復讐者

「終わりか?」


シヴァを解除して男はクルスに近付いて首を掴んで再び持ち上げてクルスに目を向けると、クルスの身体は動かないが目だけはまだ諦めてはいなかった。


「これで分かったか?お前は俺に一生勝てはしない」

「……黙ってろ」

「一撃入れただけでも褒めてやる。さらばだ弱き「シャイン…スフィア…貫け…」…」


クルスは手のひらからスフィア出して槍状にした光を男に放ち槍は男の頬をかすめてその頬からは微かに血が流れていた。


「……気に入った。俺にここまで屈辱を与えたのはお前が初めてだ。名前は?」

「クルス・アサヅキ……いずれ貴様を殺す男だ」

「フッ!覚えておこう」


男はシヴァを再び起動させてクルスをさらに持ち上げると、


「ハァ!」


クルスの身体を斜めに切り裂いてクルスは地面に力無く倒れ込んだ。


(ごめんね佑奈)










△▼△▼△▼


「クルスは最後まで諦めずに戦った。けどその男には全く魔法が効かず負けてしまったんだ」


将輝から語られた戦いの話しにショウを始めアースラにいた者達が驚きや悲しみの表情で聞いていた。

復讐者として全ての力を出したつもりが返り討ちにあってしまった。


「男が最後に言ってたよ」


「強くなりたければ仲間や大切な存在などは捨てろ……ってな」


勇と湊の言葉についにショウが耐えきれなくなって口を開いた。


「どうしてクルスは何でも一人で抱え込むんだ!俺やフェイト達にも話せない程の何かがアイツにあったのかよ!?」

「ショウ君…」


ショウの言葉になのはやはやてが泣きそうな顔をしていると、


『それは私がお話しします』

『!?』


突如アースラのブリッジに聞こえてきた声はクルス同様にボロボロだったレンで声の主はいつの間にかルリの肩に乗っていた。


「レンさんお久しぶりです」

「はい。お久しぶりですルリさん」

「レンちゃんいつの間に?」

「ショウさんの声を聞いて駆け付けました。マスターの事を心配してくださってありがとうございます」


レンはショウに頭を下げると再びルリの肩に乗り一つの玉を取り出した。


「何やその玉?」

「これは今までマスターと共に戦ってきた私が記録したものです」






玉は青く光りアースラのブリッジを包み込んだ。


「全てはイヴさんが連れていかれた時から始まりました」


ショウ達の足元にエデンという巨大な移動物が映し出された。


「何だこれ?」

「これはナノマシンを振り撒く移動物体です。敵はこれを使って世界を一つにしようとしていました」


そして場面はエデン内部の映像に切り替わった。


「エデン内部に突入してマスターと佑奈さんは、トレインさんやセフィリアさん達に助けてもらいどうにか動力部に辿り着きました。しかし…」


映像にはクルスと佑奈が聖騎士団のメンバーに囲まれた映像になった。


『佑奈!キミは早く逃げて!』


クルスはシャインスフィアを爆発させて視界を煙で覆うと佑奈の手を取って聖騎士団から離れた。


『嫌だよ。クルスを一人で戦わせるなんて…』

『僕は大丈夫だから。佑奈をこれ以上戦わせる訳には!』


短剣を持った男が佑奈の背後に現れたがクルスがすぐに気付いて佑奈を自分の方に引き寄せて男が空を切った瞬間にシャインスフィアをぶつけて吹き飛ばした。


『やっとクルスと会えた…『佑奈!』えっ…!』


次に佑奈の真上からハンマーを持った少女が襲いかかったがクルスは、佑奈を突き飛ばしてハンマーをギリギリ交わして蹴りを喰らわせ少女を壁にぶつけた。


『とにかく早くここから』


そして次の瞬間――


『クッ!』


ナックルを装備した男を援護するように杖を持った女が砲撃を放ち、クルスはプロテクションで受け止めたがプロテクションが破られた瞬間男に殴られて壁に叩きつけられてしまった。


『クルス!』


佑奈はすぐにクルスに駆け寄って治療魔法を使う。


『(強い。聖騎士団一人一人がお互いを援護した戦い方をしてくるから隙がなさすぎる)』


クルスは息を荒くして立ち上がり横腹を抑えていた。


『佑奈ちょっとの間だけ離れて』

『えっ…?』

『力を解放させる』


クルスは青きオーラに包まれて聖騎士団に突っ込んだ。

短剣を持った男の刃が右肩にかすったがクルスはそのまま至近距離から魔力弾を放ち、煙が全員の視界を塞いだ瞬間にクルスはナックルを装備した男の顔を掴んで地面に叩き付けた。


『ウワッ!』

しかしハンマーを持った少女がクルスの横腹を捉えて勢いよく吹き飛ばすとクルスは壁に直撃し口から血を吐いてしまう。


『クルス!』

『来るな佑奈』


クルスはすぐに立ち上がり銃口に魔力を溜めて杖を持った女に放ったが背後から迫ってきた短剣の男に背中を切られて砲撃をやめてしまった。


『……くそっ』


足元がふらついてまともに立てなくなったクルスに容赦無く砲撃が迫った瞬間、


『ダメェェェーーー!!』


佑奈が式紙で結界を張って砲撃を止めたがその砲撃の衝撃のせいで佑奈はクルスの所まで飛ばされてしまった。


『佑奈!』

『約束したのに死んじゃ駄目だよ。また私とクルスとショウと一緒に遊ぶって約束したのに』


涙目になる佑奈にクルスはハッとした表情になり柔らかな笑みを浮かべた。


『そうだったね』


クルスはゆっくり立ち上がり双剣を構えて佑奈を見つめた。


『待ってて。すぐに終わらせるから』

『うん!』


クルスは背中に翼をはやすとゆっくり聖騎士団に歩み寄った。


『約束したからには守ら………』


クルスが振り返った瞬間クルスの動きが固まった。

何故なら―――


『えっ……?』


佑奈の胸を何かが貫いて佑奈の服に血が染み込んでいた。


『佑奈!』


佑奈の身体はそのままゆっくり地面に倒れ込み佑奈の後ろにはフードを被った人物がいた。


『シャインスフィア!散れ!』

『……フッ!』


シャインスフィアは当たる直前に消えてフードを被った人物は聖騎士団の方を向いて口を開いた。


『こんな弱き男一人に何をやっている。それでも聖騎士団のメンバーか』

『申し訳ございません!すぐに片付けます』


フードを被った人物の言葉に聖騎士団のメンバー全員が答えて、フードを被った人物は最後にクルスに視線を向けて消えていった。


『佑奈!』


クルスは佑奈に駆け寄って佑奈の身体を抱き寄せた。


『クルス…』


佑奈はゆっくり顔を上げてクルスを見つめる。

身体の温かさが徐々に消えていくのがクルスには分かっていた。


『佑奈…喋っちゃ駄目だ!傷が『ごめんね』…えっ』


佑奈は手をゆっくりクルスの頬に当ててニッコリ微笑んでいた。


『私が油断しちゃったから…こんな事に…』

『違う!僕が気付かなかったから…!』

『うぅん。クルスは悪くないよ。だってこの戦いだって私がいなきゃ時間も………』


佑奈の瞳から涙が溢れてゆっくり頬に流れ始めた。


『佑奈…』


クルスはついに耐えきれなくなって瞳から涙が流れ始めた。


『泣いちゃダメ。クルスは男の子なんだから』

『バカ、なに言ってるんだ』

『バカじゃないよ。…………あれ?クルスの顔が見えなくなって…『佑奈!』…』


クルスは佑奈の身体を抱き締めて震え出した。


『ねぇクルス…』

『何だ……』

『最後に私の我が儘聞いて』


クルスは佑奈の顔を見つめて佑奈は柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。


『…………して』

『えっ……?』

『私の事で…苦しまないで。クルスには…笑っていてほしいの…』


クルスはハッとしていたが涙が止まる気配はなかった。


『何でそんな事…』

『クルスは優しいから…だから…きっと一人で…抱え込んじゃうでしょ…?そんなの嫌だから…』

『佑奈…』

『私は…クルスにも…ショウにも…ずっと笑っていてほしいって…思ってた…だからお願い…」


クルスは佑奈の手を握り締め小さくだが頷いていると佑奈はニッコリ笑って最後にこう呟いた。


『バイバイ……クルス……貴方は…生き………』


そう言って佑奈の手はゆっくり降りて意識を失った。


『何がバイバイだよ。このバカ野郎!』


クルスは佑奈はギュッと抱き締めて大粒の涙を流し続けていた。


そして―――


『佑奈、お前の仇は必ず取ってやるからな…』


クルスはその瞬間、全ての力を解放して聖騎士団のNo.7~No.10と戦って、No.7~No.10は何も出来ず心臓を貫かれ絶命してしまった。





△▼△▼△▼


「これがマスターの過去です」

「……佑奈が……」


ショウはその話しに目を見開いていた。







~特別治療室~


「クルス…」


規則的な機械音が静かに響き本当に生きているのかと疑問に思うぐらい死んだように眠っているクルスの横でフェイトが傍に置いてあった椅子に座ってクルスを見つめていた。


「……………」


クルスの手を取ってフェイトは祈るように手を握っていた。

クルスお願い。

目を開けてよ。

クルスがいないと私こんなに胸が痛いんだよ。


「…んっ…」

「クルス…!」

「フェ…イ…ト…?」

「うん!」


フェイトはクルスの顔を見つめていたが次第に目に涙が浮かんで今にも泣きそうな顔をしていた。


「ごめんね…」


クルスは柔らかな笑みでフェイトに言うと、フェイトはついに涙が溢れてしまい涙がクルスの頬に落ちた。


「心配…したんだよ…」

「うん…」

「死んじゃったかと…思ったんだよ…」

「ごめん…」

「バカァ!」


フェイトはクルスの胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。


「フェイト…」


クルスはゆっくり上半身を起こしてフェイトをギュット抱き締めた。


「クルス!?まだ身体が…」

「フェイト、今から僕が話す事を聞いてて」

「えっ…?」

「僕は楽園大戦で大切な幼馴染みを目の前で死なせてしまった。……もうアイツは帰ってこない」


今でも脳裏によぎる佑奈の死――

それを忘れる事なんて出来はしない――


「僕はその時から何かが変わってしまって恭介の呪いまで自ら受けてしまった」

「呪い?」

「今は包帯で見えないけど僕の身体には呪いのタトゥーが刻まれてるんだ。償いのためって自分に言い聞かせて」


苦笑いを浮かべて話すクルスにフェイトが首を横に振って口を開いた。
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