兄と弟
幼き日に別れてしまった兄弟。
兄は弟を守るため両親の仇を討つ為に戦い、弟は全てを思いだしそれでも一人の少女との未来の為に戦う。
紅い月の下で兄と弟の戦いは激しさを増していた。
「キバット」
『ウェイクアップ・ワン!』
裕理の声にキバットⅡ世が答えるようにウエイクアップフエッスルを一回吹かせると、空に浮かんでいた紅い月が不気味に輝いて裕理はそれをバックに高く飛び上がり、魔力を腕に込めるとそれを勢いよく湊目掛けて振り下ろす。
「うわっ!!」
湊はそれをまともに喰らい鎧から火花が散りそのまま転がり苦しそうに呻き声を上げてしまう。
ハッキリ言ってあれを生身で喰らえばただではすまない。
奏也がプロテクションで受け止めていたが、あれはそれをいとも容易く破り奏也にダメージを与えていた。
いまだに奏也が立ち上がれないだけに威力は絶大なのは見て分かる。
「……ふん」
地面に転がる湊を裕理はただじっと見下ろす。
まるでお前の力はこの程度なのかと、言わんばかりの裕理に湊はゆっくり立ち上がりベルトに装着させていた己のデバイスである、シルメリア・エクリプスを起動させ自分の手に黒と白の双剣を掴む。
両親が湊に残してくれたデバイス。
その形見のデバイスを裕理は仮面越しに懐かしむように見つめる。
「メリア!」
『いきますよ、マスター!』
双剣が光と闇に包まれ湊は裕理に接近して、その刀身を振り下ろす。
「ほう…」
その一撃で裕理の鎧は十字に切り裂かれながら火花を散らす。
ダメージはそこまでなかったのか、裕理はそれを喰らいながらも湊を掴むともう片方の手で殴り飛ばし、湊はシルメリアごと吹き飛ばされていく。
「湊!」
「くそ…っ!俺達も動ければ…!」
先程の裕理との戦いで悠季も奏也もかなりのダメージを喰らい全く動けないでいる。
「どうした湊、まさかその程度なんて言わないだろうな?」
裕理から発せられる微かな落胆の声に倒れていた湊はゆっくり起き上がり、シルメリアではなくもう一つのデバイスであるアルテミスを起動させ、ブレイズフォーム形態になり二丁拳銃を手にし裕理に向けていた。
(シルメリアにアルテミス……か。父さんと母さんの作り出したデバイス。やはり湊に持たせて正解だったか)
「アルトレイズシューター!」
アルテミスの銃口から放たれた白色の球体が、裕理に襲い掛かり裕理はそれを拳や蹴りで弾き飛ばしていく。
相手に全くダメージを与えていないシューターを湊は次々と放ち、その球体は次第に裕理の視界一面に広がり裕理は弾き飛ばしていていくが、全てを弾き飛ばす事はできずに球体をいくつも喰らい裕理は微かにだが苦し気に声をこぼした。
「まだだ、ライジングイレイザー」
さらに追い討ちをかけるように湊は裕理目掛けて、球体ではなく砲撃魔法を二丁拳銃から放ち裕理はそれを、まともに喰らい大きな火花と共に地面に転がっていく。
「今のは効いたぞ湊」
地面に倒れたままどこか嬉しそうに口を開く裕理。
ベルトの力と魔法の力を使って自分を追い詰めていく湊。
この戦いの中で強くなっている自慢の弟に嬉しさを隠しきれない。
だが、だからこそ敵対している事が悲しいと感じる。
「兄さん、俺は負けられないんだ」
「叶だったか?お前の守りたい人は」
「……あぁ」
一人の少女の為に兄である俺と戦う弟。
自分の知らないうちに成長したんだな湊。
本当にお前は―――
「お前の決意はわかった。だがな湊…」
それでも自分は負けるつもりはない。
ここで湊に負ければ、管理局に復讐できなくなる。
父さんや母さんを殺したやつらを組織を滅ぼすまで俺は死ねない!
「湊、悪いが本気で殺らせてもらうぞ」
「……っ!!」
ゆっくり起き上がり殺気を込めて裕理は一つのデバイスを手にした。
そのデバイスになのか、それとも裕理の殺気にか湊は無意識に息を呑む。
「お前の出番だタナトス」
『了解だぜ相棒』
裕理の手に握られた巨大な大剣。
普通に見てかなりの重さであろう大剣を裕理は軽々と片手で持ち肩に担いでいた。
「湊、いくぞ」
大剣を担いだまま一気に駆け出す裕理。
湊はアルトレイズシューターで行く手を阻もうとするが、裕理はそれをものともせず大剣の範囲内に湊が入った瞬間にそれを一気に振るっていく。
「カーネージシザー!」
大剣で湊を切り上げそのまま湊に突進し大剣でフルスイングの薙ぎ払いを喰らわせて、追い討ちのように黒い炎が湊を包み込むとそれは一気に音を鳴らし爆発した。
「があぁぁぁ!!」
湊の鎧はバチバチと火花を散らせ、湊は体を地面に強く叩きつけたうえに変身を解いてしまうのだった。
「…ぐっ……はっ……」
生身の姿に戻り苦しそうに悶える湊に、悠季と奏也が駆け寄ろうとしたが裕理がそれを遮りマントを靡かせる。
これは兄弟の戦いであり部外者は関わるなと、裕理は殺気を二人に放ち二人は顔を歪めたままその場で固まってしまう。
『湊!』
『マスター!』
『主!』
倒れる湊に声を掛けるキバットとシルメリアとアルテミスのデバイス達。
なんとか湊に立ってもらおうとするが、湊は先程のダメージのせいか腹部を抑えて苦しそうに息を吐いていた。
「…くっ…がはっ…!」
まだ倒れる訳にはいかない。
ここで自分が負けてしまったら、悠季と奏也が兄さんと戦う事になる。
二人はまだ戦えるだけの体力も魔力も回復していないのに戦わせる訳にはいかない。
自分が兄さんと戦うしかないんだ。
「湊よ、お前は自慢の弟だ。だからこそもうここで眠れ」
大剣を振り上げて倒れている湊にトドメの一撃を放とうとする裕理。
強大な光に包まれる大剣を喰らえば、湊は間違いなく死んでしまうだろう。
「……まだ倒れる訳には」
湊の脳裏に叶と交わした約束が思い返されるようによぎった。
『湊くん』
『……んっ?』
『帰ってきたらいっぱい遊びに行こうね』
『……うん』
『約束だよ!』
叶の笑顔を曇らせたくない。
約束を破るなんてできないんだ。
「終わりだ湊ーー!!」
振り下ろされた大剣を湊はシルメリアを起動させて双剣で受け止めると、歯をくいしばりそれをゆっくりと押し返していく。
「何だ、まだ戦えるのか?」
「俺は叶と約束したんだ。だから…ここで兄さんに負けてなんかいられない…」
力を込めた一撃で大剣を弾き返し、湊は裕理から離れて目を閉じながら息を吐く。
シルメリアを待機状態に戻しキバットを手に持ち、もう片方の手にキバットを噛みつかせステンドグラスのような模様が顔に浮かび、湊は再び腰にキバットを装着させて変身した。
「いくらその姿になろうが俺には勝てないぞ」
「…俺にはキバットだけじゃない。シルメリアやアルテミスもいるんだ…」
まるで湊の言葉に答えるようにシルメリアとアルテミスが輝きその輝きは鎧全てを包み込む。
「この光は一体…」
裕理の言葉と同時に輝きが消えていき、湊の纏う鎧が先程と変化して金色に輝いて現れた。
しかも裕理と同じようにマントを身に付けており、その手には剣が握られて腰には二丁拳銃が装着されていた。
「その姿は…」
湊の新たな姿に裕理は驚きの声をあげる。
それは自分と同じか、もしくは自分のこの姿よりも圧倒的力を感じてしまう。
それはまるで皇帝のように―――
「だが、それがどうした!」
タナトスを待機状態に戻し、裕理はゆっくりと湊に近づいていく。
拳に魔力を込めその拳を湊に喰らわせる。
前の鎧の時なら火花を放らして吹き飛ぶはずの拳が、湊には全く効いていないのか湊はそのまま殴り返してきた。
「なっ…!」
その威力に裕理は目を丸くして後退しながらも、再び湊に接近して拳を振るう。
その拳もまた受け止められ、裕理は湊の拳を喰らい地面に転がってしまう。
(なっ、なんて威力だ…。鎧など関係なしに俺にダメージを…)
たった二発しか喰らっていないのに、自分は腹部を抑えて地面に転がっている。
こんな事があり得るのかと。
「タナトス、全力でいくぞ」
『任せな相棒』
裕理は起き上がり再びタナトスを起動しその手に大剣を握り全てを終わらせるかのように、魔力を注ぎ込むと大剣は黒い光に包まれさらに巨大化していく。
「キバット!」
『おう、湊!』
湊もまた魔力を脚に込めると脚の外側に蝙蝠の羽のような刃が形成され、湊は一気に空中に飛び上がっていく。
紅い月を背に空に浮かぶ湊と大剣を掲げ湊を見上げる裕理。
おそらくこれが最後の一撃となるだろう。
「カラミティソード!」
裕理は勢いよく大剣を湊に振り下ろし、湊は両足で蹴りを繰り出し裕理の大剣と湊の両足が激しくぶつかり合う。
「…おぉ!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
どちらが力負けするか。
視界を紅い光がうめつくし、悠季と奏也は二人のぶつかり合いを何とか見ようとしている。
「兄さんは…」
幼き日兄さんと過ごした日々。
まだ何も知らなかった俺に兄さんは色々教えてくれた。
父さんと母さんが死んで兄さんは、一人で戦って一人で全てを背負っていたんだろう。
だけどもうこれ以上兄さんに罪を背負わせたくない。
「俺が倒す!」
『湊ーー!キバリやがれー!!』
湊の鎧が金色に輝くと湊の蹴りがカラミティソードを破壊していく。
全てを捩じ伏せるような蹴りはカラミティソードを粉々に破壊して、その勢いのまま両足を裕理に叩きつけた。
「ぐあァァァァっ!!」
裕理はそれをまともに喰らうと、勢いよく後方に吹き飛びその体を倒すのであった。
「…ハァ…ハァ…ハァ…」
ゆっくりと着地し変身を解除し湊は息を荒くしながら、目の前で倒れている裕理に目を向けた。
あの一撃を喰らい地面に倒れている裕理はピクリとも動かない。
まるで力尽きたように倒れている裕理に、湊はふらふらと近付き裕理の体を支えるように起こすと、
「うっ…!」
「兄さん…」
裕理の変身が解かれ湊と同じように生身の姿に戻っていく。
裕理の口からは血が流れ、苦しそうに裕理は湊を見上げていた。
「兄さん、俺は…」
「約束してくれ…。お前は…俺のように…罪を背負わないと…」
自分にはもうこの道しかなかった。
父さんと母さんを目の前で殺されて、この手をやつらの血で真っ赤に染めてしまった。
それから戦い続けて聖騎士団や、ジョーカーズと出会ってこの計画に協力した。
その途中で湊を神魔杯で見つけて、強くなった湊を見ていつか自分を倒すだろうと考えていたが、
「…お前は父さんと母さんと俺の……自慢の…家族だ……湊」
裕理は満足したように笑うと、その体は紅い炎に包まれていく。
「兄さん…」
裕理の体が紅い炎で燃えていきその体が全て灰に変わり果てて、湊はその灰をギュッと握り締めたまま顔を俯かせた。
「湊…」
「待て、悠季」
顔を俯かせる湊に悠季が声を掛けようとしたが、奏也がそれを止めて首を横に振っていた。
「今は一人にしてやれ…」
「あぁ…」
もしかしたら裕理と湊はもっと違う形で決着をつけられたんじゃないのか。
だけど二人とも命がけで戦って裕理は湊に負けた。
弟に兄を討たせるなんて残酷すぎるだろ。
ようやく再会したのに。
「俺達が弱かったから」
「……そうだな」
悠季と奏也は顔を歪めたまま動力部に向かっていき、湊は拳を握りしめたまま紅い月を見上げていた。
次回予告
ハヤテ
「たった一人で僕達と戦うエグザ」
純一
「圧倒的な力に俺達は果たして勝てるのか…」
樹
「エグザの言葉に稟は…」
稟
「次回S.H.D.C.
第四十三話
『秘めた想い』に…」
ファイ
「ドライブ・イグニッションだよ!!」
兄は弟を守るため両親の仇を討つ為に戦い、弟は全てを思いだしそれでも一人の少女との未来の為に戦う。
紅い月の下で兄と弟の戦いは激しさを増していた。
「キバット」
『ウェイクアップ・ワン!』
裕理の声にキバットⅡ世が答えるようにウエイクアップフエッスルを一回吹かせると、空に浮かんでいた紅い月が不気味に輝いて裕理はそれをバックに高く飛び上がり、魔力を腕に込めるとそれを勢いよく湊目掛けて振り下ろす。
「うわっ!!」
湊はそれをまともに喰らい鎧から火花が散りそのまま転がり苦しそうに呻き声を上げてしまう。
ハッキリ言ってあれを生身で喰らえばただではすまない。
奏也がプロテクションで受け止めていたが、あれはそれをいとも容易く破り奏也にダメージを与えていた。
いまだに奏也が立ち上がれないだけに威力は絶大なのは見て分かる。
「……ふん」
地面に転がる湊を裕理はただじっと見下ろす。
まるでお前の力はこの程度なのかと、言わんばかりの裕理に湊はゆっくり立ち上がりベルトに装着させていた己のデバイスである、シルメリア・エクリプスを起動させ自分の手に黒と白の双剣を掴む。
両親が湊に残してくれたデバイス。
その形見のデバイスを裕理は仮面越しに懐かしむように見つめる。
「メリア!」
『いきますよ、マスター!』
双剣が光と闇に包まれ湊は裕理に接近して、その刀身を振り下ろす。
「ほう…」
その一撃で裕理の鎧は十字に切り裂かれながら火花を散らす。
ダメージはそこまでなかったのか、裕理はそれを喰らいながらも湊を掴むともう片方の手で殴り飛ばし、湊はシルメリアごと吹き飛ばされていく。
「湊!」
「くそ…っ!俺達も動ければ…!」
先程の裕理との戦いで悠季も奏也もかなりのダメージを喰らい全く動けないでいる。
「どうした湊、まさかその程度なんて言わないだろうな?」
裕理から発せられる微かな落胆の声に倒れていた湊はゆっくり起き上がり、シルメリアではなくもう一つのデバイスであるアルテミスを起動させ、ブレイズフォーム形態になり二丁拳銃を手にし裕理に向けていた。
(シルメリアにアルテミス……か。父さんと母さんの作り出したデバイス。やはり湊に持たせて正解だったか)
「アルトレイズシューター!」
アルテミスの銃口から放たれた白色の球体が、裕理に襲い掛かり裕理はそれを拳や蹴りで弾き飛ばしていく。
相手に全くダメージを与えていないシューターを湊は次々と放ち、その球体は次第に裕理の視界一面に広がり裕理は弾き飛ばしていていくが、全てを弾き飛ばす事はできずに球体をいくつも喰らい裕理は微かにだが苦し気に声をこぼした。
「まだだ、ライジングイレイザー」
さらに追い討ちをかけるように湊は裕理目掛けて、球体ではなく砲撃魔法を二丁拳銃から放ち裕理はそれを、まともに喰らい大きな火花と共に地面に転がっていく。
「今のは効いたぞ湊」
地面に倒れたままどこか嬉しそうに口を開く裕理。
ベルトの力と魔法の力を使って自分を追い詰めていく湊。
この戦いの中で強くなっている自慢の弟に嬉しさを隠しきれない。
だが、だからこそ敵対している事が悲しいと感じる。
「兄さん、俺は負けられないんだ」
「叶だったか?お前の守りたい人は」
「……あぁ」
一人の少女の為に兄である俺と戦う弟。
自分の知らないうちに成長したんだな湊。
本当にお前は―――
「お前の決意はわかった。だがな湊…」
それでも自分は負けるつもりはない。
ここで湊に負ければ、管理局に復讐できなくなる。
父さんや母さんを殺したやつらを組織を滅ぼすまで俺は死ねない!
「湊、悪いが本気で殺らせてもらうぞ」
「……っ!!」
ゆっくり起き上がり殺気を込めて裕理は一つのデバイスを手にした。
そのデバイスになのか、それとも裕理の殺気にか湊は無意識に息を呑む。
「お前の出番だタナトス」
『了解だぜ相棒』
裕理の手に握られた巨大な大剣。
普通に見てかなりの重さであろう大剣を裕理は軽々と片手で持ち肩に担いでいた。
「湊、いくぞ」
大剣を担いだまま一気に駆け出す裕理。
湊はアルトレイズシューターで行く手を阻もうとするが、裕理はそれをものともせず大剣の範囲内に湊が入った瞬間にそれを一気に振るっていく。
「カーネージシザー!」
大剣で湊を切り上げそのまま湊に突進し大剣でフルスイングの薙ぎ払いを喰らわせて、追い討ちのように黒い炎が湊を包み込むとそれは一気に音を鳴らし爆発した。
「があぁぁぁ!!」
湊の鎧はバチバチと火花を散らせ、湊は体を地面に強く叩きつけたうえに変身を解いてしまうのだった。
「…ぐっ……はっ……」
生身の姿に戻り苦しそうに悶える湊に、悠季と奏也が駆け寄ろうとしたが裕理がそれを遮りマントを靡かせる。
これは兄弟の戦いであり部外者は関わるなと、裕理は殺気を二人に放ち二人は顔を歪めたままその場で固まってしまう。
『湊!』
『マスター!』
『主!』
倒れる湊に声を掛けるキバットとシルメリアとアルテミスのデバイス達。
なんとか湊に立ってもらおうとするが、湊は先程のダメージのせいか腹部を抑えて苦しそうに息を吐いていた。
「…くっ…がはっ…!」
まだ倒れる訳にはいかない。
ここで自分が負けてしまったら、悠季と奏也が兄さんと戦う事になる。
二人はまだ戦えるだけの体力も魔力も回復していないのに戦わせる訳にはいかない。
自分が兄さんと戦うしかないんだ。
「湊よ、お前は自慢の弟だ。だからこそもうここで眠れ」
大剣を振り上げて倒れている湊にトドメの一撃を放とうとする裕理。
強大な光に包まれる大剣を喰らえば、湊は間違いなく死んでしまうだろう。
「……まだ倒れる訳には」
湊の脳裏に叶と交わした約束が思い返されるようによぎった。
『湊くん』
『……んっ?』
『帰ってきたらいっぱい遊びに行こうね』
『……うん』
『約束だよ!』
叶の笑顔を曇らせたくない。
約束を破るなんてできないんだ。
「終わりだ湊ーー!!」
振り下ろされた大剣を湊はシルメリアを起動させて双剣で受け止めると、歯をくいしばりそれをゆっくりと押し返していく。
「何だ、まだ戦えるのか?」
「俺は叶と約束したんだ。だから…ここで兄さんに負けてなんかいられない…」
力を込めた一撃で大剣を弾き返し、湊は裕理から離れて目を閉じながら息を吐く。
シルメリアを待機状態に戻しキバットを手に持ち、もう片方の手にキバットを噛みつかせステンドグラスのような模様が顔に浮かび、湊は再び腰にキバットを装着させて変身した。
「いくらその姿になろうが俺には勝てないぞ」
「…俺にはキバットだけじゃない。シルメリアやアルテミスもいるんだ…」
まるで湊の言葉に答えるようにシルメリアとアルテミスが輝きその輝きは鎧全てを包み込む。
「この光は一体…」
裕理の言葉と同時に輝きが消えていき、湊の纏う鎧が先程と変化して金色に輝いて現れた。
しかも裕理と同じようにマントを身に付けており、その手には剣が握られて腰には二丁拳銃が装着されていた。
「その姿は…」
湊の新たな姿に裕理は驚きの声をあげる。
それは自分と同じか、もしくは自分のこの姿よりも圧倒的力を感じてしまう。
それはまるで皇帝のように―――
「だが、それがどうした!」
タナトスを待機状態に戻し、裕理はゆっくりと湊に近づいていく。
拳に魔力を込めその拳を湊に喰らわせる。
前の鎧の時なら火花を放らして吹き飛ぶはずの拳が、湊には全く効いていないのか湊はそのまま殴り返してきた。
「なっ…!」
その威力に裕理は目を丸くして後退しながらも、再び湊に接近して拳を振るう。
その拳もまた受け止められ、裕理は湊の拳を喰らい地面に転がってしまう。
(なっ、なんて威力だ…。鎧など関係なしに俺にダメージを…)
たった二発しか喰らっていないのに、自分は腹部を抑えて地面に転がっている。
こんな事があり得るのかと。
「タナトス、全力でいくぞ」
『任せな相棒』
裕理は起き上がり再びタナトスを起動しその手に大剣を握り全てを終わらせるかのように、魔力を注ぎ込むと大剣は黒い光に包まれさらに巨大化していく。
「キバット!」
『おう、湊!』
湊もまた魔力を脚に込めると脚の外側に蝙蝠の羽のような刃が形成され、湊は一気に空中に飛び上がっていく。
紅い月を背に空に浮かぶ湊と大剣を掲げ湊を見上げる裕理。
おそらくこれが最後の一撃となるだろう。
「カラミティソード!」
裕理は勢いよく大剣を湊に振り下ろし、湊は両足で蹴りを繰り出し裕理の大剣と湊の両足が激しくぶつかり合う。
「…おぉ!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
どちらが力負けするか。
視界を紅い光がうめつくし、悠季と奏也は二人のぶつかり合いを何とか見ようとしている。
「兄さんは…」
幼き日兄さんと過ごした日々。
まだ何も知らなかった俺に兄さんは色々教えてくれた。
父さんと母さんが死んで兄さんは、一人で戦って一人で全てを背負っていたんだろう。
だけどもうこれ以上兄さんに罪を背負わせたくない。
「俺が倒す!」
『湊ーー!キバリやがれー!!』
湊の鎧が金色に輝くと湊の蹴りがカラミティソードを破壊していく。
全てを捩じ伏せるような蹴りはカラミティソードを粉々に破壊して、その勢いのまま両足を裕理に叩きつけた。
「ぐあァァァァっ!!」
裕理はそれをまともに喰らうと、勢いよく後方に吹き飛びその体を倒すのであった。
「…ハァ…ハァ…ハァ…」
ゆっくりと着地し変身を解除し湊は息を荒くしながら、目の前で倒れている裕理に目を向けた。
あの一撃を喰らい地面に倒れている裕理はピクリとも動かない。
まるで力尽きたように倒れている裕理に、湊はふらふらと近付き裕理の体を支えるように起こすと、
「うっ…!」
「兄さん…」
裕理の変身が解かれ湊と同じように生身の姿に戻っていく。
裕理の口からは血が流れ、苦しそうに裕理は湊を見上げていた。
「兄さん、俺は…」
「約束してくれ…。お前は…俺のように…罪を背負わないと…」
自分にはもうこの道しかなかった。
父さんと母さんを目の前で殺されて、この手をやつらの血で真っ赤に染めてしまった。
それから戦い続けて聖騎士団や、ジョーカーズと出会ってこの計画に協力した。
その途中で湊を神魔杯で見つけて、強くなった湊を見ていつか自分を倒すだろうと考えていたが、
「…お前は父さんと母さんと俺の……自慢の…家族だ……湊」
裕理は満足したように笑うと、その体は紅い炎に包まれていく。
「兄さん…」
裕理の体が紅い炎で燃えていきその体が全て灰に変わり果てて、湊はその灰をギュッと握り締めたまま顔を俯かせた。
「湊…」
「待て、悠季」
顔を俯かせる湊に悠季が声を掛けようとしたが、奏也がそれを止めて首を横に振っていた。
「今は一人にしてやれ…」
「あぁ…」
もしかしたら裕理と湊はもっと違う形で決着をつけられたんじゃないのか。
だけど二人とも命がけで戦って裕理は湊に負けた。
弟に兄を討たせるなんて残酷すぎるだろ。
ようやく再会したのに。
「俺達が弱かったから」
「……そうだな」
悠季と奏也は顔を歪めたまま動力部に向かっていき、湊は拳を握りしめたまま紅い月を見上げていた。
次回予告
ハヤテ
「たった一人で僕達と戦うエグザ」
純一
「圧倒的な力に俺達は果たして勝てるのか…」
樹
「エグザの言葉に稟は…」
稟
「次回S.H.D.C.
第四十三話
『秘めた想い』に…」
ファイ
「ドライブ・イグニッションだよ!!」