体育祭その二

~ダアト~

「んっ?シンクじゃないか。ここで何をしているんだ?」

「リグレットか。アンタこそ何してんの?」


ダアトの街中で何やら袋を持った男女がいた。

一人は魔弾のリグレットで、もう一人は烈風のシンクである。

リグレットは袋の中身をシンクに見せながら答えた。


「私か?私は任務で疲れたラルゴやディストに手料理でも作ってやろうと思ってドラゴンの肉を買いに来たんだ」

「…はっ?」

「だからドラゴンの肉を買いに来たと言ったんだ」

(何料理を作ろうとしているんだ?それにこの街中にドラゴンの肉なんか…………って!あるんだ)


シンクの視線の先には一万ガルドで売り出されたドラゴンの肉に向けられてリグレットはそれを三つも買っていた。


「あっ…!支払いはディ……じゃなくてアッシュでお願いします」

(最近アッシュが嘆いてたけど……まっ!いいか)


二人のやり取りに周りにいた住民は苦笑いを浮かべていたが、


「リグレットにシンクだな」

「んっ…」

「何?」


二人の背後に一人の男が佇み、その男の周りには黒いコウモリのような生き物が飛んでいた。


「アッシュ・フォン・ファブレはどこにいる?」


男の言葉に二人は目付きが先程から一変して、鋭い目付きになりいつの間にか己の武器を持ち構えていた。


「何者かは知らぬがアッシュに何の用だ?」

「俺達の力になってもらうと言ったら?」

「余計に教える気はないね」

「…そうか」


男は手を伸ばしてコウモリを掴むと自分の手に近付けて、


『ガブリ』


コウモリは男の手に噛み付いて魔力を注入すると、男の顔に何かの紋章が浮かび腰にはベルトのような物が現れた。


「仕方がない。お前達を倒して奴の居場所を聞くとするか。……変身」


コウモリをベルトに装着させると、男は身体に赤と黒の鎧を身に纏って背中には黒いマントも付けられていた。


「何だその姿は!?」

「…答えるつもりはない」

『クッ!』


リグレットとシンクに向かってゆっくり歩み寄る男の名は有里裕里。

鳳凰学園にいる有里湊の兄であり、今は管理局から次元犯罪者として追われている男だった。






【鳳凰学園 】
~2年2組~


「そんな事があったのか」

「あぁ…」


昨日の出来事をショウが稟達と話して教室の中は静まり返っていた。

授業中だったのだが、担当が芳乃さくらだったので話が出来たようだ。


「紅牙って男はそんなに強かったのか?」

「おう。俺が見てきた敵の中でもアイツは上位に入るな」

「将輝が言うと説得力を感じないけどな」


ワタルの言葉に頷くように、ナギや奏也が口を開く。


「確かに。悠季が同じことを言ったら説得力はあるが…」

「将輝じゃね…」

「お前ら酷くないか!?」


二人の言葉に将輝は激しくツッコミの声を上げて立ち上がると、


「あっ…!」


将輝の近くで東宮と樹がチャンバラをしていて、東宮の竹刀が将輝の頭に降り下ろされてしまった。


『………………』


その場に緊迫した空気が流れていたが、


「東宮!てめぇ!やりやがったな!」

「ゆっ、許せ!氷室!あれは緑葉が避けたから…」

「ちょっ!俺様のせいにしないでくれるかな!」

「てめぇら二人とも同罪だ!」


将輝は東宮と樹の制服の襟を掴みながら廊下に飛び出した。


「それでクルスは大丈夫なのか?」


先程の出来事をなかったかのように尋ねる稟。

その問いにショウは、


「今は病院で大人しくしてる。ただ二・三日は入院だってユリナさんが言ってたっけ。……ってかフェイトが今日いないって事は見舞いに行ったな」

『!?』


ショウの言葉にイヴを含めたレナや楓が反応して三人は席から立ち上がるといきなりに帰る準備をしていた。


「あの~レナ?」

「イヴちゃん?」

「楓?」


クロードとなのはと稟の声に三人はニッコリ笑って口を開いた。


「ちょっと用事が出来たから」

「今日は…」

「早退します」

『はぁぁぁぁーー!?』


三人の言葉にクラス中に驚愕の声が上げられてポカンと口を開けていたさくらが三人に近付いて困った表情で口を開く。


「三人とも今は授業中だよ。いきなり早退させるわけな「さくら!」うにゃ!?」


さくらの言葉を遮って、イヴが真剣な表情で肩を掴んだ。

「クルスが私を呼んでる気がするの。それに……クルスの心が不安定な今傍にいた方が親密になれるし」


微かに頬を赤く染めるイヴにさくらは困った表情のまま笑っていたのだが、


(待てよ。もしこのままクルス君と話せなかったら嫌だし、僕だってクルス君と二人っきりになりたいもんな。邪魔なネコモオオシネ)


困った表情からいきなり恋する乙女のような表情に変わったさくらは、


「よぉーし!四人で行こーーう!」

『ちょっと待てーー!!』


さくらまでもが暴走してしまいショウやなのは達が四人を必死に止めていた。


しかもその光景を――


「理沙よちゃんと撮っているか?」

「バッチグーだ。特にヒナを中心に」


お互いワハハと笑いながら録画していたのがこの行動をヒナギクが気付いているとは知らず、二人にはこの後ヒナギクによるありがたい説教が待っていた。








△▼△▼△▼

~ジョーカーズ本部~

「どこに行く気や明日香」

「あら恭介?何か御用かしら?」


ジョーカーズの本部で対峙している明日香と恭介。

明日香はキョトンとした表情で恭介を見ていたが、恭介は目を細めて明日香を見つめていた。


「何処と言われましても、私はあの方に会いに行く「…ッ!何でアイツやねん!?何でそこまでアイツにこだわるんや!?」恭介…」


珍しく声を荒くする恭介――

彼がジョーカーズの中でこれ程まで感情を露にするのはアリシアと明日香の前だけである。


「それは秘密です。ですが、貴方だってあの方が気になるのでしょ?私も同じですよ。それに…」


明日香が不敵に笑った瞬間、恭介は背筋が凍りつくような感覚に襲われてしまった。

まるで全てを見透かしたような明日香の目は今までにないくらい冷めていた。


「あの方の命を狙っているなら……許しませんよ」

「…ッ!明日香!」


恭介の声に明日香は振り返る事はなくその場から姿を消した。

恭介は拳を握り締めてテーブルをおもいっきり叩くと、恭介の拳からは血がうっすらと流れていた。


(俺やあの方の知らん事を明日香は知っとる。俺らん中で一番最初に生まれた明日香しか知らん事ってなんやね!)


やり場のない怒りを恭介はテーブルにぶつけるしかなかった。







【鳳凰学園】
~グラウンド~


「勝ちたいかーー!?」

『おぉぉぉーー!!』

「優勝するぞーー!!」

『おぉぉぉぉぉーー!!』

「「ブルマは最高だぁぁぁぁーー!!」」

『当たり前だぁぁぁぁーー!!』


気合いと書かれたハチマキを額に巻いた樹と東宮の言葉に、クラスの変態男子共が声を張り上げて叫ぶとショウやなのは達は呆れて溜め息を吐いていた。


「よぉし!100m走は問題ないとして、とりあえず二人三脚の練習をやるか」

「勇人先生!二人三脚では女子との密着ありと聞きましたが本当ですか!?」

「本当だ!しかし!お前に出番はない!」


勇人の死刑とも言える言葉に男子生徒は心を破壊されてグラウンドで倒れてしまった。


「生徒Aーー!!」

「死ぬんじゃない!」

「…ごめんな……お前……らっ…俺はもう…駄目だ……」

「生徒Aーー!!」



生徒Aを囲むように男子生徒が盛り上がっているようだが、


「アホだな」


「アホは雪路だけで充分だがな」


一応ビデオを撮っている美希と理沙の二人だが使う事はないだろう。


二人三脚出場者――

ショウ・ヤナギ&高町なのはペア

神那悠季&シリア・ラスフォルトペア

霧宇奏也&朝風理沙ペア



「って!待てぇぇぇーー!!」

「何だ朝風?」


出場者メンバーに自分の名前が書かれている事に気付いた理沙が勇人に詰め寄っていく。


「私の気のせいだろうか?二人三脚に私の名があるのだが」

「安心しろ。気のせいじゃないから。お前とそこで笑っている花菱には二・三種目出てもらうつもりだし」

「「なぬっ!?」」


まさか自分にまで火種がくるとは思わなかった美希は笑いが止まってしまう。


「我々が何をしたと言うのですか!?」

「昼休みに不快な声を流した」

「それはハヤ太君のせいであって私達のせいではありません」

「…って!僕は関係ないでしょうが!!」


さらにこの会話にハヤテまで緊急参戦。


「女の声ならまだしも野郎の声なんか流したお前らには罰だ」

「勇人先生!それは違います!我々は健全な男子生徒の生声を流しただけで罪はありません」

「ならば!こうしよう!」


















「さぁてあの四人はほっといて練習しましょうか」


『おぉぉぉぉーー!!』





暫くして――

「全く朝風と花菱は仕方がない奴だ」

「そう言ってるわりにはポケットが膨らんでますよ」

「……気のせいだ」


理沙と美希となにやら交渉していた勇人のポケットはいつの間にか膨らんでおり、ヒナギクの視界には写真やテープがチラチラと見えていた。


「それで結局どうしたんですか?」


「フム。朝風には100m走に出てもらって、花菱にはお前と二人三脚に出て「って!あれは男女ペアの競技ですよ!」いや…場合によっては女子同士でもいいそうだ」


ヒナギクの言葉に勇人はプログラム表を見ながら答えると、ヒナギクは呆れた表情に変わり溜め息を吐いていく。


「あっ!そういえば##NAME4##とハラオウンの二人を朝から見ないが今日は休みか?」


「はい。二人とも今日は休みですけど…」


「ほぅ…。学校を仲良く休むとはいい度胸だ。そうだ…まだ大告白大会を決めていなかったな。あれはアサヅキにしておいて、ハラオウンにはコスプレリレーに出てもらうか」


フフフと笑いながら種目に名を書く神爪勇人――

その姿を見ながら練習していたショウや稟達はクルスとフェイトに同情して一部の変態男子共は――


(フェイトちゃんのコスプレ!?)

(ハァ…ハァ…ハァ)

(ナースか!?それとも巫女か!?)


鼻血を出しながら興奮していたがたまたま練習中だったはやてと咲夜のチームプレーにより遥か彼方に吹き飛ばされてしまった。









△▼△▼△▼

【聖王教会】
~病室~

「…!?」

何やら嫌な予感を感知したクルスは作業をしていた手を止めて辺りを見回していた。


(……気のせいか?)


視線を窓の外の景色に向けていると病室のドアを叩く音が聞こえてクルスは叩いた人物を中にいれた。

その人物は――


「怪我は大丈夫か?」

「大丈夫だよ。それよりも僕が頼んでた調べ物と機械は?」


クルスの言葉に男は椅子に腰掛けて口を開いた。


「お前が言った調べ物から。まず『仁平淳』の行方だがまだ掴めてはいない。彼は旅人でもあるからどこにいるかは分からない。ただ…」


「ただ?」


「街の人から聞いたんだが、彼は何かを探しているようだ」


男の言葉にクルスはしばらく考えていたが、


「仁平淳の方は引き続き頼むよ」

「分かった。それと一つ緊急事態が起きた」

「緊急事態?」

「俺が稟やハヤテ達に作ったベルトが誰かに盗まれた」

「なっ!?」

男の言葉にクルスは驚愕の表情を浮かべると、男は盗まれたベルトのデータをクルスに渡すとそのデータを驚いた表情のまま目を通した。


「盗まれたのは――
『リュウガ・オーガ・カリス・コーカサス・イクサ』か…」


厄介なベルトを盗まれたな。

しかもこのベルトを盗んだのがマルス達だったらとんでもない事になる。


「盗んだ犯人は?」

「分からない。俺が目を離した隙に奪われちまったから」


悔しい表情で顔を歪める男にクルスは真剣な表情になり口を開いた。


「ベルトの事は僕も探してみる。もしも敵に渡っていた場合は最悪…」

「壊すしかないか」


男の言葉にクルスは小さく頷くと自分の手に握られた機械に視線を向けた。


「今僕や直樹に出来る事はショウと湊のベルトを完成させる事。少しでも最悪の事態を打開する為にも」

「だな」


直樹は袋から機械を取り出すとそれをクルスに渡してそれを手元の機械に組み込んで最後にいくつかの宝石を中に入れていく。


(ショウの新しいデバイス。アーマーデバイスを早く完成させないと…)


すでにクルスの指先にまで伸びたタトゥー

時間は長くは残されていない。


「クルスも頑張ってるし、俺も早く湊に作ってやるか」


クルスの横で作業をする直樹。

しかし一つだけ疑問が浮かぶ。

なぜこの場所に直樹がいるのだろうか?

それは――

(サボりだ)


この事を担任の白河暦は知らなかったが金髪ヘタレが暦に言ってしまったせいで直樹は後日実験に付き合わされてしまったらしい。






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