学園生活の始まり

「ありがとうクルス」

「どういたしまして」

イヴの頬についていた生クリームを何の迷いもなくクルスはそのまま口に入れた。


「甘いね。……って何で二人とも生クリームをつけてるの?」


顔を赤くするイヴの横でフェイトや楓が頬に生クリームをつけていた。


『どうぞ…』


クルスは断る事も出来ず二人の生クリームを食べたが顔は赤くなる。

そんな光景を二人の少女が見つめており、一人はほっぺたを膨らませてもう一人は無表情でジュースを飲みながら見つめていた。

恐ろしいほどの温度差である。




△▼△▼△▼

~稟&ハヤテSide~


「稟君!あーん」

「ハヤテ君あーんだよ!」


シアと歩からのあーん攻撃に稟とハヤテは大人しく口を開けてデザートを食べた。


「稟殴っていいかい!?魂が浄化されるほど激しく!」

「綾崎!叩き潰していいか!?全ての憎しみを込めて!」


稟とハヤテに嫉妬する二人はピクピクと青筋を立てて興奮しているようだ。


「断固拒否する!」

「二人とも後ろを見た方がいいですよ」

「「…へっ?」」


ハヤテの言葉に二人は振り返ると、


「稟様を侮辱した罪は許しません!」

「東宮君も覚悟はいいかしら?」


二人の背後には巨大な魔力球を浮かばせているネリネと、木刀を握っているヒナギクがいて殺る気満々だった。


「ネリネちゃん!?一旦落ち着こうよ!」

「桂さん…ご慈悲を!あっ……野々原助けてくれ~!」


東宮の言葉に野々原はニッコリ笑ったがそのまま手を振って眺めていた。


「まさかの裏切り!?」

「「痛いようにはしませんわ(しないわよ)」」


念のため結界を張ると結界内で巨大な爆発や人の殴られる音が聞こえたが誰もツッコミはしなかった。


「これがアイツらの中では日常化しているのか」


その光景に岡崎朋也はただただ戦慄していた。

これじゃ杏の制裁が可愛く思え………………ないな。

あんまり変わらないな。


「何か言ったかしら朋也?」

「んっ?気のせいじゃないか?」


相変わらず勘がするどい女である。

だから合併前の学園で姉御なんて言われてたんだぞ。


「………朋也」

「だから何も言ってねぇって!」


本当に恐ろしい女である。



~純一&湊Side~


「ガツガツ!」

「うまい…」

「確かにな…」


上から純一・湊・勇の三人が物凄い速さで料理を平らげている。

純一に至っては涙を流しながら食べていた。


(音夢の晩飯を逃れるため…食い尽くすぞ)


変な野望を立てながら食べる純一の隣で何やら深刻そうな顔をした二人がいた。


「ムウ…」

「これでチェックメイトなの」


杉並と一ノ瀬ことみの二人である。

二人はどうやらチェスをしているようで杉並が負けてことみが勝っていた。


「やるな一ノ瀬嬢」

「杉並君も強かったの。でもここで駒を動かしたのはミスなの」

「成る程な。ナイトを動かしたのは間違っていたか」


二人は先程の対局を一手ずつ分析しており誰も参加する事が出来ない。


「あの岡崎さん…」

「…んっ?どうした?」


コーラを飲んでいた朋也に遠慮がちに渚が声を掛けた。


「実はお母さんから新学期のお祝いでパンをもらいました。いりませんか?」


古河渚の母・古河早苗のパンの恐怖を朋也は知っている。

パンの中にお煎餅が入っていたのは一生忘れる筈がない。

それだけじゃなくパンの中にウニを入れたのも忘れはしない。


「いや俺はいいや。それよりも他の奴にやらないか?親睦深めるついでにさ」

「パンをですか?」

「あぁ、せっかく早苗さんが作ってくれたパンなんだし無駄に出来ないだろ?」

「そうですね。あの岡崎さんもついて来てはもらえないでしょうか」

「…仕方ねぇな」


頭をボリボリとかき朋也は渚と共にショウや稟がいる場所に向かった。

早苗さんの事だから新作のパンを作ったはずだ。

今度はどんなアイデアが浮かんだか気になる。

あの人の発想は俺の予想を面白いぐらい越えてくれるからな。

絶対におっさんは犠牲になっただろうし今頃いつものようにパンをくわえて走ってるに違いない。


「どうしました岡崎さん?」

「いやっ、何でもねぇよ」


渚が首を傾げるが朋也は苦笑して返すのみ。

渚の手にあるパン兵器が何なのか朋也は気になってしょうがなかったようだ。






~四人Side~


「DXパフェお代わりなのですよ!!」

「やるな麻弓!ならばこちらはビックベンアイスを追加なのだ!」

「腹壊すぞお前ら」

「明日は休みですかね…」


すでに二十杯は越える二人に唖然とするショウとハヤテの二人。

クルスと稟は何やら真剣な表情で話しているようだ。


「俺達の力を試す?」

「うん。目的はそれだけど……上手くいけば大物が釣れるかもしれないから」

「俺はどうすればいい?」

「とりあえず両王に頼んでくれればいいから。もしやるなら学園の体育祭が終わったぐらいから」

「分かった。叔父さん達に相談してみるよ」


二人の前にはジャンボステーキが置いてあり、既に半分は食べているステーキを二人は細かく切りながら食べていた。

すると―――


「なぁ、ちょっといいか?」

「うん?えっと誰だっけ?」

「岡崎朋也だ。そんでこっちが…」

「古河渚です」


ご丁寧に頭を下げる渚にクルスと稟は同じように頭を下げた。


「それでどうしたの?」

「ほらっ!古河」


朋也に押されて渚は小さく「とんかつ!」と言って二人の前に来ると袋からパンを出して二人に渡した。


「パンか…」

「パンだね…」


困惑する二人に朋也が真剣な表情で口を開いた。


「これは古河の母親が作ってくれたパンなんだ。食べてやってくれないか?(本当は何パンか気になるのが本音だけど)」


本当に内心ではパンの中身が気になっているようだ。


「分かった。だったらあの二人にもあげていいかな?」

「いいですよ」


クルスはショウとハヤテにもパンを渡して四人の手にはパンが握られていた。

四人は知らない。

古河渚の母親が作るパンというもの。

普通のパンだと思っている四人に対して朋也はただ静かに見守るのみ。

「このパンは何パンだ?」

「さぁ?食べたら分かるんじゃない?」


四人は一斉にパンを食べると一瞬で固まった。


(何だ…何パンなんだ!?)


もはやパンの中身が気になって仕方がない朋也。


「…ッ!?」


ショウは顔を真っ青にしてパンの中を見ると中には納豆が入っていた。


「…かたっ!」


クルスのパンの中には生タコが入っており味付けなどしていなかった。


「キャ…キャベツだけ!?」


稟のパンにはキャベツだけしか入っておらず、


「ハ…ハヤテーーー!!」

「グフッ…」


ハヤテのパンにはハバネロが丸ごと入っていた。


朋也は四人の姿に笑いを堪えて渚は嬉しそうな顔をしていた。


「皆さんラッキーです!」

「ラッキーって何がだ?」


笑いを耐える朋也に渚はニッコリ笑って答えた。


「それは今日の新作です!お父さんが泣きながら出していましたから」


(オッサン、よっぽど出したくなかったんだな)


その時の光景を想像して朋也は同情していた。


「ショウ大丈夫か?」

「ハヤテ君大丈夫!?」


二人の尊い犠牲を出した一日目の出来事――

しかしこの日を境にショウとハヤテはパンの中身を気にしていたそうだ―――











オマケ―――


「お会計二十五万円になります」


『…………………』












次回予告

朋也
「一日目を終えて無事二日目を迎えた訳だが…」

春原
「おっ!あの子は可愛いねぇ!東宮もそう思わないか?」

東宮
「いや!僕は桂さん一筋なんだ!誰が見るか!」

杉並
「次回S.H.D.C.――
第13話――
【新たなメンバー】」

直樹
「次回予告が謎な気がする」
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