それぞれの時間(後編)
「……何かなのはちゃんのせいでいろいろ段階がすっとんでもうたけど」
やれやれとため息を吐きながらはやてはゆっくりショウに近づいていく。
さっきはなのはちゃんが大胆にやったり言っとったけど、私の気持ちもなのはちゃんと同じ気持ちや。
私だってショウ君の事が―――
「ショウ君」
「はやて」
なのはと同じように片膝をついてジッとショウを見つめる。
その瞳は先ほどのなのは同様愛おしいそうにショウを見つめ頬も赤く染まっていた。
「最初に意識したのは闇の書事件で苦しんでた私を励ましてくれた時。胸が痛くて泣きそうな時もあったけど、ショウ君がいてくれたから私は耐えれたんや。そりゃヴィータ達もおったけどそれでもショウ君の言葉が行動が嬉しかった。そんで次はショウ君が大怪我した時やな」
はやての言葉になのはは顔を俯かせる。
二人だけじゃない。
あの時の事を知る者達は今でも忘れられない事件。
なのはを庇い意識不明で眠り続けた日。
あの日なのはだけじゃない。
はやてもショウの怪我した姿を見て泣きじゃくっていた。
「あの日から私の中でショウ君の存在が誰よりも大きくなったんや。傍にいたい。ずっと隣にいたい。そして―――」
貴方が大好きってずっと言いたかったんよ。
そうショウにだけ聞こえるように呟き、はやてはショウに近づいてなのはと同じように口付けを交わす。
そっと触れるだけの口付けを交わしてはやては満足したように頬を赤く染めながら微笑む。
自分の想いを告げて満足したのかはやてはショウの背後に回り顔を隠すように抱きつく。
「はやて…」
「ちょっと今はこっちを見んといて。恥ずかしくてショウ君の顔見られへん」
顔が熱くて心臓が病気になりそうなほど高鳴る。
高鳴る音は止まる事なくはやての耳に届きはやてはただジッとしている。
皆の前で告白とか恥ずかしすぎるわ。
なのはちゃん、暴走してたとはいえようキスから告白までできたな。
私はまだこのドキドキ止まりそうにないわ。
チラリとなのはの方を見るはやては気づいた。
なのはの耳が真っ赤に染まっている事に。
つまり――
そういう事なのだろう。
「二人とも凄いね。さすがにボクも驚いてるよ」
自分より年下の女の子二人の行動力に目を丸くしていた亜沙。
自分も二人同様に目の前で座っている男の子の事が大好きだ。
本当は年上のお姉さんとして余裕を持ちながら話そうとしたのに、二人の行動でダメになっちゃった。
でも―――
「ちょっとだけ勇気をもらえたかな」
心の中でなのはとはやてに感謝しつつ亜沙はショウに近づき真正面から抱きついた。
「亜沙先輩!?」
「驚かないの。すでに女の子二人に抱きつかれてるのに動揺しすぎだぞショウちゃん」
「………はい」
柔らかな笑みを浮かべる亜沙にショウはそれでも恥ずかしそうに笑う。
「最初は本当にただの後輩って思ってた。稟ちゃんや楓の友達でからかいがいがあるただの男の子。でも、ボクにとってショウちゃんが特別になったのはあの日だったんだよ」
ショウを抱き締める亜沙の力が少しだけ強くなる。
亜沙が高校二年生でショウが高校一年生の時に起きた出来事。
亜沙は体に強大な魔力を持たされて生まれた事で、幼い頃よりその魔力に苦しみながら生きてきた。
その魔力により亜沙は体調をよく崩し、倒れる事もあったほど追い詰められていた。
魔力を使わなければ亜沙はその魔力によって死ぬかもしれなかったのだ。
だが亜沙自身は絶対に魔力を使いたくなかった。
死ぬかもしれないとしても魔力を嫌う亜沙は使おうとはしなかったのだが、
「あの時ショウちゃんが命がけでボクを助けてくれた」
「…亜沙先輩」
ショウは亜沙の目の前で己のデバイスで自分自身を傷つけたのだ。
その時だけショウは亜沙を救うため、フローラに非殺傷を殺傷に切り替えてもらっていた。
それによりショウは大怪我を負い亜沙の目の前で倒れた過去がある。
あの時亜沙は大粒の涙を溢しショウに駆け寄り大嫌いな魔力を使いショウを助けたのだ。
「ボクを助ける為とはいえ無茶しすぎだよショウちゃん」
「でもあぁしなければ亜沙先輩は魔力を使わなかったでしょ?」
「だからってショウちゃんが傷ついていい訳じゃないでしょ?」
亜沙自身ショウに助けてもらって感謝している。
だがショウが血だらけで倒れたあの光景は一生忘れる事はないだろう。
「ボクはねショウちゃん。あの日からキミの事が大好きになったんだよ。ボクはいつもショウちゃんの事ばっかり考えるようになっちゃった。なのはちゃん達と仲良くしている姿をみて嫉妬しちゃうし、二人っきりになってふと男らしい姿を見てドキドキだってする」
そして―――
これからもずっとずっと一緒にいたいと思えたんだよ。
この気持ちは誰にも負けないし負けたくない。
「なのはちゃんとはやてちゃんに先を越されちゃったけど……」
ニッコリと笑みを浮かべながら亜沙はショウと向き合う。
ショウちゃんのファーストキスは取られちゃったけど、ボクのファーストキスはショウちゃんにあげる。
「……んっ」
そっと触れるだけのキスをして満足気に笑う亜沙と最早顔を赤くするしかないショウ。
なのはが右腕に抱きついて、はやてが背中にしがみつき、亜沙が真正面から抱きついて体も全く動かせないショウにため息を吐きながらキキョウがゆっくり近付いてくる。
「ここまでいくと恥ずかしさもなくなるわね」
「…キキョウ」
左腕に抱きついて頭をショウの肩に乗せキキョウはポツリポツリと自分の想いを伝える。
「アンタと出会ったのはまだ私がシアの中にいた時だった。アンタは最初から私をシアじゃないと見抜いてた。それが最初は嬉しいと言うより驚きだったかしらね。それから時々シアの体を借りてアンタと話したり遊んだりしたのよね」
その時私の事を知らなかったなのはやはやて達にショウが砲撃されていたのは今でも忘れない。
でもそれが面白くもあり羨ましくもあった。
自分の気持ちを素直に伝えるなのは達に。
私はシアの中にいるだけでそれが出来なくて自分の気持ちにフタをしていた。
でもあの旅行の時にショウがお父さんに言ってくれたあの言葉。
『アンタ親だろ!?もう一人のシアの――キキョウの父親だろうが!王だから認めないだと!?それはアンタが逃げてるだけなんだよ!!キキョウの気持ちを考えた事があんのかよ!』
あの神王でもあるお父さんにあそこまで言ってくれたショウ。
あの言葉でシアの中にいた私は涙を流していた。
ショウの言葉が嬉しくてシアと分離するまでそれは止まらなかったのだ。
「本当にアンタに出会えてよかった。アンタがいてくれたから私はここにいるの。ありがとうショウ。大好きよ」
チュッとリップ音が耳に届くようなキスをしてキキョウは嬉しそうにショウに寄り掛かる。
私は私でいいんだ。
シアの裏人格じゃなくキキョウとしてこれからもずっとショウの隣にいる。
なのはにもはやてにも亜沙にも咲夜にも負けないんだから。
「…………はぁぁぁー」
今の光景を見つめ頭を抱えて一度天井を見上げながら呆れたように咲夜は視線をショウに向ける。
右腕になのはで背中にはやてで真正面には亜沙先輩がおって左腕にはキキョウ。
ウチの場所なくないか?
この泥棒猫共め。
自分達が終わったら満足なんか知らへんけどまだウチがおる事を忘れとらへんか?
「四人とも!」
「「「「!?」」」」
咲夜の大声でビクリと体を震わせる四人。
ドスの効いた声に四人は咲夜に視線を向けると、
「今からウチもショウに言いたい事あるしどいてもらえるか?」
「でも咲夜ちゃん…」
「自分等は告白にキスもしたしえぇやんか。ウチだけなしとかさすがに―――」
それ以上は言わない咲夜だがニッコリと笑い握り拳を作り青筋を浮かべる姿に四人は渋々離れていく。
やれやれと呆れつつも咲夜はショウに近付くと、
「ショウ!」
「はっ、はい!」
「ちょっと立ってもらえるか?」
「あっ、あぁ…」
ベッドに座っていたショウはゆっくり立ち上がり咲夜と向かい合うとギュッとショウに抱きついて口を開いていく。
「こんなにたくさんの女の子からキスされてモテモテやなーショウ」
「さ、咲夜?」
「なのはやはやてはアンタと付き合いが長い。亜沙先輩は命を助けてもらった。キキョウは存在証明。ウチには何があるんや?」
なのはやはやては魔法関係で小学生からの付き合い。
亜沙先輩は中学からだがショウは自分の体を犠牲にして助けた。
キキョウは親を説得して今こうしてシアと離れて生きている。
でもウチは?
ウチとショウの中でそんな綺麗な思い出はない。
それがどうしようもなく悔しい。
ウチも中学の時にショウと出会って、ナギや伊澄さんやワタル達より一緒にいた時間が長かった。
ウチのワガママをいつも聞いてくれたショウ。
ウチの漫才やコントになんやかんや付き合ってくれたショウ。
ショウといる時間が段々大事なものになっていった。
「ウチは……」
ギュッと抱きつく力が強くなり瞳に涙が浮かぶ咲夜。
「ずっとアンタの傍にいたいと思って悪いか!アンタを大好きになってダメやったんか!しょうがないやんか!ウチの中でショウの存在が大きくなっていったんや!ショウといる時間がウチにとってどれだけ大事か!」
「咲夜……」
涙を流す咲夜にショウは困惑していた。
いつも笑ったり怒ったりしていた咲夜だが、涙を流したことは一度もなかった。
いや―――
俺自身が気づかなかっただけで咲夜は泣いていたのかもしれない。
それなのに俺は―――
「ウチだって女の子なんやで。好きな人と一緒にいたいって思うに決まっとるやろ。好きやショウ!ウチはアンタの事が誰よりも大好きや…!」
ショウから離れて勢いよくショウの体をベッドに押し倒して、ショウに抱きつき涙を流しながら自分の気持ちを伝える咲夜にショウは優しく頭を撫でると、
「咲夜…」
「女の子が泣いてるんやから黙って頭を撫でときい!」
「ごめんな。お前に辛い思いを……」
「やったら!態度で示してやショウ。何をするかわかるやろ?」
それはつまりショウから咲夜にキスをするという事である。
さっきまでされるがままだったショウは恥ずかしそうに頬をかくと、
「泣くなよ咲夜」
「……ショウ」
そう口にして咲夜にキスをするショウに咲夜は嬉しそうに笑いながら目を閉じていた。
ショウからのキス―――
あぁ、これはクセになりそうや。
あかんさっきまでの悔しいとか悲しいとかの気持ちが嘘みたいになくなっとる。
「……ったく」
「女の子のファーストキス奪っといてため息はひどないか?」
「何でジト目で見るんだよ!?」
そんな甘い空気にさっきまでショウと離れていた四人は、
「咲夜ちゃん、少し頭冷やそうか」
「押し倒しにショウ君からのキスやと……っ!」
「あ~今日はどれだけ驚けばいいんだろうねー」
「ショウのスケベ!咲夜も何て羨ましい事を!」
二人の瞳から光が消えて、二人は目を丸くして驚いていた。
今にもバトルに発展しそうな状況で咲夜はニヤリと笑うと、
「四人はショウにキスした側やけど、ウチはショウからしてもらった。これは――」
フッと笑う咲夜に四人は顔を俯かせるとゆっくりとショウに近づいて、
「ショウ君、もちろん分かってるよね?」
「私らにももちろんやってくれるんやろな?」
「まさか咲夜ちゃんだけとは言わないよね?」
「ハッキリしなさいよショウ!」
いつの間にか五人はショウを囲うように座り、ショウの体はなのはとはやてのバインドにより拘束されている。
「あの~五人とも?これでは体が動かせないんですが……えっ?もう関係ない?はっ!?ちょっ、待て!待て待て待て待て待て!怖いんだが五人とも!やめっ?やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
結局ショウはショウだったようだ。
最終決戦前なのにいつも通りのショウだがこれはこれでよかったのかもしれない。
それぞれがそれぞれの時間を過ごしていく。
世界を守る為に―――
未来を守る為に―――
全てをかけた戦いまでもう少し。
次回予告―――
悠季
「それぞれの時間は過ぎていき、ついにラファスやユリナがいる場所に向かう者達。最後の戦いが今こうして始まる。
次回S.H.D.C.第56話――
【ロストワールドへ】にドライブイグニッション!」
やれやれとため息を吐きながらはやてはゆっくりショウに近づいていく。
さっきはなのはちゃんが大胆にやったり言っとったけど、私の気持ちもなのはちゃんと同じ気持ちや。
私だってショウ君の事が―――
「ショウ君」
「はやて」
なのはと同じように片膝をついてジッとショウを見つめる。
その瞳は先ほどのなのは同様愛おしいそうにショウを見つめ頬も赤く染まっていた。
「最初に意識したのは闇の書事件で苦しんでた私を励ましてくれた時。胸が痛くて泣きそうな時もあったけど、ショウ君がいてくれたから私は耐えれたんや。そりゃヴィータ達もおったけどそれでもショウ君の言葉が行動が嬉しかった。そんで次はショウ君が大怪我した時やな」
はやての言葉になのはは顔を俯かせる。
二人だけじゃない。
あの時の事を知る者達は今でも忘れられない事件。
なのはを庇い意識不明で眠り続けた日。
あの日なのはだけじゃない。
はやてもショウの怪我した姿を見て泣きじゃくっていた。
「あの日から私の中でショウ君の存在が誰よりも大きくなったんや。傍にいたい。ずっと隣にいたい。そして―――」
貴方が大好きってずっと言いたかったんよ。
そうショウにだけ聞こえるように呟き、はやてはショウに近づいてなのはと同じように口付けを交わす。
そっと触れるだけの口付けを交わしてはやては満足したように頬を赤く染めながら微笑む。
自分の想いを告げて満足したのかはやてはショウの背後に回り顔を隠すように抱きつく。
「はやて…」
「ちょっと今はこっちを見んといて。恥ずかしくてショウ君の顔見られへん」
顔が熱くて心臓が病気になりそうなほど高鳴る。
高鳴る音は止まる事なくはやての耳に届きはやてはただジッとしている。
皆の前で告白とか恥ずかしすぎるわ。
なのはちゃん、暴走してたとはいえようキスから告白までできたな。
私はまだこのドキドキ止まりそうにないわ。
チラリとなのはの方を見るはやては気づいた。
なのはの耳が真っ赤に染まっている事に。
つまり――
そういう事なのだろう。
「二人とも凄いね。さすがにボクも驚いてるよ」
自分より年下の女の子二人の行動力に目を丸くしていた亜沙。
自分も二人同様に目の前で座っている男の子の事が大好きだ。
本当は年上のお姉さんとして余裕を持ちながら話そうとしたのに、二人の行動でダメになっちゃった。
でも―――
「ちょっとだけ勇気をもらえたかな」
心の中でなのはとはやてに感謝しつつ亜沙はショウに近づき真正面から抱きついた。
「亜沙先輩!?」
「驚かないの。すでに女の子二人に抱きつかれてるのに動揺しすぎだぞショウちゃん」
「………はい」
柔らかな笑みを浮かべる亜沙にショウはそれでも恥ずかしそうに笑う。
「最初は本当にただの後輩って思ってた。稟ちゃんや楓の友達でからかいがいがあるただの男の子。でも、ボクにとってショウちゃんが特別になったのはあの日だったんだよ」
ショウを抱き締める亜沙の力が少しだけ強くなる。
亜沙が高校二年生でショウが高校一年生の時に起きた出来事。
亜沙は体に強大な魔力を持たされて生まれた事で、幼い頃よりその魔力に苦しみながら生きてきた。
その魔力により亜沙は体調をよく崩し、倒れる事もあったほど追い詰められていた。
魔力を使わなければ亜沙はその魔力によって死ぬかもしれなかったのだ。
だが亜沙自身は絶対に魔力を使いたくなかった。
死ぬかもしれないとしても魔力を嫌う亜沙は使おうとはしなかったのだが、
「あの時ショウちゃんが命がけでボクを助けてくれた」
「…亜沙先輩」
ショウは亜沙の目の前で己のデバイスで自分自身を傷つけたのだ。
その時だけショウは亜沙を救うため、フローラに非殺傷を殺傷に切り替えてもらっていた。
それによりショウは大怪我を負い亜沙の目の前で倒れた過去がある。
あの時亜沙は大粒の涙を溢しショウに駆け寄り大嫌いな魔力を使いショウを助けたのだ。
「ボクを助ける為とはいえ無茶しすぎだよショウちゃん」
「でもあぁしなければ亜沙先輩は魔力を使わなかったでしょ?」
「だからってショウちゃんが傷ついていい訳じゃないでしょ?」
亜沙自身ショウに助けてもらって感謝している。
だがショウが血だらけで倒れたあの光景は一生忘れる事はないだろう。
「ボクはねショウちゃん。あの日からキミの事が大好きになったんだよ。ボクはいつもショウちゃんの事ばっかり考えるようになっちゃった。なのはちゃん達と仲良くしている姿をみて嫉妬しちゃうし、二人っきりになってふと男らしい姿を見てドキドキだってする」
そして―――
これからもずっとずっと一緒にいたいと思えたんだよ。
この気持ちは誰にも負けないし負けたくない。
「なのはちゃんとはやてちゃんに先を越されちゃったけど……」
ニッコリと笑みを浮かべながら亜沙はショウと向き合う。
ショウちゃんのファーストキスは取られちゃったけど、ボクのファーストキスはショウちゃんにあげる。
「……んっ」
そっと触れるだけのキスをして満足気に笑う亜沙と最早顔を赤くするしかないショウ。
なのはが右腕に抱きついて、はやてが背中にしがみつき、亜沙が真正面から抱きついて体も全く動かせないショウにため息を吐きながらキキョウがゆっくり近付いてくる。
「ここまでいくと恥ずかしさもなくなるわね」
「…キキョウ」
左腕に抱きついて頭をショウの肩に乗せキキョウはポツリポツリと自分の想いを伝える。
「アンタと出会ったのはまだ私がシアの中にいた時だった。アンタは最初から私をシアじゃないと見抜いてた。それが最初は嬉しいと言うより驚きだったかしらね。それから時々シアの体を借りてアンタと話したり遊んだりしたのよね」
その時私の事を知らなかったなのはやはやて達にショウが砲撃されていたのは今でも忘れない。
でもそれが面白くもあり羨ましくもあった。
自分の気持ちを素直に伝えるなのは達に。
私はシアの中にいるだけでそれが出来なくて自分の気持ちにフタをしていた。
でもあの旅行の時にショウがお父さんに言ってくれたあの言葉。
『アンタ親だろ!?もう一人のシアの――キキョウの父親だろうが!王だから認めないだと!?それはアンタが逃げてるだけなんだよ!!キキョウの気持ちを考えた事があんのかよ!』
あの神王でもあるお父さんにあそこまで言ってくれたショウ。
あの言葉でシアの中にいた私は涙を流していた。
ショウの言葉が嬉しくてシアと分離するまでそれは止まらなかったのだ。
「本当にアンタに出会えてよかった。アンタがいてくれたから私はここにいるの。ありがとうショウ。大好きよ」
チュッとリップ音が耳に届くようなキスをしてキキョウは嬉しそうにショウに寄り掛かる。
私は私でいいんだ。
シアの裏人格じゃなくキキョウとしてこれからもずっとショウの隣にいる。
なのはにもはやてにも亜沙にも咲夜にも負けないんだから。
「…………はぁぁぁー」
今の光景を見つめ頭を抱えて一度天井を見上げながら呆れたように咲夜は視線をショウに向ける。
右腕になのはで背中にはやてで真正面には亜沙先輩がおって左腕にはキキョウ。
ウチの場所なくないか?
この泥棒猫共め。
自分達が終わったら満足なんか知らへんけどまだウチがおる事を忘れとらへんか?
「四人とも!」
「「「「!?」」」」
咲夜の大声でビクリと体を震わせる四人。
ドスの効いた声に四人は咲夜に視線を向けると、
「今からウチもショウに言いたい事あるしどいてもらえるか?」
「でも咲夜ちゃん…」
「自分等は告白にキスもしたしえぇやんか。ウチだけなしとかさすがに―――」
それ以上は言わない咲夜だがニッコリと笑い握り拳を作り青筋を浮かべる姿に四人は渋々離れていく。
やれやれと呆れつつも咲夜はショウに近付くと、
「ショウ!」
「はっ、はい!」
「ちょっと立ってもらえるか?」
「あっ、あぁ…」
ベッドに座っていたショウはゆっくり立ち上がり咲夜と向かい合うとギュッとショウに抱きついて口を開いていく。
「こんなにたくさんの女の子からキスされてモテモテやなーショウ」
「さ、咲夜?」
「なのはやはやてはアンタと付き合いが長い。亜沙先輩は命を助けてもらった。キキョウは存在証明。ウチには何があるんや?」
なのはやはやては魔法関係で小学生からの付き合い。
亜沙先輩は中学からだがショウは自分の体を犠牲にして助けた。
キキョウは親を説得して今こうしてシアと離れて生きている。
でもウチは?
ウチとショウの中でそんな綺麗な思い出はない。
それがどうしようもなく悔しい。
ウチも中学の時にショウと出会って、ナギや伊澄さんやワタル達より一緒にいた時間が長かった。
ウチのワガママをいつも聞いてくれたショウ。
ウチの漫才やコントになんやかんや付き合ってくれたショウ。
ショウといる時間が段々大事なものになっていった。
「ウチは……」
ギュッと抱きつく力が強くなり瞳に涙が浮かぶ咲夜。
「ずっとアンタの傍にいたいと思って悪いか!アンタを大好きになってダメやったんか!しょうがないやんか!ウチの中でショウの存在が大きくなっていったんや!ショウといる時間がウチにとってどれだけ大事か!」
「咲夜……」
涙を流す咲夜にショウは困惑していた。
いつも笑ったり怒ったりしていた咲夜だが、涙を流したことは一度もなかった。
いや―――
俺自身が気づかなかっただけで咲夜は泣いていたのかもしれない。
それなのに俺は―――
「ウチだって女の子なんやで。好きな人と一緒にいたいって思うに決まっとるやろ。好きやショウ!ウチはアンタの事が誰よりも大好きや…!」
ショウから離れて勢いよくショウの体をベッドに押し倒して、ショウに抱きつき涙を流しながら自分の気持ちを伝える咲夜にショウは優しく頭を撫でると、
「咲夜…」
「女の子が泣いてるんやから黙って頭を撫でときい!」
「ごめんな。お前に辛い思いを……」
「やったら!態度で示してやショウ。何をするかわかるやろ?」
それはつまりショウから咲夜にキスをするという事である。
さっきまでされるがままだったショウは恥ずかしそうに頬をかくと、
「泣くなよ咲夜」
「……ショウ」
そう口にして咲夜にキスをするショウに咲夜は嬉しそうに笑いながら目を閉じていた。
ショウからのキス―――
あぁ、これはクセになりそうや。
あかんさっきまでの悔しいとか悲しいとかの気持ちが嘘みたいになくなっとる。
「……ったく」
「女の子のファーストキス奪っといてため息はひどないか?」
「何でジト目で見るんだよ!?」
そんな甘い空気にさっきまでショウと離れていた四人は、
「咲夜ちゃん、少し頭冷やそうか」
「押し倒しにショウ君からのキスやと……っ!」
「あ~今日はどれだけ驚けばいいんだろうねー」
「ショウのスケベ!咲夜も何て羨ましい事を!」
二人の瞳から光が消えて、二人は目を丸くして驚いていた。
今にもバトルに発展しそうな状況で咲夜はニヤリと笑うと、
「四人はショウにキスした側やけど、ウチはショウからしてもらった。これは――」
フッと笑う咲夜に四人は顔を俯かせるとゆっくりとショウに近づいて、
「ショウ君、もちろん分かってるよね?」
「私らにももちろんやってくれるんやろな?」
「まさか咲夜ちゃんだけとは言わないよね?」
「ハッキリしなさいよショウ!」
いつの間にか五人はショウを囲うように座り、ショウの体はなのはとはやてのバインドにより拘束されている。
「あの~五人とも?これでは体が動かせないんですが……えっ?もう関係ない?はっ!?ちょっ、待て!待て待て待て待て待て!怖いんだが五人とも!やめっ?やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
結局ショウはショウだったようだ。
最終決戦前なのにいつも通りのショウだがこれはこれでよかったのかもしれない。
それぞれがそれぞれの時間を過ごしていく。
世界を守る為に―――
未来を守る為に―――
全てをかけた戦いまでもう少し。
次回予告―――
悠季
「それぞれの時間は過ぎていき、ついにラファスやユリナがいる場所に向かう者達。最後の戦いが今こうして始まる。
次回S.H.D.C.第56話――
【ロストワールドへ】にドライブイグニッション!」