真実と決意

「今から話す事は全て本当の事だから、話の途中で聞きたいことがあったら言ってね」


クルスはそう言ってモニターを出すと部屋が暗くなって皆の視線がモニターに向けられた。


「あれは四年前になる。僕が管理局の元帥の依頼中に起きた事件から始まった」


モニターに何かの記事と一人の男の映像が並んで映し出された。


「管理局外第58世界――
【ブリューナク】で突然起きた爆発事件。その時の犠牲者は当時僕が捜していた【安藤誠】という男だった」


モニターに映っていた男の顔が拡大されると、突如襖が開き頭に包帯を巻いた人物が声を上げた。


「クルス、この男は管理局にいた安藤誠じゃないか!?どうしてお前までこの男を捜していたんだ!?」

「知っているのかクロノ?」


襖を開けてやって来たクロノにショウが首を傾げて聞いた。


「知っているもなにも…この男は「自分も追っていた男なんでしょ?」…そうだ」


クロノは頷いて座るとモニターに視線を向けた。


「話を戻すけど、ブリューナクで発見された遺体は安藤だけだった。だけどその数日後に安藤と同じように局員が遺体で発見されたんだ…」

「なぁ…それって…」


ヴィータの確信めいた口調にクルスは頷きながら口を開いた。


「そう、その局員達は安藤の研究を手伝っていたメンバーだった」

「それで安藤達がやってた研究が何で彼らと関係しているんだ?」


シグナムが真剣な表情でクルスを見つめるとクルスは一度深呼吸してゆっくり答え始めた。


「ナイト・ジョーカーズは、安藤が管理局で厳重に保管していたある一人のDNAから生み出された存在なんだ。しかも全員血が繋がっている」

「なっ…!」

「それってつまり…」

「クローンであり、全員が同じ存在なんだ」


皆がクルスの言葉に絶句していた。

クローンを作り何を考えていいたかわからない。

だが命を自分の研究の為に作り出すなど――


「命をなんだと思ってるんだ…」


クルスが拳を握り締めながら呟いた。


「そして…彼らは自分達を生み出した安藤を憎んで四年前の事件が起きた。当時僕は研究所にデータが残っているか確認したら少しだけ残っていてね。確認したらナイト・ジョーカーズは全員で十一人いたらしい。属性は…炎・水・氷・雷・木・土・風・毒・光・闇・元だった」


つまり敵は十一人――

ノヴァのような存在がまだ十人残っている。

あれだけ強大な敵と戦わねばならない。

だけどそれよりも――


「管理局がそんな事をしていたなんて信じらんねぇよ」


ショウが顔を俯かせながら言うと皆が同じように失望していた。

自分達が行っている事ももしかしたらと思っているのだろう。


「皆は気にしなくていい。せめてもの罪滅ぼしで僕が罰を受けたから」


柔らかな笑みで言ったクルスに皆が顔を上げてクルスを見た。


「罰ってなんだよ…」


稟が震えた口調で言うとクルスは上半身の服を脱いでそれを見せた。


「クルス君…」

「お前そのタトゥーは…」


クルスの身体中に黒い色をしたヘビのタトゥーが刻まれていた。


「僕が初めて会ったジョーカーズの一人毒帝の恭介に刻まれた呪いなんだ。このタトゥーが身体中にまわると僕は…













死ぬことになる」


そう言った瞬間空気が凍り付いた。

無表情で言ったクルスに誰もが信じられない表情をしている。


「またまた冗談を…」


「そうですよ!トレインさんやシャオさんからも何か言ってくださいよ」


稟が苦笑いしながらクルスに言ってハヤテがトレインとシャオを見ながら言ったが、


「わりぃな…」

「この話しは冗談じゃないんです。クルスのタトゥーは日に日に身体を浸食しています…」

「そんな…」


皆が再び絶望していた瞬間一人の男が立ち上がり服を着て息を吐いていたクルスの胸ぐらを掴んで叫んだ。


「ふざけるなよクルス!」


「クロノ…」

「お前は僕にフェイトを悲しませないって言っただろ!それなのに死ぬだと!?ふざけるなよ!」


クロノの脳裏によぎるフェイトの笑顔。

クルスが帰ってきてからフェイトは本当に心の底から笑っていた。

毎日毎日楽しそうに一日の出来事を話すフェイトに、母さんもエイミィもアルフも喜んでいた。

それほどまでにフェイトにとってクルスの存在は大きなものになっている。

それなのにクルスは僕達が知らない間に呪いを受けて死ぬと口にしていた。

そんな事が起こってたなんて知らなかった。

だけどそれでも声を上げた。

胸ぐらを掴むクロノにクルスはただ真っ直ぐ見つめながらクロノの腕を掴む。


「クロノ、僕は確かに死ぬと言ったけどタトゥーを消す方法が一つだけあるんだ」

「なにっ…!?」


胸ぐらから手を離してクロノは目を見開いたままクルスを見つめる。


「僕が恭介を殺せばタトゥーは消える。残り時間は少ないが諦めちゃいないさ」

「クルス…」


クルスは真剣な表情になっていつもと違う雰囲気を漂わせながら口を開いた。


「僕はフェイトを悲しませるつもりはない。フェイトの泣いている顔を見るのはもうたくさんだ」

「クルス…」


フェイトだけじゃない。

もう誰にも悲しい思いをさせる訳にはいかない。

そんな気持ちになるのは僕だけで充分だ。

昔と違いどこか遠い存在のように感じたクルスが初めて本心を出したように皆が感じていた。

それほどまでにクルスにとってフェイトという存在は―――


「変わったなクルス…」

その中で不意に将輝が懐かしむように口を開いた。


「クルス、昔お前と会った時は何でも溜め込んでいたように見えたけど今はちゃんと言えてるな」

「将輝のお陰だよ。将輝が言ってくれたから僕は変われたんだ」

「わぁ~!やっぱりマサキは凄いね!」


コレットの歓喜の言葉に将輝は照れわらいしていたが話を再びジョーカーズに戻した。


「あのさ、ジョーカーズの事で質問があるんだがいいか?」


今まで黙っていた悠季が不意に口を開いてクルスは視線をそっちに向けた。


「クルス、お前達が今まで戦ってきたジョーカーズは何人だ?」


皆の視線も自然とクルスに向けられてクルスは思い出しながら答えいく。


「僕らが今まで戦ったのは火と雷と毒と木かな?」

「雷はセフィリアが倒して、木はシャオリーが片目を奪ったぐらいだがな」


ベルゼーが付け加えるように言うとショウがセフィリアを見ながら言った。


「セフィリア、本当なのか?」

「本当です。雷帝のマサトは最後まで戦いを楽しんでいました。管理局の憎しみなど関係なく私と戦って………最後は明王の前に散っていきました」


懐かしむような表情から少しだけ悲しんでいるセフィリアを見て、ベルゼーやジェノスの表情が僅かに暗くなる。


「じゃあ戦っていないのは……水・氷・土・風・光・闇・元って訳か」


悠季は呟きながら言って再びクルスを見ながら口を開く。


「これからお前達ファントム・ナイツにショウ達管理局組にマサキやコレットに俺やシリアがジョーカーズと戦うわけだが大丈夫なのか?」

「正直言うとかなりキツイかな。彼らはクローンを作る技術もあるし魔獣もいる。それにこの戦いに必ずアイツらもいるから…」

「アイツらってまさか!?」


ショウが驚きながらクルスを見るとクルスは頷きながら口を開いた。


「ショウの考えている通りだよ。ジョーカーズにはマルス率いる聖騎士団がついている」


今分かるだけでも敵の戦力は並大抵ではないと分かった。

聖騎士団にジョーカーズ。

量でも質でも彼らが上なのだから―――


「マルス達とも戦う事になるのか…」


闇の書事件で戦ってから続く因縁。

だが俺よりもクルスの方がやつらと戦っているんだよな。

俺の知らない間に。


(だけどもうクルスだけに戦わせたりしない)


俺とクルスが一緒に戦えばどんな敵とだって戦える。

かつて戦ったディアゴの時のように負けはしないんだからな。


ショウが真剣な表情でクルスを見つめていた時、不意に稟とハヤテが立ち上がり口を揃えてクルスに言ってきた。


「クルス、お前に頼みがあるんだ!」

「僕からもお願いがあります!」

「「俺を(僕を)…強く「してくださいって言いたいのよね?」…えっと…誰ですか?」


稟とハヤテの決意した言葉を遮って誰かが口を開いた。

その人物に誰もが首を傾げているとその人物は紅茶を飲みながらニコニコしていた。


「あの~どなたですか?」


可愛らしく首を傾げて聞いてくるコレットに紅茶を飲んでいた人は、


「そこで黙ってるクルスに聞いてみたら?」

「えっ…?」


皆の視線がクルスに向けられると、その人物が言ったようにクルスは目を閉じて口を閉ざしていたが、


「何故アナタがここに?」

「何故って貴方に話があったからよ。タトゥーも気になったしね」


その人物は外見から判断して二十歳から二十歳ぐらいの女性で優しそうに見えるが、クルスがどこか警戒している理由がいまいち分からない。


「何だいクルス!こんな美女と知り合いなら俺様に紹介してくれてもいいじゃないか!」

「樹!お前怪我は大丈夫なのか!?」


なんと大広間に重傷だったはずの樹がピンピンして現れた。

それに稟やハヤテ達が驚いているが樹は眼鏡をクイッと上げて答えた。


「愚問だね稟。俺様は美女がいれば怪我なんて関係ないのさ!」


説得力がある樹の言葉に稟は苦笑していたが内心ほっとしていた。


(いつもの樹で安心した)


「それより彼女は誰なんだい?まさか…クルスの…!?」

「あぁ、安心しなさい。私は子供に興味ないから」


女性は冷静に答えると指を鳴らして心宿を呼んだ。


「心宿、お代わり」

「かしこまりました」


心宿は高速で紅茶をついでケーキを置いた。


「じゃあお姉様!俺とお茶でもどうですか?」

「やめておきな樹」


クルスが真剣な表情で肩に手を置いて樹を止めた。


「何でだい?もしかして…男が「この人は管理局元帥だよ」へぇ…管理局の元帥ねぇ………へっ?」

『なにーーー!』


大広間に驚愕の叫びが響き渡った。


「そして、リンディの親友でーす!」

「変わらないわね」


女性とリンディのやり取りにクロノはただただ目を丸くしていた。
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