モードデスティニー・モードフリーダム

先代フューチャーのマスターであるアスカとの戦いは、すでに何時間を越えておそらくかなりの時が過ぎていた。

しかしショウはいまだにアスカに苦戦しておりフューチャーを3rdにした状態で戦っても、アスカのモードファイナルにダメージを与えられなかった。

血のように赤い翼を広げ大剣を肩に担ぐアスカをショウは片膝をつき苦し気な表情を浮かべ見上げていた。


「やっぱり強いな…」


俺の魔法も剣術もアスカには全く通用していない。

いくらモードファイナルだとしてもここまで差があるのか。

今までいろんなやつと戦ってきたが、アスカはそんなやつらとは次元が違う。

まるで全てが分かっているかのように俺の一撃を受け流していた。


「どうしたショウ。こんなんじゃファイナルも先の先だな」


楽し気に笑うアスカは大剣を肩に担いだまま片膝をつくショウを見つめる。

アスカから見れば確かにショウは強い。

だが今のままではラファスには絶対に勝てない。

それどころかラファスにたどり着けるかも不安なぐらいだ。

あのラファスが前回のように倒せるとは思わない。

前回と違って今回はユリナという女の力も使えるのだから。

だとしたら最低でもファイナルにならなければ意味がない。


「どうすんだ?ここで諦めるか?」

「そんな訳ないだろ。俺は強くなるって決めたんだよ。アイツと一緒に戦う為にもな!」


もうこれ以上クルス一人に任せるなんてしたくない。

同じフューチャーを使う俺もアイツと同じ場所に立つんだ。

その為に俺はここにいる。


「……アイツね」


アスカはフローラの深層世界からもう一人のフューチャーの使い手であるクルスを見ていた。

ショウとは全く違うタイプの人間。

どことなくヤマトと雰囲気が似ているが、根底にあるものは全く違う。

あの男は大切な存在の為なら自分の命などすぐに切り捨てるタイプの人間だ。


「なら立てよショウ。……ってかそろそろ俺の動きを捉えねぇと!」


話にならないぜ!とアスカは手のひらをショウに向けると、アスカの手のひらから白い閃光が放たれてショウはそれをプロテクションで受け止めながらアスカから離れていく。


「まだ安心すんなよ!こっからだぜ!」


赤い瞳をギラリと光らせ獲物を見つけた獣のような雰囲気を出しながら、アスカは大剣を思い切り振り抜きショウはそれを剣で受け止めるが、アスカは力を込めながら大剣で凪ぎ払いショウは顔を歪めながら吹き飛ばされていく。


「……グッ!」

「ハァァァァァ!!」


振り下ろされる大剣。

それを視界に捉えショウは剣を強く握り締める。

師である恭也の剣術だけではアスカに届かない。

だけど負ける訳にはいかない。

こんな事でこんな事で負けてしまったら俺はアイツと一緒に戦えない。


『マスター!』

「フローラ。俺達はまだまだ強くなるんだろ!こんな事で止まれねぇよな!」

『その通りですよ。妹のレンにカッコ悪いところなんて見せられませんよ!』


ショウとフローラの繋がりがまるで深くなるように胸が鼓動する。

その瞬間、ショウの中の何かが弾けて全てがクリアになっていく。

先程まで捉えきれなかったアスカの動きが、今のショウにはハッキリと見えていた。

振り下ろされる大剣とショウの剣が交差しショウは自分が気づいた時にはオレンジ色の翼を広げ空に浮かんでおり、アスカは交差した瞬間自分の大剣が破壊された事に目を丸くしていた。


「この動きは……」


まさかフローラとの繋がりを深くした事で覚醒したのか。

つまりフューチャーデバイスの持ち主だけが使えるあの力に目覚めたようだな。

ならこっからは遠慮しねぇぞショウ・ヤナギ。


「ハァァァァァ!!」


ショウと同じように背中から翼を広げでアスカは動き出す。

ショウとアスカの本当の戦いが今始まっていく。










△▼△▼△▼


「そういえば今さらなんだけど何でフェイトはいないのよ?」


ショウとアスカが戦っているデータを目にしながらふとアリサが口を開く。

なのはとはやてはいるのにもう一人の親友がここにはいない。

この実験と話し合いですっかり忘れていたが、なのはとはやてがいるならフェイトもいなければおかしい。


「実はね――」


そしてなのはが今までの事を話していく。

フェイトが人質にされたこと。

クルスと戦ったこと。

ベルエスが起動したこと。

四柱を破壊したこと。

ラファスと対峙してアリシアが助けてくれたこと。

街が襲われたが何とかジョーカーズを倒したこと。

クルスが真実を語ったこと。

その全てをなのはが語るとアリサは成程ね……とポツリと呟いた。


「泣き疲れて寝てるって訳ね。まぁ……それだけの事があれば当然か」


休む暇もなく戦い。

支えてくれるクルスもいなかった状態で戦っていたフェイト。

今はクルスがいるから大丈夫でしょうけど……


「……すずか」

「うん。アリサちゃんが考えてる事はだいたいわかってるよ」


フェイトに伝えておかなきゃいけないわね。

せっかくアイツと再会したんだからこれ以上フェイトに悲しい思いはさせたくないもの。


「ドクターもいいかしら?」

「構わないよ。キミ達二人のおかげで研究も実験も予想以上の結果がでたからね。それにもうキミ達二人を狙う者達もいないだろうし」


アリサは視線を困惑しているなのはとはやてに向けて真剣な表情で口を開いた。


「二人ともお願いがあるの」

「どうしたのアリサちゃん?」

「何やろか?」

「私とすずかもアンタ達についていくわ」

「私達も見届けなくちゃいけないから。この戦いを」


そして――――

彼の計画を聞いてしまった私とアリサちゃんにはやらなくちゃいけない事があるから。












△▼△▼△▼

まるで自分自身と戦っているような感覚を味わう。

全ての動きが思考がクリアした事で分かってしまう。

そしてそれはアスカも同じなのか俺の動きを察知したように動くせいでお互いに決定打を決めきれないでいた。


「ショウ、お前がそこまで動けるなら後はフューチャーのフローラの本当のファイナルに気付くだけだ」

「本当のファイナルだと?」

「かつてお前とレンのパートナーはファイナルになった事があったろ?」


その言葉にショウは闇の書事件の事を思い出す。

確かにあの時ディアゴとの戦いでファイナルになった。

だがあの時は己の中に封印されていた朱雀の力を借りてなった姿だった。


「あん時の戦いでなったファイナルはお前自身の力でなった訳じゃねぇからあの姿だった。だけどな!」


アスカが腰に装備された二本のブーメランを一瞬で投げると、ショウはそれを剣で弾き飛ばしアスカから離れる。


「フューチャーはマスターの想いに答えてくれるデバイスなのは理解してるだろ?俺もラファスと戦った時それに気づいてファイナルになったからな。……だけど俺は憎しみに染まってフローラの力を本当の意味では使えてはいなかった」

「……………」


アスカの大剣とショウの剣がぶつかり火花を散らす。

アスカはあの戦いで恋人をラファスに殺され怒りと憎しみだけで戦っていた。

ヤマトやアランの綺麗事が耳障りにも感じてそれを振り切るように戦い続けた。

フローラもその想いに答えてくれたが、俺は結局フローラの本当の力に気づけないままファイナルになったラファスと戦った。

そして最後は―――


「お前は俺と違ってまだ何も失っちゃいない。お前には守るべき人達がたくさんいるんだろ?だったら感じろ。お前自身の力を!フローラの本当の力をな!」


その言葉と同時にアスカの大剣が激しく燃え上がり、アスカの翼が真っ赤に輝き出す。

そして翼を広げでショウから離れたアスカは大剣を構えてショウに向かって勢いよく突っ込んでいく。


「証明してみろショウ・ヤナギ――!」

「……俺は」


アスカと戦っていくなかでショウはアスカの想いに気づいていた。

自分のようになってほしくないと。

怒りや憎しみに支配されフローラの力をただ暴走させたように戦っていた自分のようになるなと。

フローラの本当の力で今度こそラファスを倒してくれというアスカの一撃を燃え上がる大剣をショウは己の体で受け止めた。


『………マッ、マスター!!』

「なっ…!?お前何をして……」


そのショウの行動にフローラは悲鳴を上げてアスカは目を見開く。

いくらここが深層世界でも痛みはあるのだ。

これを喰らえばただではすまないのに。

どうして―――


「…ッ!!先代マスターである…アンタの想いを受け止めるには…これしかないと思ったんだ…」


口から血を吐き出し苦しそうに顔を歪めるショウだが、それでも大剣だけは決して離そうとはしなかった。


「この戦いは…力で終わらせるんじゃない…。先代の想いに…どう答えるかが……カギなんだよ…。だから俺はこの方法を選んだ…」

「お前…」

「先代マスターであるアスカに誓う!俺は―――」


アスカの握っていた大剣が少しずつ消滅していき、その大剣はショウの手に握られていく。

さらにショウの受けた傷が治っていきショウ自身の身体にも変化が起こる。

ショウの背中の翼がオレンジから赤紫へと変わり腰には二本のブーメランに両手には紅色のガントレットが装着される。


「俺は……このフローラの力を、いやデスティニーの力でラファスを倒す。だから!」

「デスティニー……か。それがフローラの本当の力であり姿って訳か」


自分では決してたどり着けなかった力。

それを目にしてアスカは嬉しそうに笑うとショウの胸に拳を軽く当てる。


「ラファスを倒せよ。お前なら、いやお前ともう一人のフューチャーを持つ男なら今度こそラファスを倒せる。だから任せたぜショウ・ヤナギ」

「あぁ!」


ショウの言葉を聞くと同時にアスカの体が消えていく。

これで安心して眠れる。

ショウ・ヤナギの瞳が出会った時よりも力強く輝いていた。

もう自分はショウに全てを託せる。


「やっと…キミに会えるよ……ルーシェ」


かつてラファスに殺された大切な恋人。

その恋人の名前を優しく愛おしいように口にしながらアスカは目を閉じて、そのアスカを包み込むように淡い光が現れアスカの体は消えていった。


『アスカ、本当にありがとうございました。どうかゆっくり眠ってください』


ショウとユニゾンしていたフローラは頭を下げてアスカに言葉を送る。

その瞳から涙が溢れるがフローラはずっと頭を下げ続けていた。


「デスティニー…」


これがフューチャーのフローラの本当のファイナル。

これでアイツと戦える。

待っていろラファス!











△▼△▼△▼


「まさかここまでやるなんてね…」


ショウとアスカの戦いが終わった時クルスとヤマトの戦いもすでに終わって、クルスは白と蒼が混じった翼を消し両手に握った双銃を腰にしまい砂浜で大の字で倒れているヤマトの傍に近付く。


「モードフリーダム。これがファイナルの姿か…」

「正確にはキミとレンの力だけどね。でも今までよりキミとしては戦いやすくなったんじゃない?」


どこか楽し気に笑うヤマトはただ真っ直ぐに星空を眺めていた。

クルスとの戦いは本当に楽しいものだった。

アスカともアランとも、そして今代マスターのショウ・ヤナギとも違う戦い方や戦いに対する想い。

クルス・アサヅキはただ彼女の為に強くなっていた。

全ては彼女の笑顔の為……か。


「クルス・アサヅキ、キミにどうしても聞きたい事がある」

「何です?」

「キミはどんな事があってもあれをやるのかい?もしかしたら今ならまだ引き返せるんじゃないの?」


ヤマトだけが全てを知っている。

レンの中でクルスを見続けていたからこそ知るクルスの目的。

それをやったらどうなるかクルスなら分かっているはずなのに、とヤマトは星空から視線をクルスに向けるとクルスはただ笑みを浮かべるだけだった。

その笑みを目にしてヤマトはすぐに気付く。

まだ他にも道はあるのにキミはそれを選んだんだね。

ロンド・ラグナで死を選んだのに、生き残ったキミはもう迷うことなくその目的に向かって真っ直ぐに。


「これだけは言わせてもらうよ。キミにも大切な人がいる。そして……その大切な人を決して泣かせるような事はしないで」

「………」


ヤマトの言葉にクルスは答える事もなく視線を星空に向ける。

ロンド・ラグナで諦めた計画。

けどこうして生きているならあの計画に変更はない。

だからどんな事があっても足を止める訳にはいかないんだ。


「さようならクルス・アサヅキ。最後に戦えたのがキミでよかったよ」

「あぁ……。先代マスター」


アスカの時と同じようにゆっくり消えていくヤマトの体。

彼もまたラファスに大切な人を殺されてしまった。

その時彼は心を壊しラファスと相討ち覚悟で戦って負けてしまった。


「……レイア。僕もキミのところに…ようやく」


最愛の人に包み込まれたような暖かさを感じながらヤマトは笑みを浮かべたまま消えていく。


『……ヤマト。お疲れさまでした』


レンは悲し気な表情を浮かべ一度頭を下げ視線をすぐにクルスに向けると、クルスはただ真っ直ぐに星空を眺めている。

その姿にその感情にレンはユニゾンを解除してクルスに寄り添うように引っ付く。


『マスター…』

「どうしたレン?」

『私はずっとマスターの傍にいます。何があっても私はマスターと戦います。だから――悲しそうに笑わないでください』


アナタがそんな風に笑うと私は――


「大丈夫だよレン。僕はもう振り返らないと決めた。だからもう大丈夫」


ファイナルの力も手に入れた。

ラファスとの最後の戦いも近い。

だからこそ僕も動かないといけない。














次回予告

すずか
「先代マスターとの戦いが終わって戦士達は最後の戦いの前にそれぞれの時を過ごす。

その中でそれぞれの想いと約束を交わしていく。

次回――
S.H.D.C.第53話
『それぞれの時間前編』に……
ドライブ・イグニッションだよ!!』
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