新たなメンバー

「逃げたよ…」

「えっと、キミはここで何してたのかな?」

「フゥ~」

「威嚇してる」


少女はナイフを構えてクルス達を見ていた。

ナイフ一本にクルスが臆する事はないがとりあえず口を開いた。


「それは何?」

「これですか?これは…ヒトデです!」

「ヒトデ?」

「はい。とっても可愛いヒトデです」


少女は大事そうにヒトデを抱えていたのだが、


「このヒトデは…はぁぁぁぁぁ~~」


なにやらピンク色のオーラを出して少女は妄想の世界へ旅立っていった。

その姿はまるで、


「カレハ先輩みたいだ」

「あはは…」

「どうする?」


クルスは少女に近付いて目の前で手を振っても気付かない事に戸惑っていたが少女の手をそっと握った。


「はぁぁぁ~…って何しているんですか!?」

「少し大人しくしてて」


クルスに手を握られた少女は驚いた顔をしていたが、クルスは目を閉じて治癒魔法を唱えて少女の手の怪我を治した。


「これで大丈夫だね」

「痛くなくなりました!今のは魔法ですか!?」

「そうだけど…」

「風子初めて見ました!感激です!」

「そうなの?この学園は魔法学もあったから普通は知ってると思ったけど」


イヴの言葉に風子は寂しげな顔をしてヒトデを見つめたまま口を開いた。


「風子には時間がありません。ですから授業にはあまり出ていないんです」

「時間がないってどうして?」

「それは秘密です。私は乙女ですから」

(乙女かな?)

「……はっ!今貴方は失礼な事を考えました!風子ショックです」

「ご、ごめん!」


慌てて謝るクルスに風子は勝ち誇った笑みを浮かべた。


「修行が足りませんね。まだまだ貴方は乙女心が分かっていないでしょう」

((うんうん))


風子の言葉にイヴと楓は小さく頷くがクルスは首を傾げていた。


「時間がない事は分かったけど無理は禁物だよ。怪我して悪化したまま作ってもいいヒトデは作れないと思うから」


そう言ってクルスは風子から離れて美術室から去っていった。

去り際に――


「変な人!またお会いしましょう!」


教室から風子の元気な声が聞こえてイヴや楓がクルスを見ながら笑って、クルスは「ははは…」と笑っていた。







~動画研究部~

「何で僕達はここにいるのかな?」

「私達がキミ達を見つけて連行したからだ」


クルス達は先程半強制的に美希や理沙に部室に連れてこられた。

しかも部室には二人だけでなく、


「直樹~PCが動かなくなっちゃった」

「フリーズしたか。ならこうすれば…」


今日二年一組に転入してきた二人もこの部にいた。

この部に入る人がいるなんて珍しい事もあるようだ。


「時にクルス君、イヴや楓と放課後デートか?」

「ブッ…!今日は紅女史の罰で学園の見回りをしなきゃいけなかったから二人には手伝いで来てもらっただけだ」

「ほうほう。しかしその割りにはピンク色のオーラが見えるぞ」

「「あぅ…」」


理沙の言葉にイヴと楓は顔を赤くして俯くとその決定的瞬間を美希がニヤリとビデオで撮っていた。


「美希、そのビデオをどうするつもり?」

「フッ…決まっているだろ!皆の前でこう「するな!」ムゥ…」

「ならば!取引しないか?」


理沙の手にはテープが握られて本人は不敵に笑っていた。

理沙とクルスは互いにジリジリと間をとっていたが、


「隙あり」

「なっ!?」


理沙の手に握られていたテープがいつの間にか後ろにいた直樹に盗られて直樹はテープをクルスに投げた。


「ありがとう直樹」


「あんま油断すんなよ。いろいろと…」


直樹の言葉にクルスは一瞬鋭い目付きになったが、ニッコリ笑ってテープをポケットにしまった。


「おのれ直樹め~」

「我らを裏切るとは」


クルスの弱味を握るつもりがとられた事にムッとしている二人に対して、直樹は口笛を吹いて気にしていない。


「まぁ、今日は諦めるとしよう」

「だが忘れるな!私達は常にネタを求めて現れるだろう!」

「キミ達は何を目指しているんだ?」


どこぞの悪役のような発言をする理沙と美希にクルスはただ苦笑するしかない。


「でも残念だったなー。二人が素直に渡してくれたらこのボイスレコーダーを渡したのに」

「何!?ボイスレコーダーだと!?」

「そいつをこっちに渡せ!」


目を輝かせる二人にクルスは暫く考えてニヤリと笑うとレコーダーを美希に投げた。

そう――このレコーダーにはある人物の声が入っていた。

その声は―――


『ヒナギクさん…ハァ…ハァ…ハァ』

「「「「「………」」」」」


ハヤテの怪しい声でまるでヒナギクを襲うかのような声だった。


「理沙、明日の放送はこれを使うぞ」

「………私も今そう思った」


綾崎ハヤテ――

明日は違う意味で命が危険になってしまうだろう。


「それじゃあこれで」

「クルス…」

「何?」


去り際にクルスは直樹に呼び止められた足を止めると、直樹は真剣な表情でクルスをジッと見つめていた。


「大丈夫なんだな?」


「……何の事かな」


それだけ言ってクルスはイヴと楓と一緒に研究部の部室から去っていった。

直樹の発した言葉は一体何の意味があったのだろうか?

それは知る人物はクルスと直樹しかいないだろう。





△▼△▼△▼

~教室~

色々な教室を見回って三人は教室に戻っていた。

外は夕焼けになって教室には三人以外誰もいなかった。


「なんだか色々ありましたね」

「マッサージ室に紅女史と白河先生がいて、演劇部の部室で春原が逆立ちしたまま気絶してて音楽室では何故か杉並と樹が熱唱してたけどね」

「緑葉君は何をしていたんでしょうか?」


気持ち良さそうに歌う樹も気になるが、それよりも樹を見守る神楽の姿もある意味凄かった。

樹にも春がきたのかな?


「まぁ、紅女史の罰は終わったしもう帰ろっか」

「うん」

「そうですね」


クルスは立ち上がり鞄を手に取るとイヴは先に教室を去り楓はゆっくりクルスに近づいてきた。

すると次の瞬間、楓は東宮の席にぶら下がっていた竹刀に引っ掛かり床に転びそうになった。


「楓!」


クルスはなんとか受け止めようと楓の腕を掴んで自分の方に引き寄せたが、さすがに倒れそうになった楓を受け止める事が出来ずクルスはそのまま背中から床に倒れてしまった。


「あっ…」

今の体勢はクルスが楓に押し倒されているようになっている。

しかもお互いの顔が至近距離にあるため二人とも顔が赤くなっていた。


「楓、怪我はなかった?」

「はい…」

「とりあえず退いてくれないかな。起き上がれないから」


しかし楓は動かずジッとクルスを見つめていた。


(私は、クルス君を好きになってはいけないのに)


夏休みの旅行の時楓はクルスの優しさにさらに気持ちが溢れていた。

それは隠せるものではない。

今目の前にいるクルス君をどんどん好きになっている。

ライバルはたくさんいるけど私は負けるつもりはありません。

だから――


「クルス君…」


楓はクルスの胸に顔を埋めてギュッと抱き着くと、クルスはそっと手を伸ばし楓の頭を優しく撫で始める。


「私にずっとクルス君のお世話をさせてください」

「ちょっと違う気もするけど」










それから暫く二人はイヴが来るまでそのままの体勢だった。

帰る途中で楓はずっと顔を赤くしてイヴは首を傾げていた。

そしてクルスは――


(早く答えを出さないとな)


自分の手のひらに伸びたタトゥーを見つめながらそう思っていた。










次回予告

ショウ
「こうして終わった一日だけど次の話しはそれぞれの夜の話だ」

「ショウ君どや?ウチの愛情料理の味は?」


クルス
「僕の元に届いた一通の手紙……」

「行くのかクルス?」


「強くなるために俺は修行をしていた」

「いくぞ!純一!」

ハヤテ
「お嬢様大丈夫でしょうか?」

「ハヤテ~どこだ~?」


勇人
「次回S.H.D.C.――
第14話――
【それぞれの夜】」

マリオン
「一つの闇が動き出す」
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