体育祭(前編)

誰だろう――?

穴には三人とも落ちたはずなのに――。

恐る恐る視線を下に向ける理沙が次に目にしたのは、


「あ~さ~か~ぜ~」

「うおっ!?」


穴に落ちた生徒Aだったのだ。

生徒Aの瞳には生気が宿っておらずホラー映画のような状態だった。


「行かせないわよ」


生徒Aは理沙を引き摺り降ろすとしばらく理沙の悲鳴が上がり穴から這い上がってきたのは生徒Aだった。

穴で何があったのか誰も知らないが唯一体験した理沙は顔色を真っ青にさせて気絶していたのだった。


△▼△▼△▼


『続いて第二走者さーん!いらっしゃ~~い!!』


先程のレースは生徒Aの一位で決まり他の三名はただいま気絶中。


『さくらさん。少し静かにしてもらえないでしょうか。玉入れのダメージで頭が…』

『それは虎鉄君の自業自得でしょ?ハヤテ君に鼻息を荒くして近付くから…』

『あれは愛のためです!綾崎の前には変態が大勢いたので排除していたら息が荒く…………ゴハッ!』


虎鉄が言い終える前に虎鉄の目の前に砲丸が飛んできて、砲丸は虎鉄の鼻にめり込んで虎鉄は地に沈んだ。


ちなみに投げたのは、



「ふぅ。一仕事したな」


やりきった感じでニコニコ笑って輝いている綾崎ハヤテだった。


『ちなみに女装が似合いそうランキングでハヤテ君は殿堂入りしてますが…』

「えっ!?」

『今回秘かにランキングを行い新たな一位が決まりました!それは………有里湊君でーす!」

「………はっ?」


さくらの放送にハヤテは顔を真っ青にして震えて、湊は現実を受け止めるきれなくて放心している。

何故俺が一位なんだ?

普通に他にも候補がいるのに何故俺が?


『ちなみに圧倒的に多かった理由は――いつも眠たそうな顔がたまに笑顔になると和むからだそうでーす!』

「投票したやつを必ず見つけ出す。そしてシバく」


こうして有里湊はハヤテに続く女装が似合う男子として学園に名を轟かせる事になるのだった。

ちなみに―――


『二位はクルス君だよー!今度僕と二人っきりでお着替えしようね』


ハートがつきそうな放送にクルスは現実逃避をして横にいたフェイトの瞳から光が消えていた。

【第二走者】
・一ノ瀬ことみ
・八神はやて
・生徒C
・生徒D


「なぁ、ことみちゃん」

「どうしたのはやてちゃん?」

「その手に持っとるバイオリンは何なん?」


はやての問いにキョトンと首を傾げていることみ。

質問の意味がよく分かっておらずキョトンとしたままことみははやてを見つめる。


「せやからバイオリンをどうするん?」


その問いにことみはニコッと嬉しそうに笑いながら答えた。


「スタートの合図でおもいっきり弾くの」

『弾くの~弾くの~弾くの~』

ことみの言葉がはやての耳にエコーしながら入ってくる。

今ことみは何と言った――?

バイオリンを弾く――?

あの破壊兵器をスタートとの合図で弾くやと――!?


「実行委員!これはありなんか!?」


ざわ…ざわ…ざわ…!

ざわ…ざわ…ざわ…!

はやての問いにざわつく実行委員会。


『許可します』

「何やて!?」


本部の言葉に驚くはやてと二年二組のメンバー。

しかも――


『にゃははは。今回の実行委員は心が広いね~』


さくらが楽しそうに笑うもんだからはやてだけでなく、二年二組の皆が声を揃えて『広すぎるわ!!』と叫んでいた。

そして――スタートとなったのだが結果だけ教えよう。


『………………』


ことみ以外は気絶して震えている学生を含めて観客席にいた者達や教師達まで耳を押さえて中には、『高ぶる!高ぶるぞぉぉぉーーー!!』と叫ぶ変態がいたが数分後には白目になって気絶していた。


「………?」

そしてこの状況でことみはゴールラインで可愛らしく首を傾げていた。


「大丈夫~将輝?」

「………はっ!今マグニスが俺をこの豚野郎がって罵倒しながら引き戻してくれた」


涙目になるコレットに対して将輝はあやうく危ない川を渡ろうとしてかつての敵に助けられるという奇妙な体験を味わうのであった。


『え~っと先程のレースでいまだに気絶している女子生徒さんがいるので次は百メートル男子にしまーす』


先程のレースで女子百メートルは強制終了となってしまう。

出場者の中には親衛隊が拝みたかったマリオンやはやてもいたため親衛隊は血の涙を流していたらしい。


「よしっ!行くか」

「はい」

「…………」


代表でもある悠季とハヤテとワタルが立ち上がり入場門に向かう。

悠季とハヤテはなんとか回復したのだがワタルはいまだに回復しておらず目が虚ろ状態。


「まさかワタルが無我の境地に!?」

「違うと思いますよ」


ナギの言葉にやんわりツッコミを入れるハヤテ。

やはり主のボケには執事がツッコミを入れるのが常識なのだろうか?


『第一走者はスタートラインに並んでくださーい!!』

【第一走者】
・春原陽平
・橘ワタル
・デューク
・アノン


「どうやらこの勝負は僕の勝ちで決まりだね」


金髪を靡かせ余裕の笑みを浮かべる春原陽平。

やはり親衛隊に所属しており昔はサッカー部に入っていたのもあり余裕なのだろう。

しかし彼は知らなかった。

ワタルならまだしもデュークとアノンは普通とは違うのである。


「お前の勝ちだと?」

「そうさ!何故なら僕には秘策があるんだ」

「秘策?」


デュークの問いに春原は満面の笑みで親指を立てて答えた。


「そう!スタートした瞬間にキミ達に向かってバナナの皮を投げてやるのです!」

(((何故に敬語?)))


春原の秘策よりも敬語に首を傾げている三人。

春原はそれに気付くはずもなくニヤリと笑っていた。

するとアノンが、


「キミはバカだね」

「何!?」


余裕の春原を鼻で笑ってアノンはやれやれと首を横に降っていた。


「秘策を喋った時点でキミの運命は決まったのさ」

「……へっ?」

「キミはゴールする前に何かに吹き飛ばされる!!」


自信満々に春原に話すアノンにワタルとデュークが呆れてため息を吐く。

そんな嘘に誰が引っ掛かるのかと呆れていたのだが春原陽平だけは違った。

春原は、


「まさかキミは未来が分かるのか?」

「あぁ。実はこの世界を僕の物にしようと思って未来から来たのさ」


もはやアホとアホの対決。

この戦いはしばらく続いたのだった。


「それじゃあ行くぞ」


智代の言葉にスタート体勢に入る四人。

春原は何故か半泣きでアノンは余裕の笑みを浮かべて、デュークは呆れていたがワタルだけは真剣な表情を浮かべていた。


(待っててくれ伊澄。いつも誤魔化して話せなかった俺だけど今日は違う!!この戦いで伊澄に俺のカッコイイ姿を見せてやる)


ワタルが真剣な表情になったのはゴール付近に伊澄がいたからだ。

心に熱き思いを抱きながらワタルは合図を待つ。


「よーい」

『…………』

「どん!!」


智代の持つ競技用のピストルからパンッ!という音が鳴り駆け出す四人。


しかし―――


「ブヒ?」

「えっ…?」


四人の目の前に現れたのは、杏が大事に飼っているペットのボタンである。

ワタルはそれにいち早く気付いて足を止めたのだが、春原とデュークとアノンは気付いていない。

それはつまり―――


「ボタン危ない!!」


二年一組の方から物凄い勢いと速さで辞書が飛んでくる訳で、


「グハッ!」

「あべっ!」

「ごるばっ!」


春原とデュークとアノンはそれをもろに喰らって、顔面に辞書がめり込みながら校舎の方へと消えていったのである。

アノンの予言は確かに当たった。

だが自分も巻き込まれるというオマケつきで。


(えー!?なにこの展開!?ライバル消えて嬉しかったのに違う意味で負けた気がする。どうする?どうすれば)


いまだにポツンと佇むワタルは急に我に返ってボタンを抱えるとすぐにゴールして、ボタンを杏に渡して何故か泣きながら校舎の中に消えていったのだった。

そんな男泣きしたワタルに対して伊澄は――


「ナギ、この展開は予想外だったわ」


「うむ。やはりそうか」


伊澄はナギと一緒に本の事で真剣に話してワタルの勇姿を見ていなかった。


「ワタルがだんだんかわいそなってきたな」


そんな男泣きしたワタルを見つつ咲夜が同情して、


「わ、若!今行きます!」


ワタルのメイドことサキが物凄い速さで校舎に消えていき、後は任せたでーと咲夜が苦笑しながら手を振っていた。

ボタンの乱入やワタルの逃避行からしばらくして百メートル男子は悠季とハヤテが一位をとり、デニスと走ったメンバーは何故か腹痛を起こして棄権したらしい。


『次は二人三脚です。次は二人三脚です。出場者は入場門にレッツゴー!!』


一人はしゃぐさくらの声に純一は呆れ##NAME2##は苦笑いを浮かべている。


「さて行くぞなのは」

「うん!」


##NAME1##の腕に抱き着くなのは。

甘えるようななのはに当然反論するショウラバーズの二年生組。


「ずっ…ずるいで…なのはちゃん…」

「何どさくさに紛れて抱きついてんねん!?」

「そうよ!ショウに抱きついていいのは私だけよ!」


ことみ戦で負傷したはやてや今まで出番がなかった咲夜とキキョウがなのはに反論している。


「はやてちゃんはまだ病み上がりなんだから休んでなきゃ駄目だよ」


なのははニッコリ笑ってはやての肩を掴むが掴まれたはやては、


「なな…なのはちゃん!?掴む力が強いんやけど…」

「気のせいだよ。それより咲夜やキキョウちゃんも大人しく座っていようよ」

「それは却下や!!」

「私ははやてと違ってまだ健康よ!」


はやてと違ってなのはに詰め寄る咲夜とキキョウの二人。

少しずつだがなのはの笑みがひきつっていく。


「たとえ二人三脚でも抱き着きは反対や!」


ピクッ!


「抜け駆けは許さないわ!!」


ピクッ!ピクッ!


「二人ともそろそろやめたほうがええで。なのはちゃんが怒ったら肉片ものこらへんで…」


冗談で言ったつもりがはやての言葉についになのはの笑顔が女神から別の何かに変わってしまった。


「な、なのは?」

「なぁーにーフェイトちゃーん」

「ひっ!」


フェイトが一度だけ見たことがあるなのはのニヤリとした笑顔。

あれは確かショウの事を秘かに狙っていた女性局員の人とお話する時にしていた笑顔だ。

その後女性局員の人は部署が変わってピンク怖いとか白い悪魔たんて呟くようになって急に笑うようになったらしい。

今のなのははまさにあの時と同じである。
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