体育祭その三

~公園~

「有里…いや湊!!俺は…」

決心した表情で口を開く工藤叶――

二人の間には風が吹き抜けて桜の花が空で綺麗に舞う。


「俺は…「ねぇ工藤」んっ?」

工藤が何かを言う前に湊が口を開き、工藤は首を傾げて湊を見つめる。


「工藤は甘い物とか好き?」

「えっ?あっあぁ…」

「待ってて…」


湊は工藤に背を向けて近くのクレープ屋に向かっていく。

湊の行動に工藤は戸惑っていたが、


(震えが止まった…)


先程まで震えていた手がいつの間にか止まって気持ちも落ち着きを取り戻していた。


(アイツ、俺の震えに気付いたのか?)


工藤は視線を湊に向けると、湊はクレープを二つ持ってウトウト眠たそうに工藤の元に歩いていおり、そんな湊を見つめながら工藤は自然と笑みを浮かべていた。








△▼△▼△▼

~ショウの家~

「…………」

「「…………」」


放課後にショウの家に泊まりに来ると約束したなのはとはやては、ショウの家にやって来て困惑した表情でショウを見ている。


(ショウ君どうしたんだろ?)

(学校におった時はいつもと変わらん感じやったのに)


ショウはソファーに座って上の空状態でなのはやはやてが目の前で手を振っても気付かない。


「どうしようはやてちゃん」

「う~ん。こうなったら奥の手や!ショウ君の嫌いな納豆を使って秘技「なぁ…」はえっ?」


はやてが納豆を高速でかき混ぜながら『カラシはオマケやーーーー!』と声を上げていたのだが、ショウが不意に口を開いてはやての動きが止まった。


「二人とも、ディアゴ・ハーシェリスの事覚えているか?」

「うん…。覚えてるよ」

「逆に忘れられへんよ」


六年前にショウとクルスが命懸けで戦った男で圧倒的な力の前にショウとクルスの二人は一度敗れた。

しかし朱雀と青龍の二神を解放させて戦った二人に敗れ最後はアルカンシェルで消滅した男。


「せやけど急にどうしたん?」

「今日悠季と奏也と帰ってる時に変な女に会ったんだ」

「「変な女…」」


ピクリと眉を動かすなのはとはやてにショウは気付かず真剣な表情で続ける。


「その女が何の目的で現れたのかは知らないが、その女が笑った瞬間ディアゴと同じ感覚を味わったんだ。お前らはどう思う?」

「その女の人って綺麗だった?」

「…んっ?あぁ綺麗だったが」

「そうなんか…」


なのはとはやては無言で立ち上がりショウの両隣に座ると、いつの間にか持っていた納豆を勢いよくかき混ぜ始めた。


「ふふ…二人とも!!何を…っ!?」

「ショウ君…」

「浮気は…」

「断固!」

「反対よ!」


なんと先程までそこにはいなかった咲夜とキキョウが何故か納豆を手に持ちショウの目の前にいた。


「お前らいつから…」

「細かい事は…」

「気にしなや、ウチは気にしないから」


ニッコリ笑う二人に対してショウは顔色を真っ青にさせて目は涙目になっていく。


『さぁ、召し上がれ』


四つの納豆が近付くにつれて顔がひきつるショウだったが、


「拒否権は?」


振り絞った言葉に女神四人はニッコリ笑って納豆を口に入れた。


そして次の瞬間――


「ぎゃぁぁぁぁぁーーーー!!」


街全体に響く程の悲鳴を上げて気絶してしまった。

たまには甘い雰囲気も欲しいと願いながらショウは気絶していくのだった。


「……それにしても何でキキョウちゃんと咲夜がいるん?」

「二人で抜け駆けなんて許さないわよはやて!」

「ウチらに秘密って酷いで二人とも。そりゃ後つけるに決まってるやろ?」


何やおかしいか?と本気で首を傾げる咲夜にはやては今度はバレへんようにしようと一人で誓っていた。

なのはなのはで次は一人でショウと会おうと考えるのである。






~公園~

「んっ、悲鳴?」

「気のせいじゃないか?」


ショウの悲鳴が微かに聞こえた湊がポツリと呟く。

しかし工藤には聞こえていないようで首を傾げていた。

さて二人はクレープを食べ終えて今はベンチに座って噴水や遊んでいる子供達を見ていた。


「それで話って…?」

「あぁ…。俺はずっとお前に隠し事をしていた」

「…………」

「けどな、お前が一日休んだ日にずっと考えてた。湊に正直に話すべきか。それともこのままにしておくかって…」

「工藤…?」


工藤は真剣な表情になり湊を見つめながら口を開く。


「湊、俺は今まで男として学校に通ってた。けど本当は俺は女なんだ」


耐えきれなくなった秘密を湊に話した工藤叶。

本当は言ってはいけなかった。

理事でもある叔母との約束があったから。

しかし工藤は自分の気持ちに嘘をつきたくなかった。

そんな工藤の告白に湊はキョトンとした表情で工藤を見ていたが、


「…やっと…言ってくれたね…」

「えっ?」

「工藤が女だって…初めて会った時から…知ってた」

「…………へっ?」


湊の言葉に工藤は間抜けな声を出してしまう。


「えっと、じゃあ今まで知りながら」

「うん。工藤が体育をたまに休んだり身体測定とかで休んだ日があって確信出来た」


微かに笑みを浮かべた湊に工藤は力が抜けたように息を吐いている。


「本当に湊君には敵わないな」

「それが本当の声?」

「うん」

「そう…」


湊は工藤の頭をしばらく撫でながら、これからどうするか考えていた。


「でもどうして俺に話そうと思ったの?」

「……湊君が学校を休んだ日に私は湊君の事しか考えていなかった。勉強も習い事もことりちゃんとの電話ですら上の空って言われちゃったんだ」


あの日は本当になにも出来なかった。

何をしても集中できなくてただ湊君の事ばかり考えてた。

もう自分の気持ちに嘘なんかつけれないと感じたから話そうと決めたんだよ。


「ありがとう叶」


なら俺も覚悟を決めないとな。






~??~

目の前に広がる光景――

周りには人間が入ったカプセルやいろんな種類の機械が置かれていた。

その中で一人の女性に数人の研究員が厭らしい表情を浮かべて迫っていた。


(やめろ!やめろ!やめろ!)


涙を流す女性に対して研究員達はニヤリと笑っていた。


(やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!)


研究員達に取り押さえられて女性は床に押し倒される。


(やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!)


女性の身に纏っていた服を研究員の一人が乱暴に引き裂く。


『…やめて…ください…』


涙を流しながら呟く女性に研究員の一人が口を開く。


『たとえ成功体でも所詮はクローンであるお前に拒否する権利はない。生まれてこられただけでも感謝しろ』


眼鏡をかけた研究員の言葉を筆頭に研究員達が女性に襲い掛かる。


(やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!)

『誰か助けて…』


その女性が涙声で口にした瞬間、


『やめろーーーー!!』


研究所が巨大な爆発を起こして先程まで厭らしい表情を浮かべていた研究員や実験をして研究者達は、原型を残さないほどバラバラになり女性は震えながら青年を見つめていた。


『貴方は…?』


返り血を浴びた青年は女性を見つめながらそっと口を開く。


『―――――――』










△▼△▼△▼

「ハァッ!ハァッ!」


夢から目を覚ましてベッドから起き上がり青年は顔を歪めて頭を抱えていた。


「またか…」


苦しげに呟く青年は自分の手のひらを見つめて口を開く。


「クソッ…!」



まるで自分に言い聞かせるかのように口を開いて青年は目を閉じて再び手のひらを見つて、手のひらまで伸びてしまったタトゥーを歪めたまま見つめた。


『マスター!』

「…大丈夫だよレン。いつもの事だ…」

『マスター…』


力なく笑う青年にパートナーである少女は涙目で頬に触れる。

誰かマスターを助けてください。

マスターの悪夢を誰か消してください。

私はこんなに苦しむマスターを見たくない。






~元帥室~

「集まってくれてありがとう皆」


重苦しい雰囲気の中ユリナは柔らかな笑みを浮かべて口を開く。

そこにはユリナを筆頭に、リンディ・クロノ・ユーノ・ルリ・直樹の五人がいた。


「ここに集まってもらったのは他でもない私が得た情報と直樹が得た情報を言うためよ」

「直樹が得た情報?」


ユーノの言葉に直樹はコクりと頷き直樹は視線をユリナに向けた。


「この情報はまだ確定した訳じゃないからショウやクルスに言えないの」

ユリナはそう言って五人が見れるようにモニターを出した。


「まず一つ。聖騎士団に繋がっていたと思われる局員が全員行方不明になったわ」

「なっ!」

「本当ですか!?」


クロノとユーノの言葉にユリナは静かに頷く。


「殆んど目星はついてて、明日か明後日に尋問するつもりだったのに先に動かれてしまったの」

「やはりそれは…」


確信したクロノにユリナは、


「消されたわね」


苦渋の顔を浮かべるユリナにルリが口を開く。


「つまり内通者が他にいたと言うことですか?」

「多分。ユリナが調べていたのを知っている局員の犯行ね」


リンディの言葉にユーノが一つの疑問を口にした。


「でもユリナさんはその事を誰かに話しましたか?」

「……いえ話してないわよ」

「じゃあ誰が?」

「あっ!話してはないけど盗み聞きされた気がする」


何かを思い出したようにユリナは手を叩いた。


「盗み聞きって誰に!?」

「サザンクロス部隊コール4の幸成軍曹」

「「「!?」」」


ユリナの言葉にリンディとクロノとユーノが目を見開いて驚いた。


「幸成軍曹って…」

「あの筋肉幸成ですか?」

「えぇ…」


驚く三人を尻目にユリナはキョトンとさせて三人を見つめる。


「あり得ません!!幸成軍曹はどちらかと言うと管理局に骨を埋めるぐらい仕事熱心で部下や上司からも信頼されているんですよ!」


声を荒くしながらユリナに話すクロノにユーノが宥める。


「じゃあ幸成の両親が管理局に利用されて殺された過去や幸成自身が何度も死にかけた過去をどう思う?」

「それは…ッ!けど幸成が裏切ったなんて僕は「三日前から幸成と連絡が取れなくなったのよ」…」


クロノに対してユリナは冷たく言い放ちその言葉にクロノは押し黙る。
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