生じる亀裂
「クルスが今までに何人もの人を殺してきたのは知ってるわよね?」
「ユリナ!!」
「怒鳴らないでリンディ。私は事実を言ったまでよ。貴方が何を言いたいのかも分かるけど、仕方がないですむ問題じゃないくらい分かるわよね?」
「それは……」
言葉に詰まるリンディ。
過去のデータを知っているリンディにとって無視は出来ないが現段階でクルスは管理局に協力している人間でフェイトにとって失いたく存在なのも分かっている。
私情を挟む事は局員として正しい事じゃないが、
「クルス君は私にとって大切な家族なのよユリナ。貴方が何を考えてるか知らないけどフェイトと引き離すようなまねはやめてちょうだい」
「……話を最後まで聞きなさい。私は今から本当の話をするのよ」
「……えっ」
「貴方達に問題。クルスがあんな風に本音や本性を隠すようになったのはいつだと思う?」
「どっ、どういう意味ですかユリナさん?」
「ショウ、貴方だって薄々気付いてたでしょ?クルスが貴方達の前で仮面をはめていた事ぐらい…」
「………ッ!!」
言い返す事が出来なかった。
確かにユリナさんの言う通りだったから。
クルスは本気でこちらが怒ったりしなければ本心を話さない男になっていた。
何もかも自分の中で隠そうとしている態度は再会した時から気付いていたがそれに触れるつもりはショウ自身なかった。
親友だからきっといつかは話してくれると信じていたし、歓迎会の時にクルスが泣いていたのを見てしまったから。
神王や魔王は気付いていなかったが少し離れた場所に自分もいたのだ。
扉越しからでもクルスが泣いていたのが聞こえてしまったから無理に全てを聞こうとはしなかった。
「ヴェロッサ、貴方なら何か知ってるんじゃないの?貴方とクルスがよく二人で会っていると耳にするわよ」
「ユリナさんは考えすぎですよ。僕もクルスも今回の事件の事を話しているだけですしあとは僕のプライベートの話なんですよ」
「もしそれが嘘なら貴方を罰していいかしら?」
「どうぞ」
ユリナが自分に何かを言ってくるのは予想できていた。
だからこそ自信を持って嘘を言えたし、友を裏切りたくなかったヴェロッサはユリナの言葉に平然と返していた。
「ユリナ、貴女は何を考えているの?」
「………私はクルスに気付かれないように彼の過去を調べていると言ったら?」
「ユリナ!!貴女何て事を!!」
平然と言い放つユリナにリンディは信じられない表情で詰め寄るが、ユリナは途端に冷たい表情と誰も近付けさせないような雰囲気でリンディを見つめると、リンディは顔を歪めてユリナから離れていく。
「これは事件解決の為にやっているのよ。リンディ・ハラオウン、貴女の個人的な感情で発言はしないでもらえるかしら。遅かったじゃすまないのよ。もし世界が破滅に向かおうとするなら、私はそれを全力で止めなきゃいけないの。時空管理局の未来の為にも世界の未来の為にもね。貴女にも分かるわよね?」
「……はい……」
「ショウやクロノ達もよ。クルスと友なのは構わないけど覚えておきなさい。彼は―――結局自分一人で戦っている男だってね。少しは疑いなさい」
『…………』
それだけ言って椅子から立ち上がりユリナは会議室から退出していく。
元帥として――
ユリナの行動は間違ってはいない。
組織の人間として当たり前の事をやっているだけだ。
ただ自分達にとってそれはかなり重くのし掛かったのは間違いない。
「ショウ君…」
「クソッ!!」
ユリナの言葉が知らぬうちに胸に刻み込まれ自分自身の中で何かが変わっていった。
クルスを疑うしかないのか?
アイツに無理矢理聞くしかないのか?
ピシッ!と気付かぬうちに『亀裂』という二文字が皆の心を苦しめそれが形となるとは誰も予想しなかっただろう。
そうこの時までは――
~医務室~
リインフォースとの話を終えたクルスはフェイトの眠る医務室に足を運んでいた。
フェイトの心配をしていたアルフと交代し、アルフは重傷のザフィーラの見舞いに行ったようで医務室はクルスとフェイトの二人しかいない。
「僕は……間違っていたのかな……」
リインフォースの言葉がいまだに頭の中に残っている。
どうして嫌な予感や最悪な考えは当たるのだろうか?
ゲームのようにリセット出来ればいいのに――と昔は思っていたが今は違う。
自分で選んだ道だからそれを進むしかないのだ。
「けど貴方の言葉通りですね」
かつて共に戦った人が言ってくれた。
『人は何度だって間違えたり失敗だってする。しかしそれを恥とせず次の道で正せばいい』と。
しかし自分はまた失敗してしまった。
フェイトを守ると言っておきながらこのざまだ―――
あの時もっと早く駆けつけていればフェイトを助ける事が出来たのに。
「ごめんね…フェイト…」
眠り続けるフェイトの頬に手を伸ばしそっと触れた。
温もりはあるのにキミは意識不明―――
あんな想いはしたくなかったのに―――
「どうすれば僕は強くなれる…」
顔を俯かせ顔を歪めると何やら頬に流れる雫に気付いてハッとする。
これは―――
「……ッ!!どうして涙なんかが……」
あの日佑奈を失ってから一度も泣くことがなかったのにまた泣いてしまうとは。
自分は本当にこれから先ショウ達の前で冷静な対応が出来るだろうか?
「クルス……」
「…………!?」
涙の事で困惑していたクルスはハッとした表情でフェイトを見ると、フェイトは眠っておりどうやら寝言だったようでクルスは安心したように息を吐いた。
「僕は本当に…」
涙が流れたまま力無く笑いクルスはフェイトの手を優しく握っていた。
どうか―――
今だけは眠ってくれ―――
起きた時にいつものように笑っていられるように―――
~ジョーカーズ本部~
「クソッ!この私が!この私があんな男に臆したとでも言うの!?」
あの星の戦いから本部へと戻ってきたボルキアは近くにいたスパーダに八つ当たりというなの制裁をしながらボカボカと殴り苛立ちを隠しきれずに怒鳴っていた。
本気で殴られているスパーダの顔はもはや某パン戦士のように膨れ上がり目元がどこか分からない状態である。
「そこまでにしておけボルキア、スパーダが哀れだ」
「もう……ちょっと……早く…行ってくれ……」
「黙りなさいエグザ!!スパーダは自分からサンドバックになると志願したから殴ってるのよ」
「…捏造…しちゃ…ダメダメ……」
プチン!と何かが切れるような音が聞こえたと思ったら、スパーダの顔面にはボルキアの拳がめり込みスパーダはそのまま勢いよく後方へ飛んでいくと、休んでいたファイにぶつかり水地獄を味わうのだった。
「そこまで苛立つとは、Fの生き残りにやられたのか?」
「ふざけるんじゃないわよ!!あんな人形なんか相手にならなかったわ。だけどあの男だけは…」
ボルキアの脳裏によみがえるクルスとのやり取り。
あの男は完璧に私を見下していた。
許せない!許せない!
絶対に許してたまるか!
「アンタの方こそどうだっの?手強い相手でもいたのかしら?」
「……フッ。彼女達や彼らはきっと強くなるだろう。これからが楽しみだ」
「あっそ…」
素っ気ないボルキアに対してエグザは違った。
なのはやショウ達との戦いは熱い何かが込み上がる戦いだった。
全力で戦わなかったが次に戦うときはどうなるか本当に楽しみである。
この世界で生まれて久々の楽しみが増えたようだ。
「それでお前はどうしたい?」
「決まってるじゃない!次こそ人形と一緒にあの男も殺すわ!ただでは殺さずじっくりと傷つけ「無理やな」なんですって!?」
「恭介か…」
暗闇から現れたのは相変わらずニヤリとした表情で何を考えてるか分からない男の恭介だった。
「お疲れ様やな四人とも。ファイはご褒美でもあるんとちゃう?」
「本当!?じゃあじゃあエグザと……休みを……」
恭介の言葉に頬を赤く染めるファイだが、ファイに水地獄と塩地獄を味わったスパーダは真っ青である。
「ボルキア、お前じゃクルスは殺せへん。逆に返り討ちにされんで」
「その言い方だと俺なら殺せるとでも言いたいのかしら?笑わせないでよ、アンタは私にすら勝てない男じゃない。そんな奴が…………ッ!!」
「調子に乗るなよボルキア。お前が勝ったんはハンデ戦だけやろ?あれで勝ったなんてよく言えたもんや。あんまり舐めとったら――――消すで」
ゾクリと背筋が凍るほどの衝撃を味わったボルキアの目の前には、いつも閉じられている目が開き本気でボルキアを殺しかねない目をしていた。
ゆっくり手を伸ばしてボルキアの首を絞めようとした恭介だっが、
「そこまでだ恭介」
「アンタは…」
「何の用やマルス?邪魔すんならお前から…「今から私達の組織と会議なのだからむやみに血を流すな。お前はアリシアの傍にいろ」…チッ…はいはい」
軽く舌打ちしていつものように目を閉じてニコッと笑った状態で恭介はボルキアから離れていく。
本気で殺そうとした―――
ボルキアは得体の知れない力に少なからず恐怖して、エグザは「…恭介」と顔を歪めて座り込んだボルキアを支えていた。
恭介という男はジョーカーズの中でも本当に目的が分からない男で光帝と雷帝の事になると人のような顔になるがやはり危険な存在だとエグザは改めて認識するのであった。
「それで会議って何やねん?コアか?」
「神魔杯についてだそうですよ…」
「成る程な…」
闇の住人もまた神魔杯という舞台を期待していた。
自分達の目的を叶える為にも―――
神魔杯で優勝するのもいいが本来の目的は違う。
目的はあくまで―――
「楽しみやな」
「本当ですね…」
笑みを浮かべ互いに腹の底を見せない恭介とマルスだった。
~??~
「はっ?俺に神魔杯に出場しろだと?」
「そうそう。イレギュラーが起きた時に対処してほしいんだよ」
チョコレートを某ピンクの妖精のように大量に口に入れながらモグモグと食べていく黒髪の青年に赤い髪の毛の青年は呆れたように肩をすくめる。
「寝言は寝てから言えという言葉を知っているか?それは今のお前にぴったりの言葉だ…」
「……ングッ!仕方ねぇだろ。俺にも俺の事情があるんだから。ここ最近レコードが崩れ始めているせいで俺が直接動かねぇと解決しなくなってるから神魔杯をお前に頼んだのによ」
指についたチョコを舐めて近くに置いていた飲み物を口にして一息吐く青年に赤い髪の青年はボリボリと頭を掻くと、
「分かったよ。やればいいんだろ?このダメ神」
「ダメ神って言うな!神をバカにするなよ!いざとなれば全てのチョコレートをこの手に…」
「小さいなおい!」
ここでもまた審判者と旅人がイレギュラー対策に動き出そうとしていた。
それほどまでの大会なのだろうか?
様々な思惑や想いが交差する神魔杯がもう少しで始まる。
~ダアト~
「ユキナを護衛に?」
「はい。本当ならシンクやリグレットに頼みたかったんですが、数ヵ月前に何者かに襲撃されて今も動けない状態なのでユキナに頼みました」
「それはいいけどよ、ユキナってジェイドの部下だろ?いいのか?」
「そこは問題ないと思います。ピオニー陛下やジェイドが視察に行くと言ってましたので…。けどすみませんルーク、本当なら僕も行くべきなのに」
ルークと呼ばれた青年はニカッと笑い少年の頭を撫でる。
「気にすんなよイオン。それにその大会ってやつでアイツに会えそうな気がするんだ」
「アイツって……彼ですか?」
「そうそう!元気にしてっかなぁ~クルスのやつ」
運命という言葉は本人達が知らぬうちに巻き込んでいく。
友との再会もまた神魔杯という大会が起こしたものなのだろうか?
答えは分からぬまま時は過ぎていく。
~休憩所~
「悪いな呼び出して」
「いいよ。それに親友なんだから謝らなくていいって」
「そうだな…」
お互い飲み物を手にしてソファーに向かい合って座るショウとクルス。
会議室の一件で頭が混乱しているショウに対してクルスは、医務室での涙をようやく止めて顔を洗い気持ちを切り替えてショウのところにやって来たのだ。
親友という関係なのにどうしてこんなにも壁があるんだろうな?
「なぁクルス」
「どうしたのショウ?あっ!コーヒーでも飲む?」
「それって極甘だろ?お前は相変わらず子供だな」
「なっ!それは心外だよ!甘くて悪いか!」
こんなやり取りは本当に久しぶりである。
クルスと闇の書の事件を終わらせてクルスはすぐにこの世界から姿を消した。
それと同時にクルスは変わってしまったのかな?
「クルス…」
「何?そんな悲しい顔されたらさすがに驚くよ」
「お前はお前のままなんだよな?」
「……………」
「お前は何も変わってないよな?」
ショウの言葉に微かに笑みを浮かべて飲んでいたコーヒーをゴミ箱に入れて口を開く。
「当たり前じゃないか。僕は僕のままだよショウ」
その時笑ったクルスの顔をショウは一生忘れる事はないだろう。
悲し気にどこか儚げに見えるその笑みが何を意味するかなんてショウには分からない。
けどその笑みは今までショウが見てきた中で一番クルスらしかったようだ。
(ごめんなクルス…)
次回予告
ショウ
「ついに始まる神魔杯」
『こんなに参加するのかよ!?』
クルス
「それぞれの戦いが始まろうとしていた」
『俺と当たるまで負けんな』
稟
「決意した気持ちを無駄にしないためにも」
『ここに宣言する!』
ハヤテ
「次回S.H.D.C.――
第25話――
『始まりし神魔杯』に…」
純一
「ドライブイグニッション!!かったるい……」
「ユリナ!!」
「怒鳴らないでリンディ。私は事実を言ったまでよ。貴方が何を言いたいのかも分かるけど、仕方がないですむ問題じゃないくらい分かるわよね?」
「それは……」
言葉に詰まるリンディ。
過去のデータを知っているリンディにとって無視は出来ないが現段階でクルスは管理局に協力している人間でフェイトにとって失いたく存在なのも分かっている。
私情を挟む事は局員として正しい事じゃないが、
「クルス君は私にとって大切な家族なのよユリナ。貴方が何を考えてるか知らないけどフェイトと引き離すようなまねはやめてちょうだい」
「……話を最後まで聞きなさい。私は今から本当の話をするのよ」
「……えっ」
「貴方達に問題。クルスがあんな風に本音や本性を隠すようになったのはいつだと思う?」
「どっ、どういう意味ですかユリナさん?」
「ショウ、貴方だって薄々気付いてたでしょ?クルスが貴方達の前で仮面をはめていた事ぐらい…」
「………ッ!!」
言い返す事が出来なかった。
確かにユリナさんの言う通りだったから。
クルスは本気でこちらが怒ったりしなければ本心を話さない男になっていた。
何もかも自分の中で隠そうとしている態度は再会した時から気付いていたがそれに触れるつもりはショウ自身なかった。
親友だからきっといつかは話してくれると信じていたし、歓迎会の時にクルスが泣いていたのを見てしまったから。
神王や魔王は気付いていなかったが少し離れた場所に自分もいたのだ。
扉越しからでもクルスが泣いていたのが聞こえてしまったから無理に全てを聞こうとはしなかった。
「ヴェロッサ、貴方なら何か知ってるんじゃないの?貴方とクルスがよく二人で会っていると耳にするわよ」
「ユリナさんは考えすぎですよ。僕もクルスも今回の事件の事を話しているだけですしあとは僕のプライベートの話なんですよ」
「もしそれが嘘なら貴方を罰していいかしら?」
「どうぞ」
ユリナが自分に何かを言ってくるのは予想できていた。
だからこそ自信を持って嘘を言えたし、友を裏切りたくなかったヴェロッサはユリナの言葉に平然と返していた。
「ユリナ、貴女は何を考えているの?」
「………私はクルスに気付かれないように彼の過去を調べていると言ったら?」
「ユリナ!!貴女何て事を!!」
平然と言い放つユリナにリンディは信じられない表情で詰め寄るが、ユリナは途端に冷たい表情と誰も近付けさせないような雰囲気でリンディを見つめると、リンディは顔を歪めてユリナから離れていく。
「これは事件解決の為にやっているのよ。リンディ・ハラオウン、貴女の個人的な感情で発言はしないでもらえるかしら。遅かったじゃすまないのよ。もし世界が破滅に向かおうとするなら、私はそれを全力で止めなきゃいけないの。時空管理局の未来の為にも世界の未来の為にもね。貴女にも分かるわよね?」
「……はい……」
「ショウやクロノ達もよ。クルスと友なのは構わないけど覚えておきなさい。彼は―――結局自分一人で戦っている男だってね。少しは疑いなさい」
『…………』
それだけ言って椅子から立ち上がりユリナは会議室から退出していく。
元帥として――
ユリナの行動は間違ってはいない。
組織の人間として当たり前の事をやっているだけだ。
ただ自分達にとってそれはかなり重くのし掛かったのは間違いない。
「ショウ君…」
「クソッ!!」
ユリナの言葉が知らぬうちに胸に刻み込まれ自分自身の中で何かが変わっていった。
クルスを疑うしかないのか?
アイツに無理矢理聞くしかないのか?
ピシッ!と気付かぬうちに『亀裂』という二文字が皆の心を苦しめそれが形となるとは誰も予想しなかっただろう。
そうこの時までは――
~医務室~
リインフォースとの話を終えたクルスはフェイトの眠る医務室に足を運んでいた。
フェイトの心配をしていたアルフと交代し、アルフは重傷のザフィーラの見舞いに行ったようで医務室はクルスとフェイトの二人しかいない。
「僕は……間違っていたのかな……」
リインフォースの言葉がいまだに頭の中に残っている。
どうして嫌な予感や最悪な考えは当たるのだろうか?
ゲームのようにリセット出来ればいいのに――と昔は思っていたが今は違う。
自分で選んだ道だからそれを進むしかないのだ。
「けど貴方の言葉通りですね」
かつて共に戦った人が言ってくれた。
『人は何度だって間違えたり失敗だってする。しかしそれを恥とせず次の道で正せばいい』と。
しかし自分はまた失敗してしまった。
フェイトを守ると言っておきながらこのざまだ―――
あの時もっと早く駆けつけていればフェイトを助ける事が出来たのに。
「ごめんね…フェイト…」
眠り続けるフェイトの頬に手を伸ばしそっと触れた。
温もりはあるのにキミは意識不明―――
あんな想いはしたくなかったのに―――
「どうすれば僕は強くなれる…」
顔を俯かせ顔を歪めると何やら頬に流れる雫に気付いてハッとする。
これは―――
「……ッ!!どうして涙なんかが……」
あの日佑奈を失ってから一度も泣くことがなかったのにまた泣いてしまうとは。
自分は本当にこれから先ショウ達の前で冷静な対応が出来るだろうか?
「クルス……」
「…………!?」
涙の事で困惑していたクルスはハッとした表情でフェイトを見ると、フェイトは眠っておりどうやら寝言だったようでクルスは安心したように息を吐いた。
「僕は本当に…」
涙が流れたまま力無く笑いクルスはフェイトの手を優しく握っていた。
どうか―――
今だけは眠ってくれ―――
起きた時にいつものように笑っていられるように―――
~ジョーカーズ本部~
「クソッ!この私が!この私があんな男に臆したとでも言うの!?」
あの星の戦いから本部へと戻ってきたボルキアは近くにいたスパーダに八つ当たりというなの制裁をしながらボカボカと殴り苛立ちを隠しきれずに怒鳴っていた。
本気で殴られているスパーダの顔はもはや某パン戦士のように膨れ上がり目元がどこか分からない状態である。
「そこまでにしておけボルキア、スパーダが哀れだ」
「もう……ちょっと……早く…行ってくれ……」
「黙りなさいエグザ!!スパーダは自分からサンドバックになると志願したから殴ってるのよ」
「…捏造…しちゃ…ダメダメ……」
プチン!と何かが切れるような音が聞こえたと思ったら、スパーダの顔面にはボルキアの拳がめり込みスパーダはそのまま勢いよく後方へ飛んでいくと、休んでいたファイにぶつかり水地獄を味わうのだった。
「そこまで苛立つとは、Fの生き残りにやられたのか?」
「ふざけるんじゃないわよ!!あんな人形なんか相手にならなかったわ。だけどあの男だけは…」
ボルキアの脳裏によみがえるクルスとのやり取り。
あの男は完璧に私を見下していた。
許せない!許せない!
絶対に許してたまるか!
「アンタの方こそどうだっの?手強い相手でもいたのかしら?」
「……フッ。彼女達や彼らはきっと強くなるだろう。これからが楽しみだ」
「あっそ…」
素っ気ないボルキアに対してエグザは違った。
なのはやショウ達との戦いは熱い何かが込み上がる戦いだった。
全力で戦わなかったが次に戦うときはどうなるか本当に楽しみである。
この世界で生まれて久々の楽しみが増えたようだ。
「それでお前はどうしたい?」
「決まってるじゃない!次こそ人形と一緒にあの男も殺すわ!ただでは殺さずじっくりと傷つけ「無理やな」なんですって!?」
「恭介か…」
暗闇から現れたのは相変わらずニヤリとした表情で何を考えてるか分からない男の恭介だった。
「お疲れ様やな四人とも。ファイはご褒美でもあるんとちゃう?」
「本当!?じゃあじゃあエグザと……休みを……」
恭介の言葉に頬を赤く染めるファイだが、ファイに水地獄と塩地獄を味わったスパーダは真っ青である。
「ボルキア、お前じゃクルスは殺せへん。逆に返り討ちにされんで」
「その言い方だと俺なら殺せるとでも言いたいのかしら?笑わせないでよ、アンタは私にすら勝てない男じゃない。そんな奴が…………ッ!!」
「調子に乗るなよボルキア。お前が勝ったんはハンデ戦だけやろ?あれで勝ったなんてよく言えたもんや。あんまり舐めとったら――――消すで」
ゾクリと背筋が凍るほどの衝撃を味わったボルキアの目の前には、いつも閉じられている目が開き本気でボルキアを殺しかねない目をしていた。
ゆっくり手を伸ばしてボルキアの首を絞めようとした恭介だっが、
「そこまでだ恭介」
「アンタは…」
「何の用やマルス?邪魔すんならお前から…「今から私達の組織と会議なのだからむやみに血を流すな。お前はアリシアの傍にいろ」…チッ…はいはい」
軽く舌打ちしていつものように目を閉じてニコッと笑った状態で恭介はボルキアから離れていく。
本気で殺そうとした―――
ボルキアは得体の知れない力に少なからず恐怖して、エグザは「…恭介」と顔を歪めて座り込んだボルキアを支えていた。
恭介という男はジョーカーズの中でも本当に目的が分からない男で光帝と雷帝の事になると人のような顔になるがやはり危険な存在だとエグザは改めて認識するのであった。
「それで会議って何やねん?コアか?」
「神魔杯についてだそうですよ…」
「成る程な…」
闇の住人もまた神魔杯という舞台を期待していた。
自分達の目的を叶える為にも―――
神魔杯で優勝するのもいいが本来の目的は違う。
目的はあくまで―――
「楽しみやな」
「本当ですね…」
笑みを浮かべ互いに腹の底を見せない恭介とマルスだった。
~??~
「はっ?俺に神魔杯に出場しろだと?」
「そうそう。イレギュラーが起きた時に対処してほしいんだよ」
チョコレートを某ピンクの妖精のように大量に口に入れながらモグモグと食べていく黒髪の青年に赤い髪の毛の青年は呆れたように肩をすくめる。
「寝言は寝てから言えという言葉を知っているか?それは今のお前にぴったりの言葉だ…」
「……ングッ!仕方ねぇだろ。俺にも俺の事情があるんだから。ここ最近レコードが崩れ始めているせいで俺が直接動かねぇと解決しなくなってるから神魔杯をお前に頼んだのによ」
指についたチョコを舐めて近くに置いていた飲み物を口にして一息吐く青年に赤い髪の青年はボリボリと頭を掻くと、
「分かったよ。やればいいんだろ?このダメ神」
「ダメ神って言うな!神をバカにするなよ!いざとなれば全てのチョコレートをこの手に…」
「小さいなおい!」
ここでもまた審判者と旅人がイレギュラー対策に動き出そうとしていた。
それほどまでの大会なのだろうか?
様々な思惑や想いが交差する神魔杯がもう少しで始まる。
~ダアト~
「ユキナを護衛に?」
「はい。本当ならシンクやリグレットに頼みたかったんですが、数ヵ月前に何者かに襲撃されて今も動けない状態なのでユキナに頼みました」
「それはいいけどよ、ユキナってジェイドの部下だろ?いいのか?」
「そこは問題ないと思います。ピオニー陛下やジェイドが視察に行くと言ってましたので…。けどすみませんルーク、本当なら僕も行くべきなのに」
ルークと呼ばれた青年はニカッと笑い少年の頭を撫でる。
「気にすんなよイオン。それにその大会ってやつでアイツに会えそうな気がするんだ」
「アイツって……彼ですか?」
「そうそう!元気にしてっかなぁ~クルスのやつ」
運命という言葉は本人達が知らぬうちに巻き込んでいく。
友との再会もまた神魔杯という大会が起こしたものなのだろうか?
答えは分からぬまま時は過ぎていく。
~休憩所~
「悪いな呼び出して」
「いいよ。それに親友なんだから謝らなくていいって」
「そうだな…」
お互い飲み物を手にしてソファーに向かい合って座るショウとクルス。
会議室の一件で頭が混乱しているショウに対してクルスは、医務室での涙をようやく止めて顔を洗い気持ちを切り替えてショウのところにやって来たのだ。
親友という関係なのにどうしてこんなにも壁があるんだろうな?
「なぁクルス」
「どうしたのショウ?あっ!コーヒーでも飲む?」
「それって極甘だろ?お前は相変わらず子供だな」
「なっ!それは心外だよ!甘くて悪いか!」
こんなやり取りは本当に久しぶりである。
クルスと闇の書の事件を終わらせてクルスはすぐにこの世界から姿を消した。
それと同時にクルスは変わってしまったのかな?
「クルス…」
「何?そんな悲しい顔されたらさすがに驚くよ」
「お前はお前のままなんだよな?」
「……………」
「お前は何も変わってないよな?」
ショウの言葉に微かに笑みを浮かべて飲んでいたコーヒーをゴミ箱に入れて口を開く。
「当たり前じゃないか。僕は僕のままだよショウ」
その時笑ったクルスの顔をショウは一生忘れる事はないだろう。
悲し気にどこか儚げに見えるその笑みが何を意味するかなんてショウには分からない。
けどその笑みは今までショウが見てきた中で一番クルスらしかったようだ。
(ごめんなクルス…)
次回予告
ショウ
「ついに始まる神魔杯」
『こんなに参加するのかよ!?』
クルス
「それぞれの戦いが始まろうとしていた」
『俺と当たるまで負けんな』
稟
「決意した気持ちを無駄にしないためにも」
『ここに宣言する!』
ハヤテ
「次回S.H.D.C.――
第25話――
『始まりし神魔杯』に…」
純一
「ドライブイグニッション!!かったるい……」