それぞれの時間(後編)

今回の事件で管理局の闇を知ってしまった主はやて。

しかしそれを聞いた主はやての心は管理局を変えるという気持ちに火がついていた。

まだまだ時間はかかるし反対だってされると分かっていても主はやてはいつか叶えてみせるとやる気になっていた。

ならば私達は主はやてを守るのみ。

それが夜天の書の守護騎士達の生きる理由なのだから。


「じゃあ!次は僕達のチームとそっちのチームで戦いだよ!」

「へっ!私らに勝つつもりかよ!」

「成長した僕やシュテルや王様やユーリの力を受けてみろー!」

「ぬあっ!?」


どうやら模擬戦がヒートアップしたようで、いつの間にか参戦するはめになるアインスとディアーチェとユーリの三人。

すでにシグナム達は準備が整っておりやる気になっていて、マテリアルズのレヴィとシュテルも準備万端でディアーチェとユーリの横に並んでいた。

自分達が知らない間にそんな事になっているとは思わなかったディアーチェは目を丸くして驚く。


「王様!アイツらをぶっとばしちゃえ!」

「何故急にそんな事になっておるのだ!?」

「ディアーチェ、特にあのちびっこじゃなくロリではなく鉄槌の騎士に最大魔法をお願いします」

「シュテルまで何を言っておるのだ!?……って痛い!痛い!我の肩を強く掴むでない!」

「ディアーチェ!ガンバです!」

「ユーリに至っては止める気すらないではないか!三人とも我を何だと思っておるのだ!」


ディアーチェ達のやり取りを見ながらアインスは楽しそうに微笑む。

今だけは本当に平和だな。

これがラファスとの決戦前とは思えないほど穏やかな時間だ。

この時間を失わない為にもラファスをユリナ・ミドカルドを必ず倒す。

主はやての未来もだが今あるこの光景を失わない為にも。


「ザフィーラ!まずはお前から先制してこい!」

「我は盾の守護獣なのだが?」

「一番手をお前に譲るんだ。遠慮せずにやってこい!」

「そんな悔しそうに言うならヴィータやシグナムでいいのでは……」

「ザフィーラ!メガトンパンチよ!」

「シャマルに至っては何を言ってるんだ?」


夜天の守護騎士もなかなか主はやてや主はやてのご友人に毒されたようだ。

本当に楽しい時間だな。





訓練所で激しい模擬戦が行われている時、アースラのとある一室ではクロノとエイミィとリンディが話をしていた。


「いよいよラファスやユリナさんとの戦いか」

「クルス君の戦いから本当にあっという間にここまできたんだね」


本当に戦っていたばかりだな。

クルスとの戦いに四柱での戦いにラファスとの邂逅にジョーカーズや協力者との戦い。

その戦いで消えない傷もできてしまったしな。


「……クロノ君」


無意識にお腹に手を当てるクロノにエイミィは悲し気な表情を浮かべる。

四柱でボルキアとの戦いでクロノ君の体に消えない傷痕が残った。

それを見た時は本当に涙が止まらなくて病院だったのに大声で泣いてしまった。

クロノ君が謝りながら頭を撫でてくれたけどあの時は本当に悲しかった。


「母さんに聞きたい事があります」

「何かしらクロノ?」

「母さんから見てユリナさんはどんな人でしたか?」

「………クロノ」


母さんと父さんとユリナさんは親友だったと聞いた。

管理局で共に戦い共に夢にも向かって歩んでいた関係。

父さんが殉職した闇の書事件の時にユリナさんはその時には、四聖というグループにいてディアゴ討伐の命令を管理局上層部から受けていた。

その時にはすでにラファスと出会っていたのか、それともそのあとなのかは分からないが、ユリナさんが変わったのは間違いなくその事件が引き金だったはずだ。


「昔のユリナは正義感が強くて不正は絶対に許さなかったわ。管理局に入局したての時から何かと上司と言い合いしてたわね」


それを私とクライドが宥めて落ち着かせていた。

今でもその時のユリナを思い出して笑みが溢れてしまう。

私にとっては楽しい思い出だったけど、ユリナはクライドさんが殉職した闇の書事件の時から変わったのかもしれない。

仲間であるディアゴを始末する命令。


その命令を告げられたユリナは上層部に反対していただろう。

自分や仲間達がディアゴを必ず止めると。

でもユリナの意見は押し潰されてディアゴはクライドさんと共に消滅した。

親友と仲間を同時に失ったユリナ―――


「……そういえば」

「母さん?」


リンディはふと思い出す。

大雨が降り傘もささずにお墓の前に佇むユリナ。

あの時ユリナは――


『……私が弱かったから?』

『力さえあれば良かったの?』

『違う違う違う違う違う違う違う違う違う!力だけじゃダメなんだ。力だけじゃアイツらと変わらない』

『………私はどうすればよかった?どうすればクライドもディアゴも救えたの?』

『……そう。そうなんだ』


ユリナはずぶ濡れで一人で何かを呟いていた。

自問自答じゃなくあれはまるで誰かと会話をしているように。

今にして思えばあれは――


「どうして気づいてあげられなかったのかしら」

「母さん?」


クライドが殉職して私も周りに気を向ける余裕はなかった。

クロノの事もありユリナの事を考える時間がなかった。

もしあの時少しでもユリナに意識を向けていればユリナはラファスに同調しなかった?

ユリナとこうして戦う事もなかった?


「クロノ…」

「母さん?」

「少しだけ一人にしてくれないかしら」

「…………わかりました。行こうエイミィ」

「うっ、うん」


エイミィの肩を抱き部屋から出ていくクロノ。

片手で目を塞ぎため息を吐く母親の姿に顔を歪めるクロノはふと目にしてしまう。

リンディの頬に流れる一筋の雫を。

それを目にしクロノは何も言わずに出ていく。


「……クライドさん。私は親友も救えないのね」














△▼△▼△▼


「クロノ君…」

「今は一人にしてあげよう。母さんだっていざ親友と戦う事になって辛いんだ」


自分自身もそうだったから。

フェイトの為にクルスは僕達と戦った。

ロンドラグナの洞窟でアイツが僕達を助ける為に死のうとした光景は今だって忘れてはいない。

生きていた事は本当に嬉しかったが、それでも戦った事に変わりはない。

あの時感じた苦しみや辛さを母さんも受けているのだろう。


「もう誰にもこんな気持ち味わってほしくないな」

「……クロノ君」


そっと寄り添うようにエイミィはクロノの肩に頭を乗せクロノはエイミィを引き寄せる。

誰にも悲しい思いはしてほしくない。

だから僕は戦う。

誰一人欠ける事なく必ずラファスとユリナさんを止めてみせる。

そして――


「…エイミィ」

「どうしたのクロノ君?」

自分を見つめる愛おしい女性。

彼女との未来の為にも。






そして―――

自室で休んでいるショウとなのは達ラバーズはというと、


「私がジャンケンで勝ったんだから、私が一番最初にショウ君に抱きついていいと思うの」

「あかんでなのはちゃん。誰がジャンケン一回なんて言うたんや?まだ私は黄金の右手を使ってないで」

「ならボクも時雨家の秘伝と言われるジャンケン術を使ってないからやり直しだね」

「……二人とも少し頭冷やそうか」


ただいま誰が一番最初にショウに甘えるかジャンケン大会を開催して、負けた咲夜とキキョウはヒートアップしているなのはとはやてと亜沙を尻目にベッドに腰かけているショウを挟むように成り行きを見守っていた。


「これいつまでやるのかしら?」

「ジャンケンに集中しすぎてショウが放置されとるやん」


でも今がチャンスと言わんばかりに二人はショウの腕に自分の腕を絡めて甘えるように抱きつく。


「二人とも三人にバレるぞ」

「ショウを放置して盛り上がってるし今のうちよ」

「ウチらじゃなんや不満なん?」

「そういう訳じゃないけどよ」


実際キキョウと咲夜に抱きつかれてショウの頬が赤く染まる。

キキョウや咲夜から感じる柔らかな感触。

咲夜もキキョウも無意識ではなく確信犯でやっているのか、頬が赤く染まりチラリとショウを見つめていた。

ジャンケンでヒートアップしている三人はそれに気づかずいまだにジャンケンをしているようだ。


「そういえば、咲夜は将来どうするかって決めてるの?」

「また急にどうしたん?ちなみに将来はショウのお嫁さんやけど」

「それは私のポジション……って何を言わせるのよ!」

「何で俺に言うんだよ!?」


理不尽すぎるだろと驚くショウにキキョウは頬を赤く染めそっぽを向くと、その向いた先でハイライトを消した瞳でこちらを見つめるなのはとはやてと亜沙の三人と目が合い顔色を一瞬で青くしてしまう。

下手なホラー映画より恐ろしいのかキキョウは涙目で震えている。


「どうやら敵は他にもおったようやな」

「油断したよ。ボク達がジャンケンをしている間に泥棒猫が紛れ込んでいたなんて」


はやてと亜沙も恐ろしいがキキョウも咲夜もまだ耐えていたが、顔を俯かせ黙るなのはが実は一番怖かった。

何故なら今までそれで頭冷やそうというなのお話合いをしたのだから。

このままではまたお話合いが始まると二人が覚悟していると、


「なっ、なのはちゃん?」

「なのはちゃん?」


なのはは顔を俯かせたままショウに歩み寄り片膝をついてショウの頬に手を当てると、


「…ショウ君」

「なの……っ!?」


次の瞬間、部屋の時が確実に止まった。

何故なら顔を上げたなのははショウの唇に自分の唇を当ててそっと柔らかな口付けを交わしていた。


「なななななななのはちゃん!?」

「ちょっといきなりすぎて何も言えないんだけど…」

「な、なのは…」

「めっちゃ大胆やな」


なのはの行動にはやては誰よりも驚き、亜沙は渇いた笑みを浮かべ、キキョウは目をパチパチさせて二人のキスを見つめ、咲夜は驚きつつもちょっと笑っていた。

そしてなのはの唇が離れて二人は顔を赤くして見つめ合う。


「な、なのは…」

「……ずるいよ」

「えっ?」

「皆ずるいよ!いつもいつも!私の前でショウ君とイチャイチャするんだもん!私はこんなにもショウ君が大好きなのに!この気持ちははやてちゃんにも亜沙先輩にもキキョウちゃんにも咲夜ちゃんにも負けてないのに!いつも我慢してたけどもう耐えられないの!ショウ君!」


なのはは勢いよくショウに抱きついてショウの胸に顔を押し付ける。

絶対に離すもんかと強く抱きつくなのはにショウは優しく頭を撫でていると、


「ちょいまち!何二人だけでイチャイチャしてんねん!なのはちゃんだけズルいで!しかもキスまで!」

「さすがにそれ以上は僕も許せないなー。しかもキスまで」

「そっ、そうよ!なのはだけじゃなく私だってショウの事が……っ!しかもキスまで!」

「あー久しぶりにイラッてしたわ。ウチらを放ってイチャつくのはあかんでなのは。しかもキスまで」

「全員で言うなよ!」


はやてと亜沙とキキョウと咲夜の表情が不満気に歪みショウは慌てる。

動こうにもなのはがガッチリホールドして顔だけしか動かせない状態なのだが、


「なのは…」

「………わかった」


優しく囁くショウになのはは渋々離れるがそれでも腕に抱きついて甘えるように引っ付いている。
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