学園生活の始まり

「りょーかい」


通信を切ってクルスは一度息を吐いてゆっくり口を開いた。


「僕がフェイト達を大切に想ってる気持ちは変わらないよ」


微かに頬を染めてクルスは窓から飛び降りると下にいた杉並と合流して消えていった。

教室の中は先程のクルスの言葉で沈黙の空気が流れている。


(アイツ…)

(何という恥ずかしい台詞を…)

(こんな人前で言えますね…)


ショウや稟やハヤテ達はある意味クルスを尊敬していたが、


「皆の者ーーー!!先程の奴の言葉を聞いたかーーー!?」

『おぉーーー!!』

「憎いかーーー!!」

『おぉーーー!!』

「「奴には…」」

『罰を!!』

「「俺達(僕達)に」」

『祝福をーーー!!』


親衛隊は樹と東宮に続くように教室を出て行き教室に残ったショウ達は視線をフェイト達に向けていた。


「フェイトちゃん?」

「かえちゃん?」

「イヴさん?」


なのはやシアや伊澄の呼び掛けに三人は答えずただ黙っていた。

すると次の瞬間―――


「「「キュー~」」」


三人は顔を真っ赤にして倒れてしまった。

さすがのスクープ団も驚いて写真を撮るのを忘れてしまったらしい。


(でも…あの白河ことりって子のクルス君を見つめる目は…)

(フム…乙女の目だったな)

(これは…)

(スクープの予感だね~)


しかしスクープは欲しかったようだ。


「でもフェイトちゃん達は羨ましいな~」

「そやな。あんな風に大切に想ってるなんて面と向かって言われたら嬉しいやろな~」


なのはとはやては羨ましそうにフェイト達を見つめていたが、すぐにジト目でショウの方に視線を向けていた。

ショウ君もあんな風に言ってくれないかな?

もし言うてくれたら一ヶ月は管理局の仕事をフル残業でも耐えれるわ。


「……んっ?何だよ?」

「「別に~」」


ジト目で見つめてくるなのはとはやてにショウは首を傾げて、そんな三人を将輝と悠季がやれやれと呆れたように苦笑していた。






~体育館~

「それでは次は校長先生からのお話しです。よろしくお願いします」


全校生徒が集まり体育館は巨大化しているとはいえ数百人はいる訳で当然眠っている生徒もいた。


「「スゥ~…スゥ~…」」


2年1組のMr.かったるいとMr.どうでもいいの二人でもある朝倉純一と有里湊の二人である。


「それにしてもヒナギクの話は相変わらず長かったな」

「さっきまで眠っていた奴の台詞とは思えないな」


ショウは大きな欠伸をしてその横にいた稟は呆れた顔をしていた。


「次は校長先生の話ですし僕も眠ってしまいますよ」

「同感だな…」


ハヤテの言葉に同意するように悠季が頷くと二人の後ろから何やら小さないびきが聞こえてきた。


「…ムニャ…ムニャ…」


いびきをかいていたのは将輝のようで首には【起こした者には裁き】と書かれたプレートがぶら下がっていた。


「何だありゃ?」

「気にしたら負けです」


将輝の横にいたコレットはウキウキでずっとニコニコしているようだがシリアは退屈そうに欠伸をしていた。


「なぁハヤテ」

「どうしましたお嬢様?」

「あれ…」


ナギが何かを見つけたようでとある場所を指差しながらハヤテを呼んだ。


「あれはクルスではないか?」

「えっ……?」


ナギの言葉にハヤテだけでなくショウや稟も視線をある場所に向けると、確かにそこにはクルスがいてステージを見ながら誰かと話していた。


「何やってんだあいつ?」

「何をしているか非常に気になるがとりあえず嫌な予感しかしないのは俺だけか?」

「稟君もですか?実は僕もです」


そして――

校長がステージに上がって皆の前に立った瞬間事件は起きてしまう。


「ほぉぉぉぉ~!」


突如床下に穴が空いて校長の姿が皆の前から消えたのだ。


『………………』


体育館内に沈黙の空気に包まれた。

校長先生が消えた瞬間すぐに動き出す者がいた。


『フハハハハハハ!!』


突如アナウンスから杉並の高笑いが聞こえてステージ天井から巨大なモニターが出現した。


『全校生徒の諸君!我が名は杉並!非公式新聞部の者なり!』


杉並の声に風紀委員と生徒会が動き出して必死に杉並を探すが姿が見つからない。


『フハハハ!無駄ぞ朝倉妹よ!この俺は誰の手も届かない場所にいるのだぞ!』


まるで風紀委員や生徒会を見ているかのような言葉に音夢はムッとしてさらに捜索範囲を広げている。


『今まで退屈だった諸君!これからは我が非公式新聞部の劇を見てくれたまえ!』


杉並の声と同時に再び誰かがボタンを押すとモニターに映像が映った。

そこには――


「へっ…」

「なっ…!?」

「えっ…!?」

「…んにゃ…スゥ~」

「…って!僕を入れるなと言っただろ!」


そこに映っていたのはショウと稟とハヤテと純一とクルスが映っていた。

ショウ達はやはり嫌な予感が当たりクルスはまさかの事態に慌てていた。

『この五人は前の学園で隠れファンクラブがあり、ラバーズというものや美少女達に片想いされているという噂があったそうだ』


まず一枚目の写真が拡大されてショウと亜沙の二人がデートをしていた時の写真だった。

亜沙の表情は幸せそうでショウも満更ではない表情だった。


「ちょっと待て!誰だこの写真を撮ったのは!?」


ショウの叫びも虚しく背後から次々と親衛隊が立っていた。


「ヤナギーーー!!」

「こんな時まで嫉妬すんじゃねぇよ!」


ショウは入り口から出て行き体育館から消えていった。


「あれが俺達にもあるのか?」


「はい…」


稟とハヤテは涙目になり既に走る準備をしていた。


そして――


「土見ーーー!!」

「綾崎ーーー!!」


稟とハヤテの写真も拡大されて稟の写真はカレハをお姫様抱っこしている写真で、ハヤテの写真は伊澄を後ろから抱き締めている写真だった。


「「いやぁぁぁぁぁーーー!!」」


ショウと同じように稟とハヤテも物凄い勢いで体育館から消えていった。

それにしてもこんな事態でもいまだに眠っている朝倉純一はある意味凄い男である。


『それでは次は我が同士朝倉だが……朝倉妹よ!この写真を見てどう思うかな?』


拡大された写真は純一が萌の胸を掴んでいる写真だった。

写真というのはアングル次第で凶器になるのだとこの時誰もが思っていた。


「兄~さ~ん」

「うぉっ!どうした音…夢…さん…?」


いまだに事態が把握できない純一はふと視線をモニターに向けると、


「ブッ!これは誤解だ!あれは事故でだな…」

「言い訳は今からじっくり聞かせてもらいますよ…」

「ひえぇぇぇ~~!」


親衛隊よりも恐ろしい音夢に引き摺られながら純一は体育館から消えていった。


(俺が寝ている間に何が起きたんだ?)


音夢に引き摺られながら純一はそんな事を考えていた。


『さて最後になったが最後は同士アサヅキだ!』


「待て杉並!僕の台本にはそんな事は…!」

『フッ!何にたいしてもイレギュラーは必要だろ?』

「杉並!最初からこれが狙いだったな!」

『フハハハ!何の事かな?』


写真が拡大されてクルスの目に映った写真は――


「アサヅキーーー!!」


夏休みにフェイト達と一緒に眠っていた写真だった。


「クッ!一時撤退だ!」


クルスは窓から飛び降りて親衛隊から追われなが逃げていった。

体育館にはほぼ女子だけとなり教師陣は頭を抱えていた。


『それでは非公式新聞部からでした!』


杉並も通信は切って波乱の始業式は終わった。


ちなみに―――


「将輝!学校って凄いね!」

「そうだな…」


さすがの将輝もこの光景には唖然として、


「悠季、私達の写真なかったわね」


「何だほしかったのか?」

「ちっ…違うわよ!ただ気になっただけよ!」


悠季とシリアは写真を見ながら話して、


「おいっ!起きろって」


「…………」


湊は爆睡中だった。


「いやはや賑やかな学園で私も楽しいですよ」


穴に落ちた校長先生はいつの間にか自分の席に戻ってニコニコと笑みを浮かべていた。






~2年2組~

『ゼェー…ゼェー…ゼェー』


先程まで走っていた四人は教室に着くなり席に座り込んで息を吐いていた。

稟とハヤテに至っては目が虚ろになっている。


「全く…何で…あんな…写真が…あんだよ…」

「ショウ…どう考えたって…あのメンバーしか…いないよ」


ショウとクルスは息を吐きながら麻弓達を見ると麻弓達メンバーは親指を立てて勝ち誇った顔をしていた。


「それにしてもクルスはあの男の知り合いなのか?」


クルスの背後から水の入ったペットボトルを持った悠季が現れて、水は稟とハヤテの頭にかかり二人は水が鼻に入り苦しみ出した。


「あの男…?あぁ杉並の事だね。あいつはミステリーをこよなく愛する男だよ」

「ミステリー?」

「多分…リフィルと同種のタイプだよ」


首を傾げるコレットに将輝がこっそり教える。

リフィルと杉並の二人が暴走したら想像したくもない。


「非公式新聞部って言ってたけど本当は何をしてんだよ?」

「簡単に纏めると、学園を楽しませる部って感じかな」

「あれがか…」


早速被害者になった稟は呆れた顔をしている。

鼻が真っ赤になったままだが。


「まぁ、話は変わるとしてこれからどうする?」

「ハイ!新学期に入ったお祝いに喫茶店に行くのですよ!」


ショウの言葉に即答で答える麻弓の目は輝いた。


「どうせ麻弓の事だからパフェだろ?」

「そういうナギちゃんだってアイスでしょ?」

「…プッ!まな板二人の食べている姿なんて絵にはならないけどね」


樹が呆れたように笑った瞬間樹の顔面がヘコンで壁に叩きつけられると一瞬でエビフライの姿に変わってしまった。


「あの二人に何て恐ろしい事を言うんだ樹は」

「女性にあんな発言をした樹が悪いと思うけどな」


クルスとショウ二人は樹の亡骸をロッカーにしまいながらただため息を吐くしかなかった。
2/4ページ
スキ