体育祭その一

~枯れない桜の木~

「クルス君、遅いですね」

「ね~」


桜の木の前で白河ことりと芳乃さくらがクルスを待っていた。

ことりは桜の木に寄りかかりながら座りさくらはことりの膝に頭をのせていた。


「そういえば芳乃さんはどうしてクルス君を?」

「うにゃ?それはね…」

「それは…」

「「………」」


ことりとさくらは真剣な表情で見つめ合い不意にさくらが微笑むと、桜の花が舞いことりの視界を一瞬塞いでしまった。


「…だからだよ」

「えっ…?(詳しく聞こえませんでした)」


さくらが言った言葉を聞き取ることが出来ずことりは残念そうな表情をしている。


「白河さん、もしクルス君が好きなら素直にならなきゃ駄目だよ(僕みたいにね)」

「わっ…私は!別にクルス君の事なんて(芳乃さんは朝倉君が好きなんじゃ)」


さくらの言葉にことりは視線を桜の木に向けて儚げな表情をしていると、


「そこのお二人さん。そろそろ学園に向かわないと遅刻するぞ」

「うにゃ?杉並君の声はするのに姿が見えない」

「それはここにいるからだーーーー!!」


突如地面に穴が空いてそこから泥だらけの杉並が現れて、さくらとことりは目をパチパチさせて固まっている。


「何してるんですか?」

「フッ…!隠された遺跡を探していたのさ。するとこの場所に着いたので声をかけたのだよ白河一等兵」

「はっ、はぁ」


困った表情で笑うことりを見ながら杉並は再びドリルを手にして地面に潜っていった。


「それじゃあ行こっか」

「そうですね…」


二人は鞄を持つと急ぎ足で学園に向かった。


「そうそう!さっきの話の続きだけど自分の気持ちに素直にならないと後悔しちゃうよ」

「じゃあ芳乃さんは素直になってるんですか?」


ことりの問い掛けにさくらはニッコリ笑う。

ただでさえライバルが多い状況で助言なんてしたくないけど、それでも好きになった人の事で後悔なんてしてほしくない。


「僕はクルス君の前で偽ったりしないよ。ありのままの僕でいるんだ。だって―――」


桜が舞い散り心地よい風が頬を撫でるように吹く。

彼の全てが彼の思いが――


「僕の心を揺さぶってくれる存在は彼しかいないもん」

「芳乃さん……」


だからこそダレニモワタサナイ。

あのフェイトって子にもダレニモ。






~鳳凰学園~
【2年1組】


「アイツ遅いな…」


ポツリとボヤキながら工藤は視線を湊の席に向けている。

いつもなら「…おはよ」と後ろから現れるのに、今日に限って来る気配がない。


「みな「ムー大陸だぁぁぁーーーー!!」ウオッ!」


工藤の背後から突如杉並の声が聞こえて勢いよく振り返ると杉並はボロボロの身体で立っていた。


「何やってんだ?」

「なぁに!遺跡の捜索をしていたら何故かここに辿り着いたのだ!それよりも今日はmy同士有里に天道は休みのようだな」

「そうなのか!?」

「ウム、昨日my同士アサヅキから二人に連絡があってどこかに行ったらしい」


杉並の言葉に工藤は表情には出さなかったが内心では不安気な気持ちだった。

そんな工藤に気づいたのか杉並はニヤリと笑い工藤の肩を掴み、


「いやに残念そうではないか。もしや有「んな訳ないだろ!!」…」


杉並が何を言おうとしたのかすぐに気付いた工藤は顔を赤くして否定するとクラス中から視線を向けられた。


「俺はだな友達としてアイツの事を…「そうかそうか」グッ」


杉並と工藤がこんな会話をしている中で、


「兄さん、昨日はどこに行かれたのですか?」

「音夢!?昨日はだな……そう!稟の家にいたんだよ」

「おかしいですね?芙蓉さんからはいないと聞きましたが…」

「……えっ」


まさかの事態に純一の脳内では緊急会議がおこなわれていた。


(どうすれば?)

(ここは素直に修行と言うしか…)

(しかし今の音夢に通じるのか?)

(ならば!非公式新聞部の手伝いをしていたと言ったらどうだ?)

(そうだな……ってあれ?)

(どうしたmy同士朝倉)

(何故俺の脳内にお前がいる?)

(フッ!俺に不可能などない!)

(意味わ……)


脳内で杉並と話していた純一は現実世界で、音夢の辞書+オマケ達の攻撃により芳乃お婆ちゃんの元に旅立ってしまった。


「………湊君」

「んっ?何か言ったか工藤?」

「なっ、何でもねぇよ!」


内心ドキリとしたが工藤は平静を装う。

それでも湊の事が気になるのか今日一日工藤は授業に全く集中できなかったそうだ。





【2年2組】

「「ハァ~」」


二年二組ではある二人の負のオーラによって教室が暗くなっていた。

樹や東宮は相変わらずで壁に突き刺さっていたり掃除ロッカーに閉じ込められている。


「何であの二人はあそこまで暗いんだ?」

「多分昨日の事だと思うけど」

「昨日何かあったのか?」

「実は…」


クロードの周りにショウや稟達になのは達が集まってクロードは昨日の事を話し始めた。

クルスの様子が変わり今まで見た事がないような冷たい目をしてどこかに出掛けた事を。


「そんな事があったのか」

「あぁ、ディアスが言うにはあれは憎しみを宿した者の目だって」

「憎しみ…」


ショウの脳裏にジョーカーズか騎士団のどちらかが浮かんだが、クルスに何も聞かされていないため真実を知る事が出来ない。


「大丈夫かなクルス…」

「フェイトちゃん」


話を聞いていたフェイトは不安気に呟いて、なのははフェイトの肩に手を置いて同じように心配した顔をしていた。

昨日自分が管理局の仕事を早く終わらせてればクルスを止めれたかもしれない。

その場にいなかった事をこんなに後悔するはめになるなんて。


「けど将輝や隣のクラスの奴も行ってるんだろ?だったら大丈夫じゃないのか?」


悠季が不意に口にするとコレットが悲し気な顔をしていた。


「今日朝から何度も呼び掛けてるのに将輝と連絡が取れないの」

「マジかよ!」

「これは嫌な予感がするッス!」

「シア!今は探偵ゴッコしてる空気じゃないわよ」


キキョウに頭を軽く叩かれてシアは涙目で頭を抑えている。

その姿に稟の鼻の下が伸びたのを麻弓が逃す訳もなく、ちゃっかり写真を撮られたとは稟が気付く訳がなかった。


「………クルス」


ショウは拳を握り締め顔を俯かせていた。

俺はアイツに起きた事を本当に何も知らない。

アイツが変わってしまった理由も今こうして復讐者と言われてどこかに行った事も。


「……ちくしょう」


悔しそうに小さく呟くショウになのはとはやては悲し気な表情を浮かべていた。






~??~

「時空管理局本局まであと少しです艦長」

「分かりました…」


次元空間で一隻の戦艦が本局に向かって移動していた。

そのブリッジにはあのメルトにいた将輝と勇と湊の姿も。


「それにしてもクルスにこんな知り合いがいたとは…」

「びっくり…」


勇と湊の言葉にクルーである一人の青年が笑みを浮かべて口を開いた。


「僕も驚きましたよ。まさかクルスさんとまた会えると思いませんでしたから」

「そうそう、あの戦いの後自分の使ってた武器を置いたまま姿消したから心配したんだぜこっちは」


青年の横からもう一人青年が現れてその青年は呆れながらため息を吐いて二人に言ったが急に真剣な表情になって二人に尋ねた。


「しっかし何があったんだ?この艦に救難信号が送られてきてあの世界に来たら、お前達ともう一人の仲間に支えられたクルスがいたが」

「それは…」


勇がその言葉に詰まり湊も顎に手を置いて答えるか迷っていて、将輝は何も言わずただ真っ直ぐ青年を見つめていた。

あの出来事を自分達の口から言っていいのだろうか?

クルスの過去に関わる事を―――


「ひとまず本局に行きましょう。ハーリー君、すぐにリンディさんに連絡して下さい。あの世界で何があったのかはその後です」


静まり返ったブリッジ内に艦長の凛とした声が響いてハーリーはすぐに準備をして連絡を入れ始めた。


「それとリョーコさん」

「何だよ?」

「もしもの時の為にエステバリスは隠しておいてください」

「いいけど、そんなに危険なのか時空管理局って?」


首を傾げるリョーコに艦長は小さく頷いて言った。


「アキトさんが人体実験をされた時にある一人の人物が言ってたようです。

『データは全て管理局に送れ』と…。ですから念のために隠しておきましょう」

「分かった…」


渋々リョーコは格納庫に向かって他のクルーは黙ったまま次元空間を見つめていた。

そんな中で艦長であるホシノ・ルリは―――


(クルスさんも言ってた。管理局には闇が多すぎると)






~昼休み~

「今日は鴨鍋です~」

『いっただきまーす!』


昼休みになり屋上では朝倉純一とラバーズにショウと稟+ラバーズ+杉並達がいた。

水越萌の鍋の周りには純一と眞子と音夢がいて他はお弁当を持って座っている。


「しっかし屋上で鍋とは斬新だよな~」

「確かに。最初見た時はさすがのボクも固まっちゃったもんね」


ウンウンと頷く亜沙にショウが一言、


「そう言いながらちゃっかり鴨鍋食べてる人のセリフとは思えませんね」

「あはははは!こりゃ失敬」


可愛らしく舌を出し頬を赤く染める亜沙に遠くにいた変態が鼻血を出したのは余談である。


「そういえば、今年の体育祭では何か変わった種目があるんだって?」

「あぁ…。コスプレリレーとか大告白大会!とかだろ?」


稟の問いに純一が答えていると、


「お兄ちゃん!油断大敵だにゃ~」

「しまった!」


純一が狙っていた具をさくらが奪って美味しそうに頬張っていた。

ガックリ肩を落とす純一に環が慌ててフォローしていると、


「そこでだ、今年はどのクラスが優勝するか賭けないか?」

「杉並君!」

「よく風紀委員と生徒会長の前で言えたわね」


工藤の卵焼きを奪いボードを持ってきた杉並に、音夢とヒナギクが立ち上がり杉並を捕まえようとしていた。

しかし杉並は二人の背後に一瞬で移動して肩を掴むとゆっくり口を開いた。


「まぁ聞け。この賭けでもし賞金が手に入ったら、生活費やデート代に使えるのだぞ。それだけではない……将来の事を考えて貯金だって出来る」

(将来…兄さんと…)

(ハヤテ君とのデートや将来…でも!私から言うのは)


杉並の言葉に二人は妄想の世界にダイブして戦闘不能になってしまう。

恐るべき杉並――

一瞬にして音夢とヒナギクを戦闘不能にしてしまった。

もしこの場に口先の魔術師がいたらいい勝負が出来るかもしれない。
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