それぞれの時間(前編)

二人の入ったカプセルから音が鳴り、ゆっくりとカプセルが開き中に入っていたショウとクルスは閉じていた目をゆっくり開けてカプセルから出ると、体を動かして違和感がないか確かめる。

二人の体に宿った確かな力。

それを感じながらショウは息を吐きクルスは微かに笑みを浮かべていた。


「どうやら上手くいったようだね」

「あぁ。お前やアリサやすずか達も話は終わったようだな」


僕とショウが先代達と戦っていた間にジェイル達もなのはとはやてとの話を終えたようだな。

なら後はアースラに戻って作戦会議をするだけだが、


「ねぇ、クルス君。ちょっといいかな?」


これからの事を考えていたクルスの元に何故か満面の笑みを浮かべたなのはがやって来て、何故かBJを身に纏い何故か戦闘モードで立っていたのだ。

その姿にクルスは首を傾げ、ショウは嫌な予感を感じ体がガタガタ震え始める。


「ショウ君とクルス君はフューチャーデバイスを完成させたんだよね?」

「あぁ…。けどそれが「じゃあ!ショウ君と今から戦っても大丈夫って事だよね?」……んっ?」


……今なのはの口から戦うという単語が出てきたが気のせいだろうか?

いや気のせいのはず。

なのははバトルジャンキーじゃなかったはずだがら、もう一度聞いてみるか。


「なのは、すまないがもう一度言ってくれないか?」

「仕方ないな~。だからショウ君と戦っても大丈夫なんだよね?」


どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。

アリサもすずかもはやても苦笑しているし一体何が起こったんだ?


「……ジェイル」

「実はだねクルス」


つまり簡単にまとめると。

・ショウとクルスの二人はフューチャーを完成させた。

・覚醒した事により今以上に強くなっている。

・よろしい!ならばSLBだ!!

簡単にまとめるとこうなのだが一番必要な情報が足りない。

どうしてその発想になったのかが分からない。


「実はねクルス君…」


さらに付け加えるようにすずかが説明する。

どうやらジェイルが覚醒したショウとクルスならなのはのSLBを真っ二つにできるかもと口にしたようで、なのはがならば試してみよう!とやる気満々になってしまったらしい。

つまり――

原因は完全にジェイルである。


「……話はわかった。ショウ!」

「嫌だ!何で戻ってきて早々なのはのSLBを喰らわなきゃ…!」

「大丈夫だよショウ君。ジェイルさんも今のショウ君なら真っ二つに出来るって言ってたもん」


なのははそれはもう輝かしい笑顔でショウの肩を逃がさんとばかりに掴んでいた。

このままだとやられるとショウはジェイルの方に勢いよく顔を向けると、


「スカリエッティィィィィィ!!」

「あぁ。訓練室は奥に行けばあるから好きに使うといい。アリサ君、二人を案内してあげてくれ」

「……なのは」

「なぁにアリサちゃん」


この満面の笑みのなのはを見てアリサは溜め息を吐く。

こうなったなのはは昔から止まらないわね本当に。

仕方ないわね。


「ショウ…」

「アリサ!助けてく「さっさと行くわよ!ついてきなさい」アリサァァァ!?」


こうしてアリサの案内でショウはなのはに引き摺られながらその場から消えていく。

その姿に同情しながらも巻き込まれなくて助かった、とクルスは安堵の息を吐く。

そしてすぐにはやての方に顔を向ける。


「はやて、僕達のフューチャーは完成した。だから――」

「わかっとるよ。作戦の前に皆に時間をあげたいんやろ?」

「あぁ…」


これが世界をかけたラファスとの最後の戦いとなる。

全てを終わらせる為にも全員に休息が必要だ。

なにより準備も必要だしね。


「なら私はショウ君達が戻ってきたら、クロノ君とリンディさん達に説明でえぇんやな?」

「すまないな。将輝達にもついでに伝えておいてくれ」

「クルス君はどうするん?」

「……僕の中で答えが出たからね。伝えておかないとな」

「……そっか」


誰にとは聞かないがはやてにはわかるようだ。

今までの戦いでクルス君が誰の為に戦っていたか私だけやない皆わかってるはずや。

最後の戦いの前に言うつもりなんやね。


『これが私とレイジングハートの全力全開だよショウ君!スターライトー!!』

『バインドで縛った状態で撃つとか正気の沙汰とは――』


ショウ君。

お願いやからどうか無事に帰ってきてな。

ラファスと戦う前にボロボロは勘弁やで。











「……休息か」


ラファスとの戦いの前に与えられた休息。

それはショウ達だけではなく民間協力者である、稟や純一達にも与えられて、さらに民間協力者達はリンディやレジアスから直接『無理に戦わなくていい。これは命をかけた戦いで、民間協力者であるキミ達はそのまま地球に残っていい』と言われたが全員がこれを拒否して戦いに協力すると返事をしたのだ。

そして、ラファスのいる星へ向かう前に与えられた休息。

ここ三千院ナギの屋敷で土見稟・朝倉純一・綾崎ハヤテを含む関係者が全員が集まりパーティーをしていた。


「「宴だーー!!」」

「今日は飲むわよ!じゃんじゃん持ってきなさい!」

「もうお父さん!」

「お父様も!」

「姉さんも!」


いつものように神王と魔王が騒ぎ、そこにヒナギクの姉雪路も加わりとんでもない光景が広がっていた。


「まぁ、気を張っているよりこっちの方がいつも通りで俺は楽でいいけどな」

「……純一」


片手にジュースを持ち苦笑している純一に稟もつられて苦笑する。

二人は魔獣殲滅戦が終わってから生きていたクルスに会おうとしたのだが、クロノに止められ今も会えないまま休息をはやてに告げられている。

本当なら話したかったが、それよりも大切な人達と一緒にいるんやと言われてパーティー会場にいた。


「なぁ、純一」

「何だよ?」


稟の視線の先には稟にとって大切な人達が笑いながら話をしている姿が。

シアとネリネとリコリスと麻弓とカレハとずっと一緒にいる為にも。

俺はエグザとの戦いで決めた事がある。

皆が認めてくれる王になるんだ。

だから―――


「絶対に生きて帰ってこようぜ」

「当たり前だろ?俺だって音夢達を悲しませたくないしな。俺達が帰る場所はアイツラの所なんだからな」


お互いに拳をぶつけ笑いあう。

そんな光景に土見ラバーズと朝倉ラバーズは二人の元に向かい二人をどこかに連れていく。

おそらくナギに部屋の一室でも借りて一緒にいるつもりだろう。


「それじゃあ、私達も部屋に行くか!ハヤテーー!!」

「はい!お嬢様!」


先ほどから忙しく動いていたハヤテもナギに付き添うようにその場を離れ、綾崎ラバーズもまたついていく。

恋人達の時間はゆっくり過ぎていく――

戦いまでもう少し――








「戦いが終わったら?」

「そう。将輝やコレットはどうするんだ?」


ここアースラのとある一室では、将輝とコレットと悠季とシリアの四人が話をしていた。

この四人は何だかんだでよく集まって話をしている。

何せクルスから頼まれてこの世界にやって来た最初の協力者達なのだから。


「俺とコレットはシルヴァラントに帰るさ。ロイド達が待ってるだろうしな」

「私達の世界での戦いは終わったけど、やっぱり元の世界の皆の事が心配だから」


ミトスとの戦いが終わって俺とコレットはこの世界にやって来た。

ロイドやゼロスがバカをやってないか。

リフィルの暴走をジーニアスとしいなが止めているのか。

リーガルとプレセアは仲良くしているのか。

それにクラトスとユアンとミトスも大人しくしているのかも気になるしな。

特にミトスがユアンをいじめてないか心配だ。


「悠季はどうすんだ?」

「俺とシリアは元々いろんな世界を旅してたからな。そろそろ落ち着くつもりだったし、この世界に残るだろうな」

「そうね。時空管理局に入るかどうかはこの戦いが終わってから考えるつもりよ」

「……って事は元の世界に帰るのは俺とコレットだけか」

「だな。寂しそうだな将輝」

「バーロ、永遠に会えなくなる訳じゃねぇんだよ。世界は繋がってるんだぜ」


お互い軽口を叩きつつも時間を過ごしていく。

元の世界に帰る者達。

この世界で生きていくと決めた者達。

生き残る。

それを胸に誓いながら。












―――――――

「次はあっちだよ湊君!」

「待ってよ叶」


リンディに言われた休息。

その休息で湊は叶と街へ出掛けて買い物を楽しんでいた。

久しぶりの二人だけの時間。

クルスの裏切りから始まり、兄との戦い、街を舞台に魔獣との戦い。

そして―――

最後の戦いとなるラファスとの戦い。


「湊君?」

「何でもないよ。それより、次はどこに行こっか?」

「じゃあ公園に……」


そう言いながら叶は湊の腕に抱きつき幸せそうな表情で歩く。

本当に学園で男装していた人物と同一人物かと思われるほど幸せそうな叶に湊は微かに笑みを浮かべていた。

公園に着いた二人はベンチに座り、叶は湊に寄りかかり頭を肩に置いている。

そんな叶に湊はされるがままなのか視線は夕暮れの空に向けられていた。

穏やかな時間を過ごす二人だが、しばらくして叶がゆっくりと口を開く。


「……湊君」

「どうしたの?」

「湊君は、この戦いが終わったらどうするの?」


その叶の問い掛けに湊は少し前に将輝や悠季や奏也達と話した事を思い出す。

将輝は元の世界に帰ると言ってた。

悠季はこの世界に残ると言ってた。

奏也は稟や純一達と同じように卒業したら管理局に入ると言ってた。

直樹やデニス先輩は世界を旅するとか言ってたっけ?
じゃあ僕自身は?


「……僕は」


視線を叶の方に向ける。

叶は湊の視線に気づき湊から離れ向き合うように体を動かす。


「…僕は叶とずっと一緒にいたい。叶の事を守れるほどの男になりたい…」

だから―――


「僕は管理局に入るよ。そして――」


湊は叶の頬に手を伸ばす。

叶はその手に自分の手を重ね優しく微笑む。

その笑顔がその温もりが湊が今何よりも守りたいものである。

その為にもこの戦いで勝つ。


「叶……」

「湊…く…ん……っ!」


夕暮れの公園で二つの影が重なりあう。

大切な人の温もりを確かめあうように。








次回予告

将輝
「それぞれの時間を過ごす仲間達。

未来を見据え俺達は戦いの準備を始める。

そして―――

ある男が出した答え。

男はその答えを告げるのである。

次回――
S.H.D.C.第54話――
【それぞれの時間中編】に……
ドライブ・イグニッションだぜ!」
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