学園生活の始まり

~枯れない桜~

枯れない桜に寄り掛かりながら一人の青年が気持ちよさそうに眠っていた。

誰にも邪魔されず眠っていたのだが、


「朝ですよ」


上の方から声が聞こえるが青年は目を開けず未だに眠っていて声を掛けている女性は、ムッとした表情で座るとポケットから油性マジックを取り出した。


「起きないと落書きしちゃいますよ」


握られたマジックが青年の額に触れようとした瞬間、


「ストップ!起きたから!今起きたから!」


青年は驚きながら女性の腕を掴んで止めるとマジックは地面に落ちていく。

女性は残念そうな顔をしていたが次第に表情が笑顔になる。


「おはようございます……クルス君」

「朝からご苦労様だね……ことり」


桜の木の下で二人はお互いに笑い合い暫し時間を過ごしていた。










△▼△▼△▼

~朝倉家~


「…グゥー…ポイズンは……ポイズンは…いやだぁぁぁぁーーー!!」


突如顔を真っ青にした男朝倉純一が悲鳴のような声で飛び起きた。


「なんだ…夢か」


額から滲むほどの汗をかく事から余程怖い夢を見たらしいが時間を見てまだ寝れると気付いて二度寝をした。


しかし――


「兄さん…」

「えっ…?」


聞こえてくる筈のない声が目の前から聞こえて純一は震えながら顔を上げるとそこにいたのは、


「誰の料理が嫌なんですか?」


顔を上げた先には満面の笑みを浮かべた音夢がいたのだが目は笑っていなく背後には般若がいた。

そんな音夢に対して純一はダラダラと滝のように汗を流し口を開いた。


「誰も…音夢のとは言って…な…い…で…す」


「そうですか。でしたら兄さんの朝とお昼は私が作らせていただきますね」

「待て!音夢!俺はまだし「何か言いましたか?」…いえ」



深い笑みで背後の般若から鬼神に変わった音夢に純一はたった一言だけ呟いた。


「かったるい」


こうして――

朝倉家の一日が修羅場と共に始まった。






~ショウの家~


「…な…なのは…SLBは勘弁してくれ…」


こちらの方もまたうなされるように眠り起きる気配がなかった。

ちなみにショウの家には将輝とコレットもいて二人はすでに学校に行く準備をしていた。


「はやて…たたた…狸に似ているな」


このような寝言を言うショウだが本人は忘れていた。

いつもなのはが迎えに来る事を―――

つまり―――


「はやてちゃん」

「分かってるでなのはちゃん」


なのはとはやてはショウを迎えに来ており、二人は制服からバリアジャケットの姿に変わりショウの真横でチャージしていた。


「…んっ…なんだこの魔力は!?」


バッと起きてショウがチラリと横を見ると、


「「ショウ君…」」


横には鬼がいた。

いや…この二人も音夢同様に鬼神と言えほど恐ろしい表情をしており二人はその表情でニッコリ笑って口を開いた。


「「少し…頭冷やそっか」」

「ちょっ!俺何かしたかぁぁぁーーー!?」


二人の魔力を受けてショウの家は大爆発を起こした。


しかし一階では――


「へぇ~フェイトって二人も子供を預かってんのか?」

「うん。エリオとキャロって名前で一度クルスにも会ってもらいたいって思ってるの」


フェイトの言葉に将輝はニヤッと笑って口を開いた。


「お前らの子供か?」


その言葉にフェイトは頭から湯気が出る勢いで派手な音を出して顔を真っ赤にした。


「えっとね…そうじゃなくて…でも将来的には…クルスは…パパなのかな?…じゃあ…私は…ママ…えへへ~」


フェイトは自分の言葉にトリップして目の前で将輝とコレットが呼んでいるがトリップから暫く帰ってこなかった。


「フェイト、とっても幸せそうな顔をしてるね」

「だな。それぐらいアイツに惚れてんだろうな」


そんでアイツも同じぐらいフェイトを想ってる気がするし。

楓やイヴやレナという女の子達から想われちゃいるがアイツはどう答えを出すんだろうな。


「ダメだよクルス…!まだ外は明るいよ!でもクルスが望むなら……」

「将輝~!」

「放っておけコレット。もうフェイトは手遅れだ」


コレットの困った顔を見つつ将輝はただ渇いた笑みを浮かべるである。







~桜の並木道~

新しく合併した学園に向かう道を稟やハヤテ達やラバーズは歩いていた。

ショウは頭にたんこぶをつくり両サイドには満面の笑みを浮かべたなのはとはやてがいる。


「あのよショウ…」

「なんだ稟…」


ショウのこぶを見ながら稟は首を傾げて聞くと、


「屋上に吊るされたくなかったら聞くな」


殺気を込めたショウの言葉に稟は冷や汗を流して押し黙った。


(よっぽど何かあったな…)

「そっ、そういえば!ショウ君はどうしたのでしょうか?」


話題を変えるようにハヤテが口を開くと将輝がニヤリと笑ってフェイトを見ながら口を開いた。


「フェイト~!旦那はどうしたってさ?」

「ままま…将輝!?」

『旦那!?』


将輝の言葉にフェイトは顔を真っ赤にして、他のメンバーは目を丸くして驚きの声を上げた。

いや……クルスに片想いしている女の子達だけは嫉妬のオーラを放っていた。


「フェイトどういう事?」

「旦那って何ですか?おかしいですよね?私の聞き間違いですか?」


オーラを放つイヴにフェイトは若干涙目になるが楓のハイライトをなくした瞳に本気で恐怖を感じて後退りしていく。


「いや…あのね…それは」


二人から迫られ逃げ場を探すフェイトだったが、


「待ちなさーーい!!」

「待てと言われて…」

「待つ者などいるものか!」


後方から聞き覚えのある声が聞こえて皆がそちらに視線を向けると、その人物は女子生徒の手を握りながら何かから逃げていた。


「ムッ!今日の朝倉妹はいつになくしつこいな」

「やっぱり始業式に問題を起こされたくないからじゃないですか?」

「フッ!言うではないか白河一等兵よ」

「いえいえ」

「よくこんな状況で話せるよねキミ達」


クルスは溜め息を吐いてチラリと視線を前方に向けて顔を青ざめて固まった。


「どうしましたクルス君?」


足を止めたクルスにことりは首を傾げて前方を見るとそこには先程までフェイトに攻め寄っていたメンバーとフェイトが満面の笑みでクルスを手招きしていたのだ。


(これは逃げられない。どうする!?後ろには音夢がいて前にはフェイト達がいる。どっちに捕まっても僕の未来は!)

(滅茶苦茶震えているっす)


震えるクルスを心配そうに見ていたことりだが、杉並は一瞬で理解したのかことりに軽く耳打ちをして先に走り去った。


(白河一等兵よ!あれが噂のクルスに片想いしている女子達のようだ)

(彼女達が…)


「よぉ、クルス!」


「おはよう将輝。えっと皆さんその笑みは怖いのですが…」


青ざめるクルスを尻目にフェイト達はニッコリ笑ってクルスに近づいてグッと腕を掴んだ。


「クルス…」

「はい!」


フェイトに低い声で名前を呼ばれてクルスはひきつった笑みを浮かべて返事をした。


「ちょっとお話しよっか」

「まだ時間はありますから」


問答無用でフェイトと楓にクルスは引き摺られてショウ達やことりの前から姿を消した。

その姿は勇者が初期装備でラスボスに挑む姿と似ていたらしい。


「とりあえず学園に行くか」


「そう…だな…」


ショウや稟達にとったら当たり前の光景なのでクルスの無事を祈りながら学園に向かった。


「あの人達がクルス君に片想いしている人達…」


ことりから見ても美少女といえるフェイト達。

そのフェイト達が自分達を見つめていた時に嫉妬の他にも複雑な感情を感じた。

まるで――


「新たなライバルが出現したって思われたかな?」


だとしたら自分も負けるつもりはない。

自分だってクルス君と一緒にいたいと思ってる。

この気持ちは誰にも負けてない。


「……私だって!」


ことりはグッと気持ちを強くしながら学園に向かい、そのことりの後ろ姿を金髪ツインテールの少女が無表情で見つめるのであった。


「あ~あ、泥棒猫さんがいっぱいだな~」


そう呟く少女はからからと笑うのみ。

その表情はただただ冷たいものだった。






~2年1組~

「…………」


2年1組の教室では口から魂が抜けたように真っ白になっている純一がいた。

原因は分かっている。

【朝倉音夢の料理】だ。


「大丈夫か朝倉?」


魂の抜けている純一を見て心配そうに工藤が尋ねると、


「今は…やめといた方がいいぞ…」

「有里!?いつからそこに!?」

「さっき…」


工藤の後ろから耳にヘッドホンをした青年が現れて眠たそうな顔をしながら欠伸をしていた。


湊はトボトボと席に座って腕を枕にするとすぐに眠ってしまった。


「そうだぞ工藤、my同士有里の言う通り。朝倉はおそらく朝から悲劇にあったようだから大人しく休ませといてやれ」

「もう驚かないぞ」


再び工藤の後ろからいきなり杉並が現れて、工藤の肩に手を置くと工藤は呆れた顔をして溜め息を吐いた。


「さて俺はこれから忙しいのでな……サラバだ!!」


ポケットから煙玉を出して杉並は消えるとクラス中が同じ気持ちになって溜め息を吐いていた。





△▼△▼△▼

~2年2組~


「ごめんなさい…」


床で正座して謝っているクルスの姿はすでにボロボロで制服は所々が破けて頭にたんこぶも出来ていた。


「僕が何かしたかな?」

「さっき一緒だった女子って誰なんだ」

「あぁ、彼女は白「白河ことりちゃん。元風見学園のアイドルだよ皆!」…」


クルスの言葉を遮り眼鏡を光らせる樹をショウはとりあえず殴り飛ばした。

学園のアイドル――

アイドルと登校って事は――


「いつ落とした?」

「ばっ!僕がそんな事をする訳ないだろ!夏休みにたまたま桜の木の下で歌っていた彼女と会って少し話したら仲良くなっただけだ!」

「お前は樹を目指しているのか?」


ナギの言葉にクルスは視線を壁に叩きつけられた樹に向けてショックのあまり樹をカチコチに固めた。


「何回も言うけどことりとは何もないよ。それに僕は……」

『僕は…?』


クルスの言葉にワクワクしながら皆はクルスに詰め寄った。

しかし――


『同士アサヅキよ。聞こえるか?』


クルスの耳元から声が聞こえてクルスは応答すると、


『そろそろ時間だ。持ち場についてくれないか』
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