接触と疑念
~フェイトSide~
「私が罪深い…?」
「えぇ。プロジェクトFの生き残りフェイト・T・ハラオウンさん」
ボルキアの言葉にズキッと胸が痛みフェイトはギュッと胸を押さえて顔を歪める。
あの言い方はまるで心の傷を抉るかのような言葉―――
「私の言葉でそんな表情をするなんて哀れよね。もしかして忘れてたの、自分が人造魔導師だったって?まさかそんな訳ないわよね?貴女は私達と同じ作られた存在で本来なら私達側の存在のはず。まぁ、それをあの男が止めていたから貴女は何も知らずに暮らしていたんでしょうけどね」
冷たい表情で言い放つボルキア。
彼女の目には負の感情しか宿っていない。
憎しみと違うもっと深い感情をボルキアは目に宿しているのだ。
「貴女は知ってるの?貴女が愛する人の過去や決意や真実を。……あぁ知らないわよね。知っていたら傍にいるなん「ハァァァァァ!!」あら?」
話していたボルキアの頭上からレヴァンティンを降り下ろすシグナムだがボルキアは慌てる様子を見せず笑みを浮かべた状態で、
「スパーダ、少しは働きなさい。働いたら罪を軽くするわよ」
「マジッスか!?じゃあやってやるぜ!」
地面に倒れていたスパーダにボルキアがそう言った瞬間、スパーダは光に包まれシグナムに体当たりを喰らわせるとシグナムは「ぐあっ…」と声を出し地面に落下し、シグナムの握っていたレヴァンティンは地面に突き刺さる。
「シグナム!!」
「大丈…夫です…主はやて。それよりもテスタロッサを…」
横腹を押さえて立ち上がったシグナムはスパーダの姿を見て目を見開く。
「行かせませ~ん」
BJのような服装を身に纏ったスパーダが舌を出して両手を広げていたのだがシグナムが驚いたのはそこじゃない。
驚いた理由は――
「三人だと……っ!」
スパーダが三人となりはやてとシャマルの前で同じように舌を出していたのだ。
「驚いた?驚いたよな?いいかこれが俺のイリュージョンなのさ!」
(……ッ!!スパーダもジョーカーズの一人やったのにこんな事にも気付かんかったなんて!)
シュベルトクロイツを握るはやての顔がわずかに歪んだ。
決して油断していた訳じゃない。
スパーダにも注意はしていたのに自分は許してしまったのだ。
スパーダの分身を――
「じゃあやるか」
「シグナム!はやて!シャマル!」
スパーダのイリュージョンによってフェイトを援護する者はいなくなってしまう。
ただでさえ動揺しているフェイトにこの状況は正直キツイ。
「あらあら一人じゃ寂しいのかしらフェイトさん?いえお人形さん」
「クッ!」
不敵な笑みを浮かべて近付くボルキアを警戒してバルデッシュを強く握り締めるフェイト。
しかしボルキアはそれに動じる事もなく口を開く。
「安心しなさい。今は戦わないから。だって私は貴女と話したいだけだから」
「誰が貴女と話なんか…「貴女の母親は最後まで貴女を見てくれなかったんでしょお人形さん?」…えっ」
フェイトの心臓がドクンッ!と跳ね上がり、脳裏によぎるのはプレシアとの最後のやり取り。
あの時自分はプレシアを守ると伝えて一緒にいるとまで言ったがプレシアは最後までアリシアを見ていた。
悲しい想いをして心が潰れそうにもなったけど、なのはがいたから心を保つことが出来た。
困惑するフェイトに対して、ボルキアはニヤリと笑みを浮かべたままゆっくり近付いていく。
「可哀想よね~。大好きだったんでしょ?それなのに母親は手を取らなかった。どんな気分なのかしらね?悲しい?泣きたくなった?絶望した?」
「やめて……」
「怖いんでしょ?自分の大好きな人がいなくなるのが」
「やめて…やめて…」
「次は誰かしら?今の母親?お兄さん?親友?友達?それとも…クルス・アサヅキかしらね?」
「やめてぇぇぇぇ!!」
かつて自分の前から消えていったクルス。
あの日の事は絶対に忘れられない出来事となってしまった。
だから帰ってきてくれた時は本当に嬉しくて泣きながら抱きついていた。
けどもしまたいなくなったら?
クルスがいなくなってしまったら自分は―――
『フェイト…』
「…………あっ」
うっすらと涙を流して倒れてしまったフェイト。
プレシアの事や人造魔導師の事で動揺していた心に追い討ちをかけられて耐えられなくなったのだ。
「あらあら」
倒れたフェイトを見てボルキアは悪戯を終えた子供のような表情で笑っていた。
これだけで倒れるなんて弱い心よねフェイト。
「所詮Fの産物じゃこの程度よね…」
そう呟いてボルキアはスパーダの戦いを見つめていた。
~ヴィータside~
「…かはっ…」
一体何が起きた?
確か自分達はエグザって男と戦っていて自分はエグザにギガント級の攻撃を喰らわせたはずなのに何故地面に寝転んでいるんだ?
「……グッ!」
やけに腹が痛いと思ったら血まで流れてやがる。
化け物かあの野郎は?
「…なっ…なのは?」
そういえばなのははどこだ?
必死に身体を起こしなのはを捜すヴィータは目を見開いて固まる。
なのははレイジングハートを支えにして立っているがBJはボロボロでレイジングハートも魔法が使えないほど傷つきなのはの髪型もツインテールではなくなっている。
「ザフィーラ…」
「ヴィータか…大丈夫か…」
「お前が…庇ってくれたから…ギリギリ大丈夫だ…」
それでも身体が思うように動かない。
腹部のダメージもそうだがアイゼンが使えるかも分からない。
「まさかここまで戦う者達だとは思わなかった。正直驚いている」
エグザ自身も片腕から血が流れて服も所々が焼けて肌が露出していた。
なのはのディバインバスターやヴィータのギガントハンマーは確実にエグザに届いていたのだ。
それでもエグザが立っているのは認めたくないが実力である。
「貴方は…」
「んっ…?」
エグザに問い掛けるように口を開くボロボロのなのは。
「貴方はどうして…ロストロギアを…狙っているんですか…?」
「…………」
「ロストロギアは…世界や星を簡単に…消してしまうんですよ…それなのに…どうして…」
手で胸を押さえて苦しみを耐えるなのは。
エグザから受けたダメージがなのはの身体に負担がかかり話すことさえ苦しいようだ。
「ならば私からも聞かせてもらおう」
「………?」
「何故そのような物をお前達は回収しているのだ?お前達の組織が回収して絶対に安全だと言えるのか?」
エグザの問いになのはは不意にその問いの意味を考える。
自分達が回収しているロストロギアは確かに危険な物ばかりだった。
それは保管庫に厳重に封印しているが安全なのかと聞かれたら自信を持って答える事が出来ない。
「けど…」
「何より私にはお前達と同じように友がいる。その友の為にも私はロストロギアを確保しなければならない」
「エグザさん…」
「お前もよく頑張った。今楽にしてやる」
真剣な表情でなのはに歩み寄るエグザになのははレイジングハートを必死に持ち上げて矛先をエグザに向けるがダメージのせいで腕が全然上がらない。
すると、
「なのはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ムッ…」
なのはに近付こうとしたエグザを血だらけのヴィータがボロボロのアイゼンで殴りかかった。
腹部からの血など気にせずただなのはを守りたいという想いだけでエグザに向かったヴィータだったが、
「やめておけ」
「なっ…!?ガッ…!」
エグザはアイゼンを片手で受け止め顔を歪めたがそのままヴィータの顎にアッパーを決めるとヴィータの身体はふわりと地面に落下していく。
(強い……力と技術だけなら……将輝や悠季を越えてやがる…)
昔修行で戦った二人の実力は大体覚えている。
あれが全力でないとしても目の前の男は違う。
レベルが違いすぎるのだ。
「ヴィータちゃん!」
目を閉じてもはや戦う事が出来ないヴィータに駆け寄るなのは。
口や頭から血を流すヴィータは必死にアイゼンを握るが力が入らないのかアイゼンは手から地面に落ちる。
(身体が動かねぇ…)
自分を呼び掛けるなのはを見て悔しそうに顔を歪める。
自分は何をしているんだ?
決めたんじゃないのか?
なのはを守る役目だけは誰にも譲らないと。
「友情か…」
必死に戦おうとするヴィータを見て小さく呟くエグザ。
脳裏によぎるかつて自分が戦っていた戦場や友の姿。
(らしくないな…)
苦笑いをして頭を振るとエグザは息を吐いてなのはとヴィータの元に向かう。
「……………」
ザフィーラはなのはやヴィータを庇った時に受けたダメージのせいで動けないでいる。
「強き力を持つ者はいずれ脅威となる。すまないが死んでもらうぞ」
魔方陣を展開させて地面に手を置くとその場が激しく揺れて、地面からドームのような球体が出現してなのはとヴィータを呑み込もうと穴が開き始めた。
「この球体は魔力を遮断するように出来ている」
迫りくる球体の中は闇としか言えないほど真っ暗だった。
その暗さに恐怖からなのか額から汗を流すなのはとヴィータの二人。
(はやて……ごめん……)
(……ショウ君……)
二人の目にはうっすらと涙が溜まっていた。
死ぬ事が怖いのと同時にもう会えなくなると感じているのだ。
こんなところで死にたくはない。
まだ自分達にはやらなきゃいけない事が沢山残っているのに。
「……君……!ショウくーーーーん!!」
『紅蓮一閃!』
「…………!!」
なのはの声が聞こえたのか?
それとも奇跡でも起きたのか?
エグザの出した球体は赤い刃に一刀両断されて真っ二つになるとその破片は砂となりサラサラと散っていっく。
さらに―――
「ユーノ!!」
「任せてよ!メディ!」
『ディバインブラスター!!』
「チッ……!」
エグザが視線を自分の頭上に向けるとエグザの頭上から巨大な砲撃が放たれて気付いた時にはすでに砲撃に呑み込まれ爆発を起こしたのだった。
その砲撃の威力はなのはのディバインバスターと同等かそれ以上の威力があったのは間違いない。
「大丈夫だったかなのは?」
「ショウ君…?」
「おうっ!」
ニカッと笑いなのはの頭を撫でるショウ。
その行動に先程までの恐怖がよみがえってなのはは泣きそうな顔でショウに抱き着いた。
「ショウ君…!ショウ君…!ショウ君…!」
「遅くなってすまなかった。あとは俺とユーノで何とかするから」
「へっ?ユーノ君…」
なのはが顔を上げてヴィータの方に視線を向けるとそこには回復魔法をかけているユーノがいた。
「ユ…ー…ノ…」
「今は回復に専念するんだヴィータ、キミの傷はザフィーラと同じかそれ以上に酷いんだ」
真剣な表情で回復魔法の結界を作り出すとその結界はヴィータを優しく包み込むように広がる。
(ザフィーラはさっき結界を張ったから、あとはなのはだけだ)
傍に置いていたレイジングハートと似た形状の杖を手にしてなのはに歩み寄ったユーノ。
(ここまでして戦っていたなんて…)
悲しげな表情でユーノはなのはを見るとすぐに回復魔法の結界を張った。
「私が罪深い…?」
「えぇ。プロジェクトFの生き残りフェイト・T・ハラオウンさん」
ボルキアの言葉にズキッと胸が痛みフェイトはギュッと胸を押さえて顔を歪める。
あの言い方はまるで心の傷を抉るかのような言葉―――
「私の言葉でそんな表情をするなんて哀れよね。もしかして忘れてたの、自分が人造魔導師だったって?まさかそんな訳ないわよね?貴女は私達と同じ作られた存在で本来なら私達側の存在のはず。まぁ、それをあの男が止めていたから貴女は何も知らずに暮らしていたんでしょうけどね」
冷たい表情で言い放つボルキア。
彼女の目には負の感情しか宿っていない。
憎しみと違うもっと深い感情をボルキアは目に宿しているのだ。
「貴女は知ってるの?貴女が愛する人の過去や決意や真実を。……あぁ知らないわよね。知っていたら傍にいるなん「ハァァァァァ!!」あら?」
話していたボルキアの頭上からレヴァンティンを降り下ろすシグナムだがボルキアは慌てる様子を見せず笑みを浮かべた状態で、
「スパーダ、少しは働きなさい。働いたら罪を軽くするわよ」
「マジッスか!?じゃあやってやるぜ!」
地面に倒れていたスパーダにボルキアがそう言った瞬間、スパーダは光に包まれシグナムに体当たりを喰らわせるとシグナムは「ぐあっ…」と声を出し地面に落下し、シグナムの握っていたレヴァンティンは地面に突き刺さる。
「シグナム!!」
「大丈…夫です…主はやて。それよりもテスタロッサを…」
横腹を押さえて立ち上がったシグナムはスパーダの姿を見て目を見開く。
「行かせませ~ん」
BJのような服装を身に纏ったスパーダが舌を出して両手を広げていたのだがシグナムが驚いたのはそこじゃない。
驚いた理由は――
「三人だと……っ!」
スパーダが三人となりはやてとシャマルの前で同じように舌を出していたのだ。
「驚いた?驚いたよな?いいかこれが俺のイリュージョンなのさ!」
(……ッ!!スパーダもジョーカーズの一人やったのにこんな事にも気付かんかったなんて!)
シュベルトクロイツを握るはやての顔がわずかに歪んだ。
決して油断していた訳じゃない。
スパーダにも注意はしていたのに自分は許してしまったのだ。
スパーダの分身を――
「じゃあやるか」
「シグナム!はやて!シャマル!」
スパーダのイリュージョンによってフェイトを援護する者はいなくなってしまう。
ただでさえ動揺しているフェイトにこの状況は正直キツイ。
「あらあら一人じゃ寂しいのかしらフェイトさん?いえお人形さん」
「クッ!」
不敵な笑みを浮かべて近付くボルキアを警戒してバルデッシュを強く握り締めるフェイト。
しかしボルキアはそれに動じる事もなく口を開く。
「安心しなさい。今は戦わないから。だって私は貴女と話したいだけだから」
「誰が貴女と話なんか…「貴女の母親は最後まで貴女を見てくれなかったんでしょお人形さん?」…えっ」
フェイトの心臓がドクンッ!と跳ね上がり、脳裏によぎるのはプレシアとの最後のやり取り。
あの時自分はプレシアを守ると伝えて一緒にいるとまで言ったがプレシアは最後までアリシアを見ていた。
悲しい想いをして心が潰れそうにもなったけど、なのはがいたから心を保つことが出来た。
困惑するフェイトに対して、ボルキアはニヤリと笑みを浮かべたままゆっくり近付いていく。
「可哀想よね~。大好きだったんでしょ?それなのに母親は手を取らなかった。どんな気分なのかしらね?悲しい?泣きたくなった?絶望した?」
「やめて……」
「怖いんでしょ?自分の大好きな人がいなくなるのが」
「やめて…やめて…」
「次は誰かしら?今の母親?お兄さん?親友?友達?それとも…クルス・アサヅキかしらね?」
「やめてぇぇぇぇ!!」
かつて自分の前から消えていったクルス。
あの日の事は絶対に忘れられない出来事となってしまった。
だから帰ってきてくれた時は本当に嬉しくて泣きながら抱きついていた。
けどもしまたいなくなったら?
クルスがいなくなってしまったら自分は―――
『フェイト…』
「…………あっ」
うっすらと涙を流して倒れてしまったフェイト。
プレシアの事や人造魔導師の事で動揺していた心に追い討ちをかけられて耐えられなくなったのだ。
「あらあら」
倒れたフェイトを見てボルキアは悪戯を終えた子供のような表情で笑っていた。
これだけで倒れるなんて弱い心よねフェイト。
「所詮Fの産物じゃこの程度よね…」
そう呟いてボルキアはスパーダの戦いを見つめていた。
~ヴィータside~
「…かはっ…」
一体何が起きた?
確か自分達はエグザって男と戦っていて自分はエグザにギガント級の攻撃を喰らわせたはずなのに何故地面に寝転んでいるんだ?
「……グッ!」
やけに腹が痛いと思ったら血まで流れてやがる。
化け物かあの野郎は?
「…なっ…なのは?」
そういえばなのははどこだ?
必死に身体を起こしなのはを捜すヴィータは目を見開いて固まる。
なのははレイジングハートを支えにして立っているがBJはボロボロでレイジングハートも魔法が使えないほど傷つきなのはの髪型もツインテールではなくなっている。
「ザフィーラ…」
「ヴィータか…大丈夫か…」
「お前が…庇ってくれたから…ギリギリ大丈夫だ…」
それでも身体が思うように動かない。
腹部のダメージもそうだがアイゼンが使えるかも分からない。
「まさかここまで戦う者達だとは思わなかった。正直驚いている」
エグザ自身も片腕から血が流れて服も所々が焼けて肌が露出していた。
なのはのディバインバスターやヴィータのギガントハンマーは確実にエグザに届いていたのだ。
それでもエグザが立っているのは認めたくないが実力である。
「貴方は…」
「んっ…?」
エグザに問い掛けるように口を開くボロボロのなのは。
「貴方はどうして…ロストロギアを…狙っているんですか…?」
「…………」
「ロストロギアは…世界や星を簡単に…消してしまうんですよ…それなのに…どうして…」
手で胸を押さえて苦しみを耐えるなのは。
エグザから受けたダメージがなのはの身体に負担がかかり話すことさえ苦しいようだ。
「ならば私からも聞かせてもらおう」
「………?」
「何故そのような物をお前達は回収しているのだ?お前達の組織が回収して絶対に安全だと言えるのか?」
エグザの問いになのはは不意にその問いの意味を考える。
自分達が回収しているロストロギアは確かに危険な物ばかりだった。
それは保管庫に厳重に封印しているが安全なのかと聞かれたら自信を持って答える事が出来ない。
「けど…」
「何より私にはお前達と同じように友がいる。その友の為にも私はロストロギアを確保しなければならない」
「エグザさん…」
「お前もよく頑張った。今楽にしてやる」
真剣な表情でなのはに歩み寄るエグザになのははレイジングハートを必死に持ち上げて矛先をエグザに向けるがダメージのせいで腕が全然上がらない。
すると、
「なのはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ムッ…」
なのはに近付こうとしたエグザを血だらけのヴィータがボロボロのアイゼンで殴りかかった。
腹部からの血など気にせずただなのはを守りたいという想いだけでエグザに向かったヴィータだったが、
「やめておけ」
「なっ…!?ガッ…!」
エグザはアイゼンを片手で受け止め顔を歪めたがそのままヴィータの顎にアッパーを決めるとヴィータの身体はふわりと地面に落下していく。
(強い……力と技術だけなら……将輝や悠季を越えてやがる…)
昔修行で戦った二人の実力は大体覚えている。
あれが全力でないとしても目の前の男は違う。
レベルが違いすぎるのだ。
「ヴィータちゃん!」
目を閉じてもはや戦う事が出来ないヴィータに駆け寄るなのは。
口や頭から血を流すヴィータは必死にアイゼンを握るが力が入らないのかアイゼンは手から地面に落ちる。
(身体が動かねぇ…)
自分を呼び掛けるなのはを見て悔しそうに顔を歪める。
自分は何をしているんだ?
決めたんじゃないのか?
なのはを守る役目だけは誰にも譲らないと。
「友情か…」
必死に戦おうとするヴィータを見て小さく呟くエグザ。
脳裏によぎるかつて自分が戦っていた戦場や友の姿。
(らしくないな…)
苦笑いをして頭を振るとエグザは息を吐いてなのはとヴィータの元に向かう。
「……………」
ザフィーラはなのはやヴィータを庇った時に受けたダメージのせいで動けないでいる。
「強き力を持つ者はいずれ脅威となる。すまないが死んでもらうぞ」
魔方陣を展開させて地面に手を置くとその場が激しく揺れて、地面からドームのような球体が出現してなのはとヴィータを呑み込もうと穴が開き始めた。
「この球体は魔力を遮断するように出来ている」
迫りくる球体の中は闇としか言えないほど真っ暗だった。
その暗さに恐怖からなのか額から汗を流すなのはとヴィータの二人。
(はやて……ごめん……)
(……ショウ君……)
二人の目にはうっすらと涙が溜まっていた。
死ぬ事が怖いのと同時にもう会えなくなると感じているのだ。
こんなところで死にたくはない。
まだ自分達にはやらなきゃいけない事が沢山残っているのに。
「……君……!ショウくーーーーん!!」
『紅蓮一閃!』
「…………!!」
なのはの声が聞こえたのか?
それとも奇跡でも起きたのか?
エグザの出した球体は赤い刃に一刀両断されて真っ二つになるとその破片は砂となりサラサラと散っていっく。
さらに―――
「ユーノ!!」
「任せてよ!メディ!」
『ディバインブラスター!!』
「チッ……!」
エグザが視線を自分の頭上に向けるとエグザの頭上から巨大な砲撃が放たれて気付いた時にはすでに砲撃に呑み込まれ爆発を起こしたのだった。
その砲撃の威力はなのはのディバインバスターと同等かそれ以上の威力があったのは間違いない。
「大丈夫だったかなのは?」
「ショウ君…?」
「おうっ!」
ニカッと笑いなのはの頭を撫でるショウ。
その行動に先程までの恐怖がよみがえってなのはは泣きそうな顔でショウに抱き着いた。
「ショウ君…!ショウ君…!ショウ君…!」
「遅くなってすまなかった。あとは俺とユーノで何とかするから」
「へっ?ユーノ君…」
なのはが顔を上げてヴィータの方に視線を向けるとそこには回復魔法をかけているユーノがいた。
「ユ…ー…ノ…」
「今は回復に専念するんだヴィータ、キミの傷はザフィーラと同じかそれ以上に酷いんだ」
真剣な表情で回復魔法の結界を作り出すとその結界はヴィータを優しく包み込むように広がる。
(ザフィーラはさっき結界を張ったから、あとはなのはだけだ)
傍に置いていたレイジングハートと似た形状の杖を手にしてなのはに歩み寄ったユーノ。
(ここまでして戦っていたなんて…)
悲しげな表情でユーノはなのはを見るとすぐに回復魔法の結界を張った。