それぞれの時間(後編)

クルスとフェイトが光と闇の狭間のような世界で話していた同時刻――

ショウスカリエッティの研究所からなのはとはやてとアリサとすずかと一緒にアースラへと戻っていた。

スカリエッティの事はクロノ達には内緒にし、アリサとすずかの事は協力者という事で連れてきていた。

自分とクルスのフューチャーが進化して強くなった事をクロノに報告する際に、なのはが進化したフューチャーは自分のSLBを真っ二つに切れると口にした瞬間、シグナムが不敵に笑いショウの背筋が凍ったのは言うまでもない。


「それでクルスは?」

「アイツは今ナデシコにいるぞ。最後の戦いの前にゆっくりしているようだ」


クルスとフェイトが二人っきりでいる事をルリから教えられ、おそらく己自身の気持ちと決着をつけたのだろうとクロノは確信していた。

アイツはアイツなりに答えを出したんだな。

だとしたらクルス―――

僕から言える事は一つだけだ。

絶対にフェイトを泣かせるなよ。


「ショウもなのはもはやてもしばらく待機でいいぞ。ラファスの所へはもう少ししたら向かうからな」


セフィリア達とルリが戻って現地協力者達が、アースラとナデシコに乗り込めばすぐに出発する事になる。

今は全員がそれぞれの時間を過ごしている。


「そう言う事なら私らも出発まではゆっくりしよか」

「そうだね!じゃあ行こっかショウ君!」


右腕と左腕をはやてとなのはにホールドされ引きずられていくショウ。

何故かその背中に哀愁を漂わせていたが。


「……って!私やすずかを放置してるんじゃないわよ」

「まぁまぁ」


一緒に来たはずなのにすっかり置いていかれたアリサとすずかの二人。

アリサとすずかは呆れたようにため息を吐きながら仕方ないかと呟くと、自分達は自分達で動くかと視線をクロノに向けた。


「クロノに聞きたい事があるんだけど」

「どうした?」

「ユーノ君に会いたいんだけど今どこにいるのかな?」


アリサとすずかが一緒に来た理由はもちろんなのは達に協力する事も含まれているが、二人にはもう一つ理由があったのだ。

それは―――


(ユーノ、アンタには聞きたい事があるわ)

(クルス君のやろうとしている事を)






自分の事を探しているなど考えてもしないユーノは、アースラでヴェロッサと真剣な表情を浮かべ話し合いをしていた。


「フューチャーが進化したようだね」

「うん。ここまでは彼の思惑通りだよ」


ショウがクロノに報告をする際に、その話を聞いていたユーノはヴェロッサにその時の事を話していく。

フューチャーがモードファイナルの形態進化までしたなら残すはラファスとユリナのみ。

ジョーカーズや聖騎士団やクローン兵士や魔獣もいるがそこに関してはさほど問題はない。

今いる戦力で充分に戦えるのだから。


「そうなると…」

「あぁ。僕達は僕達のやるべき事をやらないとね。彼も決心は変わらないだろうし」


ユーノとヴェロッサの脳裏によぎる一人の青年の背中。

一緒に戦いながら戦う理由ややろうとしている事を知った。

最初は僕もロッサもそれを止めたけど、彼はそれなら一人でもやると口にしていた。

僕もロッサも本来は止めなければならない。

でも彼の決意を想いを知ってしまった今―――

僕達は―――


「彼を一人には出来ないね」

「……だね」


ユーノの言葉に苦笑しながらヴェロッサは返す。

僕もロッサも止まるつもりはない。

彼と一緒に戦おう。


「……それでさっきから僕やロッサの話を聞いていた人は誰だい?」

「おや?気づいていたのかいユーノ君?」

「これでも鍛えられたからね。それより、盗み聞きなんてしないで出てきたらどうだい?」


ユーノとヴェロッサから少し離れた曲がり角から感じた二つの気配。

二人が話していた内容は別に聞かれても問題はないのだがこれ以上となると話は別である。

さすがにこの先を聞かせる訳にはいかない。


「出てこないなら僕から「分かったわよ!」……その声は…」


ユーノにとっては久しぶりに聞く声。

なのはの親友であり中学卒業後はアメリカにいたが、今はスカリエッティのラボにいると聞いていたその人物の姿にユーノは首を傾げる。

何故彼女がここにいる?

しかも彼女だけじゃない。

もう一人の親友まで一緒に。


「アリサにすずかがどうしてここに?」

「なのは達と一緒に来たのよ。それよりもユーノ」

「何だい?」


アリサはユーノに会ったらどうしても聞こうと思った事があったのだ。

だが今のユーノの雰囲気に口を開けないでいる。

いつもの優しい雰囲気とは正反対で目を細めながらこちらを見つめるユーノ。

でも今聞かないとダメなんだ。

今聞かないと絶対に知らないままになってしまう。


「……アリサちゃん」


一緒にいるすずかが心配しながらアリサの名前を呼ぶ。

すずかもユーノの雰囲気に不安になっている。

だとしたら私が聞くしかない。

親友のフェイトの為にも!


「ユーノ、教えなさい!アンタやクルスがやろうと……「アリサ」……ッ!」


たった一言。

ユーノが名前を呼んだだけで空気が変わった。

寒くもないのに震えそうになる。

ユーノの顔が能面のように無表情になり、隣にいたヴェロッサと呼ばれた男の人も無表情になっていた。

私やすずかが知るユーノじゃない。


「アリサにすずかもこれ以上は踏み込まない方がいいよ」


これはユーノなりの警告なのだろう。

やはりユーノはアイツの計画を全て知っている。

ならここで諦める訳にはいかない!

諦めるもんですか!


「そんな訳にはいかないのよ!」


パチンッ!と自分の頬を叩きそう口にするアリサに、ユーノもヴェロッサもすずかも目を丸くする。

そのおかげなのか空気が変わり、少しだけ柔らかなものに変わっていった。


「お願いよユーノ!アンタ達の計画を教えて!」

「……アリサ」

「嫌なのよ。もうあの子の……フェイトの泣いている顔を見たくないのよ」

「アリサちゃん」


今でもアリサとすずかの二人が忘れられないあの日の光景。

フェイトが泣きながらアイツの名前を呼んでいた。

誰にも弱音を吐かずにいっつもいっつも笑っていたフェイト。

あの子の笑顔をもう曇らせたくないのよ。


「……アリサ。キミやすずかの気持ちは分かったよ」

「じゃあ!」

「だけど教える訳にはいかない」


ユーノの言葉にアリサもすずかも顔を歪める。

どうしても言えない計画なのだろう。

一体アンタ達は何をしようとしているのよ。


「ユーノ君、どうしてもダメなの?」


不安気な表情でユーノに尋ねるすずかに対し、ユーノは真剣な表情を浮かべる。


「もし僕が話したら、キミ達は確実にショウやなのは達に話すはずだ。そうなったらもう……」


今この状況で彼の計画をショウやなのは達に知られる訳にはいかない。

もし知られたら彼はラファスとの戦いさえ―――


「……ッ!」


顔を俯かせ唇を強く噛み締めるユーノにアリサとすずかは困惑する。

そこまでユーノが思い詰めるほどのもの。

アイツは本当に何をしようとしているのよ。


「……やれやれ」


緊迫した空気の中でヴェロッサがため息を吐いて首を横に振る。

そのため息にユーノは視線をヴェロッサに向けると、何故か柔らかな笑みを浮かべここは僕に任せてと言わんばかりのヴェロッサは一歩足を進めていた。


「キミ達に選択肢を与えるよ」

「「……えっ?」」

「……ッ!ヴェロッサ!」


この一言で全てを察したユーノが声を荒げながら口を開く。


「一つはこの話を聞いて協力するか。もう一つはこの話を聞いても傍観するかの二つだよ。もしこれ以外の選択肢をするなら…」


魔力を込めたその手を二人に見せながら笑みを浮かべているヴェロッサ。

こんな荒事本来ならやらないのだが、今回に関しては手段を選ぶ訳にはいかない。

査察官として人の頭の中を見る力が僕にはあり、それを応用すれば多少頭を弄る事が出来たりもする。


「アリサちゃん…」


協力するか傍観するか。

そんなもの選択なんて言わない。

だってどちらにしても結末が変わらない。

協力しても傍観してもあの子が悲しむのに変わりはないじゃないのよ。


「……すずか」

「私はアリサちゃんと同じ気持ちだよ。だから迷わないで」


真っ直ぐにアリサを見つめるすずか。

すずかの中で答えは出ているようだ。

そしてそれは今の私と同じ気持ちと言ってくれた。

ならもうこれしかない。














「私とすずかの答えは一つしかないわよ。私達は―――」

「……分かったよ」

「二人とも本当にいいんだね」


ユーノの言葉に二人は頷くとユーノとヴェロッサは周りを確認して小さく頷く。


「少し場所を変えようか」











そして二人は知る。

全ての真実を――

ユーノとヴェロッサが知る彼の全てを―――


「……そんな」

「じゃあ彼は――」


ゆっくりと始まる計画。

ラファスとの決戦前に知るアリサとすずか。

二人はもう引き返せない道へと足を進めたのである。






ユーノとヴェロッサとアリサとすずかが場所を変えて話をしていた頃、夜天の守護騎士達は訓練所で体を動かしながら話し合いをしていた。

もうすぐラファスとユリナとの決戦だが、じっとしているより少しでも動いている方が気持ちも楽になるようで、シグナムとヴィータが模擬戦をしつつそれをシャマルとザフィーラとアインスとツヴァイが観戦していて、シュテル達マテリアルズやユーリも観戦していた。


「次は僕の番だぞ!」

いや、レヴィだけは同じように模擬戦に参加していたようだ。


「やれやれレヴィにも困ったものです」


シグナムの紫電一閃を受け止め楽し気に笑うレヴィに呆れつつも優しく微笑むシュテル。

魔獣達の戦いでダーリン!ダーリン!と騒いでいたシュテルと今のシュテルが同一人物なのかと疑うレベルで穏やかな雰囲気で佇んでいる。

さすがのディアーチェも二度見するレベルで驚いていたようだ。


「それでお前達はこの戦いの後どうするのだ?」


アインスの言葉にディアーチェは腕を組み当たり前のように答える。


「当然我らはエルトリアに帰るさ。あの星には我らの帰りを待つ者達がおるからな」


フローリアン姉妹にすぐに帰ると告げてこの世界にやって来た。

早く帰らねばあやつらまでこちらに来てしまう。

そうなるとエルトリアを管理する者がいなくなるし、あの姉妹が来てさらに騒がしくなるなど勘弁だ。


「少し見ない間に成長したなディアーチェ」

「ふんっ!もうただの闇統べる王の時の我ではない。我はエルトリアを守る王のようなものだ」

「ディアーチェ、カッコいいです!」


ユーリの言葉に恥ずかしそうに頬を赤く染めるディアーチェにアインスは嬉しそうに笑みを浮かべる。

最初は闇の書の残滓だったマテリアルズ達。

闇の書を復活させようと目論んでいたが、最終的には主はやてと守護騎士達によって消滅させられた。

しかし再び私達の前に現れた時は自分以外のマテリアルズやユーリを家族のように認識して戦っていた。

そして今では惑星エルトリアを守る王か――

同じ王でも凶王であるラファスとは全く違うな。


「貴様らは変わらず管理局にいるつもりか?」

「主はやてはそのつもりだろうな。なら私達は主はやての傍にいるさ」
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