失ったもの
~アースラ~
アリシアとエグザとファイがラファスと戦い始めた時、アースラ内では突如発生した転移魔法にアースラスタッフが困惑していた。
転移魔法の発生源はおそらくベルエス内部からで、何がここに転移されるのかと警戒する。
クロノ達がいない状況で襲撃されたら終わりだとリンディが顔を歪めているとアースラに現れたのは、アリシアが強制転移させたショウやクロノ達だった。
リンディは全員戻ってきてその中にフェイトの姿を確認して安心したように息を吐くが、
「フェイトちゃん…」
「あっ、ああああ!」
なのはの胸に顔を埋めて泣いているフェイトに気付いてリンディは困惑した表情で駆け寄る。
「どうしたのフェイト!一体何がって…!クロノ!アナタ怪我をして」
自分の大切な義娘と息子の一大事にリンディは柄にもなく慌ててしまう。
しかもよく見れば怪我をしているのはクロノだけではない。
将輝と悠季と奏也の三人も血を流して気を失っていている。
「ショウ君、ベルエスで何があったの?それにフェイトやクロノに何が…」
「リンディさん、今はこの場から離れてください」
「ショウ君?」
「お願いします」
顔を俯かせて拳を握るショウ。
表情こそリンディには見えていないがショウの表情は悔しげに歪んでいた。
俺達を助けるために三人の人間がラファスと戦っている。
本当なら一緒に戦いたかったのに俺はあの時ラファスの目に無意識に後退していた。
「リンディさん、私からもお願いします。目的の四柱は破壊しました。今はレジアス中将の所に戻りましょう」
「はやてさんまで」
本当に何があったのか聞きたいリンディだが、今は戻ってきたメンバーの怪我の事も考えてすぐにアースラスタッフに指示を出す。
「ハーリー君、ナデシコも地上本部に戻れるかしら?」
『はい!分かりました』
地上本部に戻る事をハーリーに伝えてリンディは、なのはと一緒に医務室に向かったフェイトの事を考えていた。
一体ベルエスで何があったのフェイト?
どうしてあんなに泣いていたの。
~地上本部・会議室~
ベルエスのある場所から離脱してアースラとナデシコはレジアスのいる地上本部に戻ってきた。
あの四柱での戦いで怪我をした者達は地上本部に着いてからすぐにクラナガンの病院に運ばれて、今会議室には比較的軽傷なショウやはやてがいて他にも状況を聞くためにリンディとルリとセフィリアとレジアスがいた。
クロノも状況報告に参加しようとしたが、ショウとリンディがそれを止めてエイミィの付き添いで病院に運ばれている。
「一先ず四柱破壊と全員の帰還をよくぞ成功させたな」
ショウが報告して最初にそうレジアスは口にした。
おそらく四柱破壊はそんな簡単なものではない。
もしかしたら誰かが欠けるかもしれないと考えていただけにレジアスは安心したように息を吐いていた。
「じゃあ、四柱を破壊した後の事を聞かせてもらえるだろうか」
「はい。まず俺達は四柱を破壊して強制転移でベルエス内部に転移しました。そこで俺達は黒幕と会ったんです」
「黒幕か…。その者の名は?」
レジアスの問い掛けにショウは一瞬躊躇うが、すぐに真剣な表情でその人物の名を口にした。
今回の事は全て一人の凶王が裏で暗躍していた。
いや凶王と組んで動いてユリナさんも一人と言うべきか。
「今回の事件はユリナ・ミドカルド元帥が犯人です。正確に言うなら、ユリナ・ミドカルド元帥ともう一人の人物と言うべきでしょうか」
「もう一人?」
ユリナ・ミドカルドという言葉はある程度予想はしていた。
本局で行方不明であやつのロスト・ロギア強奪から、ユリナ・ミドカルドの動きはいつになく迅速だったからな。
だが解せぬ。
ユリナ・ミドカルドは誰とこんな計画を企てていた?
「そのもう一人の名は、凶王ラファス。かつてベルカ時代にベルエスを使って殺戮を楽しんでいた男でした。おそらくラファスがベルエスの事をユリナさんに教えたのでしょう」
「なっ、なんと!」
「まさか凶王が絡んでいたなんて」
ラファスという名を聞いてレジアスとリンディは驚きの声を上げる。
何せベルカ時代の人物がこの時代にいるのだ。
しかも凶王なら尚更驚かない訳がない。
「ショウ君、ユリナはラファスに操られていたのかしら?」
「いえ。ユリナさんは自分の意思でラファスに従っていました」
「ユリナ…」
リンディはキュッと拳を握り締める。
ユリナとリンディは親友とも言える関係で、そこに夫であるクライドも入れて三人で笑い合っていた。
そのユリナが黒幕だったなんて思いたくなかったのだ。
「ユリナさんは全てこの時の為に動いていたようです。マテリアルコアとベルエスの復活。この二つの目的の為にジョーカーズを生産したり私達に協力していたそうです。そして――」
はやてはそう口にしながら唇を噛む。
脳裏によぎるユリナの言葉と自分にとって大切な友でありフェイトの為に戦った男の姿。
フェイトちゃんは生きとるって言ってたけど、私はあの状態でクルス君が生きてるとは思えへんかった。
だってクルス君は全てを私達に託して笑っていたから。
「フェイトちゃんを人質にしてクルス君を裏切らせたのもユリナさんの仕業だったようです」
「ユリナ…ッ!!」
はやての言葉にリンディは顔を悲痛に歪める。
あの時ユリナはクルス君を私達に追わせた。
全てはクルス君を消すためで、自分の掌の上で踊る私達を見て笑っていたんじゃないか。
「それでお前達はどうやって離脱したのだ?四柱を破壊してすぐにユリナの所に転移したのだろ?」
「実は…」
ショウはベルエスで起こった全てを話し始める。
ユリナと対峙して将輝達がボロボロになって次はフューチャーを持つ自分かと思ったが、ジョーカーズの雷帝が助けてくれてその雷帝がフェイトの姉であるアリシア・テスタロッサだったこと。
そしてアリシアと一緒に戦う為にジョーカーズの土帝と水帝も現れて、アリシアがショウ達を助けるように強制転移魔法を使ってラファスと戦ったであろう事全てをショウは報告していた。
「待ってショウ君、アリシア・テスタロッサですって?彼女は確か…」
「えぇ。俺もPT事件の事はクロノから聞きましたからアリシアの姿に疑問が浮かびました。彼女は虚数空間にプレシア・テスタロッサと落ちたそうですし。でもその答えを聞く前に…」
アリシアはあの場に残ってしまった。
アリシアだけじゃない。
土帝のエグザも水帝と言ってたファイという少女もアリシアと一緒に。
「だからフェイトは…」
アースラに帰還した時なのはさんの胸で泣いていたフェイト。
大切な家族と会えたのにあんな別れ方をしてしまった。
ちゃんと話す事もできずに姉と離れ離れに。
「今はなのはちゃんが傍にいてくれてますが…」
かつてPT事件で母を目の前で失いこの戦いで姉もまた目の前で失ってしまった。
フェイトの心がボロボロなのは考えるまでもない。
しかも――
フェイトを守るためにクルス君もいなくなった。
「どうして…ッ!!どうしてフェイトばかり…ッ!!」
失うものが多すぎる。
フェイトが何をしたと言うのだ。
あんなに純粋で優しい女の子をどうして傷つけるのだ。
「リンディさん…」
肩を震わせて涙を流すリンディにはやては顔を俯かせショウは強く拳を握りしめて唇を噛み締める。
「それでお前達は離脱したのだな。しかし解せんな…」
「どういう事ですか中将?」
「考えてみろホシノ小佐。そのベルエスとやらは、星一つを変えてしまうほどの力があるのに何故やつらは使ってこんのだ?第一射からかなり時間はたっているはずだ」
レジアスの言う通りである。
ベルエスが出現して第一射が放たれてから、かなりの時間が過ぎているのに第二射は今現在発射されてはいない。
あれだけの力を何故使わないのだろう、とルリは顎に手を当てて考える。
「セフィリアよ、お主はどう考える?」
「あくまで予想ですがマテリアルコアに異常が起きたかユリナ・ミドカルドに問題が起きたかではないでしょうか。いずれにしろ、今は四柱破壊で負傷した方々の傷を治療するのが先かと」
ここまでずっと戦い続けていた。
クルスとの海底洞窟での戦いから始まり、四柱でジョーカーズと戦ってベルエスでユリナとラファスと対峙した。
ゆっくり休めないまま戦ったのだ。
誰もが疲れきっているしそれは自分やはやても同じだ。
「確かにそうだな。ならショウはすぐに病院に向かいたまえ。八神は少し話があるから残ってくれ」
「えっ…」
「は、はい?」
レジアスの言葉にショウとはやては困惑していたが、とりあえずショウは頭を下げて会議室から出ていく。
「あのレジアス中将、私に話って何でしょうか?私も本音を言えばショウ君と一緒に…」
「落ち着いて聞くのだぞ八神」
椅子から立ち上がり真剣な表情でレジアスははやてを見つめていた。
今から言うことはかなり重要なのか、とはやてもまた気を引き締める。
「八神よ、お主は今この事件と同時進行である事をやっておるな」
「……うっ!」
ギクリとはやては肩を揺らす。
実ははやてはショウ達に内緒でとある事で動いていたのだ。
そのある事にはここにいるリンディや病院にいるクロノや聖王教会のカリム・グラシアも関係していて、さらに秘密で三人のお偉いさんも関わっていたりする。
(まさかレジアス中将があの事を知っとるとか?あかん、いくら中将が想像しとった人とは違うと言うてもあれはあかんかったかな?)
あれは自分が夢見ていた計画でその実現の為に今も頑張っていた。
「安心しろ。お主の夢の邪魔などせん」
「レジアス中将…?」
「アヤツとの約束だからな。俺もできるだけ力をかしてやろう。ただし――俺が協力している事は秘密にするのだぞ」
「よ、よろしいのですか?私がやろとしている事は…」
「確かに俺は地上の在り方を理解していない本局側を快く思ってはいない。本局側はミッド地上より次元世界全体の安定を重視しておるからな」
「……それは否定できません」
「だが俺はかつての友と再会して考えた。俺達陸と海が少しでも歩みよればミッド地上は守れるんじゃないかと」
レジアスの曇りを晴らしたかつての友との再会。
二人で誓った平和は視点を変えればやりようはあった。
そしてそれを協力してくれたのはかつての友と友を救ってくれた男達。
「機動六課を設立したら俺が選ぶ陸の人間を組み込んでもらおう。それが俺が協力する条件だ。よいか八神?」
「はっ、はい!中将が協力してくれるならもう何も怖くないです。ありがとうございます!」
嬉しそうに笑い頭を下げるはやてにレジアスは愉快そうに笑う。
これがあの闇の書の主とは思えぬ。
まだまだひよっこではないか。
「それから最後に一つ教えておく。これはここにいる全員に聞いてもらおう」
そう言いながらレジアスはゆっくりと残ったメンバーにある事を教える。
「実はの…」
その言葉を聞いた瞬間はやてとリンディは涙をこぼして、ルリとセフィリアは安心したようにホッと息を吐いて笑みを浮かべていた。
~病院~
長い戦いがひとまず終わり、心身共に疲れきった者達は病院で深い眠りに入っていた。
重傷であるクロノと将輝と悠季と奏也は、個室で休んでおり病室は機械音しか聞こえない。
そしてショウは病院にやって来てなのはとフェイトがいる病室に足を運んでいた。
「体の調子はどうだなのは?」
「私はそこまで怪我してなかったから。でも疲れちゃったから少しだけ休んでるの」
にゃはははと力なく笑うなのはの頭を##NAME1##は優しく撫でる。
ここまで本当に戦いばかりだった。
クルスと戦ってからまだそんなに過ぎてはいない。
今でも俺の頭からアイツの笑った顔が離れない。
「私よりもフェイトちゃんが心配だよ。フェイトちゃん、眠るまでずっと泣いてたから」
子供のように泣きじゃくっていたフェイトちゃん。
必死にクルス君の事で泣くのを我慢していたのに、お姉ちゃんであるアリシアちゃんと再会してあんな別れ方しかできなかった。
これで泣かない方が無理である。
「ショウくん…」
「大丈夫だなのは。フェイトが信じてるなら俺達も信じてやろうぜ」
「……うん」
ギュッとショウに抱き着いてなのはは目を閉じる。
今は大好きな人の温もりを感じたい。
今だけは甘えていいよねショウくん?
(クルス…。俺も信じてるからな。だから…早く帰ってこい)
激闘が終わり戦士達は深い眠りに入る。
それぞれが想いを胸に秘めながら時間だけが過ぎていく。
最後の戦いは今ここから静かに始まりを告げたのである。
「あーー!なのはちゃん!ショウ君に抱きつくなんて卑怯やで!次は私の番!そこをどいてや!」
「まだダメ!まだショウ君成分が足りないの!」
「ずるいで!私かて甘えたいんや!」
「やだ!」
とりあえずフェイトが眠ってるんだから静かにしてくれ二人とも。
次回予告
将輝
「一つの戦いが終わった」
樹
「けどそれは最後の戦いを告げる序章にしかすぎなかった」
杉並
「そしてついにあれが動き出す」
朋也
「次回S.H.D.C.
第四十六話
『決戦!光陽海鳴町!前編』に…」
春原
「GOだよ!」
朋也
「さすが春原!相変わらずバカだな」
春原
「どういう意味だコラ!!」
アリシアとエグザとファイがラファスと戦い始めた時、アースラ内では突如発生した転移魔法にアースラスタッフが困惑していた。
転移魔法の発生源はおそらくベルエス内部からで、何がここに転移されるのかと警戒する。
クロノ達がいない状況で襲撃されたら終わりだとリンディが顔を歪めているとアースラに現れたのは、アリシアが強制転移させたショウやクロノ達だった。
リンディは全員戻ってきてその中にフェイトの姿を確認して安心したように息を吐くが、
「フェイトちゃん…」
「あっ、ああああ!」
なのはの胸に顔を埋めて泣いているフェイトに気付いてリンディは困惑した表情で駆け寄る。
「どうしたのフェイト!一体何がって…!クロノ!アナタ怪我をして」
自分の大切な義娘と息子の一大事にリンディは柄にもなく慌ててしまう。
しかもよく見れば怪我をしているのはクロノだけではない。
将輝と悠季と奏也の三人も血を流して気を失っていている。
「ショウ君、ベルエスで何があったの?それにフェイトやクロノに何が…」
「リンディさん、今はこの場から離れてください」
「ショウ君?」
「お願いします」
顔を俯かせて拳を握るショウ。
表情こそリンディには見えていないがショウの表情は悔しげに歪んでいた。
俺達を助けるために三人の人間がラファスと戦っている。
本当なら一緒に戦いたかったのに俺はあの時ラファスの目に無意識に後退していた。
「リンディさん、私からもお願いします。目的の四柱は破壊しました。今はレジアス中将の所に戻りましょう」
「はやてさんまで」
本当に何があったのか聞きたいリンディだが、今は戻ってきたメンバーの怪我の事も考えてすぐにアースラスタッフに指示を出す。
「ハーリー君、ナデシコも地上本部に戻れるかしら?」
『はい!分かりました』
地上本部に戻る事をハーリーに伝えてリンディは、なのはと一緒に医務室に向かったフェイトの事を考えていた。
一体ベルエスで何があったのフェイト?
どうしてあんなに泣いていたの。
~地上本部・会議室~
ベルエスのある場所から離脱してアースラとナデシコはレジアスのいる地上本部に戻ってきた。
あの四柱での戦いで怪我をした者達は地上本部に着いてからすぐにクラナガンの病院に運ばれて、今会議室には比較的軽傷なショウやはやてがいて他にも状況を聞くためにリンディとルリとセフィリアとレジアスがいた。
クロノも状況報告に参加しようとしたが、ショウとリンディがそれを止めてエイミィの付き添いで病院に運ばれている。
「一先ず四柱破壊と全員の帰還をよくぞ成功させたな」
ショウが報告して最初にそうレジアスは口にした。
おそらく四柱破壊はそんな簡単なものではない。
もしかしたら誰かが欠けるかもしれないと考えていただけにレジアスは安心したように息を吐いていた。
「じゃあ、四柱を破壊した後の事を聞かせてもらえるだろうか」
「はい。まず俺達は四柱を破壊して強制転移でベルエス内部に転移しました。そこで俺達は黒幕と会ったんです」
「黒幕か…。その者の名は?」
レジアスの問い掛けにショウは一瞬躊躇うが、すぐに真剣な表情でその人物の名を口にした。
今回の事は全て一人の凶王が裏で暗躍していた。
いや凶王と組んで動いてユリナさんも一人と言うべきか。
「今回の事件はユリナ・ミドカルド元帥が犯人です。正確に言うなら、ユリナ・ミドカルド元帥ともう一人の人物と言うべきでしょうか」
「もう一人?」
ユリナ・ミドカルドという言葉はある程度予想はしていた。
本局で行方不明であやつのロスト・ロギア強奪から、ユリナ・ミドカルドの動きはいつになく迅速だったからな。
だが解せぬ。
ユリナ・ミドカルドは誰とこんな計画を企てていた?
「そのもう一人の名は、凶王ラファス。かつてベルカ時代にベルエスを使って殺戮を楽しんでいた男でした。おそらくラファスがベルエスの事をユリナさんに教えたのでしょう」
「なっ、なんと!」
「まさか凶王が絡んでいたなんて」
ラファスという名を聞いてレジアスとリンディは驚きの声を上げる。
何せベルカ時代の人物がこの時代にいるのだ。
しかも凶王なら尚更驚かない訳がない。
「ショウ君、ユリナはラファスに操られていたのかしら?」
「いえ。ユリナさんは自分の意思でラファスに従っていました」
「ユリナ…」
リンディはキュッと拳を握り締める。
ユリナとリンディは親友とも言える関係で、そこに夫であるクライドも入れて三人で笑い合っていた。
そのユリナが黒幕だったなんて思いたくなかったのだ。
「ユリナさんは全てこの時の為に動いていたようです。マテリアルコアとベルエスの復活。この二つの目的の為にジョーカーズを生産したり私達に協力していたそうです。そして――」
はやてはそう口にしながら唇を噛む。
脳裏によぎるユリナの言葉と自分にとって大切な友でありフェイトの為に戦った男の姿。
フェイトちゃんは生きとるって言ってたけど、私はあの状態でクルス君が生きてるとは思えへんかった。
だってクルス君は全てを私達に託して笑っていたから。
「フェイトちゃんを人質にしてクルス君を裏切らせたのもユリナさんの仕業だったようです」
「ユリナ…ッ!!」
はやての言葉にリンディは顔を悲痛に歪める。
あの時ユリナはクルス君を私達に追わせた。
全てはクルス君を消すためで、自分の掌の上で踊る私達を見て笑っていたんじゃないか。
「それでお前達はどうやって離脱したのだ?四柱を破壊してすぐにユリナの所に転移したのだろ?」
「実は…」
ショウはベルエスで起こった全てを話し始める。
ユリナと対峙して将輝達がボロボロになって次はフューチャーを持つ自分かと思ったが、ジョーカーズの雷帝が助けてくれてその雷帝がフェイトの姉であるアリシア・テスタロッサだったこと。
そしてアリシアと一緒に戦う為にジョーカーズの土帝と水帝も現れて、アリシアがショウ達を助けるように強制転移魔法を使ってラファスと戦ったであろう事全てをショウは報告していた。
「待ってショウ君、アリシア・テスタロッサですって?彼女は確か…」
「えぇ。俺もPT事件の事はクロノから聞きましたからアリシアの姿に疑問が浮かびました。彼女は虚数空間にプレシア・テスタロッサと落ちたそうですし。でもその答えを聞く前に…」
アリシアはあの場に残ってしまった。
アリシアだけじゃない。
土帝のエグザも水帝と言ってたファイという少女もアリシアと一緒に。
「だからフェイトは…」
アースラに帰還した時なのはさんの胸で泣いていたフェイト。
大切な家族と会えたのにあんな別れ方をしてしまった。
ちゃんと話す事もできずに姉と離れ離れに。
「今はなのはちゃんが傍にいてくれてますが…」
かつてPT事件で母を目の前で失いこの戦いで姉もまた目の前で失ってしまった。
フェイトの心がボロボロなのは考えるまでもない。
しかも――
フェイトを守るためにクルス君もいなくなった。
「どうして…ッ!!どうしてフェイトばかり…ッ!!」
失うものが多すぎる。
フェイトが何をしたと言うのだ。
あんなに純粋で優しい女の子をどうして傷つけるのだ。
「リンディさん…」
肩を震わせて涙を流すリンディにはやては顔を俯かせショウは強く拳を握りしめて唇を噛み締める。
「それでお前達は離脱したのだな。しかし解せんな…」
「どういう事ですか中将?」
「考えてみろホシノ小佐。そのベルエスとやらは、星一つを変えてしまうほどの力があるのに何故やつらは使ってこんのだ?第一射からかなり時間はたっているはずだ」
レジアスの言う通りである。
ベルエスが出現して第一射が放たれてから、かなりの時間が過ぎているのに第二射は今現在発射されてはいない。
あれだけの力を何故使わないのだろう、とルリは顎に手を当てて考える。
「セフィリアよ、お主はどう考える?」
「あくまで予想ですがマテリアルコアに異常が起きたかユリナ・ミドカルドに問題が起きたかではないでしょうか。いずれにしろ、今は四柱破壊で負傷した方々の傷を治療するのが先かと」
ここまでずっと戦い続けていた。
クルスとの海底洞窟での戦いから始まり、四柱でジョーカーズと戦ってベルエスでユリナとラファスと対峙した。
ゆっくり休めないまま戦ったのだ。
誰もが疲れきっているしそれは自分やはやても同じだ。
「確かにそうだな。ならショウはすぐに病院に向かいたまえ。八神は少し話があるから残ってくれ」
「えっ…」
「は、はい?」
レジアスの言葉にショウとはやては困惑していたが、とりあえずショウは頭を下げて会議室から出ていく。
「あのレジアス中将、私に話って何でしょうか?私も本音を言えばショウ君と一緒に…」
「落ち着いて聞くのだぞ八神」
椅子から立ち上がり真剣な表情でレジアスははやてを見つめていた。
今から言うことはかなり重要なのか、とはやてもまた気を引き締める。
「八神よ、お主は今この事件と同時進行である事をやっておるな」
「……うっ!」
ギクリとはやては肩を揺らす。
実ははやてはショウ達に内緒でとある事で動いていたのだ。
そのある事にはここにいるリンディや病院にいるクロノや聖王教会のカリム・グラシアも関係していて、さらに秘密で三人のお偉いさんも関わっていたりする。
(まさかレジアス中将があの事を知っとるとか?あかん、いくら中将が想像しとった人とは違うと言うてもあれはあかんかったかな?)
あれは自分が夢見ていた計画でその実現の為に今も頑張っていた。
「安心しろ。お主の夢の邪魔などせん」
「レジアス中将…?」
「アヤツとの約束だからな。俺もできるだけ力をかしてやろう。ただし――俺が協力している事は秘密にするのだぞ」
「よ、よろしいのですか?私がやろとしている事は…」
「確かに俺は地上の在り方を理解していない本局側を快く思ってはいない。本局側はミッド地上より次元世界全体の安定を重視しておるからな」
「……それは否定できません」
「だが俺はかつての友と再会して考えた。俺達陸と海が少しでも歩みよればミッド地上は守れるんじゃないかと」
レジアスの曇りを晴らしたかつての友との再会。
二人で誓った平和は視点を変えればやりようはあった。
そしてそれを協力してくれたのはかつての友と友を救ってくれた男達。
「機動六課を設立したら俺が選ぶ陸の人間を組み込んでもらおう。それが俺が協力する条件だ。よいか八神?」
「はっ、はい!中将が協力してくれるならもう何も怖くないです。ありがとうございます!」
嬉しそうに笑い頭を下げるはやてにレジアスは愉快そうに笑う。
これがあの闇の書の主とは思えぬ。
まだまだひよっこではないか。
「それから最後に一つ教えておく。これはここにいる全員に聞いてもらおう」
そう言いながらレジアスはゆっくりと残ったメンバーにある事を教える。
「実はの…」
その言葉を聞いた瞬間はやてとリンディは涙をこぼして、ルリとセフィリアは安心したようにホッと息を吐いて笑みを浮かべていた。
~病院~
長い戦いがひとまず終わり、心身共に疲れきった者達は病院で深い眠りに入っていた。
重傷であるクロノと将輝と悠季と奏也は、個室で休んでおり病室は機械音しか聞こえない。
そしてショウは病院にやって来てなのはとフェイトがいる病室に足を運んでいた。
「体の調子はどうだなのは?」
「私はそこまで怪我してなかったから。でも疲れちゃったから少しだけ休んでるの」
にゃはははと力なく笑うなのはの頭を##NAME1##は優しく撫でる。
ここまで本当に戦いばかりだった。
クルスと戦ってからまだそんなに過ぎてはいない。
今でも俺の頭からアイツの笑った顔が離れない。
「私よりもフェイトちゃんが心配だよ。フェイトちゃん、眠るまでずっと泣いてたから」
子供のように泣きじゃくっていたフェイトちゃん。
必死にクルス君の事で泣くのを我慢していたのに、お姉ちゃんであるアリシアちゃんと再会してあんな別れ方しかできなかった。
これで泣かない方が無理である。
「ショウくん…」
「大丈夫だなのは。フェイトが信じてるなら俺達も信じてやろうぜ」
「……うん」
ギュッとショウに抱き着いてなのはは目を閉じる。
今は大好きな人の温もりを感じたい。
今だけは甘えていいよねショウくん?
(クルス…。俺も信じてるからな。だから…早く帰ってこい)
激闘が終わり戦士達は深い眠りに入る。
それぞれが想いを胸に秘めながら時間だけが過ぎていく。
最後の戦いは今ここから静かに始まりを告げたのである。
「あーー!なのはちゃん!ショウ君に抱きつくなんて卑怯やで!次は私の番!そこをどいてや!」
「まだダメ!まだショウ君成分が足りないの!」
「ずるいで!私かて甘えたいんや!」
「やだ!」
とりあえずフェイトが眠ってるんだから静かにしてくれ二人とも。
次回予告
将輝
「一つの戦いが終わった」
樹
「けどそれは最後の戦いを告げる序章にしかすぎなかった」
杉並
「そしてついにあれが動き出す」
朋也
「次回S.H.D.C.
第四十六話
『決戦!光陽海鳴町!前編』に…」
春原
「GOだよ!」
朋也
「さすが春原!相変わらずバカだな」
春原
「どういう意味だコラ!!」