赤き扇と剣

~炎帝の間~

「さぁ~!やって来ました…『突撃!朝のスクープ!』」

「司会は全世界の美女の味方こと緑葉樹と…」

「どんな女性にも紳士に接する男!ジェノス・ハザードがお送りするでやんす!」


小型マイクを持って二人は炎帝の間の前にいた。


「女性の朝の寝顔は俺達の元気の源だからな」

「しかもショウは寝てるしチャンスだね!」


ニヤリと笑って二人は慎重に扉を開けていく。


((さぁ、夢の花園が目の前に!!))


扉が開いて二人が部屋に入った瞬間、







「よぉ二人とも。朝から元気だな」


背後から灼熱の炎を噴出しているショウが立っていた。

女性陣はいまだに眠っているようで起きる気配はない。


「ななな…何で起きているんだい!?」

「最初から起きてたよ。突撃!朝のスクープ!からな」


二人は額から滝のように汗を流しながら後ずさり、ショウがそれをゆっくり追っていく。

今の二人にはショウが鬼に見えるに違いない。


「さぁ、お仕置きといこうか」

「ショウ!俺達は親友だよな!?」

「ここは一つ穏便に…」


二人の必死の願いも儚く消えて、


「問答無用!」














「「Nooooooooo~!!」」


炎帝の間で巨大な爆発と悲鳴がホテル内を響かせた。




△▼△▼△▼

~大広間~


朝御飯を食べるために全員ではないが大広間に複数人集まっており、ナギや伊澄やプリムラやイヴなどまだ部屋で眠っている者もいる中で、


「またホテルが壊れてしまった…」


朝のショウ達の一件で再びホテルが壊れてしまい修理にかかる費用を見ながらクルスは肩を落としていた。

それを見ながら同情するようにセフィリアとトレインがクルスを見ていた。


「ところで、クルス殿。今日は何をするんだ?」

「僕やシンちゃんは今から島の探検に行く予定だけど」


両王は味噌汁を飲みながらニコヤかな笑みを浮かべていた。


ちなみに両王はこれで五杯めの味噌汁を飲んでいる。

他にも、


「か、母さん?そのお茶に入れてるクリームは?」

「練乳よ?ちょっと甘い飲み物が欲しくなっちゃって」


朝からリンディ茶スペシャルを飲む母親にクロノは眠気が覚める一撃を喰らうのであった。


「その事なんですけど―」


漬物を美味しそうに食べる両王にクルスは真剣な表情で口を開いた。


「お二方には大事な話があるので探検は駄目ですよ」

「「えぇ~!?」」


まさかのクルスの言葉に漬物を落とし、本気でショックを受ける両王。

そんなに二人で探検がしたかったのかと、クルスは苦笑しつつも視線を次にシアとネリネとショウに向ける。


「それとショウとシアとネリネも付き合ってもらうけどいいかな?」


両王のブーイングがクルスの耳に入るがそれを完全にスルーしており、三人はクルスの問い掛けに首を傾げていた。

恭介の言葉通りなら二人の中にいる魂を確認しなければならない。

もしもの場合でショウにも協力してもらうかもしれないしね。

そうなると残りのメンバーには、


「心宿」

「はっ!」


いつの間にか中に入ってきた心宿にクルスは一つのカードを渡した。


「それを使って、稟とハヤテ達を遊園地に連れて行ってあげて」

「分かりました」


今日は貸し切りの遊園地だし待ち時間もなしに乗れるだろうからこれで楽しんでもらうとするか。

両王やシアやネリネやショウには悪いと思うが、アイツらが動く可能性もある。

早めにやれる事はやっておかないとね。


「それじゃあ行きましょうか」

「……そうだな」

「ここは素直に従うことにしようかシンちゃん。探検はまた今度ということで」


クルスの真剣な表情とどこか雰囲気に両王は小さく頷き味噌汁を飲み終わるとゆっくり立ち上がった。

「う~!稟君と遊びたかったッス」

「私もです」


せっかくの遊園地だったのにとシアとネリネは本気で落ち込む。

ここで稟との距離を縮めるチャンスだったのだが、自分達の親と一緒に呼ばれるとなると断りきれない二人はしょんぼりしながら着いていく。


「…………」


そんな両王やシアやネリネ達の後ろをついていくショウだけは真剣な表情をしていた。


(フローラ、お前はどう思う?)

(情報が少なすぎるので断定できませんが、もしかしたらシアさんやネリネさんに関係している可能性があります)

(……まさかキキョウやリコリスの事か?)

(……可能性ですがね)


だとしたらクルスはいつそれを知った?

シアもネリネも話した様子はなかったのに。






~社長室~

六人はクルスがこのホテルで使う社長室に入ると神王と魔王が並んで座り、シアとネリネが並んで座りショウとクルスが並んで座っていた。


「それで俺やシア…」

「僕やネリネちゃんを呼んだ理由はなんだい?」


両王のいつになく真剣な口調に部屋は緊迫した空気が漂う。


「本題に入る前に一つ…」


クルスは懐から一つの宝石を取り出しテーブルに置いた。


「綺麗だねリンちゃん」

「はい。とても輝いています」


その宝石は半分がルビーの色をして、半分がサファイアの色をしていた。


「クルス、これは何だ?」


クルスがそれを手に取ろうとした瞬間、


「ショウ、それは迂濶に触っちゃいけない」


クルスがショウの腕を掴んで止めた。


「何でだよ?」

「この宝石は管理局の言葉を使って言うなら――ロストロギアだからだよ」

「なっ!?」

「ロスト…」

「ロギア…?」


ショウはその言葉に目を見開いてシアとネリネは首を傾げている。


「ロストロギア、【メグリアス】」


クルスは黒のグローブをはめてそれを手に取りながら説明を始める。


「これは、元々二つで一つの宝石なんだ。使用する場合はルビーとサファイアの石を外して使う」


クルスは宝石をテーブルに置いて真剣な表情のまま口を開いた。


「使い方を間違ったらどれほどの被害になるかなんて想像も出来ないんだ」


クルスが言い終えた瞬間部屋の中に沈黙の空気が漂う。


「お前局員の前で堂々とロストロギアを出すなよ」

「今回は特例って事で。それに使い方さえ間違わなければ大丈夫だって」


不敵に笑うクルスにショウは呆れたように笑うが、闇の書事件の時から無茶ばっかりやってたし変わらないなとどこか懐かしい気持ちになる。

こいつは二人の為にロストロギアを使うつもりなんだな。

相変わらず誰かの為に動きやがって。


「それで、そのメグロスってのは何に使うんだ?」

「シンちゃん。メグリアスだよ」


小声で訂正する魔王に神王は軽く咳払いをする。


「メグリアスは、憑依させたい魂を定着させる器となる宝石なんですよ」


そう言いながらクルスは視線をシアとネリネに向ける。


「シアとネリネにハッキリ言うよ。キミたち二人は身体に別の魂を取り込んでいるよね?」

「「!?」」

「クルス、どうしてお前がそれを!?」


シアとネリネとショウは驚愕の表情を浮かべてクルスを見ていた。

クルスはそれに関して知らないはずだ。


「やっぱりアイツが言った事は本当だったんだな」


恭介の言葉や自分の考えが確信に変わった事でクルスは両王に視線を向けた。


「お二方は僕が何を言いたいか分かりますよね?」

「あぁ。よく分かるぞ」

「つまり――シアちゃんとネリネちゃんの身体にある別の魂をメグリアスに憑依させるんだね?」

「えぇ…」


両王は顎に手を置いて考え始める。

シアとネリネは不安と期待を胸にそれを見つめている。












そして――


「僕は賛成だよ」

「お父様!」


魔王が神王よりも先に口を開いて答えを出した。

その魔王の言葉にネリネは瞳から涙を溜める。


「リコリスが戻ってくるのは僕にとって嬉しいからね。ネリネちゃんの為とはいえ死なせてしまったのは僕だから」


リコリスだって自分の娘なのだから、もう一度魔王はリコリスに会いたいのだ。


「クルスちゃん、リコリスを頼めるかい?」

「えぇ。あとは神王様だけですよ」


皆が神王に視線を向けると同時に神王がゆっくり口を開いた。











「俺は…賛成できねぇ」

「!?」

「シンちゃん…」


神王が出した答えは【反対】だった。

その言葉にシアは泣きそうな顔をして魔王は悲しげに顔を歪めている。


「………」


そしてその言葉を聞いていたショウも唇を噛み強く拳を握り締めていた。


「神王様、それは王としての答えなんですか?」


神王の言葉に拳を握り締めていたショウが真剣な表情で返した。


「…そうだ!もう一人のシアには魔族の血が流れているんだ。神族としてそれを認める訳にはいかない」


そう言った神王にショウが顔を歪めながらソファーから立ち上がって胸ぐらを掴んだ。


「ふざけるな!アンタ親だろ!?もう一人のシアの――キキョウの父親だろうが!王だから認めないだと!?それはアンタが逃げてるだけなんだよ!!」


ショウの言葉に神王は目を見開き怒りの表情で口を開く。


「ただのガキに何が分かる!!神王の娘が魔族の血を持っているなんて知られたら国は崩壊するんだぞ!!」


王としての答え――

親としての答え――

二つの選択に悩み苦しむ神王。

ショウは胸ぐらから手を離しながら口を開いた。


「よく聞け神王。アンタは一度でもキキョウと話した事があるか?アイツの気持ちを……キキョウ気持ちを考えた事があるのか?」


真剣に見つめるショウに神王は頭を抱えながら考え始めた。


「シア、キキョウと会いてぇか?」

「うん…」


力無く頷くシア。

神王はそれを見て深く息を吐いて考え始める。















そして――


「…クルス殿。キキョウと会わせてくれ!」

「お父さん!」

「ショウ殿の言った通りだ。俺はキキョウの気持ちを考えた事なんてなかった。親として最低だ!だがもう決めた…俺は王を辞める覚悟でキキョウを認める!」

「…分かりました」

「それに、俺が王を辞めても稟殿やショウ殿もいるし神界は安心だ」


笑いながら神王はショウの背中をバシバシ叩く。


「抜け駆けはダメだよシンちゃん。稟ちゃんはネリネちゃんとリコリスのものになるんだから」


親バカ二人の討論が始まり取り残された四人だった。


「それにしてもキキョウってのはショウ殿が考えたのか?」

「いや、俺とキキョウとシアの三人で考えまして…」

「おいおい!こりゃ何が何でもショウ殿には神界に来てもらわねぇとな!キキョウとショウ殿の結婚式は派手にやろうぜ!」


神王はもはや興奮でぶっちゃけすぎである。

何が何でもショウとキキョウを結婚させるつもりのようだ。


「それじゃあ、二人の許可ももらったしシアにネリネ準備はいい?」

「「はい!」」

「ショウも少し手伝って。僕がメグリアスを使った瞬間、結界を張ってほしい」

「おぅ!任せな!」


クルスは黒のグローブを引っ張りメグリアスを手に取った。


『繋がれし魂よ、今新たな生命として我らの前に姿を現せ』


クルスの声と同時にメグリアスが光り二つに割れシアとネリネの前で浮かび上がると、シアとネリネの身体が光だしうっすらと別の魂が現れた。


『メグリアスよ!僕の願いを叶えたまえ。分離された魂をその身を器として定着させよ!』


メグリアスの形が変わっていき部屋を埋め尽くすように二つの光が輝いて、キキョウとリコリスの魂を定着させた。














しばらくして―――


「「…ん」」


光が収まってシアとネリネの傍にキキョウとリコリスが目を閉じて倒れていた。


「成功したのか?」


神王が信じられないような表情をしながらクルスに聞くと、


「一応成功しました。けどメグリアスとの交わりだったので身体が馴染むまで時間がかかります」

「でも、ちゃんと生きているんだよね」

「はい。シアとネリネも負担はないですし、キキョウとリコリスもしばらくしたら目を覚ますでしょう」


微かに笑みを浮かべるクルスに両王は互いに顔を見合わせて頷く。


「シア達は俺達で介抱させてくれ」

「親として、彼女達を見ておくよ」



クルスとショウは両王に背を向けて社長室を出ていこうとした時だった、


ドォォーーン!!


「「!?」」


少し離れた場所から大きな爆発音が二人の耳に聞こえてきた。


「今の爆発は…」


「稟達が遊びに行ってる遊園地の方から…!?」


ショウとクルスはハッと我に変えると急いで社長室から出ていった。


(レン、遊園地の方から感じる魔力はわかるか?)

(……結界が張られる前に感じた魔力はおそらく炎帝だと思います。つまり――)

(総也が現れたって事はあの人が動き出したか)

(どうしますマスター?)

(今は総也が先だ。今の戦力じゃ――)


イヴ達やなのは達がいても総也相手に勝てるか微妙だからな。

クルスは真剣な表情で遊園地を目指すのであった。
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