体育祭その二

~元帥室~

『以上が調べた結果です』

「いろいろとありがとうねユーノ」

『大丈夫ですよ。クロノからの仕事と一緒にやっただけなんで』


疲れはてたのか力なく渇いた笑みを浮かべるユーノ。

今日で何徹になるかな?

たまにはちゃんと寝たいのにあのシスコン野郎。


「ユーノ。貴方はしばらく休んでいいわよ。今回の事で疲れたでしょ?」

『そうですね。じゃあルリちゃんやレオン君やユリナさんが頼んだデータの事をもう少し調べたら休みます。僕も少しでも力になりたいですから』

「ありがとう。今度何か頼み事があったら言ってちょうだい」


ユリナの言葉にユーノは大丈夫ですよと軽く手を振りユリナとの通信を切る。

通信を切るとユリナは一瞬悩んだように顔を歪めていたがすぐに真剣な表情に変わりデータに目を通した。

ディアゴのデータだけじゃなく過去の局員データを一体誰が調べているのかしら?

もしあの男が裏で動いているとしたら厄介だ。

あのデータが周りに知られたら全てが終わってしまう。

厳重に封印していたデータだけじゃなくディアゴや安藤誠の事まで知られたらおそらく―――

ユリナは唇を噛み締めて頭を抱えるしかなかった。


自分の知らない所で何かが動いていてそれがあの男だとしたら――

一番想像したくない光景がユリナに脳裏によぎる。

すると――


『……ユリナ』

「カリム?どうしたの?」


突如通信が開いてユリナが確認すると、それはユリナの友でもあり聖王教会にいる女性のカリムだった。


『大事な話があります。もしユリナに時間があるならこちらに来てもらいたいのですが…』

「いいわよ。私も貴方に相談したい事があったから」

ユリナはすぐに準備を始める。

そしてこの時ユリナはカリムから伝えられた言葉で動き出す事になった。

全ては自分達の未来のために。






【鳳凰学園】
~2年2組~


「生きている者は手を挙げろ」

『……………』


紅女史の言葉に手を挙げる者は数人。

悠季と奏也とシリアとヒナギクの四人である。

ショウや稟やハヤテといった男子にはやてや楓やシアといった体力に自信がある者達は机に倒れ込み、ナギとネリネとなのはと理沙と美希と泉は気絶している。


「ちなみに勇人先生は何故そんなに元気なのですか?」

「まだまだガキに負けるほどやわじゃないから」


紅女史の疑問にニカッと笑う神爪勇人――

最早人間のレベルを通り越している気がする。


(一体何があったんだ?)


紅女史の疑問に誰も答える事が出来なかったが、想像すると余程の事があったのだろうと納得するしかなかった。








△▼△▼△▼

~2年1組~


「有里ちょっといいか?」

「……うん?どうしたの?」


その頃2年1組では平和な時間が流れていた。

このクラスは2年2組と違い地獄の練習をしていないからである。

そんな中で工藤が真剣な表情で湊に声をかけていた。


「その…今日学校が終わったら時間あるか?」

「……ある」

「そっか!じゃあ俺と一緒に帰らねぇか?たまには二人でよ」

「いいけどどうかした?」

「えっ?」


湊の言葉に工藤が小さく声を出す。


「今日は様子が違うから。いつもの工藤じゃない気がする…」

「そうか?気のせいだろ。(気付かれたかな?でも話すって決めたから)」


工藤を見ていた湊は再び夢の世界に旅立っていく。


そんなやり取りを近くで見ていたことりは、


(叶ちゃん)


工藤を心配そうに見つめていたが、


(大丈夫だよことりちゃん)


アイコンタクトで大丈夫だと知らせる叶に安心したように笑うことり。

叶ちゃんは強くなった。

誰かを想う気持ちはこんなにも人を変える。

なら私は?

私も変われるのかな?


「……クルス君」


貴方の声が聞きたい。

貴方の優しさを感じたい。

貴方に会いたいよクルス君。






~2年2組~

再び視点は2年2組に戻るわけですが、


「将輝~起きてよ~」

「あと…五年待ってくれ…」

「そんなに待てないよ~!」


口から白い魂のようなものが吐き出される将輝をコレットが必死に起こしている。


「さて帰るか」


ショウは先程より体力が回復すると鞄を持ちなのはやはやてに視線を向ける。


「ショウく~ん」

「だっこ~~!」


二人は腕を広げて甘えた声でショウを待っているようで、ショウはそんな二人を見つめていたが一瞬頬を赤くしてしまう。

すると――


「ショウ、今日は俺と帰らねぇか?」

「俺もいるって」


ショウの後には悠季と奏也の二人がいて二人は苦笑いを浮かべてショウを見ていた。


「たまにはいいかもな」

「「!?」」


まさかの事態になのはとはやては驚いている。

それもそのはず――

ショウに甘えるつもりがまさか断られるとは思わなかったからだ。


「悪い二人とも!…その代わり今日は俺んちで泊まっていいから!」


なのはとはやてが落ち込んだのに気付いたショウが慌てて口を開きショウの発言に二人はすぐに満面の笑みを浮かべて頷いている。


「じゃあ行くか」


悠季の言葉にショウと奏也は教室を出ていくとなのはとはやてが、


「はやてちゃん」


「分かっとるでなのはちゃん」


二人はガシッと握手を交わしてなにやら不気味に笑っていた。


その姿に咲夜とキキョウが、


「キキョウ」

「分かってるわよ咲夜。私も同じ事考えてたから」


この二人もまたなにやら企んでいたようだ。


「抜け駆けなんて許さないわよ」

「ウチら二人を出し抜こうなんて甘いわ!行くでキキョウ!」


こうしてショウの家に四人が集まる事が決定した。

彼は果たしてその理性を保つことができるのだろうか?





~校庭~

沢山の下校生がいる中でショウと悠季と奏也は体育祭の事で話し合っていた。


「しっかし勇人先生って絶対鬼だよな」

「あぁ。男子全員の両手両足に20kgの重りつけるは生徒が傷だらけになっても笑いながら魔力弾放つは…」

「そのわりに女子には優しいという」


ショウと悠季の言葉に奏也が付け加えるように言うと二人は力強く頷いている。


「そういや勇人先生が言ってた大告白大会って何だ?」

「それなら杉並に聞いた。あの種目は今まで体育祭では使われなかったら知らないだけで生徒会では遊び半分でいつも書かれていたそうだ。それで今回だけ特別にやるようで、参加者はまずお題の書かれた紙の所まで走ってその紙を取って、紙に書かれたお題を皆の前で言うそうだ」

「…って事はもしお題が告白関係だったらクルスは告白しなくちゃいけないって訳か」


その光景を想像する三人――

そして三人は同じ答えを想像したのかクルスに哀れみの感情が浮かんでいた。

それはつまり――

クルスが制裁される可能性があるという事だ―――


「まっ!勇人先生に逆らえないし仕方ねぇか」

「だな」


最早2年2組の中で神爪勇人と紅薔薇撫子には逆らえないというルールが制定されたようだ。


すると―――


「んっ…?」

「どうしたショウ?」


ショウは足を止めて前方を指差すとそこには着物をきた女性がいてその女性はショウ達を見てニッコリ笑って手を振っていた。


「知り合いか?」

「いやっ…」

「でもこっち見てるけど」


困惑する三人だったが女性の姿が視界から一瞬で消えた途端に三人の表情が驚愕に変わった。


(どこに!?)

「ここですよ」

「「「!?」」」


三人の背後から女性の声が聞こえてきて三人が振り返ると、先程の着物をきた女性がそこにはいてニッコリ笑っていた。

その一瞬の出来高に三人は唖然としている。


(何者だこの人…)

(俺達三人が気付かないなんて…)

(……普通じゃない)



「あの~少しお聞きしたいのですがいいですか?」


唖然とする三人を尻目に女性は相変わらずニコニコして口を開いた。


「はい!いいですよ」


悠季はハッと我に返り女性に返答した次の瞬間―――


(((なっ…!?)))


女性の表情が先程から一変して冷たく凍りつくかのような表情に変わると、三人はまるでその表情で身体が凍ってしまうのではないかというぐらい固まっていた。


「この学園に氷……いえ土見稟という方はいますか?」

「稟だと?」


ショウの呟きに女性は冷たい表情のままショウを見つめて、


「成る程。やっぱり土見稟はこの学園の生徒さんですね。しかも貴方と同じクラスですか」

(((えっ…)))


女性の言葉にショウだけでなく悠季や奏也も目を見開いた。

まだ稟の名前しか呟いていないのにこの女性は稟がショウと同じクラスという事を見抜いたのだ。


「しかし…(あの方はいない)」


女性は一瞬残念そうに息を吐くとショウ達に背を向けた。


「それでは「待て。アンタは何者だ?」……」


女性が去ろうとした瞬間に奏也が女性に向かって尋ねる。

女性は振り返ってニッコリ笑って答えた。


「私の名は明日香。もしまたお会いした時はゆっくりお話ししましょうね」


明日香はフフと笑うと三人の前から姿を消した。

明日香が三人の前から姿を消した途端、


『…ハァ…ハァ…ハァ…』


三人の額から汗が吹き出すように浮かんで、悠季と奏也に至っては手が震えていた。


「明日香って言ってたな」

「初めてだよ。こんなに怖いって思ったのは」


悠季と奏也は今までにない恐怖に微かに震えてショウだけは何かを感じていた。

そうまるで―――


(あの感覚似ていた。あの男…ディアゴ・ハーシェリスの時に感じた感覚と。何者なんだあの女は)



いつの間にか握っていた拳を解くと掌は汗ばんでいた。

それほどまでの感覚を出させた女性の正体は!?

そして…女性の目的は何だったのか!?

それは誰も知らない。


「この事は稟に話しておくか?」

「いや言わない方がいいだろ。言ったとしても…」

「どうしようもない」









△▼△▼△▼

そして視点は変わり――


~公園~


「桜が綺麗だね…」


「そうだな」


公園では湊と工藤が桜の木を見ながら歩いていた。


すると工藤は急に立ち止まって湊を見つめる。


「有里!!」

「…?」


振り返って湊は首を傾げる。

そして―――


「有里…いや湊…俺は…」

工藤叶は湊に何を話すのか?










次回予告

ショウ
「俺は明日香という女性と出会った事を皆に伝える。そこで気付いたあること」


「工藤が…話してくれた事…それは…」

奏也
「体育祭が始まる中で少しずつ何かが動き始める」

悠季
「次回S.H.D.C.――
第18話――
【体育祭その3】」
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