それぞれの時間(中編)

稟や純一やハヤテ達がそれぞれの時間を過ごし将輝とコレットは自分達の世界へ戻る事を決めて、悠季とシリアがこの世界に残る事を決めて、湊が自分の将来を叶に話していた時、セフィリア達ファントムナイツとルリ達ナデシコ組は、地上本部の会議室でレジアスと話をしていた。

最後の戦いに向けての話し合いと、その後の自分達がどうするのか―――


「それでお主らはこの戦いが終わったら、どうするのだ?」


レジアスの問いにセフィリアは最初から決めていたのか、ファントムナイツを代表して答える。


「中将が私達を地上本部に配属させてくれた事には感謝しています。ですが、私達はこの戦いが終われば自分達の世界に帰るつもりです」


クルスとの出会い。

メイソン率いるゼロナンバーズ達とのエデンでの戦い。

クロード達と出会ってから魔界での戦い。

様々な世界を守るために化物や機械兵との戦い。

ルーク達と出会い彼らの世界を守るために戦った。

本当にいくつもの世界を巡り自分達は戦い続けてきた。

その中で出会ってきた人達といろいろな話をしてきて、セフィリアは元々自分がいた世界を守りたい気持ちが強くなっていたのだ。

自分はファントムナイツではなくクロノナンバーズとして戦うのだと。


「私達は本来の場所に戻るだけ。クルスと共に戦ってきた事は決して無駄ではありませんでした」


本当はエデンでの戦いで自分達は元々の世界に帰るはずだった。

だがクルスと共に様々な世界で戦ってきて、かつての自分が決して経験する事が出来なかった戦いや出会いを手に入れた。

そのおかげで自分は成長できたのだから。


「ハートネットはどうしますか?私達と共に帰りますか?それとも――」


元々トレインとセフィリア達は協力関係でファントムナイツとして一緒にいた。

自分達の世界に帰るという事は、元クロノナンバーズのトレインと現クロノナンバーズのセフィリア達という関係になる。


「……姫っちをスヴェンの所に連れて行かないといけねぇからな。お前らについていくさ」


今はこの場にいないイヴの事を頭に浮かべトレインは苦笑しながら答えた。

クルスが生きていた事を姫っちは本当に喜んでいた。

涙を流す姫っちはかなり珍しかったがそれが三回もあるとやるせない気持ちにはなるがな。


「そういう事なので、中将には申し訳ないと思っています」


ユリナやラファスに対する牽制で自分達はレジアス中将の元に配属された。

本当ならこのまま管理局に入局して、レジアス中将の元で戦うべきなのかもしれない。

だが自分達にも自分達の戦いがこの先にはある。

だから―――


「その言葉だけで充分だ。お前達は元々クルスに協力していただけだ。もう自分達の為に戦ってもいいのではないか?」


陸はいまだに犯罪が絶えない。

海とも溝があり決して平和とは言えない。

だがこれは自分達の問題であり、セフィリア達ファントムナイツには関係のないことだ。

セフィリア達にはセフィリア達の戦いがあるように、この陸の問題は自分達が解決すべきだ。


「アヤツの代わりにワシから言わせてくれ。今まで共に戦ってくれて感謝している。本当にありがとう」


ここにはいないクルスの代わりにレジアスはセフィリア達に頭を下げる。

この戦いが終われば、また新しい戦いが始まるかもしれない。

それでも今は戦ってくれる者達に感謝しかない。


「それでホシノ小佐はどうするのだ?」

「私も自分達の世界へと戻ります。地球連合も人手不足ですからね。クルスさんと再会した事もアキトさんに伝えたいですし」


今回クルスさんに呼ばれて私達ナデシコ班は協力してきた。

かつての戦いでクルスさんに協力してもらったお返しもあり、アキトさんからもクルスさんを手助けしてやってくれと頼まれましたしね。

だから今回の戦いが終われば私達も私達の世界でやるべき事をやる。

何だかんだで地球連合も忙しいですしね。


「ならばワシから言える事は一つだ。全員必ず生き残るのだぞ」


レジアスの言葉に会議室にいる全員が力強く頷く。

自分達の未来の為にも―――

この世界をラファスとユリナに滅ぼされない為に―――






その頃ナデシコ艦内ではクロード達が食堂に集まり話し合いをしていた。


「皆はこの戦いが終わったらどうするんだい?」


クロード自身この戦いが終われば一つ夢があった。

それは―――


「僕はクルスのようにいろんな世界を見ていこうと思うんだ。そして、困っている人達を助けていきたいんだ」


かつて英雄と言われた父親を自分は尊敬もしていたが、一方で煩わしくも感じていた。

その背中に追い付きたいとがむしゃらに戦っていた時もあった。

しかしクルス達と共に戦ってきて、自分は大きく成長して自分は父を目指すのではなく自分自身の夢を見つける事ができた。

だからこそ様々な世界を巡って困っている人達の手助けをしたくなったのだ。


「僕はプリシスの所に帰るよ。そろそろ戻らないと怒られちゃうし」


【プリシス・F・ノイマン】

アシュトンが片想いしている女の子で今は、レオンという少年と共に元の世界で研究員をしている。

昔はクロードを追いかけ回していた少女だったが、今は成長して精神的に落ち着いている。

そして今はずっと傍にいてくれたアシュトンの事が気になっていたりする。


「私はディアスと一緒に旅を続けますわ。私がいないと無茶ばかりするから」

「……またついてくるつもりか?」


セリーヌ・ジュレスとディアスフラック。

この二人はかつてクロード達と戦った魔族であるシンとの戦い後、クロード達に簡単な別れを告げて旅をしていたのだ。

魔界や神界を旅してセリーヌがトレジャーハンター行為をやればディアスがそれを止めて、ディアスが一人で魔物や合成魔獣と戦えばセリーヌが後方からサポートする息の合ったパートナーとも言える関係。


「俺達の事よりもクロード、お前に頼みたい事がある」


妹のように大切にしていた存在。

おそらく今は同じ痛みを悲しみを感じている者達と一緒に泣いているであろう少女。


「お前さえよければ――」


アイツのおかげでレナは楽しそうに笑っていた。

これからもその未来が続くようにと願っていたんだがな。


アイツはアイツなりに答えを出したようだ。

それがどんな結果になるか分かっていただろうにな。










『マ、マスター?本当に大丈夫ですか?』

「僕が死のうとした事や帰ってきた事や楓達を泣かせてしまった事を考えれば安いもんさ」


ナデシコのバーチャルルームをネルガルとオモイカネとルリとクルスとレンの協力で作ったシステムで完成させたバーチャルルーム。

そこは本当に現実的で五感全てが感じるように出来ている。

そのバーチャルルームでクルスはまるで光と闇の狭間のような世界でレンと一緒に海を眺めていた。


「将輝やトレインやクロードやディアス達から拳を一発もらい」

『将輝さんに関しては追い討ちで頭突きもありましたね』


将輝のやつ本気で殴るだけじゃなく頭突きまで喰らわせたからね。

だけどそれだけじゃない。

僕は将輝から言われた言葉に何も言えなかった。

【お前にはお前を想ってる存在がいるのに、何で一人で戦ってんだ!】

【ダチがいるのに一人で抱えて一人で背負いやがって!あの時からお前は結局何も変わってなかったのかよ!】


かつて将輝にシルヴァラントで同じ事を言われた。

あの時の僕は将輝の言葉を否定していたのに、彼女の事になったら結局一人で背負ってしまった。


「…それに僕はイヴ達も傷つけたしまったな」

『マスター……』


クルスの少しだけ赤く腫れた頬にレンは手を当てて、悲し気な表情でクルスを見つめる。

マスターが死のうとした事をイヴさん達は本気で怒っていたし、生きていたと分かってマスターに会いに来てくださった時は本当に安心したように笑っていました。

ですが―――


「僕にとって誰よりも大切な人………か」


イヴに言われた言葉。

ショウ達と本気で戦い、全てを失ってでも守ろうとしたたった一人の存在。

僕にとってイヴや楓やレナやことりやさくらだって大切な存在だ。

でも僕の心にいるのは――――


「……最初から答えは出ていたんだな」


海を眺めどこか吹っ切れたように笑うクルス。

僕の事を本気で想ってくれていたのに、僕はその想いに答える事が出来なかった。

あれだけ皆を幸せにすると言ったのにな。


『……マスター』


静かに海を眺めるクルスにレンはどう声を掛けようかと悩んでいると、


「クルス…」

「目が覚めたんだね、フェイト」






フェイトがクルスのいるバーチャルルームに行く前まで時間が戻るのだが、フェイトは泣き疲れて眠っていて目を覚ました時にクルスがいない事に気づいて、アルフやエリオやキャロに聞きクルスの元に向かっていたのだが、


「皆どうしたの!?目が……」


フェイトの前にイヴ達がいて全員が少し前まで泣いていたのか目が赤く腫れていた。

自分も先ほどまで泣いていて同じように赤く腫れていたのだが、それと同じように赤く腫れているイヴ達にフェイトはあたふた慌てている。


「……フェイト」

「どうしたのイヴ?」


その状況でイヴはそっとフェイトの名を口にする。

イヴの赤い瞳とフェイトの赤い瞳がお互いをじっと見つめ合う。

同じ金髪で同じ瞳なのに私はフェイトに勝てなかったな。

クルスを想う気持ちもフェイトに負けてなかったけど、クルスの心にいるのはフェイトだった。

悔しくてまた涙が溢れそうだけどまだ泣くわけにはいかない。


「お願いがあるの」

「お願い?」


クルスが私達を大切な人と想ってくれているのは分かってる。

でもそれは友や仲間に向けているものに近い。

私達じゃそれ以上にクルスに踏み込めなかった。

クルスが誰よりも大切な人は―――

自分の全てを失ってでも守りたいと想っているのは―――


「私達じゃダメなの…っ!クルスを幸せにできるのはフェイトしかいないの!だからっ…!」


フェイトの抱きつき身体を震わせるイヴにフェイトはそっと頭を優しく撫でる。

イヴの気持ちが痛いほどフェイトに伝わってくる。

イヴだけじゃない。

楓やレナやことりやさくらの気持ちがイヴを通してフェイトに伝わっていく。


「フェイトちゃん…」

「楓…」

「フェイトちゃんの気持ちを教えてください。フェイトちゃんはクルス君の事をどう思ってますか?」

「……私は」


フェイト・T・ハラオウンにとってクルス・アサヅキはどんな存在だ?

そんな事は考えるまでもない。

あの日闇の書事件から別れて、フェイト自身がクルスを忘れた事など一度もなかった。

フェイト・T・ハラオウンは―――

クルス・アサヅキの事を誰よりも――


「大好きだよ。私はずっとクルスの傍にいるって決めたから」
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