秘めた想い

エグザ・シュラハト。

ジョーカーズの一人であり土帝の男。

かつてなのはとヴィータとザフィーラをその拳でねじ伏せ、神魔杯では稟を全力で叩き潰した男。

ジョーカーズの中でも比較的マトモな分類で、他のジョーカーズと違い殺戮を楽しんではいない。

そしてエグザが戦う理由は一つ。

未来を切り開く者達の成長をその目で見極めるため。

その為なら彼は全力で戦う。

相手が一人だろうが四人だろうが。







―――――

「こんなものか」


エグザの目の前に映る光景。

動力部を破壊する為にここにやって来た土見稟を含む四人の戦士が先程まで立っていたのだが、今ではエグザと対峙しているのは稟だけであり他の三人は地に伏していた。

純一とハヤテはまだ意識があるのかなんとか立ち上がろうとしているが、樹は気を失ってピクリとも動いてはいなかった。


「ハァ…ハァ…ハァ…」

「どうした土見稟。神魔杯からお前は何一つ変わっていないぞ」

「クッ…!」


すでに満身創痍で立っている稟は口から血を吐き、エグザに目を向けていた。

エグザは俺達四人を相手にかすり傷程度にしか負傷していない。

純一とハヤテが幻覚とスピードで翻弄し、俺と樹で斧とトンファーによる近接戦闘で戦ったはずが、エグザは全てを受け止めて俺達四人を拳だけでねじ伏せたのだ。

神魔杯の時と同じその拳だけで。


「私はお前に言ったな。王になりたければ強くなれと」

「あぁ…」


エグザの言葉に稟は顔を歪めて頷く。

それは忘れもしない神魔杯での戦い。

俺はエグザに王について聞かれその想いを口にした。

だけどそれだけじゃ足りなかった。

想いだけじゃ王にはなれないとエグザは口にしていた。

だから俺はあの日から神王様や魔王様に頼み込んでもっと強くなろうと修行していたのに、


「本当に強いよなアンタは…」


悔しくてデバイスを握り締める力が強くなっていた。

血が流れ胸に込み上がる悔しさという感情。

エグザにだけは負けたくないと決めていたのに。


「……諦めてたまるか」

「んっ?」


ボロボロの体で立っている稟はゆっくりとデバイスである、リオウを構えるとその目を鋭くしてエグザを見つめていた。


(これは…)


エグザはその稟の纏う雰囲気が先程と変わった事に気付いてフッと笑みを浮かべる。

まだ開花していないがやはり土見稟は王としての素質がある。

神王や魔王が見込んだ男なだけはあるか。

ならば私がやる事は一つしかない。


「かかってこい土見稟。お前の力を私に見せてみろ」

「いくぞエグザ・シュラハト」


稟がエグザに突っ込もうとした瞬間、先程まで倒れていたはずの純一とハヤテと樹がゆっくり起き上がり、稟と並ぶように立ちデバイスを片手に笑みを浮かべていた。


「待てよ稟。何一人で戦おうとしてんだ」

「純一…」

「僕達と一緒に戦うんじゃないんですか稟君?」

「ハヤテ…」

「そうだぞ稟。俺様達四人で戦うって決めたじゃないか」

「樹…」


三人の体は稟以上にボロボロで腕や脚からは血が流れ、樹に至っては横腹からも血を流していた。

三人は正直立っているのもやっとのはずだ。

だけどそれでも立ち上がったのは、稟を一人で戦わせない為である。

稟が一人で戦おうとしているのに、自分達が倒れてどうするんだと。


(本当にこの男は楽しませてくれる)


エグザはその姿や決意に目を閉じて笑みを浮かべた。

やはり未来を切り開くのはこんな少年達だな。

私の全力を全て少年達にぶつけてやろう。


「三人とも無理はするなよ」

「かったるい…」

「稟君がそれを言うんですか?」

「稟のくせに生意気だな」


四人の顔に笑みが浮かぶと一気に四人が動き出す。

まずは純一と樹がエグザに接近し刀とトンファーで接近戦を仕掛け、ハヤテは二人を援護するように遠距離から風の弾丸や閃光を放つ。

エグザは純一の刀を拳で殴り飛ばすとその勢いで体勢を崩した純一にケリを喰らわせ、背後からトンファーで殴りかかる樹に対し首を横にずらす事でトンファーを回避し、そのまま背を向けた状態で肘打ちを叩き込み樹を弾き飛ばす。


「純一君!樹君!」

「呆けてる暇があるのか?」

「しまっ…!」


二人がやられた事に気を向けた瞬間、ハヤテの目の前にエグザが現れてエグザはハヤテを蹴り上げると、そのあとすぐに踵落としを喰らわせてハヤテを地面に叩き落とす。


「どうした土見稟の仲間達よ。この程度ではあるまい」


地に降り立ち息を吐くエグザに対し、三人は地面に倒れたままだった。

おそらく三人の体は限界に近い。

起き上がる事などできはしないだろう。


「…うるせいな」

「僕達はまだ…」

「こんなもんじゃない」


三人はなんとか立ち上がり震える体でエグザと対峙する。

稟と一緒に戦う為に。

稟一人に負担をかけない為に。

三人はそれだけで立ち上がるのだ。


「友の為に戦うか、弱き者達よ」


三人が立ち上がるなら自分は全力で倒すのみ。

エグザの雰囲気が変わった事に気付いたのか、三人は息を呑んで顔を歪めていたが、稟がゆっくり歩き出して三人を守るように前に立ちエグザと対峙した。


「むっ…?」

「三人とももう充分だ。あとは俺がやる」


稟の言葉に純一は刀を地面に突き刺しそれを支えにしながら口を開いた。


「何言ってんだ稟!お前一人じゃアイツには勝てねぇぞ!」

「そうですよ。僕達四人で戦わないと…」

「これ以上!お前達に無理はさせたくないんだよ」

「稟…」


ハヤテが稟の背中を見つめ言葉を投げるが、稟の言葉に樹だけは唇を噛み締め稟の背中を見つめていた。

そんな事を言われたら俺様はもう何も言えないじゃないか稟。


「純一、ハヤテ、もう稟に任せるしかないよ」

「樹!」

「今の俺様達じゃ、稟の手助けにはならないよ。それに二人とも感じたんじゃないかい?」


樹の言葉に二人は稟の背中を見つめてその頼もしさに押し黙る。

まるで神王や魔王のような雰囲気を稟から感じ取っていた。

そしてそれは対峙していたエグザも同じように感じ取り、嬉しそうにエグザは笑みをこぼしていた。


「いい気迫だ土見稟。そうだ。その気迫だ!」

「リオウ、オーバードライブだ。いけるよな?」

『当然だ稟よ!我らの力をあの男に見せようぞ!』

「当然だ!オーバードライブ!!」


稟の言葉と同時に稟の体が金色に輝きエグザが次に目にしたのは、金色の鎧に身を包み背中には二本の斧を背負い力強い目をした土見稟の姿だった。


「ほぅ…」


その目にその纏う闘気に純一達は唖然として、この戦いを最初から眺めていたファイは目をぱちぱちさせて驚いていた。


「これが俺の全力だエグザ!」

「よかろう。かかってこい土見稟よ!」


そのエグザの言葉が引き金となった。

稟の拳がエグザの頬を殴り飛ばすとエグザはニヤリと笑ったまま、稟の腹部を全力で殴りその威力にひるんだ稟を蹴り上げる。


『稟!もっと自分の力を信じろ!我と共に強くなったお前ならヤツと戦えるはずだ』

「リオウ…」


蹴り上げから立て直してゆっくり地面に降り立ち稟は背中に背負った二本の斧を両手に持ち魔法陣を展開する。

神王様が魔王様が教えてくれた力。

強くなりたいと誓った俺に両王が教えてくれた力。


「神式・神空刃!」


白い光に包まれた斧を思い切り振り下ろすと、その光は×印の衝撃波となりエグザに迫る。

エグザは片手で受け止めたが衝撃波はエグザの横腹を切り裂いて、エグザの横腹からうっすらと血が流れる。


「成程な…」

「まだだ!魔式・リベリオンエッジ!」


黒い炎に包まれた二本の斧を稟はエグザに投げ飛ばし、二本の斧は放物線を描きながらエグザに襲い掛かるがエグザはその二本を掴み稟に投げ返そうとした。

しかし―――


「今だ!」


二本の斧は小さな爆発を起こしエグザは咄嗟に両手に防御魔法を張り爆発のダメージを防いだが、稟はさらに追撃するようにエグザに迫り拳をエグザの腹部に当てて口を開いた。


「タイタンズブレイクーー!!」

「…ッ!!」

「エグザ!」


稟の力強い拳をエグザはまともに喰らい、エグザは勢いよく後方に吹き飛んでいった。


「ハァ…ハァ…」


神式に魔式は神王と魔王が稟に教えた戦う力である。

かつて二人が使っていた力を稟が受け継いで自分用に変えた。

その力を味わい吹き飛ばされたエグザは、稟の背後にいる神王と魔王の姿に息を吐く。

まるで土見稟を守るような光景。

神王と魔王はよほど土見稟を大事にしているのだな。


「…土見稟」

「……」

「あの時の答えは出たようだな」

「決着をつけるぞエグザ・シュラハト!」


エグザと稟が同時に駆け出す。

エグザの拳が稟を殴り飛ばすと稟は踏み止まり二本の斧で、エグザの体を切り裂いてエグザの体を血に染めていく。

しかしエグザはそんな事では止まらない。

己の拳で己の脚で稟をねじ伏せていく。


「まだだぁぁぁぁ!!」


稟の振るう斧から放たれる衝撃波はエグザの頬を切り裂き、エグザはそれを気にする事もなく稟に接近して拳を鳩尾に叩き込み、鎧を纏っていたはずの稟は鎧を貫通した威力に口から血を吐き、さらに追い討ちのように叩き込まれたエグザの拳によって地面に倒れてしまう。
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