語られし真実

恭介達による光陽鳴海町襲撃事件はシュテル達マテリアルズとクルスの介入により無事に収束して、毒帝の恭介はクルスとの戦いで散りジョーカーズの協力者だった剣と雅の二人は、クロノに捕まり今は拘束された状態でアースラの独房に入れられていた。

そして今アースラの会議室には管理局員のショウ達とクルスがいて、クルスは逃げられないようにフェイトに拘束されて苦笑していた。

本人は逃げるつもりはないのだが、フェイトは離す気がないのかピッタリと引っ付いている。

ちなみに稟達民間協力者やシュテル達マテリアルズは、光陽鳴海町で魔獣の残党と戦ったり状況説明でアースラにはいないので今この場には時空管理局組とクルスしかいない。


「とりあえず、魔獣との戦いは皆ご苦労だった。こちらに被害がなかったのは本当によかった」


頭を下げあの戦いに参加していたショウ達にクロノは感謝の言葉を口にする。

本当なら稟達やシュテル達にもお礼を言いたかったのだが、本人たちがこの場にいなかったのでクロノは後で礼をするかと一息ついて顔を上げた。



「さて早速で悪いが、本題に入らせてもらう。………クルス」

「まぁ、僕に話があると思ってたよ」

「お前はあの時本気で死ぬつもりだったはずだ」


ロンド・ラグナでクルスの最後をフェイト以外の全員が目にしていた。

あの時クルスは死を覚悟して微笑んでいたのだ。

後は任せたよと口にしてリフトを動かしていたはずなのに何故今ここにいる?

生きていたのは本当に嬉しかった。

だからこそどうやって助かったのか、クロノはここにいるメンバーを代表してクルスに問い掛ける。


「……クロノの言う通り、僕はあの時ロンド・ラグナで死ぬつもりだった」


そう口にした瞬間、フェイトの抱きつく力が強くなったがクルスはそのまま話を続けていく。

あの時僕はショウ達に全て託して死ぬつもりだった。

しかしあの時僕の前にある男が現れたのだ。

呆れた表情をしながらクレープを手に持ちもう片方の手には灰色の分厚い本を手にした男が。


「ロンド・ラグナで僕を助けたのは、黒峰永久という人物だよ」

「黒峰永久?」


ショウ達が知らないのは当然だ。

何故なら彼は普通の人間じゃない。

彼の持つ力はある意味神を越えるほどの力なのだから。


「もしかして…」


ショウの脳裏によぎる体育祭の時に助けてくれた人物の姿。

彼も名前は黒峰永久だった。

もしそうなら――


「なぁ、クルス」

「何?」

「黒峰永久って、もしかして黒髪でなんか眠たそうにして、手に食い物とか持ってなかったか?」

「その言い方はショウも彼に会った事があるのか。いつの間に…」


そしてショウは体育祭で現れた黒峰永久の事をクルスに話していく。

ジョーカーズの光帝に襲われそうになった時に上空から勢いよく現れて助けてくれたこと。

光帝が黒峰永久の力を口にして、黒峰永久がその力はおとぎ話に近いと口にしていたこと。


「なるほどね。だから僕も助けたのか」


黒峰永久の力は間違いなくあの力のようだ。

だからこそイレギュラーを起こさないように動いていたのか。

僕を助けたのもその為って事になる。


「黒峰永久という人物の事は後だ。それよりも今はクルスに全てを話してもらわなきゃいけない。この事件に関わる全てをな」


クロノの言葉に全員の視線がクルスに向けられる。

この場で全てを知るのはクルスのみ。

パートナーであるレンはメンテナンス中でこの場にはいない。

そしてこの事件について知るユーノやヴェロッサも、クルスに任せるようで小さく頷くのみ。

クルスは一度目を閉じて気持ちを落ち着かせるように息を吐いて話を始めていく。


「かつて時空管理局には四聖と呼ばれるグループがいた」

「四聖?何だそりゃ?」


ヴィータはその言葉に首を傾げる。

何せ四聖という単語に聞き覚えがないからだ。

それはショウ達も同じようで全員が怪訝な表情を浮かべる。

【四聖】とは――

時空管理局を発展させて今のような形を作り、様々な分野を広げてきたグループの事である。

元々はミゼットの直属部隊だったがとある理由でそれが記録から抹消されていた。


「抹消ってどうして?」

「時空管理局にとって都合が悪くなったからだよなのは。何せ四聖の中に犯罪者が出たからね」

「犯罪者だと?」

「……あぁ」


シグナムの言葉にクルスはその人物のデータを皆に見せるように映し出す。

そこに映し出された一人の人物を目にしてショウ達は目を丸くした。

何故なら―――


「ディアゴ・ハーシェリスだと…」


かつて闇の書事件の時に現れた先代闇の書の主。

その圧倒的な力にショウとクルスの二人は一度敗北している。


「ディアゴ・ハーシェリス。かつて僕達の前に現れた先代闇の書の主だよ」


ディアゴ・ハーシェリス。

かつては四聖のメンバーであり闇の書の主に選ばれて時空管理局を襲撃した男。


「まさかディアゴ・ハーシェリスが時空管理局に所属していたなんて」


はやてはそのデータを目にしながら頭の中で様々な事を考えていた。

ディアゴ・ハーシェリスが事件を起こしたから、四聖の記録が抹消されたのか?

本当にそれだけなのか?

それとも他にも何か別の事が関係している?


「なぁ、クルス君。ちょっと聞きたいんやけど」

「はやてが気になっているのは四聖の残りのメンバーか?」

「それもあるんやけど、その四聖と今回の事件の関連性がわからへん。ユリナさんが事件を起こしたのはラファスの思想に共感したからやろ?なら四聖は関係してるのかと思って」


はやての問い掛けにクルスは、だろうねと小さくだが呟く。

四聖だけじゃ関連性がわからないだろう。


だが四聖とユリナには確かな繋がりがあるのだ。

その繋がりが全ての始まりなのだから。


「四聖は元々とある人間達の願いで作られたグループだった。時空管理局をよりよくしたいという願いでね。だけど――」


ディアゴが犯罪者になった事で全てをなかった事にしたのだ。

元から存在しないように情報を操作して。

さらに四聖の残りのメンバーにとある任務を命令でやらせようとした。


「四聖に所属していた残りの三人は時空管理局を恨んだだろうな。今まで自分達がやってきた事を全てなかった事にされただけじゃなく仲間だったディアゴを自分達に消させようとしたんだから」


だからこそ今この事件が起きてしまった。

全ては復讐の為であり、凶王ラファスの力を使ってでも彼女は―――


「もしかして四聖のメンバーにユリナがいたの?」

「………えぇ。ディアゴ・ハーシェリスとユリナ・ミドカルドは友であり共に戦っていた仲間です」


そして四聖の残りの二人はジョーカーズを生み出した男と聖騎士団に所属していたとある男。


「安藤誠と僕が神魔杯で消した紅牙の二人が残りのメンバーです。この四人が四聖であり存在を抹消された者達です」


先代闇の書の主―――
【ディアゴ・ハーシェリス】

ジョーカーズを作り出した男―――
【安藤誠】

聖騎士団に所属していた男―――
【紅牙】

そして―――
時空管理局元帥―――
【ユリナ・ミドカルド】


この四人が四聖のグループでかつて共に戦っていた者達である。


「いや、待て。それだと一つおかしい事になる。ユリナ元帥の記録は正式に管理局に残っているはずだ。あの人は仮にも元帥だったんだぞ。元帥の記録がないなんて普通に考えて…」

「偽りの記録だとしてもか?」

「なにっ…!」


クロノの言葉にクルスがただ静かに返す。

ユリナ・ミドカルドの記録は管理局の上層部が作り出したものにすぎない。

四聖の唯一の生き残りで自分達で監視しておかねばならない存在だ。

だから上層部はユリナ・ミドカルドを元帥に任命したのだ。

あくまでお飾りの元帥として。


「なら何でユリナさんは上層部に反抗しなかったの?あの人の力なら簡単に…」

なのはの言う通りである。

ユリナ・ミドカルドの力は普通の魔導師では止められない。

何せランクも桁違いで夏休みの時はショウ達を相手に圧倒していたのだから。


「彼女は力ではなく上層部の悪事や犯罪の証拠を見つけ出して断罪しようとしたんだ。自分達を簡単に切り捨てた上層部を正々堂々とその手で裁こうとな。しかし――」


彼女は出会ってしまった。

ベルカ時代に消されたはずの存在と。

世界を自分のものにしようてした男。

凶王ラファスと。


「ユリナ・ミドカルドはラファスと出会って、最初はその力を利用しようとしていた。

しかしラファスとユニゾンしていくうちに彼女はラファスの思想に共感していった。

そして――

ラファスの為に戦うという道を選んだんだ」


ディアゴ・ハーシャリスが闇の書の主となり暴れまわり、彼女はディアゴを救おうとしたが上層部に始末するように命令された瞬間、彼女は力を求めてしまったんだろう。

上層部を黙らせるほどの力を。

それがラファスでありラファスの言葉に誘導された彼女は、いつの間にかラファスの思想に心酔していったのだろう。


「ならユリナさんがクルスをこの世界に呼んだ本当の理由は――」

「ベルエスを復活させる為に利用したかったからだ。ベルエスを復活させて最後は君たちと戦わせて同士討ちをさせる。それがラファスのシナリオだったからね」


それも黒峰永久の介入により無駄になった。

ショウがいて僕がいるこの状況ならまだ戦える。

フューチャーの使い手を倒すには、同じフューチャーを使う者達でないと倒せないようだしね。


「なぁ、クルス君」

「どうしたはやて。まだ聞きたい事があるか?」

「そりゃもちろんや」


はやては安藤誠のデータを目にしてその視線をゆっくりクルスに向けた。

はやてはどうしても聞きたかった。

安藤誠の死について。

ちょっと前にクロノが語っていたが、それは安藤誠の死に方であり誰がやったのかは言わなかった。

しかしはやてはそれを聞かされた時から確信に近い状態で犯人が分かっていたのだ。

安藤誠を殺したのは―――


「証拠がある訳でもない。でも今までのクルス君の言葉や行動で私は確信したんや」


はやては真剣な表情でただ静かにその言葉を口にする。

それは―――


「安藤誠を殺したんはクルス君なんやろ?」

「…………あぁ」


はやての言葉にクルスは悲し気な表情で答える。

クルスの一生忘れる事ができない出来事。

あの時見た光景が今も夢でよみがえる。

あの研究所の光景は狂っていたとしか言えない。

間違いなくあの時僕は一度全てが壊れてしまった。


「ロンド・ラグナでも言ったが、ジョーカーズはディアゴだけじゃなく、なのはとフェイトとはやてのDNAも使われている。こう言えば後はわかるよね?」

「…ッ!!まさか!」

「そのまさかだよクロノ」


それだけで察したのかクロノはハッとした顔になり、それはクロノだけじゃなくショウやリンディも同じような顔をしている。

ちなみにロッサとユーノは事前にクルスから聞いていたので、この場では驚いていないが最初に聞いた時は同じような顔をしていた。


「作り出されたジョーカーズが全て成功した訳じゃない。もちろん失敗作もいた。それを安藤誠と研究者達は……ッ!!」


血を吐くような勢いでクルスは顔を歪める。

思い出してしまう。

あの時の地獄が。

あの時の狂ったような光景が。
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