出会いと想いと

体育祭が終わり鳳凰学園ではしばらくの休みという事で学生は有意義な休日を過ごしていた。

照りつける太陽の下でショウと稟と純一の三人は何をしているのかというと、


「はっ?ナギがバイトしている?」

「そうなのですよ!!あのナギちゃんが喫茶店でアルバイトをしていると聞いたのです」


三人が街を歩いている時に前方からカメラを手にした麻弓が物凄い速さで駈けてきた。

よほどナギがバイトしているのが意外なのだろう。

興奮して息が上がっている。


「あのナギがアルバイトなぁ…」


確かに麻弓が言うようにナギがアルバイトは意外だ。

どういう風のふきまわしだろう?


「それでナギが働いてる姿を見たいから一緒に来いと?」

「そうなのですよ土見君!まぁ実はちらっと偵察ついでに覗いたら…」

「覗いたら…?」

「ナギちゃんがバズーカ片手に暴れてその被害に綾崎君と東宮君と杉並君が被害にあってたみたい」


苦笑しながら話す麻弓に対して三人はその時の事を想像する。

おそらくハヤテはナギが心配で見に行ったのだろうが、東宮と杉並は茶化しに行ったに違いない。

それがナギの逆鱗に触れてバズーカで撃たれたのだろう。

自業自得だ。


「ちなみに泉と美希と理沙の三人にはすでに連絡して、シアちゃん達も用事が終わったら喫茶店に行くって言ってたから私達もGO!なのですよ!」


もはや興奮して止まらない麻弓は稟の手を掴み、さっさと行ってしまい稟の『うわぁぁぁぁぁ!!』という悲鳴が街に響き渡るのだった。

クスクスと笑う住民を見ながらショウと純一は、


「あのナギがバイトってやっぱり目的があるんだろうな」

「…かったるい。でも俺には分かるぜ。きっとハヤテの為だろうな」


よく分かってるじゃないか純一。

普段は鈍い純一が推理した事によりびっくりしてショウは口を開く。


「おっ!お前は純一なのか!?」

「どういう意味だよ!?」







~時空管理局・本局~

「僕はようやくベティとデートまで約束したのに、ベティは本当に酷いんだよクルス。彼女はデートの日に急に仕事が入って『ごめんなさいヴェロッサ』と断りの電話をしたから、僕は次の機会までに彼女が喜ぶかもしれないプレゼントを買いに街へ出掛けたんだ。それなのに彼女は私服で男とデートをしていたんだよ。あの日の光景はきっと僕の心のアルバムに一生残るだろうね」

「ベティも酷いと思うけど、三週間前にキャサリンとデートをしたロッサが言っても説得力はないと思うよ…」

「キャサリンはもういないんだ。彼女は僕の部屋でコーヒーを飲んで、そのコーヒーの味が苦いだけで僕にビンタをしたんだよ。きっと彼女はコーヒー教の一員だったんだね」

「そんな宗教初めて聞いたよ」


本局の廊下を黒のスーツと白のスーツを着た二人の男が歩いていた。

黒のスーツを着ているのはクルスで、クルスはロッサの話を聞きながら呆れて溜め息を吐いている。

白のスーツを着た男性ヴェロッサは先程から愚痴ばかり溢していた。

この二人のやり取りを擦れ違う局員は呆れたように見ている者もいれば、怪しげな顔や敵意を含んだような顔をしている者達までいる。

それだけクルスやロッサは本局で浮いた存在なのだ。

一人は管理局に雇われた組織の男。

一人は査察官という立場の男だからだ。


「それで、今日僕を本局に呼んだ理由は?」

「そうだったね。実はキミに頼まれた情報が手に入ったと言ったらどうする?」

「!?」


ロッサの言葉にピタリと足が止まるクルス。

ロッサもピタリと足を止めて壁に寄り掛かり腕を組む。


「本当に苦労したよ。あの情報はSランクだし、足跡一つ残したら僕だけじゃなく下手をすれば聖王教会にまで被害がくるからね」

「それは本当に悪いと思ってる。けどあの事件から繋がっているとしたらどうしても調べてもらいたかったんだ」

「僕は別にそれについては気にしていないよ。ただ…」

「ただ…?」


ゆっくり壁から離れてクルスの肩を掴み、いつになく真剣な表情になるロッサが口を開く。


「この情報は僕とキミだけの秘密にしておいた方がいい。何せあのPT事件より前、クロノ君のお父さんが殉職したあの事件から全て始まっていたんだ」

「…………」


クルスはヴェロッサの手を肩から離して壁を思い切り殴り付けた。


やっぱりあの時から始まっていたんだ。

アイツが計画していたプロジェクトが―――

そして体育祭で出会った雷を使う少女もあの子だと確信出来た。


「クルス…」

「……分かってるよロッサ。冷静にならなくちゃいけないって。それに……全て終わらせる為に僕は戻ってきたんだ」


真剣な表情のクルスにロッサは微かに笑みを浮かべる。


「じゃあその話しも含めて今夜食事でもどうだい?ユーノ君を誘って三人で。実は最近出来たお店に僕好みの女の子がいるんだ」


ニッコリ笑うロッサにつられて笑うクルス。

ロッサはショウやクロノとは違うタイプだがクルスは友として頼りにしている。

管理局で浮いた立場もあり意気投合してしまうのだ。

二人が再び廊下を歩いてユーノがいる無限書庫を目指す。

真面目に仕事しているユーノをロッサが茶化しに行くのだろうと思いながら歩いていると、前方から二人の局員がクルスとロッサに近づいてきた。

一人はロッサと同じように緑色の髪をした男性だが執務官の服を身に纏っている。

もう一人は青色の髪に白と赤でデザインされた服装を身に纏っている男性で、その服は元帥直属の部隊『サザンクロス』に入っている人間しか着る事が出来ない服を着ていた。

その二人はクルスとロッサに気付いているらしくスタスタと足早になってやってきた。


「こんな所で何をしているんですかアコース査察官?」


緑色の髪をした男性が呆れた表情でロッサに尋ねる。


「仕事に決まってるじゃないか……えーーっと……」

「エルド・ランコット執務官ですよ。お忘れですか?」

「エルボー・ラリアット君だね。先日はコーヒーをありがとう」

「名前が違う時点で覚える気がないんだねロッサ」


ロッサの言葉に渇いた笑みを浮かべるクルスだがロッサの表情は至って真面目である。

多分――真面目である。


「僕は女性と友と家族しか覚えられない体質なんだ。どうも男の名前は苦手なんだよ」

「相変わらずその不真面目な態度はどうにかなりませんかヴェロッサ・アコース」


緑色の髪をした男性の横にいたもう一人の男性がやれやれと息を吐いて、ロッサに視線を向けながら口を開く。


「査察官が抜けてるよ……えーーっと……」

「マオです。サザンクロス部隊の一人、マオ准空尉です」


マオという名の青年は呆れながらロッサを見ていたが視線をクルスに変えると急に目付きが鋭くなった。

この目はよく知っている。

敵や気に入らない存在を見る者の目である。

マオがサザンクロスの一人という事はショウ関係だろうな。

ショウは管理局の局員に対して僕は雇われた傭兵みたいなものだしね。


「貴方がクルス・アサヅキか。貴方の事はショウからよく聞かされていた」

「ショウから?」

「あぁ…。自分の大切な親友だとね。貴方と一緒に戦えばどんな敵とも戦えるとよく話していた」


ショウがそこまで言ってくれるのは嬉しいけどどんな敵とも戦えるかは分からないよ。

しかも僕は仕方がなかったとはいえショウに黙って元の世界に帰ったのに僕をまだ親友と言ってくれていたなんて。


「それで僕に何か用かなマオ准空尉?」

「別に何も。ただ貴方の事を少し調べさせてもらいましたが、貴方は過去に何人もの人達を殺しているようですね。それも自分の敵として向かってきた者……そして……幼馴染みを」


ズキッと胸が痛む。

脳裏によぎるのは過去戦ってきた者達や自分の腕の中で死んでいった幼馴染みの死に顔。

冷静になれ―――

落ち着くんだ―――


「それがどうしたの?」

「俺は時空管理局の局員として貴方に言います。貴方の組織は言ってみれば人殺しの組織にすぎない。そんな人達と協力してこれから戦う事は俺達には出来ない」


マオの言葉にピクリと反応して声を荒げたのは、


「マオ准空尉!その言葉は彼らへの侮辱です。局員がそんな事を口にするのは見過ごせません」


声を荒げたロッサはマオに詰め寄ろうと歩き出したが、クルスがそっと手を伸ばしてそれを止めた。


「クルス…」

「いいんだロッサ。僕は彼の言葉を否定するつもりはない。この戦いが終わったらどうせ管理局とは手を切るつもりだったから」


そう言ってクルスは二人の横を通り過ぎていくつもりだったが、エルドが次に発した言葉で雰囲気が一気に変わるのだった。


「マオ、こんな男が本当にショウさんの親友なのか?ショウさんの話じゃもっと強そうに思ったんだが、こいつはただのヘタレだろ?それに噂じゃハラオウン執務官はこいつに惚れてるって話もあるし、本当は騙されてるんじゃないのか?だってあの二人はどこか天然なところあるし、何より単純でたまにボケたりするし、ハラオウン執務官に至っては俺が……………ガハッ!!」

「「!?」」


それは一瞬の出来事だった。

僕の事はまだいい。

だけどショウやフェイトのことまで言ったエルドを許す訳にはいかない。

だからクルスは殺気を込めたように目を細めエルドの髪を掴み思い切り顔を下げるとクルスは勢いよくエルドの顔面を蹴り飛ばしエルドの身体は壁に勢いよく激突する。

それに驚いたロッサとマオは目を見開くがクルスはゆっくりエルドに近付いて冷たい目付きで見つめながら口を開く。


「さっきからごちゃごちゃ五月蝿いよキミ。言いたい事があるなら直接僕に言ってくれないかな。僕は全く気にしてないから。ただね……僕の親友とフェイトに対して悪口を言うのはやめてもらおうか。二人とも大切な人なんだ。あとね……」


キミでは無理なんだよ。

フェイトを―――

フェイトを守るのは―――


「フェイトは僕が守る。気安くフェイトに触れようとするな…」


今まで以上に殺気を放つクルスにエルドは「ひぃぃぃぃ」と悲鳴を上げながら震え、マオは顔を真っ青にさせて無意識に後退りする。

こんなクルスの姿を見たのはロッサが初めてだろう。

ショウやフェイト達ですら知らない顔。

こんな恐ろしい存在にマオは後退りしながら、


(この男が管理局の敵となったら本当に大変な事になる…)


今は味方であるが敵となった時に自分は戦えるのか?と震えていた。


「クルス、もういいかい?」

「うん。じゃあ早くユーノの所に行こうかロッサ」


ゆっくりクルスに近付いたロッサはクルスの肩を軽く叩いて何事もなかったかのようにクルスとユーノの元に向かった。

ロッサ自身先程のクルスの殺気に微かに恐怖していたがただそれだけだった。

自分にとってクルスはクルス。

友であり仲間なのだ。

だからクルスの傍にいる。

たかが殺気なんて気にする事はなかったのだった。
1/3ページ
スキ