最初に口にしたのは、


『私のブウサギを知らないか?』


知りません。

何で最初に口にしたのがそれなのかと頭を抱える複数の人物。

相変わらずのピオニー・ウパラ・マルクトであった。


『次に魔王様の左にいらっしゃるのは【キムラスカ王国】より女王の代わりに来てくださった、ルーク・フォン・ファブレさんです』

『えーっと、よろしく!!』


短髪の青年がペコリと挨拶するとピオニーを分を含めての大きな拍手が巻き起こる。

その大きな拍手にルークは照れながら頬をポリポリと掻いて席に座った。


するとルークは会場にいたクルスに気づいて、二人の目が合うと二人は二人にしか分からないようにアイコンタクトを交わす。


(久しぶりだなクルス)

(元気そうで安心したよルーク)

(お前もなクルス)


それだけアイコンタクトを交わすと、二人はフッと笑いアイコンタクトをやめてアナウンスに集中する事にした。

アイコンタクトとは非常に便利である。


『それでは予選を始める前に試合の実況の方からも一言お願いします。鳳凰学園から神爪勇人さんです』


マイクを手にした鳳凰学園教師神爪勇人は椅子に座ったまま会場にいる参加者を見つめかなり珍しく真剣な表情で口を開いた。


『いいか、この大会は生と死をかけた戦いと思いやがれ。半端な覚悟で参加した奴等には悪いがお前達は死ぬかもしれない。いいか!!参加していいのは死ぬという覚悟がある奴だけだ!!』

『……………』


どこぞの反逆皇子のようにオーバーリアクションをする勇人に会場は静まり返る。

『やっちゃったよこの人…』と言わんばかりにショウや将輝達は固まっており、別室にいた美希や理沙達は爆笑していたらしい。

ちなみに当の本人はやりきった感じで爽やかな笑顔を浮かべていたが、この放送を見ていた鳳凰学園の教師達は雪路以外は胃薬を飲んでいたらしい。


『そっ、それでは…』


アナウンスの人も戸惑うほど勇人はやってしまったらしい。


『予選の抽選会を始めましゅ!……………せっ、選手の人達は並んで前の箱の所まで来てください!!』


アナウンスの人は本当に大変だと確信した。

よほどあの静まり返る会場に耐えきれなかったのか、何とか次に進めていたのに噛んでしまい顔を赤くしてしばらく口を開かなくなってしまった。

恐るべし勇人の演説――


『んじゃあ抽選会を始めんぞ。本当に参加者が多いな…』

『仕方ないですよ。皆さん優勝商品や参加した意味がありますから』

『それもそうだが、お前は誰だ?』

『あっ!申し遅れました!私はルーク・フォン・ファブレさんの友人ユキナと言います。よろしくお願いします。ちなみにさっきのアナウンスは私の姉です』

『ご丁寧にどうも』


二人が話している間に次々と選手達の予選ブロックが決まっていく。

ブロックはA~Nブロックまでありそのブロックの勝者二名が代表となる。

この予選でかなりの人数が脱落していくのだが、組み合わせはどのようになっているのであろうか?


『成る程な、ブロックわけはそうなったのか…』

Aブロック…
『将輝・直樹・神族からの参加者』

Bブロック…
『ユーノ・湊・魔族からの参加者』

Cブロック…
『ショウ・ディアス・神族からの参加者』

Dブロック…
『なのは・フェイト・人族からの参加者』

Eブロック…
『シグナム・ヴィータ・管理局からの参加者』

Fブロック…
『総也・勇・人族からの参加者』

Gブロック…
『紅牙・悠太・管理局からの参加者』

Hブロック…
『稟・クロノ・人族からの参加者』

Iブロック…
『純一・エルド・魔族からの参加者』

Jブロック…
『アシュトン・デニス・神族からの参加者』

Kブロック…
『裕里・奏也・人族からの参加者』

Lブロック…
『クルス・エグザ・魔族・管理局からの参加者』

Mブロック…
『淳・雅・神族からの参加者』

Nブロック…
『クロード・ハヤテ・魔族からの参加者は』

Oブロック…
『ザフィーラ・神族からの参加者・人族からの参加者』


もはや狙ったかのように皆がバラバラのブロックに別れている。

いくつか気になる組み合わせもあるようで勇人は目を細めていた。



「どうやらうまく別れたみてぇだな」

「私やヴィータのブロックはほとんど局員のようだしいい訓練にもなる」


Eブロックで予選をするヴィータとシグナムの言葉にビクッ!とEブロックの予選選手達の肩が揺れる。

どうやら選手の中にはどうやって生き延びようかと考えている者達までいる。

だが彼らは知らない。

ヴィータとシグナムがウキウキして予選を待っているなんて。


「……裕里……」

「んっ?どうした湊?何か気になる事でもあったか?」

「……何でもないよ純一…気のせいだから…」

「……?」


純一にニコッと笑い視線を再びモニターに向ける湊。

参加者の一人でもある裕里という名前が何故か気になってしまう。

どこかで聞いたことある名前なのに出てこない――


『…湊』

「……………?」


首を傾げて考えても結局答えが出る事はなかった。

自分は何か忘れているのだろうか?


「…かったるい…」


ポツリと呟いた一言はいつもより重みを感じた。

もしかしたらこの大会で分かるのかな?










「クルス…」

「どうしたのショウ?」


ブロックの組み合わせに驚愕したり落胆したり安心している参加者がいる中で、ショウが何やら真剣な表情でクルスの所にやって来て口を開いた。

気のせいだろうか?

二人は話しているだけなのに周りの声は一切聞こえることはなく二人の間だけ静まり返っていた。


「クルス…」

「…………?」

「俺はお前と戦いたい」

「………えっ?」


ショウの言葉にキョトンとするクルス。

まだ予選なのにショウは本気でそう口にしたからだ。

ただ純粋に僕と戦おうとしているのだ。

だったその気持ちにはこう答えるしかない。


「その時はお互い本気で戦おう。そして――僕が勝つ」

「へっ!それはこっちの台詞だ!」


苦笑するクルスとニカッと笑うショウを見つめる複数の人物。

エグザ・紅牙・裕里・淳・総也といった実力者である。

エルドだけは個人的な理由でクルスを鋭い目付きで睨んでいるが、クルスは全く気にせずショウと話しているのだった。
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