体育祭(後編)

「ショウ!午後からも頑張れるようにウチが作ってきた料理を食べてくれへんか?」

「そのっ…作りすぎて困ってたから食べてくれない!?別にアンタの為に作ったんじゃないからね!」


はやての行動により咲夜やキキョウがショウの前に座りおかずを運んでいた。

二人とも頬を赤くしていて恥ずかしいようだがショウは差し出されたおかずを口に入れていた。

しかしある人物達は動いていない。

なのはと亜沙の二人である。


「あれ?なのはちゃんは行かないの?」

「亜沙先輩こそ行かないんですか?」

「僕にはちゃんと作戦があるからいいんだよ」


可愛らしくウインクして答える亜沙になのはも負けじとニッコリ笑って口を開いた。


「私だってちゃんと考えてますよ。体育祭が終わってショウ君に直接言うんだもん」

「じゃあ僕も負けないよ!」


メラメラと闘志を宿しながら見つめ合う二人に、ショウは離れていたのに背筋にゾクリと寒気が走り辺りを見回していた。

何だ?

何かとんでもないことが起きそうな気がしてならない。

いやっ、落ち着くんだ。

きっと気のせいだ!


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


ショウが小さく頷いている時にちょっと離れた場所から男の雄叫びが聞こえてきてショウは首を傾げていた。

今のはどう考えても春原の叫び声だよな?

アイツまた何かやらかして制裁されてんのか。

大体朋也の言葉を信じて動いたんだろうが、また朋也にはめられてやられたんだろうな。


「ショウ君、口にケチャップついてるで」

「あぁ、悪い。ティッシュ取ってくれないかはやて」

「大丈夫やでショウ君」


ニッコリ笑ってはやてはショウの口についているケチャップを指で拭き取りそれを見つめると――


「ごちそうさまや!」

「「はやて!?」

「「はやてちゃん!?」」


それを口に入れて勝者の笑みを浮かべるのである。

その行動に四人は目を丸くしショウはただただ唖然としていた。


「……はやて」

「今日一幸せやわ」


なら後ろにいるなのは達の事は自分でなんとかするんだぞ。

俺は知らないからな。






~クルスSide~

昼休みに突入してクルスはハラオウン一家やセフィリア達がいる場所までやって来て何故か冷や汗を流していた。

まるで今からとんでもないことが自分に起きる気がしてならないのだ。

リンディさんやエイミィがニヤニヤ笑っている辺り怪しいとしか言えない。


「クルスさん…」


嫌な予感を感じていたクルスにルリが近付いて体操服の袖を掴みグイグイ引っ張りながらクルスを見ていた。


「どうしたのルリちゃん?」


困惑した表情を浮かべるクルスにルリがとある質問をするが、その質問によりこの場は修羅場へと変わるのだった。

そう―――

この質問を―――


「クルスさんとフェイトさんにはお子さんがいたんですか?」


ただいまルリによる核爆弾が投下されました。


『えっ?』


ルリの言葉に普段出さないような間抜けな声を上げる片想い中の皆様。


「ルルルルルル……ルリ!?」


それとは逆にフェイトは顔を真っ赤にして慌てている。


「クロノ、お茶飲むかい?」

「…あぁ。すまないなユーノ」


そこの二人は何をしている?

何関係ありませんとも言わんばかりに和んでいる。


『………………』


トレインやディアス達は全員オニギリを口に入れたまま固まっているようだ。

珍しいのでそのままにしておこう。

それより今は――


「えーっと、状況がよく分からないから説明を頼むアルフ」


クルスに名前を呼ばれて肉を頬張っていたアルフがゆっくり振り返って視線を泳がせていた。

何故に視線を泳がせる?

そんなに怪しい事なのか?


「いやっ、あのさ~。落ち着いて聞いておくれよ。ルリが言ったのはこの子達の事なんだよ」


アルフが連れてきたのは目を輝かせながらクルスを見ている二人の子供。

一人は赤い髪の毛の少年でもう一人はピンク色の髪の毛の少女である。

その子達はクルスの所にトコトコ走ってくると嬉しそうな顔をして口を開いた。


「初めましてクルスさん。僕はエリオ・モンディアルです」

「私はキャロ・ル・ルシエです。クルスさん」

「「会いたかったです!お父さん!」」


今クルスの世界が氷河期を迎えるのだった。

凍る。

何もかもが凍っていく。

どうやら思考がフリーズしているようです。

落ち着いて考えてみよう。

お父さん?

僕とフェイトの子供?

あれ?僕はいつの間にそんな事を――


「クルス君…」


ポンッと肩を叩かれてゆっくり振り返ると、そこにはこれでもかと言わんばかりに笑っているリンディがいた。


「リンディさん、僕には子供がいたんですか…」

「えぇ。あれは寒い冬の夜だったわ。貴方とフェイトが…「違うよクルス!エリオとキャロは私が保護してる子達なの」フェイトったら…」


リンディの言葉を遮るように顔を真っ赤にして口を開いたフェイト。

リンディさん、何故残念そうな顔をしながら逃げていくのですか?

エイミィも「おしいっ!」とか言いながら離れていかないでもらいたい。


「……って保護?」

「うん。話せば長くなるんだけど………」


それからフェイトはエリオやキャロを保護している理由を話し始めた。

エリオがプロジェクトFとして産まれた事や、キャロが強大すぎる力を持ってしまった為に村を追放された事を話し自分が保護者として引き取った事をフェイトはクルスに話した。

その話を聞いていたクルスは拳をキツく握り締め顔を歪めていた。


あんなに無邪気に笑っている子達にそんな過去があったなんて。

プロジェクトFはまだ終わっちゃいなかったんだな。

それに強すぎる力を持っているからってだけで村を追放だなんてあまりにも理不尽すぎる。


「それでね私が二人を保護してるの」

「……そっか。でもどうして僕をお父さんと呼んでるの?」

「そっ、それは!?」


急に頬を赤くしたフェイトに首を傾げていると、先程までユーノと話していたクロノがクルスの肩に手を置いて口を開いた。


「分かってやれ。フェイトがお前をどれだけ想っていたか僕や母さんやエイミィやアルフがよく知っている。お前が帰ってきてからフェイトがよく笑うようになってくれて僕は本当に嬉しいんだ」


真剣な表情で話すクロノにリンディやエイミィは穏やかな顔をしている。

クロノ自身もクルスが帰ってきて嬉しい気持ちでもあった。

昔みたいに話したり戦う事が出来るからだ。


「けど僕は…」


クルスは顔を俯かせて悲し気な表情を浮かべる。

クルス自身守りたかった世界や仲間達の為とはいえ数え切れない人達をこの手で消した。

そんな自分に父親なんか―――


「大丈夫だよクルスなら…」

「イヴ…」


顔を俯かせていたクルスにイヴが穏やかな表情をして口を開く。

イヴもまたクルスに楽園大戦で救ってもらった。

失いかけた心を繋ぎ止める事が出来たのだ。


「エリオにキャロ…」


顔を俯かせていたクルスはゆっくり顔を上げて二人を呼ぶと、エリオとキャロはトコトコとクルスの前までやって来て首を傾げていた。


「僕はまだまだ未熟でちゃんとした人間じゃない。けど二人を幸せにしてあげたいと思ってる。だから僕なんかでも父親でいいかな?」


優しく微笑み二人の頭を撫でるクルスにエリオとキャロは瞳に涙を溜めて泣き出してしまった。


「「ひっく……ぐすっ…」」


泣いている二人は嬉し泣きなのか表情は悲し気な顔をしていない。

フェイトが引き取ってくれてからずっと優しくしてくれて愛情をもらっていた。

母親としてフェイトが二人を幸せにすると言ってクルスもまた父親として二人を幸せにすると言った。

嬉しい気持ちで一杯の二人は耐えきれずに泣き出してしまったのだ。

そんな二人を見てクルスはギュッと抱き締めて優しく頭を撫でていた。
















「そういえば、クルスはイヴや楓達には何て言うんだろ?」

「それなら大丈夫…」


クルスの方を見ながらそんな事を言うユーノに、イヴが真剣な表情で口を開いた。

クルスは必ず答えを出すって言ってくれた。


「いつか僕はフェイトだけじゃなく私や楓やレナやことりやさくらの想いにちゃんと答えを出すって。優柔不断でどうしようもないけど待っててって」

『……………』


イヴの言葉に片想い中の楓達は小さく頷いていた。

いつか答えが出る。

それがどんな答えでも自分達は待ち続けると。


「あらあら、クルス君も大変ね」

「何がですリンディさん?」


そんな光景を離れた場所でお茶を飲みながら話しているリンディとシャオの二人。

ジェノスとアシュトンは一緒に地面に沈んでセフィリアはセリーヌと楽し気に話してディアスとベルゼーが静かに酒を飲んで、トレインとクロードはオニギリを無心に口にしていた。


「フェイトだけじゃなく、イヴちゃんやレナちゃん達がさらにアプローチするのよ?理性がもつかしら?」

「……………」


いらぬ心配である。
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