新たなメンバー

「なぁ、帰っていいか?」


「奇遇だな。俺も今そう思っていた」


春原のヘタレっぷりに二人は呆れてその場から去る事にした。

しかし――春原はガバッと起き上がり必死に二人の腕を掴んだ。


「友達を見捨てないでください!」

「その前に手を離せ。ヘタレ病に感染する」

「するか!!それに僕はヘタレじゃありません!」

「ヘタレじゃないなら変態だな」

「何でだよ!?クソッ!今の奴、絶対に叩きのめしてやる。おい!さっき僕を踏んづけた奴、出てこーーい!!」


春原が勢いよく扉を開けて大声を上げると、教室内が一気に静まり返るとゆっくり一人の女子生徒が立ち上がった。


「他の者に迷惑じゃないか、静かにしてくれないか」


その女子生徒はまさに春原が狙っていた女子生徒で春原は微かにガッツポーズをして二人を見ていた。


「岡崎さんよ~どうやら僕は神に見放されていなかったようだ」

「神…ってあのオッサンか?」

「いっそ抱き締められて潰れてくれ」

「そんなに僕が嫌いですか!?」


泣きながらショウに詰め寄る春原をショウは殺気を込めて笑うと、春原は「ひぃぃぃ~」と情けない声を出して後ずさった。


「なぁ…私に何か用か?」

「そうだった!ちょっとツラ貸せや!!」

「頼み坂上、こいつ今からお前に大事な話があるんだよ」

「今からコクるようなシチュエーションはやめてくれませんか!!」

「何だ違ったのか?」

「ちげぇよ!どうしたらそんな答えにたどり着くんだよ!!」


ショウの言葉に春原は激しくツッコムが目の前にいた智代は今にも帰ろうとしていた。


「用がないなら帰るぞ」

「あるから呼んだんだよ。とりあえずこっちに来な」

「断る」

「お願いします~」


キッパリ断った智代に春原は泣きながら頼んでショウと朋也は爆笑していた。


「分かった。そこまで言うなら付き合ってやる」


四人は教室から離れて人気のない廊下に来た。


「そういや、今朝もこうして男とやり合っていたよな」

「あれは、ほぼ先輩達や美春やそこの男や男の仲間がやり合っていただろ。私はただトドメをさしただけだ」

(それもどうかと思うが…)

「そこまでして大変だね~人気稼ぎは」

「人気稼ぎ…?」


春原の言葉に智代はキョトンとした表情で首を傾げた。


「そうさ!あれはヤ・ラ・セだろ?女が男に勝てるはずがありません」

「なぁ、何でいちいちそこは敬語なんだ?」

「それと女子に謝っとけよ。今のセリフは失礼すぎるぞ」


朋也とショウの言葉に春原は勢いよく振り返って口を開いた。


「横からうるさいよ!静かにしてくれませんか!?」

「「断る!!」」

「……グッ!まぁ良いや。そんでお前は金でも渡して負けてもらってるんだろ?」

「おい、それはヒナギクや俺達に言ってるのか?」

「言ってねぇよ!すいませんでした!」


ショウのオーラに春原は残像が見える速度で土下座をした。

その速度はまさに一秒の出来高だったと朋也は語っていた。


「ほんっと女の子はいいね。簡単に男を釣れるんだから」

「そのセリフ録音したから明日校内放送するぞ」

「よかったな春原。明日からお前は女子達のサンドバックだぜ!」

「嬉しくねぇよ!頼むからやめてくれ!」


ショウの手には黒いボイスレコーダーが握られて先程のセリフが流れたら春原はミンチ決定である。

それはかなり見てみたいかもと朋也は一人笑みを浮かべていた。


「フッ、喜べ」

「何がだよ?」


すると、俯いていた智代の背後から修羅のオーラが放出されて春原を捉えていた。


「同行の生徒には手を出すまいと思っていたが、お前は特別に相手をしてやる。そこの二人には証人にでもなってもらおう。いいか?」

「あぁ、全ての責任は春原がとる」

「せめて安からに眠らせてやってくれ…」


朋也がハンカチで涙を拭くという演技に春原が逆ギレをする。


「ってこら!!勝手に僕を殺さないでくれませんか!!しかもお前らどっちの味方だよ!?」

「「あっち…」」

「あんたら酷いッスね!…まぁ言ってな。三分後には僕の事を認めているよ」

「安心しろ。そんな事は絶対ない!」

「たとえ地球が滅びてもありないからな」


二人の言葉に春原はケッと唾を吐いて智代を見ると、智代は殺気を込めて春原を見つめていた。

その殺気に春原は若干後退りしていたが拳を握り締めて智代に殴りかかった。


「死ねやぁぁぁぁぁーーーー!!」

「あっ…!そういえばこんな噂を思い出した」

「ゴハッ!!」


春原が殴る前に智代が間合いをつめて春原を蹴り上げていた。


「昔隣町にとんでもないくらい強い女がいるって噂」

「あぁ…そんな噂あったな。夜の町を徘徊しては一般人に迷惑かける頭の悪い連中を狩っては屍にして、月明かりの下で見る彼女はとても恐ろしいが華麗だと」

「その女が智代だったのか」


ショウと朋也が視線を智代に向けるといつの間にか春原はボロボロの雑巾のように倒れて智代が呆れた顔で春原ならぬ雑巾を見ていた。


「春原陽平の最後は雑巾だったと…」

「………………」

「もう終わりか?」

「あぁ、迷惑かけてすまなかったな」

「こいつはこのままにしとくから気にしないでいいぞ」

「そうか……あっ!そうだお前達の名前を聞いてなかったな。教えてくれないか」


智代に言われて二人は改めて自己紹介する事にした。


「二年二組のショウ・ヤナギ」

「二年一組の岡崎朋也だ」


「ヤナギに岡崎だな。うん、覚えたぞ。じゃあ私は戻るからな」


それだけ言って智代は教室に帰っていった。

最後に智代が朋也を見て笑っていたのに気付く筈がなく二人は雑巾を見ていた。


「さてどうする?」

「俺はどっかで寝てる。こいつは俺が後始末しとくよ」

「そっか。じゃあ俺は戻るな」

「おう」


ショウも朋也に別れを告げて教室に帰っていった。


「………」


朋也はいまだに気絶している春原を抱えて、ダストシュートに入れると満足な笑みを浮かべて屋上に向かった。


「ひぇぇぇぇ~~~!!」


ちなみにダストシュートから落とされた春原はそのままゴミ捨て場に落下したそうだ。






~放課後~

【二年二組】


「それじゃあ、今日はここまで。全員課題はやってくるように!」


紅女史の言葉と同時にホームルームが終わった。

これからは放課後という事で部活に出る者を筆頭にそれぞれの生徒達が動いていた。

中には…「お嬢様ぁぁぁぁー!!」と言いながら走っていく執事男もいたようだ。


「ショウ君、一緒に帰ろう」


鞄を持ったショウの後ろからなのはが誘いに来たのだが、


「却下や。ショウは今からウチとお笑いを観るんやから」


前方から咲夜が現れてショウの腕に抱き着いていた。


「いや俺は…「ストップや!二人には悪いけど今日ショウ君は八神家の皆と一緒にパーティーするから私がもらうわ」おい…」


さらにそこにはやてが参戦してショウは動きがとれずに立ったままだった。

変態集団からは嫉妬の眼差しで見つめられながら。



「クルス君、一緒に帰りませんか」


クルスの方は楓がニッコリ笑って誘っていたがクルスは申し訳なさそうな顔をして口を開いた。


「ごめん。今から紅女史の罰で学園を見て回らなきゃいけないんだ」

「でしたら私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

「いいけど稟やプリムラは?」


「稟君はシアちゃんのお家で食事だそうで、リムちゃんはアリスちゃんのお家でお勉強会とメールがありましたので大丈夫ですよ」

「…そっか。じゃあ一緒に見回ろっか」


楓の積極的な行動に周りはざわついていた。

いつもは遠慮がちな楓だからこそよりざわついているようだ。

すると――


「クルス、私先に帰るね」


イヴが鞄を持ち一瞬寂しげな顔をしていた事に気付いてクルスは、


「イヴも一緒だよ。ちゃんと昼休みに約束したでしょ?」

「えっ?………うん!!」


イヴは嬉しそうに笑ってクルスの手を取ると、負けじと楓も顔を赤くしながらクルスの制服をギュッと掴んでいた。


(グハッ…!!)


その行動に変態集団が鼻血を出したのは余談である。

ちなみにフェイトは、


「ウゥ~…」


今回管理局の仕事で本局に行かなければならない為参戦出来なかった。






△▼△▼△▼

「見取り図を見る限り遅くなるかもね」

「両王が無駄に広くしちゃったからね」

クルスとイヴの言葉に楓は苦笑いを浮かべていたが二人と同じ意見だった。

見取り図には図書室から何故かマッサージ室まで書いてあった。

いるのかマッサージ室?


「クルス君はどこに行くんですか?」

「とりあえず色々見て回ろう。もしかしたら面白いものが見れるかもしれないから」


悪戯っ子のように笑うクルスに二人も柔らかな笑みを浮かべ三人は学園を見て回った。








△▼△▼△▼

「ここは?」

「美術室のようだね。けど今は美術部は使っていないみたい」

「どうして使っていないんですか?」


楓の問いにクルスはメモ帳を取り出してそれを読み始めた。


「非公式新聞部の情報によると、この部室で部員が幽霊を見たからって……あれ?」


クルスの説明を聞いた瞬間、イヴと楓はギュッとクルスの制服を掴んで後ろに隠れた。

楓に至っては涙目である。


「何してるの二人とも?」

「だって…」

「幽霊が出たと聞いたら」


イヴと楓の言葉にクルスは苦笑いを浮かべて扉を開けた。

扉を開けるとそこには一人の少女が熱心にナイフを使って何かを彫っているようだった。


「幽霊じゃないけど誰かいたよ」

「えっ…?」

「誰ですか?」


二人はひょっこり顔を出して教室を見ると二人の視線の先にはいまだに熱心に作業をしている少女がいた。

少女は三人に全く気付かずひたむきに作業している。


「何彫ってるんだろ?」


クルスは教室に入って少女に近づくとある事に気付いた。


(この子、手に怪我をしてる?)

「あの~」

「………えっ?……わぁっ!!」


クルスと同じように教室に入ってきた楓が少女に声を掛けると、少女は驚いた顔をして慌てて教室の隅に逃げていった。
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