聖夜の奇跡
~光陽鳴海町~
「これは…」
「ひどい…ッ!!」
地上本部から急いで地球に帰ってきたショウ達が目にしたのは、魔獣によってボロボロとなった街の姿だった。
いくら結界をしているとはいえ今のこの光景は許せるものではない。
ショウは拳を握り締め顔を歪めていた。
「皆…」
「無事でいてくれ」
「お嬢様…」
稟や純一やハヤテもまたデバイスを強く握り締め今すぐにでも飛び出して行こうとするが、指示を出しているクロノの方に顔を向けて指示を待っていた。
そしてそれは三人だけではない。
将輝や湊達民間協力者もクロノの指示を待っている。
「今からここにいる全員に作戦を伝える。この結界内に取り残されている人達を助け出すんだ。その間に僕は魔獣を召喚している元凶を捕えてくる」
クロノはそう伝えながら視線を上空に向ける。
いまだに魔獣が召喚されているのはこの街を覆っている魔法陣が原因のはずだ。
そこに召喚している者がいるかもしくは何かがあるか。
どちらにしてもジョーカーズが絡んでいるのは間違いないだろう。
「クロノ、俺はお前についていくぞ」
「ショウ…」
「相手が何人かわからないのに一人で行かせるかよ。それに――」
ショウの脳裏によぎるボルキアとの戦い。
あのときの戦いでクロノは傷痕が残るほどの深手を負ってしまった。
もしまたあんな事になったらエイミィが悲しむ事になる。
これ以上誰にも悲しんでほしくはない。
「…わかった。なら僕とショウの二人で行く。他の皆ははやての指示で動いてくれ。はやて、頼めるな?」
「分かっとるよクロノ君。こっちは私らで何とかする。だから魔法陣の方は頼んだで」
クロノとショウは小さく頷き合い魔法陣の方に飛んでいき、その場に残ったメンバーにはやてはすぐに指示を出すと自分もまた動き出した。
(レジアス中将の言葉通りならきっと……)
迫り来る魔獣を仕留めつつはやてはただ一人の人物の事を考える。
この戦いできっとあの人は帰ってきてくれる。
だから早くフェイトちゃんを支えてあげて。
「……クルス君」
夜空から降る雪を見つつもはやてはただ空を駆け抜けていく。
~街(A)~
「僕の新必殺技!サンダーホームラン!!」
豪快な音と共にどこかに飛ばされた魔獣を目にしながらレヴィは嬉しそうに笑みを浮かべる。
まるで自分が楽しんでいたゲームのように無双している事が楽しいのかレヴィは子供のようにはしゃいでいた。
そんなレヴィに対しどこか困惑したような表情で楓が口を開く。
「あの~レヴィちゃん」
「何だいかえて?」
「楓です。それよりどうしてレヴィちゃんはフェイトちゃんにそっくりなんですか?」
「う~んとね!へいとがボクのオリジナルだからだよ」
オリジナルという単語に楓は困ったように首を傾げる。
実はレヴィがシアを助けてから今まで楓だけでなくシア達も同じようにレヴィに質問していたのだ。
しかし返ってくる返答は同じで楓達は全く意味がわからないため困惑するしかない。
「ボクはキミ達を安全なところに連れて行くのが役目。だから詳しい話は王様に――」
そう口にしながらレヴィは上空から降ってくる魔獣を雷の槍で消滅させてニヤリと笑う。
レヴィは今心の底からこの状況を楽しんでいる。
あの星にいた時はこんな風に敵が次から次へと現れなかったのだ。
しかし今は倒しても倒しても現れてくる。
王様であるディアーチェからはやりすぎるなと、言われていたがレヴィはそんな事などすっかり忘れて魔獣に大技を放とうするが、
「サンダースマッシャー!!」
「およっ?」
レヴィの前方から放たれた雷の閃光にレヴィは目をパチパチさせた。
それは自分がよく知る閃光でありその閃光を放った人物にレヴィは嬉しそうに笑い話しかける。
「久しぶりだねオリジナル!いや……へいと!」
「フェイトだよ!……ってあれ?レヴィ!どうして…」
フェイトは自分の目の前に立つ自分とそっくりの女の子の姿に目を丸くする。
かつて戦った存在。
力のマテリアルであり雷刃の襲撃者という名がある女の子。
レヴィ・ザ・スラッシャーの姿にフェイトは信じられない顔をした。
まさかまた会えるなんて思わなかったのだから。
「へいとがピンチって聞いてやってきたのさ!」
「一体誰に?」
「えーとね……」
「レヴィ?」
えっとね~、と腕を組んでその人物の名を口にしようとしたがレヴィは急に首を傾げてこう口にする。
「…忘れた!」
~街(B)~
「パイロシューター」
なのはのアクセルシューターと同じ丸い球体が魔獣に直撃して炎に焼かれながら魔獣は消滅していく。
辺り一面が炎の海のように変わり果てているが、シュテルは涼し気な顔で次々とパイロシューターを発射していく。
ただし――
「ダーリンの為…ダーリンの為…ダーリンの為…」とまるで呪詛のようにぶつぶつと呟くその姿に、シュテルの近くにいた直樹とデニスの顔は真っ青に染まっていた。
「あっついな!おい、ハムスター!ポカリはないのか!」
「待ってくれないかなナギちゃん。今それどころじゃないから。むしろ私の方がポカリほしいよ!ナギちゃんを背負ってる私こそもらうべきだよね!」
シュテルから少し離れた所でナギを背負う歩の悲鳴に近い言葉に咲夜は小さく頷く。
先程から交代なしで歩がナギを背負っていて一回も休憩していないのだ。
しかも辺り一面炎に包まれていて温度も高い。
自分だって水分がほしいぐらいだ。
「そんな皆様に鷺ノ宮特製の水を差し上げます!」
そんな皆を見かねて伊澄が水が入ったペットボトルをどこからか取り出して、その水にナギは顔を輝かせたて受け取ろうとするが横にいた咲夜は腕を組んでとある疑問を口にした。
「それどこの水や?」
「アルプスヒマラヤ山脈から汲んできた水で…」
「どこが鷺ノ宮特製やー!!」
「「…あぁ!?」」
ハリセンでペットボトルを上空に打ち上げるとペットボトルはそのまま魔獣の口にすっぽり入り、ナギと伊澄が落胆の声を上げてしまうがそんな事など関係なしにシュテルは魔獣を閃光でぶち抜こうとしたが、魔獣はピンク色の巨大な閃光に呑み込まれ跡形もなく消滅していった。
「これはナイスタイミングですね」
その閃光を目にしシュテルンの顔が一瞬だけ綻ぶ。
とても懐かしくて綺麗なピンク色の閃光。
自分にはない光をもつライバルであり友である存在。
「皆!大丈夫!?」
「大丈夫ですよナノハ」
「ふぇ!?シュテル!」
シュテルを見て目を丸くするなのはにシュテルは小さく笑みを浮かべるのであった。
「水が…水が…」
「咲夜、酷い…酷いわ…」
こんな状況でも水を失った事で悲しむナギと伊澄に咲夜はため息を吐いてしまう。
~街(C)~
「我の前に立ち塞がるなど滅してくれるわ!」
「流石です。ディアーチェ」
朋也と渚と春原の三人は自分達の前で魔獣を倒している女の子を困惑した表情で見つめていた。
自分達の知る八神はやてはあんな感じだったかと。
あんな豪快に笑い威圧感丸出しで魔法を使い、少女に応援されながら喜ぶ女の子だったかと。
「あの~はやてちゃん」
はやてそっくりの女の子に春原が恐る恐る声を掛けると、女の子はくわっと目を見開き勢いよく振り返ると不機嫌な表情で三人を睨み付けていた。
「我は子鴉ではないと言っておるだろうが塵芥!我はディアーチェ!ロード・ディアーチェだ!」
「えっと、そんな設定で魔法を使ってるの?」
まるで中学生みたいだねーと、暢気に笑う春原だがディアーチェの眉が微かに動いている事に気付いていない。
しかも殺気まで出ているのに春原が全く気付いていない事に朋也はこいつアホだなとため息を吐く。
(どう考えてもキレる前の智代と同じだな)
これは春原の未来は決まったな。
いつもの智代の蹴りじゃないぶんどうなるか楽しみだ。
「髪の毛も染まっちゃってるし、これじゃ中二病みたいだね」
お前は俺を殺すつもりか!
よく見てみろ春原。
八神そっくりの女の子の顔が殺意の波動に目覚めていくぞ。
だからもうやめてくれ。
笑いを耐えるのがキツくなってくる。
「岡崎さん?」
肩を震わせ何かを我慢する朋也に渚は不思議そうに首を傾げるが朋也は答えることなく手で顔を隠す。
「僕としてはまだ地味すぎると思うよ。そうだね―――腕にシルブルァァァ!!」
それは一瞬の出来事だった。
八神そっくりの女の子が手に持っていた武器をフルスイングして春原を殴ると、春原はとても素晴らしい笑顔のまま錐揉み回転してそのまま学校に吹き飛んでいった。
本当に期待を裏切らない男だな春原。
「そこの二人」
まるで鬼のような声で呼ばれた朋也と渚の肩がびくりと揺れる。
春原で笑っている場合じゃないな。
早く俺たちも学校に行かねぇと。
「貴様らもあの塵芥と同じように飛ぶか。それとも自力で行くか。選ぶがよい」
「いえ!自力で行くのでお構い無く!行くぞ渚!」
「はっ、はい!」
この時朋也と渚は確かに風となった。
いや風ではなく光の速さで消えていく。
「まったく…」
やれやれとため息を吐いてディアーチェはキッと顔をとある場所に向ける。
そこにいるであろう人物に心当たりがあるのかディアーチェは不機嫌そうに見つめていた。
「いい加減出てこんか子鴉。我が気付いていないと思ったか?」
「……あちゃ~ばれとったん?」
ディアーチェの言葉にはやては苦笑しながら現れてディアーチェに近づいていく。
「久しぶりやなぁ。王様もユーリも元気やったん?」
「はい。お久しぶりです」
「子鴉よ。我の問いに答えぬか。何故見ていたのに出てこなかった?」
ニッコリ笑うユーリに対しディアーチェはかなり機嫌が悪いようで威圧するようにはやてを睨み付けるなか、はやてはどことなく申し訳なさそうに頬を掻いてポツリポツリと答えていく。
「ほんまは春原君が王様に殴り飛ばされる前に出ようと思ったんやけど…」
「……なんだ?」
「王様が弄られてる姿が面白くって……つい」
「……ほぅ」
「だって王様が弄られるってレアやん!私としては見逃す訳には…」
「子鴉ーーー!!」
はやての言葉にディアーチェの怒りが爆発して、ディアーチェはムニッとはやてのほっぺたを思い切り掴み引っ張る。
むむむと顔を赤くしてはやてのほっぺたを引っ張るディアーチェにはやては涙目だが嬉しそうに笑っていた。
「この下郎が!おかげで我がどんな屈辱を味わったか」
「許してぇな~……ププッ!」
「おのれー!」
まるで仲の良い姉妹のようなやり取りにユーリは楽しそうに笑い、はやてとユニゾンしていたアインスもまたそんな二人を見ながら嬉しそうに笑っていた。
今まで激しい戦いばっかりだったがこの娘達と再会して少しは楽になっている主はやて。
主はやてが嬉しそうで私はなによりです。
「おうひゃまももうひょいわらへば」
「貴様のようにニコニコできるか!我は王であり闇を統べる者だ」
「やみをすべる………ププッ!」
「何がおかしいかー!」
しかし二人とも今が大変な時なのを忘れていないだろうか?
言うべきか―――
黙っておくべきか―――
どうすればいいのだろうか?
「おうひゃまかわいいなぁ~」
「ぐぬぬぬ!」
こうしてはやてとディアーチェのやり取りはしばらく終わらなかったらしい。
「これは…」
「ひどい…ッ!!」
地上本部から急いで地球に帰ってきたショウ達が目にしたのは、魔獣によってボロボロとなった街の姿だった。
いくら結界をしているとはいえ今のこの光景は許せるものではない。
ショウは拳を握り締め顔を歪めていた。
「皆…」
「無事でいてくれ」
「お嬢様…」
稟や純一やハヤテもまたデバイスを強く握り締め今すぐにでも飛び出して行こうとするが、指示を出しているクロノの方に顔を向けて指示を待っていた。
そしてそれは三人だけではない。
将輝や湊達民間協力者もクロノの指示を待っている。
「今からここにいる全員に作戦を伝える。この結界内に取り残されている人達を助け出すんだ。その間に僕は魔獣を召喚している元凶を捕えてくる」
クロノはそう伝えながら視線を上空に向ける。
いまだに魔獣が召喚されているのはこの街を覆っている魔法陣が原因のはずだ。
そこに召喚している者がいるかもしくは何かがあるか。
どちらにしてもジョーカーズが絡んでいるのは間違いないだろう。
「クロノ、俺はお前についていくぞ」
「ショウ…」
「相手が何人かわからないのに一人で行かせるかよ。それに――」
ショウの脳裏によぎるボルキアとの戦い。
あのときの戦いでクロノは傷痕が残るほどの深手を負ってしまった。
もしまたあんな事になったらエイミィが悲しむ事になる。
これ以上誰にも悲しんでほしくはない。
「…わかった。なら僕とショウの二人で行く。他の皆ははやての指示で動いてくれ。はやて、頼めるな?」
「分かっとるよクロノ君。こっちは私らで何とかする。だから魔法陣の方は頼んだで」
クロノとショウは小さく頷き合い魔法陣の方に飛んでいき、その場に残ったメンバーにはやてはすぐに指示を出すと自分もまた動き出した。
(レジアス中将の言葉通りならきっと……)
迫り来る魔獣を仕留めつつはやてはただ一人の人物の事を考える。
この戦いできっとあの人は帰ってきてくれる。
だから早くフェイトちゃんを支えてあげて。
「……クルス君」
夜空から降る雪を見つつもはやてはただ空を駆け抜けていく。
~街(A)~
「僕の新必殺技!サンダーホームラン!!」
豪快な音と共にどこかに飛ばされた魔獣を目にしながらレヴィは嬉しそうに笑みを浮かべる。
まるで自分が楽しんでいたゲームのように無双している事が楽しいのかレヴィは子供のようにはしゃいでいた。
そんなレヴィに対しどこか困惑したような表情で楓が口を開く。
「あの~レヴィちゃん」
「何だいかえて?」
「楓です。それよりどうしてレヴィちゃんはフェイトちゃんにそっくりなんですか?」
「う~んとね!へいとがボクのオリジナルだからだよ」
オリジナルという単語に楓は困ったように首を傾げる。
実はレヴィがシアを助けてから今まで楓だけでなくシア達も同じようにレヴィに質問していたのだ。
しかし返ってくる返答は同じで楓達は全く意味がわからないため困惑するしかない。
「ボクはキミ達を安全なところに連れて行くのが役目。だから詳しい話は王様に――」
そう口にしながらレヴィは上空から降ってくる魔獣を雷の槍で消滅させてニヤリと笑う。
レヴィは今心の底からこの状況を楽しんでいる。
あの星にいた時はこんな風に敵が次から次へと現れなかったのだ。
しかし今は倒しても倒しても現れてくる。
王様であるディアーチェからはやりすぎるなと、言われていたがレヴィはそんな事などすっかり忘れて魔獣に大技を放とうするが、
「サンダースマッシャー!!」
「およっ?」
レヴィの前方から放たれた雷の閃光にレヴィは目をパチパチさせた。
それは自分がよく知る閃光でありその閃光を放った人物にレヴィは嬉しそうに笑い話しかける。
「久しぶりだねオリジナル!いや……へいと!」
「フェイトだよ!……ってあれ?レヴィ!どうして…」
フェイトは自分の目の前に立つ自分とそっくりの女の子の姿に目を丸くする。
かつて戦った存在。
力のマテリアルであり雷刃の襲撃者という名がある女の子。
レヴィ・ザ・スラッシャーの姿にフェイトは信じられない顔をした。
まさかまた会えるなんて思わなかったのだから。
「へいとがピンチって聞いてやってきたのさ!」
「一体誰に?」
「えーとね……」
「レヴィ?」
えっとね~、と腕を組んでその人物の名を口にしようとしたがレヴィは急に首を傾げてこう口にする。
「…忘れた!」
~街(B)~
「パイロシューター」
なのはのアクセルシューターと同じ丸い球体が魔獣に直撃して炎に焼かれながら魔獣は消滅していく。
辺り一面が炎の海のように変わり果てているが、シュテルは涼し気な顔で次々とパイロシューターを発射していく。
ただし――
「ダーリンの為…ダーリンの為…ダーリンの為…」とまるで呪詛のようにぶつぶつと呟くその姿に、シュテルの近くにいた直樹とデニスの顔は真っ青に染まっていた。
「あっついな!おい、ハムスター!ポカリはないのか!」
「待ってくれないかなナギちゃん。今それどころじゃないから。むしろ私の方がポカリほしいよ!ナギちゃんを背負ってる私こそもらうべきだよね!」
シュテルから少し離れた所でナギを背負う歩の悲鳴に近い言葉に咲夜は小さく頷く。
先程から交代なしで歩がナギを背負っていて一回も休憩していないのだ。
しかも辺り一面炎に包まれていて温度も高い。
自分だって水分がほしいぐらいだ。
「そんな皆様に鷺ノ宮特製の水を差し上げます!」
そんな皆を見かねて伊澄が水が入ったペットボトルをどこからか取り出して、その水にナギは顔を輝かせたて受け取ろうとするが横にいた咲夜は腕を組んでとある疑問を口にした。
「それどこの水や?」
「アルプスヒマラヤ山脈から汲んできた水で…」
「どこが鷺ノ宮特製やー!!」
「「…あぁ!?」」
ハリセンでペットボトルを上空に打ち上げるとペットボトルはそのまま魔獣の口にすっぽり入り、ナギと伊澄が落胆の声を上げてしまうがそんな事など関係なしにシュテルは魔獣を閃光でぶち抜こうとしたが、魔獣はピンク色の巨大な閃光に呑み込まれ跡形もなく消滅していった。
「これはナイスタイミングですね」
その閃光を目にしシュテルンの顔が一瞬だけ綻ぶ。
とても懐かしくて綺麗なピンク色の閃光。
自分にはない光をもつライバルであり友である存在。
「皆!大丈夫!?」
「大丈夫ですよナノハ」
「ふぇ!?シュテル!」
シュテルを見て目を丸くするなのはにシュテルは小さく笑みを浮かべるのであった。
「水が…水が…」
「咲夜、酷い…酷いわ…」
こんな状況でも水を失った事で悲しむナギと伊澄に咲夜はため息を吐いてしまう。
~街(C)~
「我の前に立ち塞がるなど滅してくれるわ!」
「流石です。ディアーチェ」
朋也と渚と春原の三人は自分達の前で魔獣を倒している女の子を困惑した表情で見つめていた。
自分達の知る八神はやてはあんな感じだったかと。
あんな豪快に笑い威圧感丸出しで魔法を使い、少女に応援されながら喜ぶ女の子だったかと。
「あの~はやてちゃん」
はやてそっくりの女の子に春原が恐る恐る声を掛けると、女の子はくわっと目を見開き勢いよく振り返ると不機嫌な表情で三人を睨み付けていた。
「我は子鴉ではないと言っておるだろうが塵芥!我はディアーチェ!ロード・ディアーチェだ!」
「えっと、そんな設定で魔法を使ってるの?」
まるで中学生みたいだねーと、暢気に笑う春原だがディアーチェの眉が微かに動いている事に気付いていない。
しかも殺気まで出ているのに春原が全く気付いていない事に朋也はこいつアホだなとため息を吐く。
(どう考えてもキレる前の智代と同じだな)
これは春原の未来は決まったな。
いつもの智代の蹴りじゃないぶんどうなるか楽しみだ。
「髪の毛も染まっちゃってるし、これじゃ中二病みたいだね」
お前は俺を殺すつもりか!
よく見てみろ春原。
八神そっくりの女の子の顔が殺意の波動に目覚めていくぞ。
だからもうやめてくれ。
笑いを耐えるのがキツくなってくる。
「岡崎さん?」
肩を震わせ何かを我慢する朋也に渚は不思議そうに首を傾げるが朋也は答えることなく手で顔を隠す。
「僕としてはまだ地味すぎると思うよ。そうだね―――腕にシルブルァァァ!!」
それは一瞬の出来事だった。
八神そっくりの女の子が手に持っていた武器をフルスイングして春原を殴ると、春原はとても素晴らしい笑顔のまま錐揉み回転してそのまま学校に吹き飛んでいった。
本当に期待を裏切らない男だな春原。
「そこの二人」
まるで鬼のような声で呼ばれた朋也と渚の肩がびくりと揺れる。
春原で笑っている場合じゃないな。
早く俺たちも学校に行かねぇと。
「貴様らもあの塵芥と同じように飛ぶか。それとも自力で行くか。選ぶがよい」
「いえ!自力で行くのでお構い無く!行くぞ渚!」
「はっ、はい!」
この時朋也と渚は確かに風となった。
いや風ではなく光の速さで消えていく。
「まったく…」
やれやれとため息を吐いてディアーチェはキッと顔をとある場所に向ける。
そこにいるであろう人物に心当たりがあるのかディアーチェは不機嫌そうに見つめていた。
「いい加減出てこんか子鴉。我が気付いていないと思ったか?」
「……あちゃ~ばれとったん?」
ディアーチェの言葉にはやては苦笑しながら現れてディアーチェに近づいていく。
「久しぶりやなぁ。王様もユーリも元気やったん?」
「はい。お久しぶりです」
「子鴉よ。我の問いに答えぬか。何故見ていたのに出てこなかった?」
ニッコリ笑うユーリに対しディアーチェはかなり機嫌が悪いようで威圧するようにはやてを睨み付けるなか、はやてはどことなく申し訳なさそうに頬を掻いてポツリポツリと答えていく。
「ほんまは春原君が王様に殴り飛ばされる前に出ようと思ったんやけど…」
「……なんだ?」
「王様が弄られてる姿が面白くって……つい」
「……ほぅ」
「だって王様が弄られるってレアやん!私としては見逃す訳には…」
「子鴉ーーー!!」
はやての言葉にディアーチェの怒りが爆発して、ディアーチェはムニッとはやてのほっぺたを思い切り掴み引っ張る。
むむむと顔を赤くしてはやてのほっぺたを引っ張るディアーチェにはやては涙目だが嬉しそうに笑っていた。
「この下郎が!おかげで我がどんな屈辱を味わったか」
「許してぇな~……ププッ!」
「おのれー!」
まるで仲の良い姉妹のようなやり取りにユーリは楽しそうに笑い、はやてとユニゾンしていたアインスもまたそんな二人を見ながら嬉しそうに笑っていた。
今まで激しい戦いばっかりだったがこの娘達と再会して少しは楽になっている主はやて。
主はやてが嬉しそうで私はなによりです。
「おうひゃまももうひょいわらへば」
「貴様のようにニコニコできるか!我は王であり闇を統べる者だ」
「やみをすべる………ププッ!」
「何がおかしいかー!」
しかし二人とも今が大変な時なのを忘れていないだろうか?
言うべきか―――
黙っておくべきか―――
どうすればいいのだろうか?
「おうひゃまかわいいなぁ~」
「ぐぬぬぬ!」
こうしてはやてとディアーチェのやり取りはしばらく終わらなかったらしい。