ロスト・ワールドへ

でも彼と一緒に戦ってきて色んな経験をして強くなれた。

だからこそこれは僕なりの恩返しでもある。


「リン・シャオリー、セイレーン行きます!」


ラファスを倒せるのは二人だ。

だから二人の障害は僕達で必ず排除する。


「やれやれ…」


シャオリーの決意を目にしながら苦笑するジェノス。

ジェノスはこの戦いを必ず生き残ると決めていた。

何故なら元の世界にいる誰よりも大切な女性と再び会うために。


「ジェノス・ハザード、エクスリオン行くぜ!」


リンスちゃんに会うためにも負けられないよな。

また前みたいに抱き締めてあげなきゃいけないしね。


「クルス…」

「…トレイン」


ジェノスが出撃してトレインはクルスに近寄ると、いつもの笑みを浮かべた状態でクルスの頭を軽く小突く。


「お前と出会ってから色々あったけど退屈しない日々だったぜ」

「まるで最後のセリフみたいだよトレイン」

「バーカ!そんな訳あるかよ。俺は自由気ままな黒猫だぜ。そんな簡単に死ぬかよ。だからお前も――」


真剣な表情でトレインはクルスの胸を軽く叩き、お前も死ぬんじゃねぇぞと口にする。


「んじゃま行くか!トレイン・ハートネット、ハーディス行くぜ!」


不吉を届けに行く黒猫をまるで守るように浴衣を着た女性が寄り添っており、その微かな温もりをトレインは感じたのか浮かべていた笑みが深くなる。


「さて次は俺様か」

「樹、稟のサポートはキミに任せるよ」

「言われなくても分かっているさクルス。キミこそラファスを止めるんだよ」


いつになく真剣な表情を浮かべながら樹はクルスを見つめる。

クルスの裏切りから始まった戦い。

クルスが死んだと聞かされた時、涙を流した者達を樹はただ見つめる事しか出来なかった。

いつもはフォロー役をしていたのに何も―――

あんな思いはもうたくさんだ!


「キミには帰りを待っている人達がいる。キミを誰よりも想っている人がいる。皆の思いを無駄にしないでくれよクルス」

「樹…」

「緑葉樹、デュオスクロイ出るよ!」


樹もまた自分の帰りを待っている女性の為にも生き残ると決意する。

たった一人の女性の為に戦うなんて俺様も変わったな。


「…クルス」

「イヴ…」

「私はもう大丈夫だよ。クルスの想いを知れてスッキリしたもん。でもね――」


イヴはギュッとクルスに抱きつき目を閉じる。

私はこの温もりが大好きだった。

優しくてあったかいクルスの事は今でも好き。


「私はクルスと出会って強くなれたよ。ありがとう」


優しく微笑みながらイヴは一度だけフェイトの方に視線を向けて次に戦場の方へと視線を向ける。


「アダム、私と一緒に頑張ろうね。イヴ、そのパートナーアダム出ます!」


戦いが終わったらスヴェンやティアーユと今までの事を話そう。

クルスと出会って色々経験した話や私が変われた話をいっぱい。

クルスの事を話したらスヴェンは怒るかな?

ティアーユは何て言うだろうか?


「本当に楽しかったよクルス」


イヴの瞳から一筋の涙が流れていくが、その涙が流れ終わる頃には真剣な表情へと変わっていた。

そして―――

ナデシコのハッチにはクルスとフェイトだけが残っていた。

フェイトはバリアジャケットを纏いバルディッシュを手にしながらクルスと向き合う。


「クルス、私ねいっぱいクルスから元気をもらった。だから戦場でも頑張れる。でも出撃する前にお願いがあるの」

「お願い?」


フェイトはバルディッシュを一度床に置くとクルスに抱き付いて見上げるように顔を上げる。

ただ一言だけクルスの口から聞きたいことがある。


「帰ってくるよね?」

「……えっ?」

「闇の書事件の時みたいにいなくなっちゃ嫌だよ」


不安気な表情を浮かべながら涙を浮かべるフェイトにクルスは優しく笑みを浮かべる。


「……クルス」

「僕は死なないよ。だからフェイトも気をつけて」


帰ってくるとは口にしないがそれでもクルスは死なないと言ってくれた。

ならきっと私は信じるだけだ。

クルスが帰ってきてくれる事を。


「…フェイト」

「クルス…」


クルスとフェイトはただお互いを愛おしいように見つめると静かに口づけを交わす。

そっと触れるだけの優しい口づけだが二人の表情には笑みが浮かんでいる。


「先に戦場で待ってるねクルス」

「…うん」


クルスから離れてフェイトはバルディッシュを手にして闘志を宿す。


「フェイト・T・ハラオウン、バルディッシュアサルト出ます!」


金色の閃光がナデシコから出撃する。

私は信じてるからねクルス。

貴方が私の元に帰ってきてくれる事を。


『マスター…』

「………」


ナデシコに残るクルスはレンとユニゾンして、その姿を最終フォームのフリーダムに変える。

一度閉じられていた瞳が開いた時にはヤマトと戦った時のように光をなくし思考がクリアな状態になっていた。


「これでラファスとユリナとの戦いを終わらせる。そして――」











△▼△▼△▼


ナデシコでクルス以外の者達が出撃していた同時刻、アースラでもショウ達が出撃準備をして戦場へと向かっていた。


「さっさと終わらせてコレットとシルヴァラントに帰らないとな。氷室将輝、バルベリウス出るぜ!」


いつものようにどこか楽しそうに笑う将輝に、コレットは静かに目を閉じて祈りながら見送る。

「悠季!」

「大丈夫だよシリア。ちゃんと帰ってくるから安心しろ」

「……うん」


将輝が出撃したのを確認して次は悠季が剣を手にして出撃する。

その前にシリアの頭を優しく撫でるのは忘れず、ちゃんと帰ってくる事を伝えるとシリアは小さく頷くのみ。


「神那悠季、ダブリス出る!」


悠季が出撃すると次は黒い大剣を担いだ直樹が一度息を吐く。

こんなギリギリの戦いは初めてだが悪くはないな。

頼れる仲間達もいるなら俺は精一杯戦うだけだ。


「小玉直樹、シンクレア行くぜ!」


直樹が出撃していく姿を彼女である姫が必ず帰ってきてね、とコレットと同じように祈る。

その光景を横目に次は奏也と勇とデニスが顔を見合わせながら口を開く。


「俺達も生きて帰ろうぜ」

「だな」

「帰ったらパーティーでもやるか?もちろん女子も参加でな!」


軽口を叩きながら三人はデバイスを起動させる。

すでに戦いは始まっているのだ。

早く自分達も参戦しないとな。


「霧宇奏也、アルテミス・ルナ行くよ!」

「天道勇、ゲートガード出るぞ!」

「デニス・ルヘイン、クライシス出る!」


奏也と勇とデニスが出撃して次は自分の番かと、湊はデバイスを起動させてバリアジャケットを纏う。

兄との戦いで覚醒した湊のバリアジャケットは金色の鎧へと変わり、背中に剣を背負い腰には銃が装着されている。

その湊の姿を見送りに来た叶はそっと湊の手を握りながら口を開く。


「帰ってきたらたくさん遊びに行こうね、湊君」

「あぁ。待ってて叶」

「うん!」


俺の帰るべき場所は叶の傍であり叶の笑顔をこれからも傍で見る為にもこの戦いに勝つ。

だから―――

兄さん、俺と一緒に戦ってくれ。


「有里湊、メタトロン行くよ」


湊の背中から灰色の翼が出現して湊はそれを羽ばたかせながら戦場へと出撃していく。


「次は俺達だな!」

「……かったるい」

「二人とも行きますよ!」


稟と純一とハヤテの三人はバリアジャケットを纏いながら脳裏には自分達の帰りを待っているラバーズ達の顔を思い浮かべていた。

シア達の想いも背負ったからな必ず勝つ。

音夢や皆の笑顔を守って約束したからな。

お嬢様やヒナギクさん達の明日の為にも。


「土見稟、リオウ出るぞ!」

「朝倉純一、フェン行くぜ!」

「綾崎ハヤテ、アルフィー行きます!」


それぞれの想いを胸に三人は出撃する。

自分達の目に映る魔獣やクローン兵士達。

戦いを終わらせる為に三人はデバイスを振るっていく。


「次は我らだな。アインスよ、主はやてを頼むぞ。烈火の将、シグナムとレヴァンティンに…」

『リインフォースツヴァイ』

『「出る(行くです)!!」』

「はやてを守るのが私の役目だからな。鉄槌の騎士ヴィータとグラーフアイゼン行くぜ!」

「シグナムのサポートは任せたわよツヴァイちゃん。湖の騎士シャマルとクラールヴィント行くわよ!」

「主の敵は排除するのみ。盾の守護獣ザフィーラ出るぞ!」


稟と純一とハヤテが出撃して次に出撃したのは八神はやての家族であるヴォルケンリッター達。

はやての未来と笑顔を守る為に皆が戦場へと出撃する。

誰一人欠けずに必ず帰ると、シグナム達は言葉にしないが互いに顔を見合わせていた。

家族の思いをはやてとユニゾンしていたアインスも感じとり小さく頷く。


『アナタは必ず私が、いえ私達家族が必ずお守りします。我が主八神はやて』

「頑張ろなリインフォース!夜天の書が主八神はやてと…」

『祝福の風、リインフォース!』

「『出る!!』」


アインスとユニゾンして黒い羽根を広げシュベルトクロイツを握りはやても戦場へと飛び立つ。

私も私の家族も誰一人死なせへん。

それだけじゃない。

この戦いで一緒に戦う仲間は誰一人や。


「さてと…」


はやて達が出撃したのを確認して次は僕かとクロノはデュランダルを起動させる。


「この戦いでの僕とはやての指揮はかなり重要だな。タイミングを間違える訳にはいかない。必ずショウとクルスをラファスの元まで辿り着かせてみせる!クロノ・ハラオウン、デュランダル出るぞ!」


この戦いに負ける訳にはいかない。

エイミィにも帰ってくると約束したしな。

それにアイツもフェイトの元に連れて帰るつもりだ。

だからこそ勝つぞこの戦い。


「じゃあ先に戦場で待ってるよショウ君」

「なのは…」


今アースラのハッチにはなのはとショウの二人しかいない。

ただ静まり返る場所でなのはゆっくりショウに抱きつくと力強く抱き締めていた。


「なのは?」

「クルス君と二人で戦うのは知ってるけど、やっぱり私は心配だよショウ君」


フューチャーの力を使うラファスには同じフューチャーの力を持つショウとクルスしか戦えない。

あの強大な力を持つラファスにたった二人で戦う。

かつて闇の書事件の時も二人だけでディアゴと戦っていた。

あの時の戦いでショウもクルスもかなりの怪我をしていたのをなのはは今でも覚えている。

あの時のようにならない為に強くなったけど結局自分は一緒には戦えない。

自分には自分の役目があるのだから。

だからなのははただ自分の気持ちを伝える。


「大好きだよショウ君。絶対に帰ってきてね」

「なのは…」

「私はいつでも傍にいるよ」


そう口にしてなのははそっとショウに触れるだけのキスを交わす。

優しく微笑みなのははレイジングハートを起動させた。


「必ずラファスやユリナさんを止める!高町なのはとレイジングハートエクセリオン行きます!」


真っ白なバリアジャケットを纏いなのはは出撃する。

帰ってきたら皆でショウ君とデートに行くんだ!

だから絶対に皆で帰るよレイジングハート!


「……ったく」


なのはと触れるだけのキスをして頬を赤く染めながら頭をかくショウ。

こりゃ負けられねぇよな。

負けるつもりもないがアイツと一緒にラファスとユリナさんを倒す。


「フローラ!」

『はい!マスター!』


ショウはフローラとユニゾンしアスカと戦った時のように瞳から光が消えて思考がクリアしていく。

そしてナデシコにいる親友の力を感じ取り念話をする。


『行こうぜクルス!俺とお前なら絶対に負けない。ラファスとユリナさんを倒せる!』

『あぁ、行くよショウ!』


アースラとナデシコにいる二人のフューチャーデバイスの使い手が同時に動き出す。


『クルス・アサヅキ、フューチャーデバイスがパートナーレン!モードフリーダム行きます!』

『ショウ・ヤナギ、フューチャーデバイスがパートナーフローラ!モードデスティニー出る!』


白と青色の翼を広げたクルスと赤紫色の翼を広げたショウが戦場へと飛び立つ。

本当に不思議なもんだ。

お前がこうして隣にいてくれるだけで負ける気がしない。

クルス、やっぱりお前は最高の親友で相棒だよ。


今ここに最後の戦いが始まる。

果たして勝つのは?

未来を守る者達か?

未来を奪う者か?











次回予告

勇人
「ラファスの元に向かおうとするショウとクルスの前に立ちはだかる者達。

ベルエスや巨大兵器がいつ発射されるか分からないこの戦いでクロノさんとはやてが動く―――

次回S.H.D.C.―――
第五十七話―――
『戦い、残された時間』にドライブイグニッションだ!」
2/2ページ
スキ