出会いと想いと

~喫茶店~

「かなり賑わってるな」

「やっぱりナギがバイトしてる姿を誰でも見たいんだろ?」

「…ペペロンチーノにするかカルボナーラにするか…」


ショウと稟と純一がナギのバイト先でもある喫茶店に来ると、喫茶店には麻弓を含めて次々と注文している泉達の姿に、天井に吊るされている春原に樹の姿もある。

他にも目を回しながら注文を受けている歩や料理を運びながら摘まみ食いしているアシュトンの友達ドラゴンズ。

ナギはプルプルと震えておりハヤテがそれを宥めているようだ。

『やっぱりこうなったか…』とショウが苦笑しながら席につくと、ナギや歩やアシュトンと同じようにバイトしているキキョウが現れた。


「あら、ショウに稟に純一じゃない。アンタ達もナギのバイト姿を見に来たの?」

「半分正解で半分は麻弓に連れてこられたんだよ。それよりもキキョウも働いていたのか?」

「そうよ。社会勉強したいって言ったら即OKだったわ」


稟の問いにキキョウはそう答えると、三人の脳裏に浮かんだのは涙を流しながら喜ぶ神王の姿――

娘の成長が一番嬉しい親でもあるからきっと今も家で泣いてるだろう。

それか魔王と酒を飲んでるな。


「それにしても…」


ショウはジッとウェイター姿のキキョウを見つめる。

いつもは制服とエプロン姿しか見たことがなかったショウにとって今のキキョウの姿は非常に珍しい。

なので―――


「よく似合ってんじゃんキキョウ…」

「へっ?」


ショウの言葉にキキョウは間抜けな声を出して固まったが、すぐに理解して顔がだんだん赤くなっていく。


「べっ、別にアンタに褒めてもらっても嬉しくないんだからね!!今日だけよそんなに見ていいのは!」


顔を赤くさせながらそそくさとキッチンに姿を消していくキキョウに苦笑するショウ。

それに対して純一は『注文…』と呟いていたが、キキョウが現れる事はなく純一はテーブルに項垂れて落ち込むのだった。

それほどまでに食べたかったのか純一よ――


「ところで、あの大会の事はどうなったんだ稟?」

「あぁ、クルスが言ってた大会なら叔父さん達に頼んでみたけど…」

「けど…」

「叔父さん達が張り切って大会を開くみたいで、全世界生放送するって」


全世界生放送……だと……!?

そんな事したらいろんな世界のやつらが動き出すじゃないか――

いやある意味その大会で実力を見せれば抑制力になるかもしれない。


「参加者がかなりの数になるだろうな」

「そりゃそうだろな。かったるいけど、そんな大会が開かれたら俺はもちろん参加するけど稟やハヤテも強制的に参加だろうし」


稟もハヤテもその大会でやるべき事がある。

そして――クルスもその大会を始めた本当の理由は別にあるはずだ。

おそらく復讐者としてケリをつけるだろう。

俺はどうするべきなのか?

クルスを止める事は出来ないだろう。

なら俺はその大会で俺自身の戦いをするしかない。

俺の考えている通りなら―――


『えぇぇぇぇぇぇーーーー!!』

「んっ…?」

「何だ…?」

「かったるい」


ショウが物思いに耽っていると店内に女性陣の声が響き渡る。


「どうした麻弓?」

「スクープなのですよ土見君!!さっき乙女の会話をしていたのですが、歩ちゃんはすでにキスをした事があると判明したのです!」

「乙女?」

「朝倉君?海老フライになりたいのですか?」


一瞬でロープをどこからともなく出した麻弓が目を光らせて純一を脅す。

そのロープに恐怖したのか、純一は顔色を真っ青にさせて首を横に振る。

どうやら春原や樹と同じように天井に吊らされるのが嫌なのだろう。


「それで本当にキスしたのか歩?」

「したよ!あれがキスじゃなきゃおかしいんじゃないかな!?」


彼女がここまで言うならそうなのだろうが、歩の中ではキスは手作りクッキーを食べた事とは決して言える訳がないだろう。


「ふむふむ、ハヤ太君は女性に積極的とな」

「明後日の新聞にはこのネタを採用するとしよう」


悪知恵が働く美希と理沙が同時に親指を立てる。

しかも二人は標的をさらに増やすかのようにマイクを持ちながら店内を歩き回る。

非常に迷惑です。


「それでは次にカミングアウトしてもらう人はキキョウちゃんにしてもらいしょう」

「嫌よ!そんな恥ずかしい事言える訳がないでしょ!」

「つまり言えないだけであるのだなキキョウ」

「イエーイ!!」


ハイタッチして喜ぶ二人に対してキキョウはまたまた顔を赤くさせてキッチンに消えていく。

一体何を思い出したんだキキョウ?

そしてショウよキミはキキョウに何をしたんだい?


「ショウ、殴っていいかい?キミの顔が赤く腫れ上がるまで」


キキョウの反応に何故か樹がいち早く動いて、縄から脱出した樹はショウの肩に手を置いてプルプル震えながら口を開いたが、


「麻弓頼んだぞ」

「OKなのですよ!」

「ちょっ!?麻弓!俺様の腕はぁぁぁぁぁぁ!新しい世界がぁぁぁぁぁぁ!!」


こうして麻弓の手により樹は新しい世界へと旅立つ事になったが、誰も見ておらず樹は神楽の手により介抱されたのは一時間も後だった。


「じゃあナギちゃんは?ハヤ太君と同じ屋根の下で暮らしてるんだし何か……」

「フンッ!私はハムスターやキキョウと違ってレベルが凄いのだ。そう簡単に言えるはずがないだろう」


泉の問いにナギが腕を組みながら鼻を鳴らし答える。

レベルが凄いってハヤテよ何をしたんだ?

まさか真っ先に狼となってしまったのはハヤテだったのか!?

ロリ――ハヤテよ男になったんだな。


ショウが遠い目をしていると間にも美希や理沙がナギに詰め寄る。

次第にナギの顔が真っ赤に染まると、


「私はハヤテに朝ベッドでイタズラされたのだ!!」

『!?』


凍り付く喫茶店―――

ハヤテよやっぱりお前は狼になったのか―――


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何をおっしゃってるんですかお嬢様!?」


ナギの言葉にいち早く反応したハヤテが顔色を真っ青にして立ち上がるが、


「スクープ!!スクープ!!特大のネタなのですよーーーー!!」

「すぐに記者会見を始めろ!!これは新聞部始まっての特大スクープだ!まずは杉並に連絡しろ!」


ハヤテよりも興奮して動いたのは新聞部の部員達。

暴走状態に変わった麻弓と理沙と美希はお金を置いて勢いよく喫茶店から飛び出していった。

残された泉はポカーンと口を開けたまま固まって、歩は「どういう事かなハヤテ君!?」とハヤテに詰め寄りハヤテは「誤解です西沢さん!いやっ、それよりもあの三人を止めないと!」と言ってハヤテもまた喫茶店から飛び出したのだった。

そしてショウ達三人は――


「稟…」

「あぁ、ハヤテはいい奴だったよな」

「ハヤテとはもう一度焼きそばパンが食べたかったぜ」


三人とも遠い目をして窓の景色を見つめたままだった。

この誤解が解けるまでハヤテが悪戦苦闘していたようだが数日は時間がかかったようだ。


「そういえば、ハヤテじゃないがショウは狼になってないのか?」

「そういう稟こそどうなんだよ?シアやネリネと一緒にいて理性が保つのか?」


ハヤテが狼になったと勘違いしたまま話をしている三人。

そんな三人の会話をチラリと耳を立てて聞いているのは先程爆弾投下したナギと誤解したままの歩と顔を真っ赤にさせたキキョウの三人。


「ショウの家では当たり前かもしれないが、俺はシアやネリネやリコリスが家にやって来ては布団に潜り込んでくるから理性を保つのが大変なんだ」

「おい待て。何故俺を例えで出したんだ?そして何で当たり前だと言った?」

「だってキキョウと同棲してるんだろ?シアが言ってたから…」

「かったるい。同棲なんて大変だろうに」

「妹と同棲してる男が言うと説得力があるな」

「ヒモなだけに…」

「お前ら俺に恨みでもあんのか!?しかも稟にだけは言われたくねぇ!」


##NAME1##と稟の言葉に反論する純一。

どうやら彼らの話しはまだ続くようだ。


そしてキッチンでは―――


「……………」


稟の言葉にキッチンにいたキキョウが動揺して皿を何枚も割っていたのは余談です。






~管理局第26指定世界【シグルト】~

久々の管理局の仕事で指定世界にやって来たなのはにフェイトに八神家のメンバー。

リインフォースⅠだけはユーノの手伝いの為にこの場にはいないが、変わりにはやての傍にはリインフォースⅡがいる。

何故彼女がここにいるのかはまた別の機会に話をしよう。


「むぅ、今日はショウ君とデートに行く約束だったのに~」


頬を膨らませて先頭を飛んでいるのは高町なのは。

どうやら今日はショウとデートする約束だったようで急に仕事が入って今は機嫌が悪い。

しかもそれはなのはだけではないようで、


「それは私も同じやわ。私かてショウ君と遊びに行きたかったのに…」


なのはと同じように愚痴を溢すのは八神はやて。

彼女もまた私服を選んでいた時にクロノに呼ばれた為今は機嫌が悪い。

しかも呼んだ本人は今アースラで胃薬を飲んでいるようだ。


「「ハァァァァ~」」


二人とも溜め息を吐きながらチラリと視線をフェイトへと向ける。

矛先が変わったと気付いたフェイトはビクリと身体を震わせた。


「ふっ、二人とも顔が恐いよ…」


なのはとはやての表情に微かに怯えるフェイトに対して二人はジト~とした表情のまま口を開く。


「それに比べてフェイトちゃんは羨ましいよね。はやてちゃん」

「そやね~。今日かて本局でロッサと一緒にいたクルス君に会って出発までフェイトちゃんずっと甘えとったもんね~」

「あうっ…」


実は本局でユーノと食事の約束をしたロッサとクルスはそのまま局内を歩いていたのだが、クロノに呼ばれたフェイトはたまたまクルスと出会ってずっと話していたのだ。

その間ロッサはその場から姿を消していたようで、フェイトとクルスがいた休憩所には誰も近寄れなかったと局員が口にしていた。

そのおかげなのかフェイトはクルスに思う存分引っ付いて甘えていた。


「それにしても何故クルスは本局に?」


ふと疑問に思った事を口にするシグナム。

シグナムやなのは達もクルスが管理局の局員ではないのは知っている。

ただの協力者として管理局と一緒に戦っているクルスだが、何故クルスが本局にいたのかは疑問に思っていた。


「それも含めて後でとっちめてやればいいだろフェイトと一緒に?」

「ヴィータ!それは冗談だよね!?」

「………なのはとはやて次第だと思う」

「うぅ~」


この仕事が終わったらクルスと一緒に遠い所へ逃げようと決意したフェイトに対して、ヴィータはつい冗談で言ったのに二人の女神が親指を立ててしまった為に本気となってしまって後悔するのだった。


「それよりも主、目標のポイントはもうすぐのようですが…」

「魔力反応は感じひんけどホンマにこの星にロスト・ロギアがあるんやろか?」

『…怖いです…』

「リインちゃんは今日が初めての出陣ですもんね。大丈夫よリインちゃん!ヴィータちゃんやシグナムがいるしザフィーラだって盾になってくれるわ」

「シャマルよ、それは我を守護獣として言ってるのか?それともただの盾として言ってるのか?」

『……………』


久々の人型モードでシャマルの横を飛んでいたザフィーラの言葉に皆が黙り込む。

そんな反応をすると、ある意味肯定としても捉えられるでザフィーラは「むぅ…」と目を閉じていた。

哀れなり盾の守護獣ザフィーラさん。


「そろそろ目標ポイント付近に接近するようやね。じゃあミーティング通り二手に別れて調査するで」

「うん。私とヴィータちゃんとザフィーラさんの三人がAポイントに向かうね」

「Bポイントは私とシグナムとはやてとシャマルの四人だよね」

『リインもいるです!』

「そうだな。リインもBポイントだ!」


はやての言葉になのは達Aグループとフェイト達Bグループへと別れる。

バランスを考えるとこれが一番妥当なのかもしれない。


「もし何かがあってピンチになったらすぐにリミッターを外すんやで。ユリナさんやクロノ君からも許可はもろてる。ええか?」

『了解!!』


七人+リインはお互い真剣な表情で言葉を交わすと、二チームに別れてロスト・ロギアを探しに向かう。



今ロスト・ロギアを巡る戦いが静かに始まろうとしていた。
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