始動!神魔杯
~管理外世界第20『ロンド・ラグナ』~
かつては無人の星と言われていた場所にそびえ立つ巨大な建築物。
ロンド・ラグナの中心とも言える場所にそれは造られて、その建築物の周りや少し離れた場所にはこれから始まるであろう『神魔杯』の為に作られたフィールドがいくつも配置されている。
肉眼では確認出来ないがリングもちゃんと配置されていた。
無人だったロンド・ラグナを両王と##NAME2##達が何ヵ月もかけて作り上げた建築物にフィールド。
これが神魔杯の戦いの場でありさまざまな思いが交差する場所となるのである。
『神魔杯に出場する選手はすぐにアリーナにお集まりください。予選の組み合わせを三十分後におこないます』
巨大な建築物内に静かに響くアナウンスの声。
アリーナにいる参加者はそのアナウンスの声にざわざわと騒ぎ始めている。
そんな中でショウやなのは達は自分のナンバープレートのバッジを身につけて話をしていた。
「凄いなこの人数は…」
「えっとの参加者は五千人を越えてたみたいだよ、さっき受け付けにいたシャオさんが言ってたけど…」
参加者を見ながら驚いた表情をしているショウとなのはの二人。
傍にいるフェイトはなのはから離れないようになのはの服の袖を掴んでいるようでなのははその行動に苦笑している。
「おっ!やっと見つけたぞショウと愉快な仲間とヒモ達」
「誰がヒモだ!!」
「誤解を招く言い方をしてんじゃねぇ!!」
「…ひっ…否定……できません…」
「「ハヤテ!?」」
人混みを掻き分けて現れたのはショウ達と同じナンバープレートのバッジを身につけた将輝とそれに続くように湊と直樹と勇と奏也とデニスの六人である。
六人とも普段通りのようで将輝と湊と直樹の三人に至っては外から買ってきたであろう、かき氷やポップコーンやたこ焼きを手に持ち食べていたのだ。
「将輝……」
「何だよその目は?あっ!俺のたこ焼きを狙ってるんだな!?稟には渡さねぇぞ!」
「いやっ、別に狙ってはいないがお前少しは緊張とかしないのか?」
稟の言葉にキョトンとする将輝。
何を言ってんだ?と思っているであろうその表情のまま将輝は口を開く。
「…緊張?何でするんだよ?どうせ戦う奴は知った顔の奴だろ?」
「へっ……?」
将輝の言葉に首を傾げる稟。
いや首を傾げたのは稟だけではないようで、話を聞いていた純一やハヤテやなのは達まで首を傾げていた。
何故気づかなかったんだ?
「いいか、この大会の参加者が予定より多かったのは知ってるだろ?そんで予選である程度減らすはずだ」
「予選で!?」
「あぁ……。それで各ブロックに代表者二名を決めるらしい」
「でも、それだと予選の組み合わせ次第じゃ純一やハヤテ達と戦う事にならないか?」
稟の言葉に将輝はかき氷を一口食べてかき氷を食べる時に使うストローを稟に向けて口を開いた。
「俺の予想を言うなら予選では全員勝つ。これは俺の勘だけどな」
ニカッと笑う将輝に対して、稟はどこか腑に落ちないようだ。
別に稟の疑問がおかしい訳ではない。
ただ勘と言うより同じブロックに三人も四人もぶつけると考えられないからだ。
おそらく予選は肩慣らし。
クルスならやりかねないからだ。
「ところでクルスはどうした?主催者の一人だけどアイツはアリーナに集まるんだろ?」
「………」
「フェイトちゃん、クルス君の名前を聞いただけで落ち込むなんて凄い重症なの」
直樹の言葉にこの世の終わりと言うしかないほど表情を暗くするフェイトになのはが溜め息を吐く。
何故フェイトがここまで落ち込むのかと言うと、
「仕方ないよフェイトちゃん。クルス君はこの大会の主催者さんの一人だったからいろいろ忙しかったんだし、フェイトちゃんだってお仕事で忙しかったんだからしょうがないよ」
「……うぅ~」
「ねっ!ショウ君!」
「あっ……あぁ……」
どこか歯切れの悪いショウになのはは首を傾げる。
稟や純一やハヤテ達は話していたため気づかなかったが、将輝や奏也や勇はショウの反応に目を細めていた。
ショウが悩んでいるのは、おそらくクルスが関係しているからだと気づいていた。
そしてその予想は当たっているのだが、ショウ自身あの日ユリナがクルスを警戒しろと言った言葉が頭からどうしても離れなかった。
自分はどこかで無意識にクルスを監視していた事がある。
ここ数ヶ月管理局の仕事でクルスと一緒になったり、廊下で会ったりするとどこか疑ってしまう自分がいた。
親友だから信じている自分と管理局の局員としてクルスを疑う自分がいる。
その事がショウをずっと悩ませているのだ。
親友なのに―――
『おいっ!来たぜ』
『あれがこの大会を開いた一人……クルスって男か』
ざわざわと周りが騒ぎだしショウやフェイト達は参加者と同じように視線を向ける。
東の入場口から黒のコートを身に纏いⅠと刻まれた十字架のネックレスをつけていつになく冷たい目をしたクルスが歩いてきた。
コートが靡き一歩一歩クルスが進む度に道を塞いでいた参加者は無意識に道を開ける。
まるで本能がそうさせているかのように。
その光景にショウはゴクリと唾を飲み込みフェイトは「…………いい」と頬を赤く染めてなのはがそれに苦笑しているようだ。
「あれがクルス?あんな顔初めて見るぞ」
湊のポップコーンを食べながら驚いたように口を開く純一。
それは純一だけではなく稟やハヤテや奏也や直樹も同じである。
将輝はどこか呆れているのか溜め息を吐いて湊はただジッとクルスを見つめていただけ。
何も感じてはいないようだ。
すると――
「あれって……」
クルスの元に誰かが近づいていた。
その人物に心当たりがある時空管理局の局員でもあるショウとなのはとフェイトの三人。
そう彼に近づいてきたのは――
「ランコット執務官だよね?」
「あぁ……。マオの部下だったかな?よく覚えてないけど…」
ショウがランコットと会話したのは二回だけ。
あまり印象がないのはランコットの話し方や態度がそうだったからである。
「どんな奴だ?」
奏也の問いに三人とも無言になる。
どうやら本当に印象がないようだ。
~クルスside~
会場に集まった参加者は僕の予想を越えていた。
この中で神魔杯の本当の意味に気づいた者はおそらく一握りの人物だけだろう。
勇人先生や視察に来ていた腹黒大佐辺りは気づいたに違いない。
なんとも恐ろしい人達だ。
『おいっ!来たぜ』
『あれがこの大会を開いた一人……クルスって男か』
周りの参加者の声が耳に届く。
彼らは自分の願いや欲の為にこの大会に参加したのだろう。
決して叶うことはないだろうが。
「……んっ?」
歩いていると、一人の男が現れて進路を塞いだ。
その男は何やらニヤリと笑みを浮かべこちらを見ていたが彼は誰だろう?
「久しぶりだなクルス」
「………誰?」
僕の言葉に目の前にいる人物は憎しみのこもった目と今にも襲い掛かりそうな顔をする。
本当に忘れているから仕方ないのに。
「そのふざけた態度も今のうちだ。あの時俺を蹴ったカリは必ず返してやる。そしてハラオウン執務官の前でお前を殺してやる」
どうやら過去に僕が蹴り飛ばした人物でフェイトの事が好きらしい。
そういえば前にロッサと一緒にいた時に現れたマオとかいう奴の隣にいた男のようだけど……
「ねぇ…」
「何だよ?」
「フェイトは誰にも渡さないよ。だから今すぐ……僕の前から消えろ」
あの時と同じように殺気を込めて睨むと彼はクッと顔を歪めて離れていった。
フェイトが管理局で人気なのは知っている。
クロノやロッサやユーノからその話はよく聞いていたから。
それだけ僕が憎まれたり敵視されてるのは構わない。
だけどこのままだと僕はフェイトを傷つけるかもしれない――
きっと彼女は優しいから僕を止めるかもしれない。
それでもやらなきゃいけない事が僕にはある。
この大会もその一つで、おそらくこれから先に起こるかもしれない事態も僕が――
「………」
黒い感情を胸にしまいながらクルスはショウ達の元に向かう。
今は忘れるしかない。
最悪の道を歩く事になったとしても。
今だけは――
~ショウside~
ランコットと話し終えたのかクルスがこちらにやって来た。
先程の冷たい雰囲気から一変して柔らかな笑みを浮かべいつもと同じ口調でクルスは口を開く。
「久しぶりだね皆」
この神魔杯の準備で数ヶ月ショウ達はクルスには会っていなかったので何故か懐かしく感じてしまう。
時空管理局の仕事で一緒に戦ったショウも皆と同じで懐かしさを感じている。
それだけクルスとは会っていなかったのだ。
そんな雰囲気の中で真っ先に動いたのは言うまでもなく、
「クルス!」
「……っと」
なのはの服の袖をギュッと掴んでいたフェイトが真っ先に動いて物凄い勢いでクルスに抱きつくと、まるで今までの寂しかった思いをぶつけるかのように引っ付いていた。
その行動にクルスは苦笑しながらもフェイトの頭を優しく撫でて、なのはやショウ達は呆れながらも苦笑して先程やって来たシグナムやヴィータは渇いた笑みを浮かべるのだった。
「大勢の参加者の前でイチャイチャするなんて凄いねクルスは」
「僕としては少し自重してもらいたいけどね…」
「ユーノ君、クロノ君」
クルスの後ろから姿を現したのはこれまた逞しく成長したユーノとクロノの二人。
二人とも以前のような華奢な身体が今では嘘のようにガッチリして、頬や腕には幾つもの傷跡が刻まれていた。
「お前ら何かあったのか?」
ショウの問いにユーノが頬をポリポリとかきながら答える。
「僕とクロノは二ヶ月クルスと一緒に修行してたんだ。僕は書庫の休憩時間や仕事終わりに、クロノも同じように空いた時間にクルスに頼んで修行をね」
「クルスと修行……」
羨ましそうにポツリと呟く人物がいるがこれとは逆に顔色を真っ青にしてガタガタ震える人物がいた。
「純一……?」
かったるい星人こと朝倉純一である。
夏休みのトラウマがよみがえったのか純一は「……かったるい。かったるい。かったるい。かったるい」とまるで呪詛のようにぶつぶつと呟く始末。
一体何があったのだろうか?
「僕としてはクルスに一度ぐらい勝ちたかったんだけど…」
「よく言うよ、ユーノとクロノのコンビネーションに何回冷や汗をかいた事か。二人とも本当に強かったのに」
かつては無人の星と言われていた場所にそびえ立つ巨大な建築物。
ロンド・ラグナの中心とも言える場所にそれは造られて、その建築物の周りや少し離れた場所にはこれから始まるであろう『神魔杯』の為に作られたフィールドがいくつも配置されている。
肉眼では確認出来ないがリングもちゃんと配置されていた。
無人だったロンド・ラグナを両王と##NAME2##達が何ヵ月もかけて作り上げた建築物にフィールド。
これが神魔杯の戦いの場でありさまざまな思いが交差する場所となるのである。
『神魔杯に出場する選手はすぐにアリーナにお集まりください。予選の組み合わせを三十分後におこないます』
巨大な建築物内に静かに響くアナウンスの声。
アリーナにいる参加者はそのアナウンスの声にざわざわと騒ぎ始めている。
そんな中でショウやなのは達は自分のナンバープレートのバッジを身につけて話をしていた。
「凄いなこの人数は…」
「えっとの参加者は五千人を越えてたみたいだよ、さっき受け付けにいたシャオさんが言ってたけど…」
参加者を見ながら驚いた表情をしているショウとなのはの二人。
傍にいるフェイトはなのはから離れないようになのはの服の袖を掴んでいるようでなのははその行動に苦笑している。
「おっ!やっと見つけたぞショウと愉快な仲間とヒモ達」
「誰がヒモだ!!」
「誤解を招く言い方をしてんじゃねぇ!!」
「…ひっ…否定……できません…」
「「ハヤテ!?」」
人混みを掻き分けて現れたのはショウ達と同じナンバープレートのバッジを身につけた将輝とそれに続くように湊と直樹と勇と奏也とデニスの六人である。
六人とも普段通りのようで将輝と湊と直樹の三人に至っては外から買ってきたであろう、かき氷やポップコーンやたこ焼きを手に持ち食べていたのだ。
「将輝……」
「何だよその目は?あっ!俺のたこ焼きを狙ってるんだな!?稟には渡さねぇぞ!」
「いやっ、別に狙ってはいないがお前少しは緊張とかしないのか?」
稟の言葉にキョトンとする将輝。
何を言ってんだ?と思っているであろうその表情のまま将輝は口を開く。
「…緊張?何でするんだよ?どうせ戦う奴は知った顔の奴だろ?」
「へっ……?」
将輝の言葉に首を傾げる稟。
いや首を傾げたのは稟だけではないようで、話を聞いていた純一やハヤテやなのは達まで首を傾げていた。
何故気づかなかったんだ?
「いいか、この大会の参加者が予定より多かったのは知ってるだろ?そんで予選である程度減らすはずだ」
「予選で!?」
「あぁ……。それで各ブロックに代表者二名を決めるらしい」
「でも、それだと予選の組み合わせ次第じゃ純一やハヤテ達と戦う事にならないか?」
稟の言葉に将輝はかき氷を一口食べてかき氷を食べる時に使うストローを稟に向けて口を開いた。
「俺の予想を言うなら予選では全員勝つ。これは俺の勘だけどな」
ニカッと笑う将輝に対して、稟はどこか腑に落ちないようだ。
別に稟の疑問がおかしい訳ではない。
ただ勘と言うより同じブロックに三人も四人もぶつけると考えられないからだ。
おそらく予選は肩慣らし。
クルスならやりかねないからだ。
「ところでクルスはどうした?主催者の一人だけどアイツはアリーナに集まるんだろ?」
「………」
「フェイトちゃん、クルス君の名前を聞いただけで落ち込むなんて凄い重症なの」
直樹の言葉にこの世の終わりと言うしかないほど表情を暗くするフェイトになのはが溜め息を吐く。
何故フェイトがここまで落ち込むのかと言うと、
「仕方ないよフェイトちゃん。クルス君はこの大会の主催者さんの一人だったからいろいろ忙しかったんだし、フェイトちゃんだってお仕事で忙しかったんだからしょうがないよ」
「……うぅ~」
「ねっ!ショウ君!」
「あっ……あぁ……」
どこか歯切れの悪いショウになのはは首を傾げる。
稟や純一やハヤテ達は話していたため気づかなかったが、将輝や奏也や勇はショウの反応に目を細めていた。
ショウが悩んでいるのは、おそらくクルスが関係しているからだと気づいていた。
そしてその予想は当たっているのだが、ショウ自身あの日ユリナがクルスを警戒しろと言った言葉が頭からどうしても離れなかった。
自分はどこかで無意識にクルスを監視していた事がある。
ここ数ヶ月管理局の仕事でクルスと一緒になったり、廊下で会ったりするとどこか疑ってしまう自分がいた。
親友だから信じている自分と管理局の局員としてクルスを疑う自分がいる。
その事がショウをずっと悩ませているのだ。
親友なのに―――
『おいっ!来たぜ』
『あれがこの大会を開いた一人……クルスって男か』
ざわざわと周りが騒ぎだしショウやフェイト達は参加者と同じように視線を向ける。
東の入場口から黒のコートを身に纏いⅠと刻まれた十字架のネックレスをつけていつになく冷たい目をしたクルスが歩いてきた。
コートが靡き一歩一歩クルスが進む度に道を塞いでいた参加者は無意識に道を開ける。
まるで本能がそうさせているかのように。
その光景にショウはゴクリと唾を飲み込みフェイトは「…………いい」と頬を赤く染めてなのはがそれに苦笑しているようだ。
「あれがクルス?あんな顔初めて見るぞ」
湊のポップコーンを食べながら驚いたように口を開く純一。
それは純一だけではなく稟やハヤテや奏也や直樹も同じである。
将輝はどこか呆れているのか溜め息を吐いて湊はただジッとクルスを見つめていただけ。
何も感じてはいないようだ。
すると――
「あれって……」
クルスの元に誰かが近づいていた。
その人物に心当たりがある時空管理局の局員でもあるショウとなのはとフェイトの三人。
そう彼に近づいてきたのは――
「ランコット執務官だよね?」
「あぁ……。マオの部下だったかな?よく覚えてないけど…」
ショウがランコットと会話したのは二回だけ。
あまり印象がないのはランコットの話し方や態度がそうだったからである。
「どんな奴だ?」
奏也の問いに三人とも無言になる。
どうやら本当に印象がないようだ。
~クルスside~
会場に集まった参加者は僕の予想を越えていた。
この中で神魔杯の本当の意味に気づいた者はおそらく一握りの人物だけだろう。
勇人先生や視察に来ていた腹黒大佐辺りは気づいたに違いない。
なんとも恐ろしい人達だ。
『おいっ!来たぜ』
『あれがこの大会を開いた一人……クルスって男か』
周りの参加者の声が耳に届く。
彼らは自分の願いや欲の為にこの大会に参加したのだろう。
決して叶うことはないだろうが。
「……んっ?」
歩いていると、一人の男が現れて進路を塞いだ。
その男は何やらニヤリと笑みを浮かべこちらを見ていたが彼は誰だろう?
「久しぶりだなクルス」
「………誰?」
僕の言葉に目の前にいる人物は憎しみのこもった目と今にも襲い掛かりそうな顔をする。
本当に忘れているから仕方ないのに。
「そのふざけた態度も今のうちだ。あの時俺を蹴ったカリは必ず返してやる。そしてハラオウン執務官の前でお前を殺してやる」
どうやら過去に僕が蹴り飛ばした人物でフェイトの事が好きらしい。
そういえば前にロッサと一緒にいた時に現れたマオとかいう奴の隣にいた男のようだけど……
「ねぇ…」
「何だよ?」
「フェイトは誰にも渡さないよ。だから今すぐ……僕の前から消えろ」
あの時と同じように殺気を込めて睨むと彼はクッと顔を歪めて離れていった。
フェイトが管理局で人気なのは知っている。
クロノやロッサやユーノからその話はよく聞いていたから。
それだけ僕が憎まれたり敵視されてるのは構わない。
だけどこのままだと僕はフェイトを傷つけるかもしれない――
きっと彼女は優しいから僕を止めるかもしれない。
それでもやらなきゃいけない事が僕にはある。
この大会もその一つで、おそらくこれから先に起こるかもしれない事態も僕が――
「………」
黒い感情を胸にしまいながらクルスはショウ達の元に向かう。
今は忘れるしかない。
最悪の道を歩く事になったとしても。
今だけは――
~ショウside~
ランコットと話し終えたのかクルスがこちらにやって来た。
先程の冷たい雰囲気から一変して柔らかな笑みを浮かべいつもと同じ口調でクルスは口を開く。
「久しぶりだね皆」
この神魔杯の準備で数ヶ月ショウ達はクルスには会っていなかったので何故か懐かしく感じてしまう。
時空管理局の仕事で一緒に戦ったショウも皆と同じで懐かしさを感じている。
それだけクルスとは会っていなかったのだ。
そんな雰囲気の中で真っ先に動いたのは言うまでもなく、
「クルス!」
「……っと」
なのはの服の袖をギュッと掴んでいたフェイトが真っ先に動いて物凄い勢いでクルスに抱きつくと、まるで今までの寂しかった思いをぶつけるかのように引っ付いていた。
その行動にクルスは苦笑しながらもフェイトの頭を優しく撫でて、なのはやショウ達は呆れながらも苦笑して先程やって来たシグナムやヴィータは渇いた笑みを浮かべるのだった。
「大勢の参加者の前でイチャイチャするなんて凄いねクルスは」
「僕としては少し自重してもらいたいけどね…」
「ユーノ君、クロノ君」
クルスの後ろから姿を現したのはこれまた逞しく成長したユーノとクロノの二人。
二人とも以前のような華奢な身体が今では嘘のようにガッチリして、頬や腕には幾つもの傷跡が刻まれていた。
「お前ら何かあったのか?」
ショウの問いにユーノが頬をポリポリとかきながら答える。
「僕とクロノは二ヶ月クルスと一緒に修行してたんだ。僕は書庫の休憩時間や仕事終わりに、クロノも同じように空いた時間にクルスに頼んで修行をね」
「クルスと修行……」
羨ましそうにポツリと呟く人物がいるがこれとは逆に顔色を真っ青にしてガタガタ震える人物がいた。
「純一……?」
かったるい星人こと朝倉純一である。
夏休みのトラウマがよみがえったのか純一は「……かったるい。かったるい。かったるい。かったるい」とまるで呪詛のようにぶつぶつと呟く始末。
一体何があったのだろうか?
「僕としてはクルスに一度ぐらい勝ちたかったんだけど…」
「よく言うよ、ユーノとクロノのコンビネーションに何回冷や汗をかいた事か。二人とも本当に強かったのに」