復讐者

「どうして…そんなに…笑っていられるの?」

「僕は復讐者として生きてきた。だからこの先あの男を殺したら…もう僕には生きる目的なんて「どうしてそんな事言うの!?」…フェイト」

「復讐だけの人生なんて悲しすぎるよ。クルスにはショウやなのはやはやてや皆が………私がいるのにどうして生きる目的がいなんて…」


涙を流すフェイトを見てクルスは抱き締める力を強くして口を開いた。


「どうしても僕はあの男を許すわけにはいかないんだ。佑奈を殺したあの男を…」

「だったら…!」


フェイトはクルスの顔を見つめるように顔を上げて潤んだ瞳でゆっくり口を開いた。


「私がクルスの傍にずっといる。復讐したあとクルスが死のうとしたら私はそれを止める!死ぬなんて絶対させない!。だって…だって私は…貴方が……」

「フェイト…」


クルスがフェイトの頬を優しく包み込んで優しく微笑んだ瞬間、


『クルス!!』

「!?」

「クロノ、どうしたの?」

クロノの突如の通信にフェイトは顔を赤くしてクルスは真剣な表情で答えていた。


『大変なんだ。今次元空間で巨大な魔力を持った人間が現れてアースラに……………』


通信が突如切れて何かが起こったと確信したクルスはフェイトから離れてベッドから降りて上着をかけた。


「クルス!今は休んだ方が…」

「クロノが呼んだって事は何かがあったんだと思う。身体が少しでも回復した今だから行かないと」

「でも…」

「フェイト、僕はまだ死なないよ。いや…死ねないから」


そう言ってクルスは治療室から去ろうとしたがフェイトが腕に抱き着いて一緒に行くと言い出して二人でアースラに向かった。


「ねぇクルス…」

「んっ?」

「私は何があってもクルスの傍にいるから。だから一人で背負わないで。私もクルスと一緒に背負っていくよ」

「………ありがとう」


微かに笑みを浮かべていたクルスの顔を見てフェイトはある事に気づく。

それは作ったような笑みではなく本心からの笑みのようでまるで―――


(クルスが帰ってきてから初めて本当の笑顔を見た気がする)


それだけでこんなに胸が温かくなる。







~アースラ~

「何だありゃ!?」


次元空間を難なく進みアースラに向かってくる者に対して将輝が驚いた口調で言った。

その人物は全身に機械のような鎧を装着して背中からは翼まで生えている。


「クロノ君!どうすれば!?」

「クッ…」

「(あれはクルスさんが使っていたクリスタルデバイスに似ている。という事は…)」


ルリはすぐにナデシコに通信を入れてハーリーに指示を送った。


「ハーリー君、すぐにこちらにアタッシュケースを持ってきて下さい」

『アタッシュケースってクルスさんの!?』

「はい…。出来るだけ早くお願いします」

『分かりました!』


真剣な表情で頷いたハーリーはすぐに通信を切るとショウがルリの言葉に首を傾げて口を開いた。


「アタッシュケースって何だ?」

「クルスさんが以前使っていたデバイスです」

「えっ!クルス君ってもう一つデバイスがあったの?」

「正確には何かをデザインにしたデバイスで、そのデバイスには今の次元空間にいる人と同じようになったり違う形態にもなるんです」

「提督!先程の魔力が消えました!」

「なっ……!?」


先程まで目の前にいた者が一瞬で姿を消してセンサーも反応しない。

その光景にクロノは驚いてショウやなのはやはやてすらも唖然としていた。


(まさか今のはボソンジャンプ?でもあれはここで使えないはず)


ルリもまた突如消えた人物に内心驚いている。

すると次の瞬間――


「……ッ!クロノ君!」

「どうしたエイミィ!?」

「ブリッジ内に先程の魔力反応確認!」

「何だって!?」


エイミィの言葉にクロノを始めクルー達はある場所を見つめた。

そこには天井近くに魔方陣が展開されてゆっくり何かがその魔方陣から出てきた。


「見ツけタ…強き力。我らが…求メシ力」


現れた人物は機械的な声を出してクロノ達の前に降りてきた。


「強き力…」

降りてきた者はゆっくりとショウ達に近付いてくる。

その者が狙っている力とは―――


「私かいな!?」


夜天の書の主である八神はやてだった。


「感じる…!闇ノ書の力ヲ…!その力ヲ渡セ!」

「それが狙いか!?」


ショウは咄嗟にはやてを庇うように立ち塞がったが、歩み寄る人物はショウの首を掴んでクロノの方へ投げた。


「ヨコセその強き力ヲ!」

「嫌や!」

「ならば!シ「おりゃ!」ヌッ!」


はやてに迫る人物に将輝が殴って湊が足蹴りする間になのはがはやてを避難させていたがその人物を殴ったり蹴ったりした二人は固さのあまり涙目になってしまう。


「おいそこの機械野郎!何者だお前!?」

「我ハ聖騎士団No.6のカイザ。我らの目的の為にソノ女に来てモラウ」

「…聖騎士団…だと…!」

「マルスの仲間なら尚更はやてを連れていかせはしない!」


将輝と湊とショウと勇がカイザの前に立ち武器を構えた瞬間、


「クロノ!」

「お義兄ちゃん!」


クルスとフェイトが現れてカイザの視線はクルスに向けられた。


「見ツケタ。我ガ同胞を殺した男」

「お前は……」


カイザは一瞬でクルスの懐に入り込んだがクルスは咄嗟に体勢を崩して拳を避けてカイザをおもいっきり蹴り飛ばした。


(あれはカイザか?昔トレインと戦って自我を失った奴がどうしてここに…)


カイザが立ち上がり腰のサーベルを抜いた瞬間、


「ルリ!」


アースラのブリッジにリョーコが現れてクロノは踏まれてしまった。


「リョーコさん、クルスさんにアタッシュケースを」

「分かった!受けとれよ!クルス!」


リョーコはアタッシュケースをクルスに渡して受け取ったクルスはすぐに開けて中に入っていたベルトを腰に装着させた。


「ルリちゃん!リョーコ!後で礼を言うから待ってて」

「クルスそれは?」

「僕のもう一つのデバイスだよ。ゼロ、また一緒に戦おう」

『マスター』

「……変身!」


中に入っていたクリスタルをベルトの穴に嵌め込んでベルトの中心部分を回転させクルスがそう口にした瞬間、青色の光が放出されてクルスの腕や足に鎧が装着されて背中には特殊な粒子が放出された姿へと変わった。

頭部のヘッドギアにはギリシャ文字のΦがイメージされたデザインとなっている。


「これがクルスのもう一つの力」

「……いいな~」

「ちょっと仮面ラ○○ー入ってないか?」


フェイト達は唖然として表情で見つめ湊は物欲しそうな表情で勇は苦笑いをしている。


「(けどあれは凄いだろうな)」


クルスがカイザ同様な姿へと変わりクルスの身体は異様なオーラに包まれていた。


「我ト同じ力だと許サン!」


カイザはサーベルで切りかかったがクルスはサーベルを受け止めてサーベルを奪うとカイザの身体を切り裂いてさらに蹴り飛ばした。


『ゼロ、あれを使うぞ』

『イエッサー!』


クルスはアタッシュケースに入っていた円柱状の物を取り出して、複数のカートリッジを込めて右足の脹脛に装着させ魔法陣を展開させてベルトから青い光のエネルギーが右足のポインターに注がれる。


「状況フリ…ここは退く……ヌッ!」


カイザは状況不利と気付いて逃走しようとしたが、ショウのバインドにいつの間にか拘束されて身動きがとれなくなった。


「しマッ…タ!!」

「ハァ!」


クルスはその一瞬の隙に右足を向けてポインターから発射された円錐状の青い光りを放って、カイザをポイントしてカイザの動きを封じるとそのまま高く飛び上がり、


「ゼロ!カートリッジロード!」

『イエッサー!』


円柱状の物から何発かカートリッジロードしてクルスは青い光り包まれながら右足を突き出した。


『アブソリュートシュート!!』


キックの勢いで円錐に飛び込み吸い込まれるように姿が消え、円錐がカイザを突き刺すように高速で回転していく。


「コレは!?」


カイザの身体が足元から徐々に凍り出していくと背後からクルスが姿を現した。






そして―――光が止みカイザは腰の部分まで凍っていた。


「恨むならそのベルトを渡したマルスを恨むんだね」

「ガァァァァァーーーー!?」


カイザは全身が凍って次の瞬間、断末魔の叫びを上げて青色のΦの文字が浮かび上がりそのまま爆発した。

咄嗟にブリッジ内は全員が防御魔法で結界を張ったお陰で被害は少なかった。


『ゼロ助かったよ』

『マスター!』


クルスがクリスタルを抜くと姿が変わって包帯を巻いていた時のクルスに戻った。


「まるでフ○○ズだな」


勇の呟きが静まり返ったブリッジに響く中でルリがトコトコとクルスに近付いた。


「クルスさん、お久しぶりです」

「ルリちゃん。また会えたね」

「…はい!」


一瞬嬉しそうに笑ったルリに、リョーコが唖然としていたがすぐに我に返ってクルスに詰め寄った。


「おいクルス!戦いの後さっさと居なくなりやがって!俺達がどれだけ心配したか」

「ごめんね。けどリョーコは相変わらず元気そうで安心したよ」


安心した笑みで話すクルスにリョーコは頬をかいて視線をそらすと、クルスの目の前にはいつの間にかショウがいた。


「ショウ、どうやら心配か……ッ!」


クルスは言い終える前にショウに殴られて倒れかけた。


「ショウ!」

「フェイトちゃん。今は行っちゃダメだよ。今は二人がちゃんと話す時だから」

「なのは…」


フェイトの肩を掴んでなのはは止めるとフェイトは心配した表情で二人を見ていた。


「ショウ…」

「クルス、話しは全部レンから聞いた」

「えっ…?」

「マスター、ごめんなさい」


シュンと頭を下げるレンにクルスはハッとしてショウに視線を向けた。

何故なら楽園大戦を知られてしまったからだ――

つまり佑奈の死も――


「何で…」

「…………」

「何で……」

「…………」

「何で言わなかったんだ!?何で俺達を頼ってくれないんだよ!?」

「ショウ…」

「レンが言ったんだ。マスターは佑奈さんを目の前で失って復讐者に変わってしまったって!今のマスターは貴方達の知るマスターじゃないって」

「キミにはわからないさ!」

「!?」


いきなりのクルスの怒声にショウは目を見開いた。


「大切な幼馴染みを目の前で失って何も思わない訳ないだろ。僕は絶対にあの男をこの手で殺す。ショウ、もし邪魔をするなら僕はたとえショウが相手でも許さないよ」

「お前…」

「僕とあの男の事で誰も巻き込みたくはない。誰にも傷ついてほしくないんだ」

「だとしても一人で抱え込むんじゃねぇよ!俺達親友じゃねぇのかよ!」


ショウの言葉にクルスは目を見開いた。

一人で抱え込む……か。

佑奈にも同じこと言われたのに僕はそれを忘れていたんだな。

それにショウの手も微かに震えている。

本当に僕の事を思っているからこそここまで言ってくれるているんだな。


「……あの男の事以外ではショウや皆を頼るよ。それはこっちに帰ってきた時から決めてたから」

「クルス…」


ショウは安心した笑みで手を離すと、今まで漂っていた空気が変わって少しずつ穏やかな雰囲気に変わった。


「怪我は大丈夫なのか?」

「まだ痛むけどすぐに治るよ」


手を軽く振って答えるクルスに将輝達が詰め寄ってきた。


「しっかしあんだけ血を流してよく動けるよな」

「…不死身…?」


驚く将輝と湊と違ってクロノはまだムスッとしたままだった。


「クルス、一つだけいいか?」

「何?」

「フェイトを悲しませたら絶対に許さないからな」

「……分かってるよ。クロノ……いやお義兄さんって言った方がいいかな?」

「ブッ!?」

「クルス!?」


クルスのいきなりの言葉に珍しくいいリアクションをしたクロノと顔を赤くして慌てているフェイト。

本気で驚いているものの若干嬉しそうにしているフェイトにクルスは近づきギュッと抱き締める。


「クルス!?」


いきなりの行動にフェイトは顔を赤くしたままアタフタしていたが、


「……少し休むよ」


クルスはそう口にするとすぐに眠り始めてフェイトはクルスの頭を優しく撫でながら優しく微笑む。


「クルス…………お疲れ様」


クルスにしか聞こえない呟き。

復讐者としてのクルスを受け入れるフェイト。

そして―――


(しばらくこの世界にいるのもいいかもしれませんね…)


ルリは今後の行動を真剣に考えていた。












次回予告

ルリ
「ルリです。次のお話は体育祭についてのお話に戻るようです」

リョーコ
「えっと、体育祭の種目の練習で起こるハプニング!」

ハーリー
「さらにクルスさんの家に新たな同居人」

サブタロウ
「様々な想いが交差して体育祭はどうなるのか!?」

アキト
「次回S.H.D.C.――
第17話――
【体育祭その2】」
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