それぞれの時間(中編)
イヴ達の前でそう口にしたフェイトは、すぐにバーチャルルームにやって来てクルスの隣に座った。
フェイトが隣に座りレンは一度だけフェイトに頭を下げると、この場をクルスとフェイトの二人にして部屋から出ていく。
《マスターをお願いします。フェイトさん》
《……うん》
部屋を出る前にフェイトにだけ念話を使うレンにフェイトは一言だけ返すとフェイトの耳には静かな波の音が耳に届く。
海を眺めどこか黄昏れているクルス。
クルスは今何を考えてるの?
この先の戦いの事?
それともイヴ達の事?
「ねぇクルス…」
「どうかしたかいフェイト?」
海を眺めていたクルスの顔がフェイトに向けられる。
目の前の海のように綺麗なクルスの青い瞳。
優しくて安心するその瞳をフェイトはジッと見つめる。
イヴや楓達が私に教えてくれた。
クルスは確かに自分達を大切に想っているけどそれは親愛に近いもので、それ以上の感情を向けられているのはこの世界で一人しかいないと。
親友を仲間を失うと分かっていてもそれでも戦ったクルスにとってたった一人しかいない人は――
「今ここには私とクルスしかいない。だから教えてほしいの」
ねぇクルス―――
私は貴方の事がずっとずっと大好きなんだよ。
たとえ貴方が私や皆と再会するまでいろんな事があって変わってしまったとしても私の想いは変わらない。
「クルスが私をどう想ってるか正直に聞きたいの。だから教えて――」
正直答えを聞くのが怖い。
イヴ達の言葉を聞いたとしてもショウやなのは達と戦ったと知っても、それでもクルスの口から聞いた訳ではない。
けど心の底ではこうあってほしいと想ってる。
だからもうクルスの口から聞きたいの。
お願い。教えてクルス!
「………」
フェイトの問い掛けにクルスはフェイトをジッと見つめるだけ。
僕の中では最初から答えは出ていた。
目の前にいる女性を失うぐらいなら誰が相手でも戦うだろう。
現にユリナにフェイトを人質にされてショウ達と戦った。
生きているとはいえ死を覚悟していたしな。
「……フェイト」
そっと優しく触れるようにフェイトの頬に手を伸ばそうとした瞬間、
「……ッ!!」
クルスの脳裏によぎる悪夢とも呼べる安藤誠との一件。
いまだに忘れる事ができない自分自身が壊れた瞬間。
楽園大戦で聖騎士団を始末した時はまだ壊れてはいなかった。
だけどあの研究所で全身が血に濡れたあの瞬間に、僕はもう引き返せないと自覚してしまった。
「クルス?」
自分の方に伸びた手が止まり顔を歪めるクルスにフェイトは首を傾げる。
まるで自分が触れたら傷つけてしまうと言いそうな表情のクルスにフェイトは、クルスの手を掴み強引に自分の方に引き寄せて頬にぴったりとくっつけた。
「フェイト…」
「私は拒絶なんかしないよ。クルスの苦しみも辛い気持ちも全部受け止める。だからクルス…」
そんな今にも泣きそうな悲しい顔をしないで。
私は絶対に貴方を一人にしないよ。
貴方が私を大切に想ってるように私も貴方が大切なんだよ。
「私はクルスが大好き。闇の書事件が終わって、貴方と離れてからこの想いがさらに膨れ上がった。貴方と再会して貴方と一緒の時間を過ごしてもっと大好きになった!クルスが必要だから好きなんじゃない!好きだからクルスが必要なの!」
フェイトのルビーのような赤い瞳から静かに流れる涙。
その涙は頬に触れるクルスの手にも当たると、その涙の温もりにクルスはハッと目を丸くした。
自分の真っ赤に染まる手が消えていくような感覚。
フェイトの涙が全てを癒していく。
「……あぁ……そっか」
「クルス?」
その時フェイトの目に映ったのはクルスの目から流れる涙だった。
一瞬で錯覚だったかもしれないが今クルスは涙を流していた。
「……フェイト」
まるで宝物を扱うように傷つけないようにクルスはフェイトをそっと抱き寄せる。
「僕はフェイトを失いたくない。フェイトにはずっと笑っていてほしいんだ」
違うな。
こんな言い方じゃない。
フェイトが求めているのはこんな回りくどい言い方じゃない。
「好きだよフェイト。僕は誰よりもキミが大切なんだ」
静かにだが確かにフェイトの耳に届いたクルスの言葉。
その言葉に耐えきれなくなったのかフェイトはギュッとクルスの身体を抱き締め返すと、
「本当に?」
「本当だよ」
「目を覚ましたら夢だったってならない?」
「ならないよ。これは夢じゃなくて本当の事だよ」
顔を上げるフェイトは涙を流しそれは止まらなかった。
自分とクルスの想いが重なっていろいろな感情が止まらない。
もうどうしようもないほど感情が揺れる。
「フェイト…」
「クルス…」
まるでお互いの気持ちを確かめるように目を閉じるクルスとフェイト。
月明かりに照らされる二人の影が重なりその場には波の音が響く。
静かにただ時間が過ぎていく中でクルスは決意した。
フェイトの笑顔を守る為にも必ず生き残る。
そして―――
フェイトの為にもあの計画を必ず実行すると。
湊
「最後の戦いまであと少し。
皆が戦いの準備をしていく中でもう一人の男もまた決意をしていく。
次回S.H.D.C.第55話――
【それぞれの時間(後編)】に…
ドライブイグニッションだよ」
フェイトが隣に座りレンは一度だけフェイトに頭を下げると、この場をクルスとフェイトの二人にして部屋から出ていく。
《マスターをお願いします。フェイトさん》
《……うん》
部屋を出る前にフェイトにだけ念話を使うレンにフェイトは一言だけ返すとフェイトの耳には静かな波の音が耳に届く。
海を眺めどこか黄昏れているクルス。
クルスは今何を考えてるの?
この先の戦いの事?
それともイヴ達の事?
「ねぇクルス…」
「どうかしたかいフェイト?」
海を眺めていたクルスの顔がフェイトに向けられる。
目の前の海のように綺麗なクルスの青い瞳。
優しくて安心するその瞳をフェイトはジッと見つめる。
イヴや楓達が私に教えてくれた。
クルスは確かに自分達を大切に想っているけどそれは親愛に近いもので、それ以上の感情を向けられているのはこの世界で一人しかいないと。
親友を仲間を失うと分かっていてもそれでも戦ったクルスにとってたった一人しかいない人は――
「今ここには私とクルスしかいない。だから教えてほしいの」
ねぇクルス―――
私は貴方の事がずっとずっと大好きなんだよ。
たとえ貴方が私や皆と再会するまでいろんな事があって変わってしまったとしても私の想いは変わらない。
「クルスが私をどう想ってるか正直に聞きたいの。だから教えて――」
正直答えを聞くのが怖い。
イヴ達の言葉を聞いたとしてもショウやなのは達と戦ったと知っても、それでもクルスの口から聞いた訳ではない。
けど心の底ではこうあってほしいと想ってる。
だからもうクルスの口から聞きたいの。
お願い。教えてクルス!
「………」
フェイトの問い掛けにクルスはフェイトをジッと見つめるだけ。
僕の中では最初から答えは出ていた。
目の前にいる女性を失うぐらいなら誰が相手でも戦うだろう。
現にユリナにフェイトを人質にされてショウ達と戦った。
生きているとはいえ死を覚悟していたしな。
「……フェイト」
そっと優しく触れるようにフェイトの頬に手を伸ばそうとした瞬間、
「……ッ!!」
クルスの脳裏によぎる悪夢とも呼べる安藤誠との一件。
いまだに忘れる事ができない自分自身が壊れた瞬間。
楽園大戦で聖騎士団を始末した時はまだ壊れてはいなかった。
だけどあの研究所で全身が血に濡れたあの瞬間に、僕はもう引き返せないと自覚してしまった。
「クルス?」
自分の方に伸びた手が止まり顔を歪めるクルスにフェイトは首を傾げる。
まるで自分が触れたら傷つけてしまうと言いそうな表情のクルスにフェイトは、クルスの手を掴み強引に自分の方に引き寄せて頬にぴったりとくっつけた。
「フェイト…」
「私は拒絶なんかしないよ。クルスの苦しみも辛い気持ちも全部受け止める。だからクルス…」
そんな今にも泣きそうな悲しい顔をしないで。
私は絶対に貴方を一人にしないよ。
貴方が私を大切に想ってるように私も貴方が大切なんだよ。
「私はクルスが大好き。闇の書事件が終わって、貴方と離れてからこの想いがさらに膨れ上がった。貴方と再会して貴方と一緒の時間を過ごしてもっと大好きになった!クルスが必要だから好きなんじゃない!好きだからクルスが必要なの!」
フェイトのルビーのような赤い瞳から静かに流れる涙。
その涙は頬に触れるクルスの手にも当たると、その涙の温もりにクルスはハッと目を丸くした。
自分の真っ赤に染まる手が消えていくような感覚。
フェイトの涙が全てを癒していく。
「……あぁ……そっか」
「クルス?」
その時フェイトの目に映ったのはクルスの目から流れる涙だった。
一瞬で錯覚だったかもしれないが今クルスは涙を流していた。
「……フェイト」
まるで宝物を扱うように傷つけないようにクルスはフェイトをそっと抱き寄せる。
「僕はフェイトを失いたくない。フェイトにはずっと笑っていてほしいんだ」
違うな。
こんな言い方じゃない。
フェイトが求めているのはこんな回りくどい言い方じゃない。
「好きだよフェイト。僕は誰よりもキミが大切なんだ」
静かにだが確かにフェイトの耳に届いたクルスの言葉。
その言葉に耐えきれなくなったのかフェイトはギュッとクルスの身体を抱き締め返すと、
「本当に?」
「本当だよ」
「目を覚ましたら夢だったってならない?」
「ならないよ。これは夢じゃなくて本当の事だよ」
顔を上げるフェイトは涙を流しそれは止まらなかった。
自分とクルスの想いが重なっていろいろな感情が止まらない。
もうどうしようもないほど感情が揺れる。
「フェイト…」
「クルス…」
まるでお互いの気持ちを確かめるように目を閉じるクルスとフェイト。
月明かりに照らされる二人の影が重なりその場には波の音が響く。
静かにただ時間が過ぎていく中でクルスは決意した。
フェイトの笑顔を守る為にも必ず生き残る。
そして―――
フェイトの為にもあの計画を必ず実行すると。
湊
「最後の戦いまであと少し。
皆が戦いの準備をしていく中でもう一人の男もまた決意をしていく。
次回S.H.D.C.第55話――
【それぞれの時間(後編)】に…
ドライブイグニッションだよ」