癒しの時間

~浜辺~

温泉でそんな処刑がされているとは知らないクルスはというと、


「あそこのホテルに土見稟と綾崎ハヤテがいるんやろ?」

「さぁね?僕が素直に教えると思う?」

「嫌な性格やな」

「僕がこうなったのはキミ達のせいだよ」


二人は未だに睨み合いながら話していた。

二人の耳に聞こえてくるのはお互いの声と波の音だけ。


「お前がそこまで切羽詰まってんのは身体が関係してるからか?それとも…あの幼馴じ「それ以上喋るな!」……ッ!」


恭介の頬から微かに血が流れたが恭介はニヤリと笑ってクルスを見ていた。


「どうやらアズールの言ってた通りやな。楽園大戦での戦いからなんやろ?お前の何かが変わってしもたんは」

「………………」


クルスの周りに冷たき殺気がさらに放出された。














△▼△▼△▼

温泉の処刑も終わってクルス以外のメンバーは大広間で食事をしていた。


「「宴だぁぁぁ~!!」」

先程からハイテンションで両王が酒を飲んでいる。

そして両王の周りには空の瓶が転がっていた。

トレインやシャオやクロードやディアスやアシュトンが同じように飲んでいたがすぐに酔っ払って気絶してしまった。


「ショウちゃ~ん!」

「亜沙先輩!酔ってるでしょ!?」


食事をしていたショウの背後から亜沙が抱きついてきた。

酒を飲んでいるようで頬が赤く呂律も回っていない。


「にょって、にゃいよ!」

「いやいや!!酔っていますよ!」


ショウがツッコミを入れていると襖が開いてスーツ姿のクルスが現れると、クルスの姿を見て片想いの女の子達がすぐに駆け寄ってくる。


「クルス!どこ行ってたの!?」

「私達心配だったんですよ」

「温泉にもいなかったってショウが言ってたから…」

「どっかに行ったのかと思ったんだよ」


フェイトや楓やイヴやレナ達に詰め寄られてクルスは冷や汗をかきながらも口を開いた。


「浜辺で星を見てたんだよ。綺麗だなぁって思って」

「私も一緒に行きたかったのに」


どこか拗ねたように呟くフェイトに苦笑しつつもクルスは謝る。


星を見ていたのは嘘ではない。

だけど恭介と会った事は言えない。

アイツと会った事を話す訳にはいかない。


「じゃあ!クルスちゃんも来たことだし」

「あぁ、そうだな」


両王は再び酒を握りながら声を揃える。


「「宴だぁぁぁ~!!」」












「成程ね、温泉に血がついてたり壁が破壊されてたのは樹達が覗きをしようとしたからだったんだね」

「あぁ、修理が大変だろ?」


稟から事情を聞いてクルスはしばらく考えていたが、


「三日あれば直るよ。ただ樹達には罰を与えなきゃいけないね」


クルスはゆっくり立ち上がりボロボロの樹達に近づいていくと、


「冷たい!?いや痛い…ヒリヒリするーー!!」

「クルス!傷口に氷はやめてくれ!痛い痛い痛い!染みるぞーー!」


ボロボロのメンバーはクルスの氷によって地味に罰を受けていた。


「これはこれで新しい世界がぁぁぁーー!!」


しかし樹だけは変態発言をしていた。











△▼△▼△▼

「それでは楽しい楽しい王様ゲームを始めまーす!」


はやてが割り箸の入った缶を掲げながらテンションを上げた状態で宣言すると、


「よっしゃぁぁぁー!」

「俺達の時代はまだ終わってはいなかった!」

「次こそは天国を目指すぞ!」


再び変態軍団が立ち上がり生き生きとしている。

クルスはそんな変態軍団を再び氷付けにしようかと魔力を溜めたが、


「………ッ!」


指先に電撃が走ったように痛みがきてしまい魔力を溜めるのをやめた。

アイツの力のせいでユニゾンなしでほとんど魔法は使えない。


「………」


微かに痛みで顔を歪めていたクルスをフェイトが不安気に見つめていたがクルスは気づいていなかった。

本当に微かな歪みで誰も気づいていなかったのにフェイトだけは気づいてただじっとクルスを見続けている。

クルス、今痛がってた?

もしかしてケガしてるのかな?

でも何も言わないから大丈夫なのかな?


「……ちゃーん……フェ……ちゃーん!フェイトちゃーん!」

「……なっ、何?どうかしたはやて?」

「いや、さっきから呼んでたんやけど」

「ごめんね。ちょっと考え事してて」


申し訳なさそうに謝るフェイトにはやてはそっと耳元に口を寄せると、


「そんなにクルス君見つめてたらクルス君も恥ずかしいと思うで…」


はやての言葉にフェイトは我に返り顔を赤くするのであった。


「じゃあ、全員一斉に引いてな!」


大人数だが全員が割り箸を握って勢いよく引いた。


『王様だぁーれ?』

「私だ…」


王様を引いたのはザフィーラのようだったが何か企んでいるようでニヤリと笑っている。


「6番が8番を膝枕する!」

メンバーは一斉に自分の割り箸を見て番号を確認する。

6番と8番は――


「僕が6番…」

6番を持っていたのはユーノで、


「バババババ…バカな!?この俺が8番だと!」


8番を持っていたのはジェノスだったようで、ユーノとジェノスは顔を真っ青にしている。

男同士の膝枕――

爆笑になりそうだったので、理沙がビデオを撮っていた。














「次や!皆行くで!」


女性陣+変態軍団は力強く頷きながら割り箸を握って勢いよく引いた。


『王様だぁーれ?』

「フハハ!!この私だ!」


王様を引いたのは美希でショウやクルス達は嫌な予感を感じた。


「ならば5番と10番が………皆の前で口づけだ!王様ゲームといったらこれに決まっている!」

「ほぅ、なかなか面白い命令だな。流石は美希だ」

「だろ?」


理沙と美希は親指を立てて笑い合っていた。

何て命令しやがる。

5番と10番は――


「俺だ…」


5番はショウのようで10番は、


「この戦い私の勝ちなの!」


高町なのはが力強く割り箸を天に掲げていた。

すると次の瞬間空気が凍り付く。

はやてと亜沙と咲夜の瞳からハイライトが消える横で樹やジェノス達は男泣きしていた。


「さぁ!二人とも私達に気にせずやれ!」

「そうだ!二人っきりだと思って楽しみたまえ」


そう言いながらビデオカメラを構えている美希と理沙。


「ビデオカメラ構えられてんのにできるかぁ!!」


突然のようにショウが怒鳴ると、


「ショウ君のファーストキスは私のものー!」


なのははビデオカメラなど気にせずショウにキスをしてショウを逃がさないようにガッチリ抱き締める。

二人の光景だけ見ると幸せなのだろうがその周りはかなり冷たい空気に包まれていた。

はやてと亜沙と咲夜が呪詛を唱えているのか顔を俯かせてぶつぶつと呟いている。

下手なホラーより恐ろしい光景に数人の女性が涙目になったのは言うまでもない。


「次や!次こそは!」


再び全員が割り箸を引いて、


『王様だぁーれ?』

「覚悟しろよお前ら!」


王様は先程なのはとキスした男ショウである。

ショウは何故かクルスを見ながら口を開く。


「3番が9番に愛の告白だ!」

「あれ?確かに僕が3番だけど何で分かったの?」


まさか自分の番号を言われるとは思わなかったクルスは目をパチパチしている。

ちなみに9番は――


「やった!」

「…んっ?9番はイヴ?」

「うん!」


嬉しそうに割り箸をクルスに見せるイヴにクルスはどう愛の言葉を伝えようか考えていたがクルスはこの時全く周りを見ていなかった。

ハイライトをなくしたフェイトと楓とレナがホラー映画顔負けの顔で見つめている事に。


「……テ、テスタロッサ?」

「かっ、かえちゃん?」

「レナ?」


シグナムとシアとディアスが三人に声を掛けると三人はぐるりと顔を向け三人はその顔に息をのむ。

先程まで笑っていたのに今は普通に怖い。

もう夢に出てきそうなほど怖いぞ三人とも。

今のテスタロッサと戦ったら確実にやられる。

恐怖でシグナムの膝は震えてシアはガタガタと身体を震わせる。

ディアスに至ってはあまりの変貌に意識を失っていた。


「イヴに伝えるならこれしかないね」


そんな恐ろしい空気の中クルスはイヴに視線を向けて口を開く。


「イヴ、キミが一人になる事はないよ。キミは僕が必ず守る。キミが笑顔でいてくれるだけで僕は戦えるよ」

「……クルス」


優しく微笑みながらイヴの頭を撫でるクルスにイヴは嬉しそうに頬を染める。

先程のショウの時のように二人の周りだけ幸せな空間に包まれていたが、


「ショウ、どう責任を取るつもりだい?」

「正直すまなかったと思っている」


樹の言葉にショウは本気で謝ってしまう。

フェイトと楓とレナのホラーな雰囲気にプリムラとクロードとアシュトンとディアスが気絶しており、ヴィータとナギとシアが部屋の隅っこで震えていた。

他にもセフィリアが冷や汗を流したり、リンディとセリーヌとエイミィが現実逃避をしていたのは余談である。


「クルス!」

「……んっ?」

「ありがとう!」


そしてお前ら二人はいい加減にしろ!

これ以上ホラー展開を広げるな。


「なぁ…まだやるのか?」


ショウが疲れたようにはやてを見ながら聞くと、


「まだや!まだ終われんのや!」

某赤い彗星のような言葉を言いながらはやては割り箸の缶を握り締めていた。


「私達だって稟君と何もしていないっす!」


シアとネリネが頷いて、


「ハヤテよ!待っていろ!私が王となってお前に命令してやるからな」


ナギもやる気満々だった。

ショウと稟とハヤテの三人は諦めて割り箸を引くことにした。


『王様…だぁーれ?』


「…やったぁぁぁー!!私だ!」


王様はシアだったようで、他の女性陣は肩を落としている。


「じゃあ、2番が王様を5分間お姫様ダッコだよ!」


2番は言うまでもなく、


「俺だ…」


稟である。


「りーん君!」


シアが目をキラキラさせて稟を見つめているが、その横ではネリネが羨ましそうに見つめている。

ショウやクルスの時と違い空間が温かい。

これが平和な空間かと数人涙を流す。


「シア!準備はいいな!」

「うん!いつでも!」


稟はシアをお姫様ダッコして5分間待っていたが、


「えへへ~」


シアがギュッと稟に抱きついて稟は必死に理性と戦っていた。









五分後―――


「…限界だ」


稟は真っ白になって燃え尽きていた。

しかもいい顔をして燃え尽きていて充分にシアとの時間を楽しんでいたようだ。


「なぁはやて…もう「嫌や!まだやりたい!」…」


はやてはまだ諦めていないようで割り箸の缶を握っている。


『王様だぁーれ?』

「可哀想な兎達に私がプレゼントしてあげよう」


理沙が王様だったようで、女性陣を見つめながら言った。


「それでは……7番が4番の頬にキスだ」


皆が一斉に自分の割り箸を確認する。

7番は――


「俺様だ!!」


緑葉樹だった。


4番は――


「……また俺かよ」


ジェノスだったようで悔しそうに割り箸を持っている。


「すまん…間違えてしまった」


理沙は女性陣を見ながら謝罪して樹とジェノスの写真を撮っていた。
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