もう一つの真実

ショウとクルスが先代マスターと戦っている頃、ラボではアリサとすずかとなのはとはやての四人が話し合いを続けていた。

スカリエッティは邪魔をしないようにショウとクルスのデータを随時チェックするために四人の傍から離れた位置に立っていた。


「それでなのはとはやては何を聞きたいのかしら?」


アリサはテーブルに置いてある紅茶を一口飲みゆっくりと息を吐く。

ショウとクルスがここに戻るまでまだまだ時間がかかるわね。

これならなのはとはやてともゆっくり話せる。

さてクルスが話していない真実を私とすずかで話していくか。


「じゃあ私から。アリサちゃんとすずかちゃんはいつクルス君と再会したの?」


ケーキを美味しそうに一口食べて不思議そうに訪ねるなのはにアリサが呆れたように笑う。


「それを答える前に、二人はアイツからどこまで聞いてるの?」

「私らが知ってるのはこの事件の黒幕とかジョーカーズの事とか安藤誠の事やけど…」

「ならほとんど知ってるのね。そうなると私とすずかが話せる事がほとんどないわ」


あと私達が話せる事って本当にアイツと再会した時ぐらいじゃない。

でもまぁ……

それでも今回の事件に関わる事はアイツ自身が話したならいいか。

ロンド・ラグナで死のうとした時は本気で焦ったけど。


「じゃあクルス君と再会するまでの話は私が答えるね二人とも」


私とアリサちゃんがクルス君と再会するまで本当にいろいろな世界をこの目で見てきた。

何十・何百・何千・何万という世界を見てきた気がする。

それこそ平行世界と呼ばれる世界も数えきれないぐらい。

どんな世界があった?

そうだねぇ。

なのはちゃんが魔法少女にならない世界。

フェイトちゃんとなのはちゃんが出会わない世界。

はやてちゃんの大切な家族が消えちゃう世界。

本当にいろいろな世界があったんだよ。


「……他にもなのはちゃんやフェイトちゃん、私達全員を嫁だ!っていう銀髪の人がいたりとか。……でもどんな世界を見てもクルス君を見つける事はできなかったの」


それだけじゃない。

どの世界にも一つだけ共通点があった。

私達は存在しているのに、どの世界にもクルス君だけじゃなくショウ君も存在していなかったのだ。

一体どうしてなんだろ?


「正直言うとね、私もアリサちゃんも半分諦めそうになってたの。どんなに頑張ってもクルス君がいる世界を見つけられなくて時間だけが過ぎちゃったから…」


そんな風に思いながらも世界を見る事はやめなかった。

それをやめてしまったら本当に今までやってきた事が無駄になっちゃうから。


「そして、そんな私達のところに一つの情報が入ってきたの」


それがクルス君との再会になるなんて私もアリサちゃんも思いもしなかったんだよ。

えっ?何の情報?

それはね―――


「アンタ達のDNAを使ってジョーカーズを生み出している奴がいるって情報よ。最初は半信半疑だったんだけどその情報を聞いていくうちに信憑性が出てきたからドクターの知り合いと一緒に私とすずかで確認しに行ったのよ」


アリサの脳裏によぎるジェイルの協力者達。

どうせ今頃はこのラボの奥で私達の会話を仲間達と見ているでしょうね。

それでこっそり覗きに来ようとする悪ガキを部下と一緒に叱っている気がするわ。


「アリサちゃんどうかしたの?」

「何でもないわよ」


不思議そうに首を傾げるなのはにアリサは微かに笑みを浮かべ答えた。

こんな状況なのに笑ってしまうなんて私も、いえ私達もだいぶドクター寄りの人間になったのかしらね?


「そんでアリサちゃん達が安藤誠のいる研究所に着いた時には……」

「研究所は壊滅してそこにいたのは返り血で全身が真っ赤に染まったまま、壊れたように笑うクルスがいたのよ」


いえ、壊れたように笑うじゃなかったわね。

あの時のクルスは確実に壊れていた。

涙を流して笑っているアイツを見て私もすずかもしばらく声を掛けられなかったもの。


「私やアリサちゃんが声を掛けた時、クルス君ってば最初私達だって気づかなくって…」


研究所の生き残りだと勘違いして私達に向かって襲いかかろうとしたんだよ。


「えっ!?本当なのアリサちゃん!?」

「よく二人とも無事やったなぁ」


なのはちゃんとはやてちゃんが驚くのも無理はない。

普通に考えて死を覚悟するレベルの事だもん。

でもそんなクルス君を止めた人がいてね。


「あのクルス君を止めるってどんな人やったん?」


はやての問い掛けにすずかはチラリと視線をアリサに向けると、アリサは諦めたようにため息を吐く。


「…………よ」

「「へっ?」」

「だから!私よ!アイツが突っ込んできた時についスパナを投げちゃって…」


あれは本当に事故だったわ。

たまたま投げたスパナが綺麗な放物線を描いて吸い込まれるようにクルスの頭に直撃してクルスってば気絶したのよね。


「アリサちゃん…」

「私が一番驚いたわよ!まさかスパナが当たるなんて思わないし…」


なのはの残念な人を見るような目にアリサはたまらず反論する。

確かにスパナを投げた私も私だけど、それで気絶するクルスもクルスよ。

まさかこんな再会になるなんて私もすずかも予想できなかったけど。


「それで気絶したアイツをこの研究所に連れてきて、アイツが目を覚ますまでドクターの研究を手伝っていたのよ」


それからしばらくしてアイツが目を覚ましたんだけど、アイツってば私達を見て最初に何て言ったと思う?


「誰だお前ら?よ!最初記憶喪失かと思ったら本当に私やすずかの事を忘れてたのよ」

「あの時はさすがにショックだったなぁ。まさか私とアリサちゃんの事を忘れてたから」


それでアリサちゃんが思い出しなさい!って言いながらクルス君の頭をグーで殴ったんだよねぇ。

それでクルス君ってば私とアリサちゃんの顔をしばらく見て思い出したような顔をしたんだよ。


「それからしばらくクルス君と一緒に行動してたの。私達がここにいた理由やフェイトちゃんの為に世界を見ていた事全部をね」

「それでクルス君はどうしたん?」

「驚いてたよ。そのあとは頭を下げてすまないって謝られたけど…」


私達は気にしなくていいよって言ったけど、クルス君ってばしばらく私達のお手伝いとかしてくれたんだよ。


「それが三人の再会やったんやな。じゃあ次やけどスカリエッティに質問や」

「……んっ?私にかい?じゃあアリサ君とすずか君は私の代わりに少しデータを見ていてくれないかな」

「了解」

「わかりました」


スカリエッティと入れ替わるようにアリサとすずかは、ショウとクルスのデータを見ながら話をしていく。

スカリエッティは椅子に座り新たに出てきたコーヒーを口にしてはやての方に目を向けた。


「それで私に聞きたい事とは?」

「単刀直入に聞く。数年前の空港火災はアンタの仕業なん?」


数年前に起きた空港火災。

自分が担当したまたま休みだったなのはちゃんとフェイトちゃんに協力してもらってなんとか解決した事件。

あの時怪我人が数人出ただけですんだが、下手したら死人が出てもおかしくなかった。

そして調べていくうちにスカリエッティが関わっているとフェイトちゃんが教えてくれた。

だからこそ今目の前にいるスカリエッティに問いかける。


「……ふむ。確かにあれを起こしたのは私だ。あそこには私が回収しなければならなかったものがあったからね」

「レリックやろ?」

「さてね」


肩を竦めて答えるスカリエッティ。

本当はただの実験であそこに訪れただけ。

たまたまそこにレリックがあり、クライアントに回収しろと命令されあんな事になってしまった。

しかもレリックは回収できず実験も失敗で無駄足だったがね。


「どうしてジェイルさんはレリックを回収しているんですか?」


二つ目のケーキにフォークを刺し、なのはは真剣な表情で問い掛けた。

しかし頬っぺたについた生クリームで台無しであり生クリームに気づいていないなのはに、スカリエッティは笑いを耐えはやては口元を手で隠しながら笑いを誤魔化す。

なのはちゃん―――

生クリームついたままやと凄みがないやん。

こんなときにそれは卑怯やと私は思う。


「私としてはレリックにそこまで興味はないのだがね。だが――クライアントはそうじゃないみたいだ」

「クライアントやと?」

「あぁ。そのクライアントがいる限り私は命令を守らねばならない」


どこか自虐的に笑うスカリエッティ。

自分を縛る呪われた鎖。

これがあるかぎり自分はクライアントの人形でしかない。

本当に嫌になるね。


「もしそのクライアントの命令に逆らったら?」

「私は消されるだろうね。私だけじゃない。私に関わった全てをクライアントは消すはずだ」


この意味がわかるかい?

つまり私の命だけじゃない。

私に関わった、キミ達の友人もただではすまない事になる。

これに関しては本当にすまないと思っている。

私のせいでキミ達の友人も関係者になってしまったからね。


「もしかして二人がここにおるんわ」

「彼女達を家族の元に帰すのは危険だと思ったからだよ」

「ジェイルさん…」


そんな事情があったからアリサちゃんもすずかちゃんもここにいたんだね。

そして今起こっている事件をクルス君から聞いて、こっそり手助けしてくれていた。


「じゃあアンタがクルス君と出会ったのは、安藤誠の一件からなん?」

「そうだね。キミ達も知っているだろうが、安藤誠はジョーカーズを作り出した張本人だ。そして彼はジョーカーズを作り出す為なら何でもしていてね。私にもコンタクトしてきたが私は断ったのさ」


まぁ、そのあと気になってウーノに調べさせたおかげでクルスと出会えたから結果的によかったがね。


「じゃあ付き合いは長いって事やね」

「そうだね。私は彼を友だと思っているし、彼も私を友だと思っているぐらいの仲だと言えるよ」


彼には私の事で本当に助けてもらってばかりだ。

戦闘機人計画も。

私の呪われた鎖も。

だからこそ私は彼のあの計画に協力するつもりだ。


「あの~ジェイルさん…」

「何かな高町なのは君。あと頬っぺたの生クリームをいい加減拭いてくれるとありがたい」

「……あっ」


ジェイルの指摘になのははにゃははと笑いながら生クリームを丁寧に拭く。

どこにいても変わらないなのはにはやては苦笑し、離れた場所にいたアリサとすずかは楽し気に笑みを浮かべる。


「ジェイルさんは今回の事件をどう思いますか?ユリナさんとラファスは何をしようとしているかわかりますか?」

「あくまで私の考えだが、おそらくラファスはベルエスと呼ばれているあの兵器で世界そのものを無にするつもりだろうね。

だがベルエスを連続で使えていない今の状況で果たしてできるか…」

「アンタは何で連続で使えないのかわかるんか!?」

「あぁ…。あのベルエスのエネルギーはマテリアルコアの他にもう一つある。おそらくそのもう一つが邪魔をしているのさ。だから彼らはベルエスを使えない」


これはクルスの話を聞いて私自身が思った事だけどね。

おそらくコアにいる彼女が抵抗しているのだろう。

だからベルエスは使う事ができない。

さすがにユリナ・ミドカルドもラファスも予想できなかったようだ。


「そしてラファスだが…「ドクター!」…んっ?どうかしたかいすずか君」

「これを見てください」


話の途中ですずかに呼ばれてジェイルはデータの方に視線を向けた。

そこに映し出されたデータを目にしながら、ジェイルは目を細めていく。

そのデータはショウとクルスの能力値が表示されており、二人の能力値がかなりの勢いで上がっていた。


「これが覚醒者の姿か」

「覚醒者?」


ポツリと呟いたジェイルの言葉になのはとはやては首を傾げる。

覚醒者――

それはジェイル自身も無意識に呟いた言葉。

フューチャーを持つ者だけがたどり着く境地である。


「覚醒者。分かりやすく説明すると、その使用者の能力を進化させる事だよ。つまり今までよりもランクが上がったと思ってくれたまえ」

「つまり?」

「覚醒したショウ・ヤナギの力ならキミのSLBを真っ二つにできるんじゃないかな?」


それって人間やめてへん?

なのはちゃんのあれはただでさえ威力が恐ろしいレベルやのに、それを真っ二つとか想像できへん。


「……ってなのはちゃん。何でそんなに笑てんの?」

「だってそんなにショウ君が強くなったなら試してみたいと思って!ジェイルさんも真っ二つにできるって言ってたし」

「……できるんじゃないかなって言ったんだけどね」


スカリエッティェ……

そんなに小さく呟かんといて。

それ絶対なのはちゃんに聞こえてへんから。

あとアリサちゃんとすずかちゃんはご愁傷さまって顔しとるし。

これ大丈夫やろかショウ君。


「あとは彼らが戻るのを待つだけか……」


先代フューチャーの使い手との戦い。

これを乗り越えた先に二人は新たな力を手にする。

覚醒者―――


「……新たなる人類への進化………か」


ジェイルはそう呟いてただ思う。

彼ら二人がどんな道へと進むのか。

それを見届けるのもいいかもしれないなと。









アリサ
「いまだ先代フューチャーのマスターと戦うショウとクルスの二人。

覚醒した二人は果たして勝てるのか?

……いや勝ってもらわないと困るわよ。

アンタ達が負けたら世界は終わりなんだから。

だから勝ちなさい二人とも!

次回
S.H.D.C.第52話
【モードデスティニー・モードフリーダム】に!

ドライブ・イグニッション」
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