決戦!光陽海鳴町(前編)
それは突然のアラートから始まった日。
ベルエスでの戦いで二日が過ぎその時の戦いで負傷した者達の傷が癒えて、これからどうするかをレジアスと話していた時に緊急アラートが会議室に鳴り響く。
『クロノ君!大変!』
「どうしたエイミィ?今作戦会議中なんだが…」
『ベルエスが動き出したの!しかもベルエスから巨大な熱量を感知!狙いは……』
そう言いながらエイミィは会議室にモニターを繋げて、会議室内にベルエスの禍々しい姿が映し出される。
そのベルエスの剣の部分に黒い光りのエネルギーが収束し今にも閃光が降り注がんと剣が輝いてた。
『…ッ!!やっぱり!ベルエスの狙いは第97管理外世界地球。ショウ君やなのはちゃん達の世界よ!』
「なっ、なんだって!?」
最悪だった。
ようやく動き出したと思っていたベルエスが、まさか地球を狙っているなんて想像もできなかった。
その事実にショウは誰よりも先に我に返ると、
「クロノ!早く地球に行かねぇと!」
「しかし、僕らが地球に行ったところでどうやってあの閃光を止めるんだ!」
「…ッ!だけどこのまま放っておけないだろ!」
ショウの言葉にクロノは顔を歪める。
確かにショウの言いたい事も気持ちも分かっている。
しかしあれをどうやって止めるんだ。
今ベルエス突入してもおそらく間に合わない。
「クロノ、ショウの言う通りだ!」
「あそこには音夢や杉並達がいるんだ!」
「お嬢様達を死なせる訳にはいきません!」
稟が純一がハヤテが椅子から立ち上がりクロノに言うものの、クロノは拳を握り締めたまま黙っている。
クロノだって地球には今すぐ向かいたい。
だだ全く打開策が浮かばない状態では自分達まで死にに行くような事になる。
自分達がここで死んだら、誰がラファスとユリナ元帥を倒すと言うのだ。
「樹、何してるの?」
「とある男に通信を繋げてるんだけど………いけるか?」
皆が地球に行こうと立ち上がる状況で湊はふと自分の隣に座る樹が、何かをしている事に気付き声を掛けると樹は通信機を弄りながらボソボソ何かを呟く。
「杉並、俺様の声が聞こえるかい?」
『多少…ノイズが酷いが…聞こえるぞ…my同志緑葉…』
樹が通信を繋げたのは地球にいる同志の杉並だったのだ。
「杉並!」
『…その声はmy同志朝倉か…。いつになく…焦っているではないか…』
「杉並!今すぐ逃げるんだ!地球が危ないんだ」
『…どういう事だ?』
純一は今の状況を時間がないため短めに杉並に話していく。
ベルエスという兵器が地球を狙っていて、ベルエスから放たれる閃光を喰らえば地球が大変な事になると。
杉並は純一の話を聞いたあとにしばらく無言だったのだが、
『…事情はわかった。だが…今から逃げても…間に合わないだろ…』
「だけど!」
『落ち着けmy同志朝倉。今…ここには…神王様や魔王様がいる…。お前の話しは…ここにいる全員が聞いていてた。…そしてこの方も…』
この方とは誰だ?
神王様や魔王様以外にそこには誰がいるんだ。
誰もがそう思っていて次に通信機から、聞こえてきたのは自分達が知る女の子の声だった。
『…お兄ちゃん!』
「さくら!?お前どうして…」
『あの…ナギちゃんの…パーティーから…今までそっちで起きてた事は…セフィリアさんや…ルリちゃんから…全て聞いてたから。……クルス君の事も…』
さくらの声が悲しく今にも泣きそうな声だと気付き純一が顔を俯かせる。
おそらくさくらだけではないはずだ。
そこにいる神王様や魔王様や杉並だって全て知っているはず。
微かにあちら側から負の感情を会議室にいる全員が感じていた。
『…それでベルエスなんだけど…。もし仮に…地球に撃たれても…大丈夫だと思うよ』
「待て!それはどういう事だ芳乃さくら!」
『…うにゃ、その声はクロノさんかな?どういう事もなにも…言葉通りだよ。この地球には…おばあちゃんが…枯れない桜がある。枯れない桜があれば…耐えられる…』
さくらの言う枯れない桜に純一以外が首を傾げる。
純一だけが知っている枯れない桜の謎。
あれはただの桜ではないのだ。
あの桜は人々の奇跡を願う些細な思いを花びらを通して吸い上げる事で維持している桜なのだ。
そしてその副産物として二つの効果があるが今は置いておこう。
『…枯れない桜がある限り…地球は守ってみせる…。それに神王様や魔王様が…すぐに神族と魔族の人達を呼んで…地球全体にバリアを張ってくれるから…心配しないで…!』
「さくら…」
今の純一にはさくらの言葉を信じる事しかできなかった。
何せ自分達にはいい打開策がないのだから。
だからさくら達を信じるしかない。
「…ッ!エイミィ!ベルエスは!?」
『ベルエスから巨大なエネルギーが!ダメ!地球に放たれる!」
エイミィの声と同時にベルエスから黒く光る閃光が一気に放たれた。
その閃光は地球に降り注ぎ地球全体が黒い光り包まれていく。
しかも―――
先程まで繋いでいた通信機からノイズ音しか聞こえなくなり会議室が静まり返る。
「ショウ君…」
「信じるんだはやて。神王や魔王やさくら達を」
アースラから繋げられたモニターをジッと見つめるショウ達。
嫌な沈黙が漂い通信機もいまだノイズ音しか聞こえてこない。
ダメだったのかと誰かが口にしようとした瞬間、
『…ハ…ハ…ハ…』
「……んっ?」
『…フハハハハ!』
「杉並かい!」
通信機から聞こえてきたのは高笑いをしている杉並の声だった。
『…フッ!気色悪い…声を出すな…my同志緑葉…』
その杉並の声で言葉だけで会議室が安堵に包まれる。
ベルエスからの閃光を地球は耐えきったのだ。
枯れない桜が神王様と魔王様が奇跡を起こしてくれたのだ。
モニターに映る地球はいまだバリアに包まれて無傷の状態である。
「大丈夫なの杉並?」
『…my同志有里か。地球は大丈夫だ。ただ…こちらは魔力の使いすぎで…倒れてる者達もいてな…。枯れない桜がどうなったかは…現段階ではわからない…』
おそらく地球が無事だった事にユリナもラファスも驚いているだろう。
ならこのタイミングでベルエスに突入するか、とクロノが全員に指示を出そうとしたが事態は悪い方向へと進んでいた。
『クロノ君!大変だよ!』
「今度は何だエイミィ!」
『地球全体に…。違う、これは光陽海鳴町全体に結界反応!えっ、嘘でしょ!』
データを見ていたエイミィの顔色が真っ青になる。
今光陽海鳴町ではとんでもない事が起きていた。
下手したらベルエスの閃光よりも大変な事が。
『結界内に多くの人が取り残されてる。魔力を持った子だけじゃない、ただの一般人まで!?どうして!』
「何だと!?」
エイミィの言葉に真っ先に反応したのはレジアスだった。
何の関係もない一般人やただ魔力を持った人間が結界内にいる。
これはユリナの仕業としか思えなかった。
何故そこまで地球を狙うのだ。
地球に何かあると言うのか?
「ハラオウン提督、お前達は今すぐ地球に向かうのだ。ここの地上本部の転移魔方陣を使えば時間は短縮できるはずだ」
「ありがとうございます。皆、今すぐ地球に向かうぞ!」
レジアス以外のメンバーはすぐに会議室から出ていきアースラとナデシコに乗り込んで地球へと向かう。
ショウ達が地球に向かっている間、地球がどうなるかはわからない。
間に合えばいいが。
(やつらの狙いはなんだ?ベルエスを使って何をするつもりなのだ…)
レジアスにはユリナとラファスの狙いが思い付かなかった。
自分達に反抗した者達に対する復讐か?
いやそんな訳はないだろう。
あんな威力をそんな事に使うなんて考えられない。
やはり地球に何かがあるとしか思えん。
「……戻ってきたばかりで悪いがお前達にも地球へ行ってもらうぞ。アコース査察官にスクライア司書長に――――――」
まるで会議室にヴェロッサ達がいたかのような言い方をするレジアス。
そのレジアスの言葉に答える者はいないが、先程までレジアスが感じていた気配が会議室から消えていきレジアスは小さく笑みを浮かべていた。
△▼△▼△▼
~光陽海鳴町~
「一体何が起こってるのよ?」
鳳凰学園の生徒会長こと桂ヒナギクは友人である朝倉音夢と、後輩で同じ生徒会所属の坂上智代と一緒に買い物をしていた。
しかし光陽海鳴町に地震が起こりそれが収まったと思えば、自分が見ていた景色が急に変わった事に気付き目を丸くする。
それは音夢や智代も同じらしく辺りをキョロキョロと見回していた。
「うそっ、携帯が圏外になってる!」
音夢はポケットに入れていた携帯を確認して、電波表示が圏外になっている事に気付き動揺する。
まるで今までいた場所から隔離されたような感覚。
もしかして魔法が関係している?
「……ふむ」
動揺している音夢とは違い智代は顎に手を当てて冷静にただ考えていた。
「桂先輩、どう思いますか?」
「これと似たような事を前に体験したわ。おそらく魔法が関係している。しかもハヤテ君達が関わっていると思う」
桂ヒナギクの脳裏によぎる夏休みに起きた魔法による激しい戦い。
あの時もこんな景色を自分は目にしていた。
だからこそすぐに理解できたのだ。
これが魔法によるものであると。
「……って事は兄さん達が帰ってきたのかしら?」
音夢の言葉にヒナギクはジッと空を見つめていた。
何故帰ってきたのにこんな事をしたのだろう?
帰ってくるだけなら普通に帰ってくればいいのに。
何か嫌な予感がする。
何かがこの街で起きようとしているそんな予感が。
「ヒナギク!あれ!」
「どうしたのよ音……夢……」
「何だあれは?」
三人の目に映ったものは上空に展開された巨大な魔法陣だった。
その魔法陣はこの街全てを覆うように展開されて、その魔法陣から大量の魔獣が召喚されていく。
一瞬で百は越える魔獣をヒナギク達は目にすると、
「……逃げるわよ二人とも!」
「そうね」
「さすがに数が多い」
ヒナギクが駆け出し音夢と智代はそれに続くように駆け出すのであった。
そして――――
召喚された大量の魔獣は一斉に街に降り立っていく。
結界内にいる者達を消すために。
△▼△▼△▼
~街(A)~
「てりゃ!」
「はぁっ!!」
あの魔法陣から召喚された魔獣が雨のように降ってくると結界内にいた者達に襲いかかってきた。
シアの物理攻撃やネリネの魔法が魔獣を撃破してその間に楓や亜沙達が鳳凰学園に向かっているが、シアやネリネだけでは厳しいのか二人は額に汗を浮かべて息を荒げていた。
「リンちゃん、やっぱりこれって」
「はい。夏休みにイヴちゃん達が戦った魔獣に間違いありません。おそらくあの魔法陣から召喚されたのでしょう」
キリがないとネリネは自分達を囲んでいた魔獣を、魔法の球体で消滅させて楓達と一緒に街中を走っていく。
自分達が目指すのは学園。
あそこなら誰かがいるかもしれない。
だけど学園まで魔力がもてばいいが、シアとネリネは互いに顔を見合わせて苦笑いしていた。
「こんな時にキキョウちゃんがいれば」
「リムちゃんもリコちゃんもお父様と一緒ですし…」
自分達と同じようにあちらでも魔獣と戦っているはず。
だとしたら楓さん達を守れるのはシアちゃんと私しかいない。
「…ッ!楓さん!伏せてください!」
「はっ、はい!」
楓の真上から降ってきた魔獣をネリネは魔力の塊で消し去り息を整える。
今はまだシアちゃんと二人でも大丈夫。
だけどこれ以上増えたら厳しい。
「皆、早く学校へ行くっす!」
「了解だよシアちゃん!…あっ、危ない!」
「へっ?」
亜沙の声でシアが振り返った瞬間、シアの目に映ったのはシアを殺さんと鋭い爪を振り下ろそうとしている魔獣の姿だった。
「「シアちゃん!!」」
△▼△▼△▼
~街(B)~
「皆さんは私の後ろにいてください」
「加勢するぜ鷺ノ宮」
伊澄の展開した符術とデニスの手から放たれた雷の矢が魔獣を消し飛ばし、二人が作った安全な道をナギやマリアや歩や咲夜や動画研究部のメンバーが走り出す。
ちなみにワタルと東宮の二人は別ルートで学校を目指している為ここにはいなかったりする。
「ご協力ありがとうございます、デニス先輩」
「気にすんなよ。それに人数は多い方がいいからな。だから……働けよ小玉」
「分かってますよ」
黒い大剣を肩に担ぎ伊澄とデニスの前に現れた直樹は目の前に立ち塞がる大量の魔獣に向かっていくと、
「喰らいな!闇刃閃!」
闇の属性魔法を纏った大剣が目にも止まらぬ速さで魔獣を切り裂いていき、道を塞いでいた魔獣は気付けば消滅していた。
「それにしてもこの街で何が起きてるんだ?」
「詳しい事は分かりませんが、おそらく先程の地震や今ここにはいないハヤテ様達に関係しているのではないでしょうか」
「……って事は魔法関係か」
直樹が先導して魔獣を切り裂いていき、伊澄とデニスが上空から降ってくる魔獣を撃退していく。
次から次へと現れる魔獣に三人はうんざりしている。
何せ襲いかかってくる魔獣の数が多すぎるのだ。
めんどくさくて仕方ない。
「…ってか何でナギ達は止まってんだよ?」
直樹は後方で止まっているナギ達に目を向け首を傾げる。
何故ナギ達が止まっているのかと言うと、
「し、死ぬ…」
「ナギちゃん!ファイトだ!」
「立て!立つんやナギーー!!」
ナギが道端でぶっ倒れて小刻みに震えていたのだ。
間違いなくスタミナ切れが原因だろう。
ナギの姿がタレナギに変わり果てているのが全てを物語っている。
ベルエスでの戦いで二日が過ぎその時の戦いで負傷した者達の傷が癒えて、これからどうするかをレジアスと話していた時に緊急アラートが会議室に鳴り響く。
『クロノ君!大変!』
「どうしたエイミィ?今作戦会議中なんだが…」
『ベルエスが動き出したの!しかもベルエスから巨大な熱量を感知!狙いは……』
そう言いながらエイミィは会議室にモニターを繋げて、会議室内にベルエスの禍々しい姿が映し出される。
そのベルエスの剣の部分に黒い光りのエネルギーが収束し今にも閃光が降り注がんと剣が輝いてた。
『…ッ!!やっぱり!ベルエスの狙いは第97管理外世界地球。ショウ君やなのはちゃん達の世界よ!』
「なっ、なんだって!?」
最悪だった。
ようやく動き出したと思っていたベルエスが、まさか地球を狙っているなんて想像もできなかった。
その事実にショウは誰よりも先に我に返ると、
「クロノ!早く地球に行かねぇと!」
「しかし、僕らが地球に行ったところでどうやってあの閃光を止めるんだ!」
「…ッ!だけどこのまま放っておけないだろ!」
ショウの言葉にクロノは顔を歪める。
確かにショウの言いたい事も気持ちも分かっている。
しかしあれをどうやって止めるんだ。
今ベルエス突入してもおそらく間に合わない。
「クロノ、ショウの言う通りだ!」
「あそこには音夢や杉並達がいるんだ!」
「お嬢様達を死なせる訳にはいきません!」
稟が純一がハヤテが椅子から立ち上がりクロノに言うものの、クロノは拳を握り締めたまま黙っている。
クロノだって地球には今すぐ向かいたい。
だだ全く打開策が浮かばない状態では自分達まで死にに行くような事になる。
自分達がここで死んだら、誰がラファスとユリナ元帥を倒すと言うのだ。
「樹、何してるの?」
「とある男に通信を繋げてるんだけど………いけるか?」
皆が地球に行こうと立ち上がる状況で湊はふと自分の隣に座る樹が、何かをしている事に気付き声を掛けると樹は通信機を弄りながらボソボソ何かを呟く。
「杉並、俺様の声が聞こえるかい?」
『多少…ノイズが酷いが…聞こえるぞ…my同志緑葉…』
樹が通信を繋げたのは地球にいる同志の杉並だったのだ。
「杉並!」
『…その声はmy同志朝倉か…。いつになく…焦っているではないか…』
「杉並!今すぐ逃げるんだ!地球が危ないんだ」
『…どういう事だ?』
純一は今の状況を時間がないため短めに杉並に話していく。
ベルエスという兵器が地球を狙っていて、ベルエスから放たれる閃光を喰らえば地球が大変な事になると。
杉並は純一の話を聞いたあとにしばらく無言だったのだが、
『…事情はわかった。だが…今から逃げても…間に合わないだろ…』
「だけど!」
『落ち着けmy同志朝倉。今…ここには…神王様や魔王様がいる…。お前の話しは…ここにいる全員が聞いていてた。…そしてこの方も…』
この方とは誰だ?
神王様や魔王様以外にそこには誰がいるんだ。
誰もがそう思っていて次に通信機から、聞こえてきたのは自分達が知る女の子の声だった。
『…お兄ちゃん!』
「さくら!?お前どうして…」
『あの…ナギちゃんの…パーティーから…今までそっちで起きてた事は…セフィリアさんや…ルリちゃんから…全て聞いてたから。……クルス君の事も…』
さくらの声が悲しく今にも泣きそうな声だと気付き純一が顔を俯かせる。
おそらくさくらだけではないはずだ。
そこにいる神王様や魔王様や杉並だって全て知っているはず。
微かにあちら側から負の感情を会議室にいる全員が感じていた。
『…それでベルエスなんだけど…。もし仮に…地球に撃たれても…大丈夫だと思うよ』
「待て!それはどういう事だ芳乃さくら!」
『…うにゃ、その声はクロノさんかな?どういう事もなにも…言葉通りだよ。この地球には…おばあちゃんが…枯れない桜がある。枯れない桜があれば…耐えられる…』
さくらの言う枯れない桜に純一以外が首を傾げる。
純一だけが知っている枯れない桜の謎。
あれはただの桜ではないのだ。
あの桜は人々の奇跡を願う些細な思いを花びらを通して吸い上げる事で維持している桜なのだ。
そしてその副産物として二つの効果があるが今は置いておこう。
『…枯れない桜がある限り…地球は守ってみせる…。それに神王様や魔王様が…すぐに神族と魔族の人達を呼んで…地球全体にバリアを張ってくれるから…心配しないで…!』
「さくら…」
今の純一にはさくらの言葉を信じる事しかできなかった。
何せ自分達にはいい打開策がないのだから。
だからさくら達を信じるしかない。
「…ッ!エイミィ!ベルエスは!?」
『ベルエスから巨大なエネルギーが!ダメ!地球に放たれる!」
エイミィの声と同時にベルエスから黒く光る閃光が一気に放たれた。
その閃光は地球に降り注ぎ地球全体が黒い光り包まれていく。
しかも―――
先程まで繋いでいた通信機からノイズ音しか聞こえなくなり会議室が静まり返る。
「ショウ君…」
「信じるんだはやて。神王や魔王やさくら達を」
アースラから繋げられたモニターをジッと見つめるショウ達。
嫌な沈黙が漂い通信機もいまだノイズ音しか聞こえてこない。
ダメだったのかと誰かが口にしようとした瞬間、
『…ハ…ハ…ハ…』
「……んっ?」
『…フハハハハ!』
「杉並かい!」
通信機から聞こえてきたのは高笑いをしている杉並の声だった。
『…フッ!気色悪い…声を出すな…my同志緑葉…』
その杉並の声で言葉だけで会議室が安堵に包まれる。
ベルエスからの閃光を地球は耐えきったのだ。
枯れない桜が神王様と魔王様が奇跡を起こしてくれたのだ。
モニターに映る地球はいまだバリアに包まれて無傷の状態である。
「大丈夫なの杉並?」
『…my同志有里か。地球は大丈夫だ。ただ…こちらは魔力の使いすぎで…倒れてる者達もいてな…。枯れない桜がどうなったかは…現段階ではわからない…』
おそらく地球が無事だった事にユリナもラファスも驚いているだろう。
ならこのタイミングでベルエスに突入するか、とクロノが全員に指示を出そうとしたが事態は悪い方向へと進んでいた。
『クロノ君!大変だよ!』
「今度は何だエイミィ!」
『地球全体に…。違う、これは光陽海鳴町全体に結界反応!えっ、嘘でしょ!』
データを見ていたエイミィの顔色が真っ青になる。
今光陽海鳴町ではとんでもない事が起きていた。
下手したらベルエスの閃光よりも大変な事が。
『結界内に多くの人が取り残されてる。魔力を持った子だけじゃない、ただの一般人まで!?どうして!』
「何だと!?」
エイミィの言葉に真っ先に反応したのはレジアスだった。
何の関係もない一般人やただ魔力を持った人間が結界内にいる。
これはユリナの仕業としか思えなかった。
何故そこまで地球を狙うのだ。
地球に何かあると言うのか?
「ハラオウン提督、お前達は今すぐ地球に向かうのだ。ここの地上本部の転移魔方陣を使えば時間は短縮できるはずだ」
「ありがとうございます。皆、今すぐ地球に向かうぞ!」
レジアス以外のメンバーはすぐに会議室から出ていきアースラとナデシコに乗り込んで地球へと向かう。
ショウ達が地球に向かっている間、地球がどうなるかはわからない。
間に合えばいいが。
(やつらの狙いはなんだ?ベルエスを使って何をするつもりなのだ…)
レジアスにはユリナとラファスの狙いが思い付かなかった。
自分達に反抗した者達に対する復讐か?
いやそんな訳はないだろう。
あんな威力をそんな事に使うなんて考えられない。
やはり地球に何かがあるとしか思えん。
「……戻ってきたばかりで悪いがお前達にも地球へ行ってもらうぞ。アコース査察官にスクライア司書長に――――――」
まるで会議室にヴェロッサ達がいたかのような言い方をするレジアス。
そのレジアスの言葉に答える者はいないが、先程までレジアスが感じていた気配が会議室から消えていきレジアスは小さく笑みを浮かべていた。
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~光陽海鳴町~
「一体何が起こってるのよ?」
鳳凰学園の生徒会長こと桂ヒナギクは友人である朝倉音夢と、後輩で同じ生徒会所属の坂上智代と一緒に買い物をしていた。
しかし光陽海鳴町に地震が起こりそれが収まったと思えば、自分が見ていた景色が急に変わった事に気付き目を丸くする。
それは音夢や智代も同じらしく辺りをキョロキョロと見回していた。
「うそっ、携帯が圏外になってる!」
音夢はポケットに入れていた携帯を確認して、電波表示が圏外になっている事に気付き動揺する。
まるで今までいた場所から隔離されたような感覚。
もしかして魔法が関係している?
「……ふむ」
動揺している音夢とは違い智代は顎に手を当てて冷静にただ考えていた。
「桂先輩、どう思いますか?」
「これと似たような事を前に体験したわ。おそらく魔法が関係している。しかもハヤテ君達が関わっていると思う」
桂ヒナギクの脳裏によぎる夏休みに起きた魔法による激しい戦い。
あの時もこんな景色を自分は目にしていた。
だからこそすぐに理解できたのだ。
これが魔法によるものであると。
「……って事は兄さん達が帰ってきたのかしら?」
音夢の言葉にヒナギクはジッと空を見つめていた。
何故帰ってきたのにこんな事をしたのだろう?
帰ってくるだけなら普通に帰ってくればいいのに。
何か嫌な予感がする。
何かがこの街で起きようとしているそんな予感が。
「ヒナギク!あれ!」
「どうしたのよ音……夢……」
「何だあれは?」
三人の目に映ったものは上空に展開された巨大な魔法陣だった。
その魔法陣はこの街全てを覆うように展開されて、その魔法陣から大量の魔獣が召喚されていく。
一瞬で百は越える魔獣をヒナギク達は目にすると、
「……逃げるわよ二人とも!」
「そうね」
「さすがに数が多い」
ヒナギクが駆け出し音夢と智代はそれに続くように駆け出すのであった。
そして――――
召喚された大量の魔獣は一斉に街に降り立っていく。
結界内にいる者達を消すために。
△▼△▼△▼
~街(A)~
「てりゃ!」
「はぁっ!!」
あの魔法陣から召喚された魔獣が雨のように降ってくると結界内にいた者達に襲いかかってきた。
シアの物理攻撃やネリネの魔法が魔獣を撃破してその間に楓や亜沙達が鳳凰学園に向かっているが、シアやネリネだけでは厳しいのか二人は額に汗を浮かべて息を荒げていた。
「リンちゃん、やっぱりこれって」
「はい。夏休みにイヴちゃん達が戦った魔獣に間違いありません。おそらくあの魔法陣から召喚されたのでしょう」
キリがないとネリネは自分達を囲んでいた魔獣を、魔法の球体で消滅させて楓達と一緒に街中を走っていく。
自分達が目指すのは学園。
あそこなら誰かがいるかもしれない。
だけど学園まで魔力がもてばいいが、シアとネリネは互いに顔を見合わせて苦笑いしていた。
「こんな時にキキョウちゃんがいれば」
「リムちゃんもリコちゃんもお父様と一緒ですし…」
自分達と同じようにあちらでも魔獣と戦っているはず。
だとしたら楓さん達を守れるのはシアちゃんと私しかいない。
「…ッ!楓さん!伏せてください!」
「はっ、はい!」
楓の真上から降ってきた魔獣をネリネは魔力の塊で消し去り息を整える。
今はまだシアちゃんと二人でも大丈夫。
だけどこれ以上増えたら厳しい。
「皆、早く学校へ行くっす!」
「了解だよシアちゃん!…あっ、危ない!」
「へっ?」
亜沙の声でシアが振り返った瞬間、シアの目に映ったのはシアを殺さんと鋭い爪を振り下ろそうとしている魔獣の姿だった。
「「シアちゃん!!」」
△▼△▼△▼
~街(B)~
「皆さんは私の後ろにいてください」
「加勢するぜ鷺ノ宮」
伊澄の展開した符術とデニスの手から放たれた雷の矢が魔獣を消し飛ばし、二人が作った安全な道をナギやマリアや歩や咲夜や動画研究部のメンバーが走り出す。
ちなみにワタルと東宮の二人は別ルートで学校を目指している為ここにはいなかったりする。
「ご協力ありがとうございます、デニス先輩」
「気にすんなよ。それに人数は多い方がいいからな。だから……働けよ小玉」
「分かってますよ」
黒い大剣を肩に担ぎ伊澄とデニスの前に現れた直樹は目の前に立ち塞がる大量の魔獣に向かっていくと、
「喰らいな!闇刃閃!」
闇の属性魔法を纏った大剣が目にも止まらぬ速さで魔獣を切り裂いていき、道を塞いでいた魔獣は気付けば消滅していた。
「それにしてもこの街で何が起きてるんだ?」
「詳しい事は分かりませんが、おそらく先程の地震や今ここにはいないハヤテ様達に関係しているのではないでしょうか」
「……って事は魔法関係か」
直樹が先導して魔獣を切り裂いていき、伊澄とデニスが上空から降ってくる魔獣を撃退していく。
次から次へと現れる魔獣に三人はうんざりしている。
何せ襲いかかってくる魔獣の数が多すぎるのだ。
めんどくさくて仕方ない。
「…ってか何でナギ達は止まってんだよ?」
直樹は後方で止まっているナギ達に目を向け首を傾げる。
何故ナギ達が止まっているのかと言うと、
「し、死ぬ…」
「ナギちゃん!ファイトだ!」
「立て!立つんやナギーー!!」
ナギが道端でぶっ倒れて小刻みに震えていたのだ。
間違いなくスタミナ切れが原因だろう。
ナギの姿がタレナギに変わり果てているのが全てを物語っている。