決戦!光陽海鳴町(前編)

「…ったく世話が焼ける!」


デニスが舌打ちをしてすぐにナギの元に向かおうとした時だった、


「ルヘイン先輩!上です!」

「あん?」


理沙の声でデニスが上を見上げると、デニスの視界を魔獣がうめつくし魔獣は自爆特攻のようにデニスに突っ込んでくる。


「デニス先輩!」


間に合わない!と直樹は顔を歪めたままデニスの元に駆け出していく。

斬撃を放てば至近距離にいるデニス先輩にまで被害が及ぶ。

かといって砲撃魔法は間に合わない。


「……ミスったわ」


デニスはこの時全てを悟ったように笑いゆっくり目を閉じていく。

自分の最後は案外あっけないものだと、そう思いながらただ笑みを浮かべていた。









△▼△▼△▼

~街(C)~

「いくぞテメェら!」

「おう!」

「任せてよ!」


ここ鳳凰学園付近に三人の男が魔獣と対峙していた。

一人は古河渚の父親である古河秋生。

一人は渚と一緒に公園にいた岡崎朋也。

そして最後の一人は何故か古河パン屋で気絶していた春原陽平である。

本人はその時の記憶がないらしく今は不敵な笑みを浮かべ笑っていた。


「いいかお前ら。あの怪物達にそいつを食わせるんだぞ。そいつなら怪物達もイチコロだ!」


秋生や朋也や春原の手にはレインボーに光るパンが握られていてそれは恐ろしいほど輝いていた。

こんなパンを作れる人間を朋也は一人しか知らない。

古河渚の母親である古河早苗さんだけだ。


「お父さん!」


渚の声で秋生はカッと目を見開きプロ野球選手も真っ青になるほどの投球でレインボーパンを魔獣の口に放り込むと、魔獣はまるで地獄を味わったような苦痛の悲鳴を上げながら消滅していった。

しかも秋生は残像を生み出ほどのパンを大量に投げていき、その場がまるで地獄絵図のような光景に変わり朋也は一人冷や汗をかく。


(恐ろしいパンだ。あんな化物を消滅させるなんて。ただよく早苗さんが許可したよな)


朋也はふと頭に浮かんだ疑問を秋生に尋ねようとしたのだが、


「それにしても流石は早苗のパンだ。あんな怪物達を倒すとは。やはり天才か…」

「……あっ」


自分が尋ねる前に秋生がべらべら話してくれたが、満足そうに笑う秋生は気付いていなかったのだ。

秋生の後ろで早苗が涙を浮かべていたことに。


「私の…私のパンは…生物兵器だったんですねー!!」

「待て早苗!俺は、俺は大好きだーー!!」


泣きながら走り去る早苗を秋生はレインボーパンをいくつも口に入れたまま追い掛けていく。

いつものコントだなと、朋也はため息を吐いて自分の手にあるレインボーパンを興奮している春原の口にぶちこんで隠れていた渚の元に向かう。

その背後で春原が奇声を上げるが朋也は完璧に無視を決め込む。

すでにいないものだと頭で認識しているようだ。


「無事か古河?」

「はい。それよりも春原さんの方が危ないような」

「それこそ気にするな。春原は元気いっぱいで暴れているだけだから。もしかしたら早苗さんのパンのおかげか?」


岡崎朋也―――

数秒前に自分が春原にやった事を完璧に忘れた男。

春原に対してはいつも通りである。


「それよりも早く学校に行くぞ」

「そうですね。ことみちゃん達も無事に着いてればいいんですけど」


朋也と渚が学校に向かおうと足を進めようとしたが、


「マジかよ!」

「おっ、岡崎さん!」


自分達の後方から魔獣がぞろぞろと現れて今にも飛びかからんと牙を出していた。


「春原!」

「分かってるよ岡崎!早く逃げ…」

「お前の事は忘れない!」

「ふざけんなテメェ!」


この時岡崎朋也は渚の手を掴み風のように駆け抜けていく。

魔法も使っていないのに神速に近いスピードで走る朋也に春原は必死について行くが一体の魔獣が春原の前に現れて道を塞いだ。


「ひぃ!」

「春原!」

「春原さん!」


魔獣の前で腰を抜かしガタガタ震える春原に魔獣が飛び掛かった瞬間、


『ジャガーノート!!』


三人の耳に女の子の声が届くと同時に屈折する暗黒のエネルギー弾が魔獣に降り注いで、春原を巻き込まないように巨大な爆発を起こし魔獣を跡形もなく押し潰していく。


「今のは…」

「ギリギリ間に合うたか」

「危なかったですね、ディアーチェ」


朋也がポツリと呟くと空からはやてに似た女の子と、金髪の幼い顔をした女の子が降りてきてフッと笑みを浮かべて口を開いた。


「無事か下郎共よ」

「はやてちゃんですか?」

「違うわ!我を子鴉と間違えるでない。我はロード・ディアーチェ!闇統べる王である」






~街(A)~

「「シアちゃん!!」」


楓と亜沙の声を耳にしてシアは目を閉じる。

シアの脳裏によぎる大好きな土見稟の笑顔。

最後に稟君に会いたかった。

ずっとずっと一緒にいたかった。


「稟君……大好き」


シアの閉じられた目から涙が流れて死を覚悟したその瞬間、


『雷刃封殺爆滅剣!』


上空から複数の大きな雷の剣が魔獣に突き刺さり魔獣に炸裂していく。

さらに上空から雷の剣は降り注ぎ魔獣に突き刺さる。


『エターナルサンダーソード!相手は死ぬ!』


どこぞのお嬢様が考えそうな必殺技がシアの耳に聞こえてきてシアがゆっくり目を開けると、シア達の周りにいた魔獣は全て爆殺されて一匹も残ってはいなかった。


「やっぱり僕は強くてカッコイイ!そう思わないかい!」


唖然としていたシア達の前に現れたのは自分達のよく知る親友の顔と似ていた。


「フェイトちゃん?」

「キミはオリジナルを知っている?じゃあ友達だ!」

「オリジナル?あの、フェイトちゃんじゃないんですか?」


困惑している楓に女の子は笑顔のまま元気よく胸を張り答えていく。


「僕の名はレヴィ・ザ・スラッシャー!力のマテリアルだよ!」


フェイトによく似た女の子はそう口にしてまるで向日葵のように明るく笑っていた。









△▼△▼△▼

~街(B)~

「……ミスったわ」


自分の死を覚悟して目を閉じたデニスだったのだが、


『疾れ、明星すべてを焼き消す炎と変われ。真・ルシフェリオンブレイカー!』


デニスのすぐ傍で女の子の声が聞こえたかと思うと、デニスに襲いかかっていた魔獣は赤く燃えるような閃光に呑み込まれ消滅した。

しかも閃光はまだまだ続いて辺り一面が焼け野原へと変わり果てていく。


「お怪我はありませんか?」


この惨状にしたであろう人物が一ヶ所に集まったデニス達の前に舞い降りて無表情に尋ねてきて、デニスはお礼を口にしようとして首を傾げてしまう。

何故ならその人物はいつもショウの傍にいる高町なのはと似ていたからだ。

一瞬本人かと思ったが高町なのはとは違う雰囲気だと気付き目を細める。


「助けてくれてありがとな。せやけど自分誰や?なのはやないみたいやけど」


なのはに似た女の子の姿に誰よりも先に咲夜が問い掛ける。

自分と同じ男に惚れてるあの元気少女と似ているが雰囲気がまるで違う。

目の前に立つ少女は物静かで儚さを感じる少女だ。

高町なのはに似ているだけに皆が困惑していると、


「初めまして。私は理のマテリアル、シュテル・ザ・デストラクター。ダーリンの友であるアナタ達を助けにきました」










次回予告

なのは
「まさかのシュテル達との再会」

フェイト
「私達の前に現れた敵の正体とは――」

はやて
「そして聖夜の夜に降る雪と奇跡」

ショウ
「次回S.H.D.C.
第四十七話
『聖夜の奇跡』に…」

シュテル&レヴィ
「「ドライブ!」」

ディアーチェ&ユーリ
「「イグニッション!」」
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