再会

~光陽海鳴市~

「ショウ君!ショウ君!」

ゆさゆさと肩を揺らす衝撃に目を覚ます青年――


「なのはか?何でお前が俺の家にいる?」


ショウは目を開けて呆れたようになのはを見ている。


「にゃはは、これのおかげかな」


なのははポケットから一つの鍵を出した。

その鍵にはハートのキーホルダーがついていた。


「合鍵っていつの間に…」

「一週間前だよ!」


さらりと言うが一歩間違ったら不法侵入になるのだが――


「…全く油断できないな」


ショウはゆっくり起き上がりベッドから出て欠伸をする。


「……あっ!そういえば、昨日クロノ君から伝言預かってたんだった」


今さら思い出したなのはがショウに告げる。


「伝言?何て?」

「確か…『管理局も信頼している部隊をそっちに送ったから近々挨拶に来るそうだ』って…」


管理局も信頼している部隊で名前だけなら聞いた事があったな。


「確か名前はファントムナイツ…」


名前だけが有名で誰がリーダーなのかも人数も不明の部隊――


しかし任務は確実にこなすと言われている。


「それほどの部隊が来るってことは何かあんだろうな…」

「一応フェイトちゃんやはやてちゃんにも伝えたけど……大丈夫かな?」


首を傾げて可愛らしく聞いてくるなのはだが、ショウにとっては別の方で悩んでいた。


「なのは…」


「なぁに?」


「着替えたいんだが…」


「……………」


なのははその言葉に頬を赤くして、勢いよく部屋から出ていくと、ショウは溜め息を吐き制服に着替えながらある事を考えていた。


(クルス、もう帰ってこないのかお前は?)


ショウの視線の先には昔皆で撮った写真が飾られている。

その写真には自分も含めた仲間達がいて、その隣にはかつての友であるクルスも写っていた。





~通学路~

ショウとなのはは学園に向かうために通学路を歩いている。


(ショウ君と二人っきり嬉しいな!)


なのはにとって至福の時間で誰にも邪魔されたくなかったのだが、


「ショウ君!なのはちゃん!おはよぅ!」

「遅いよ二人とも!ずっと待ってたのに……」


目の前には二人の少女がいてショウとなのはに手を振っていた。

一人は八神はやて――

六年前の闇の書事件の時からショウに支えてもらってショウに想いを寄せている。

もう一人はフェイト・T・ハラオウン――

六年前の闇の書事件でクルスと過ごしていくうちに想いを寄せて、元の世界に帰ったクルスを今でも待っている。


「悪かった。なのはが俺を襲おうとして………遅くなっちまった」


ショウの言葉にはやてが目を見開いて過敏に反応した。


「なっ!?なのはちゃん!抜け駆けか!?それは卑怯やで!」

「ちっ、違うよ!私はただショウ君を起こしに行っただけで……」

「それで起こして頭が覚醒してないショウ君を襲うとしたんやな!」


勝手に妄想を始めるはやてに三人は呆れ始めた。

しかも通学路で大声で言われると若干恥ずかしい。


「はやて、冗談だから落ち着け」


ショウははやての頭を優しく撫でながら言うと、はやては途端に笑顔になりショウの腕に抱きついた。


「これで許したる」


そう言ってはやてはショウを引っ張りながら学園に向かっていった。


「ム~」


その背後ではなのはが頬を膨らませてフェイトがそれを苦笑しながら見つめている。

(今日も平和だね…)


風が吹きフェイトの髪を靡かせながらフェイトは通学路に咲く桜を見つめる。


(高校生になって二年。私は今でも貴方を想ってるよクルス)


フェイトの脳裏によぎるクルスがいなくなったあの雪の日の出来事。

あれから数年の時が過ぎるがクルスはいまだにこの世界に帰ってはきていない。


(……会いたいよクルス)


ショウとなのはとはやての後ろ姿を見つめるフェイトは三人に気づかれずにただ悲しげに桜を見つめるのであった。





~通学路~

ショウが平和に学園に向かっている頃――

こちらでは二人の少年が走っていた。


「「ぬぉぉぉぉ~!!」」


二人は全速力で走り、後ろの連中から必死に逃げていた。


「「「土見稟―――!!今日こそ安らかに眠れーー!!」」」

「「綾崎ハヤテーー!!不幸を背負いながら成仏しろーー!!」」


二人は朝っぱらから親衛隊に追われていた。

稟はKKK・SSS・RRRという親衛隊に追われ、ハヤテはNNN・HHHという親衛隊に追われているようだ。


「くっそー!何で今日に限って##NAME1##はいねぇーんだー!」


全速力で走りながら稟はここにいない親友を恨んだ。

「稟君!無駄な叫びは体力を消費します!今は逃げる事だけを考えましょう!」


ハヤテは冷静に指示しながら稟の後方を走っている。

すると――


「さぁ…SSS!右から回り込んで稟の前に!さらにNNNよ!左から回り込んでハヤテの行く手を塞げ!」


校門の柱に立ち親衛隊を指揮する変態が現れた。


「おいおい、それはないんじゃないかなハヤテ。何回も言うけど俺様は『この世の美女の味方・バーベナの頭脳の持ち主』緑葉樹様だ!」

「心を読まないで下さい」


樹の言葉にハヤテは呆れながらツッコミを入れる。


「さぁて!二人とも俺様に集中したせいで、周りが見えていなかったようだね」


二人の周りには何百という親衛隊がいる。

正直登校生の邪魔をしている。


「稟にハヤテよ、君達の亡骸はちゃんと埋めてあげるから………安らかに眠りたまえ」


なぜかハンカチを取り出して樹は涙を拭いた。


「演技ならもう少し上手くやれ!」

「そんな演技で僕らが納得すると思いましたか!?」


二人の言葉に樹はニヤリと笑ってハンカチをしまった。


「バレちゃしょうがない親衛隊よ!稟達を…」


すると樹は何かを察知したのか学園に視線を向けた。


「これは美女の気配!こうしちゃいられない!親衛隊よ俺様は職員室に行ってくる!」


物凄い速さで樹はいなくなり親衛隊は気になったのか樹の後を追い掛けた。


「とりあえず助かったな」

「早く教室に行きましょう!」


稟とハヤテは疲れた様子で教室に向かった。






~職員室~

「…すいません。今日からここに通う事になった者なんですが」

「おぉ!お前達がそうか!こっちだ!」


一人の女性が手を上げて二人に合図している。

二人はそれに気付くとその人の元に向かった。


「始めまして、クルス・アサヅキです。それでこっちは…」

「イヴです」


二人はペコリと頭を下げて挨拶すると担当の先生も軽く頭を下げて挨拶した。


「あぁ…私は紅薔薇撫子。お前達の担任になる。そんでこっちが副担任の…」

「桂雪路よ!好きなものはお酒!あっ…お金も好きよ!」


そう言いながら雪路は二人の前に手を出した。

その意味をすぐに理解した撫子は雪路の頭にゲンコツを食らわせた。


「雪路!転校生に金をたかるな!」

「だって…だって…!ヒナはお金貸してくれないし、今月ピンチだけどお酒飲みたいもん!」


涙目で頭を押さえながら雪路は撫子に言う。


「金が無いのはいつもの事だろ!しかも…私が貸した3万円もまだ返していないのにまだ借りるか」

「…ウッ!諭吉を人質にするとは卑怯な」


雪路はファイティングポーズをとりながら逃げていった。

しかも手には焼酎を持って――


「元気な先生ですね」


「逆に大変だがな。まぁ…お前もそうなるだろうけどな」

「覚悟してますよ…色々と」


クルスは肩を竦めて撫子に言いながらチラリと廊下を見て固まった。

そこには数えきれない程の男子生徒と女子生徒がいたのだ。


「あれは?」

「気にするな。いつもの事だから」



廊下にいる男女の声が職員室まで聞こえてきたのか、紅女史は溜め息を吐いて頭を抱えている。


『男は邪魔だが女の子は可愛い!すぐに緑葉隊長に報告せねば!』

『小さくて可愛くて守ってあげたいーー!!』

『男の人も優しそうでいいよね!アンタ達とは大違いね!』

『はっ?こんな所に野次馬で来ている女子に言われたくないが?』

『なんですって!親衛隊のくせに!』

『我らは美少女達を安全に守る組織だ!健全なんだ!』

『変態が編隊を組んでるだけじゃないの!』

『何だとーー!!』


廊下で男女の言い合いが激しくなりただただ紅女史は目頭をおさえる。

転校生にあの光景は衝撃的だろうな。

本当に申し訳ないと思っている。






~教室~


ショウが教室に辿り着いてなのは達は後ろにいた。


「さて、今日はどうしてやろうか」


手のひらから炎の弾を出してショウが扉を開けたが、


「あれ?樹はどうした?いや樹だけじゃなくクラスの男子や女子もだけど」


教室を見て生徒の数がいつもよりいない事に気付いたショウ。


「おはようショウ君!緑葉君なら転校生を見に行ったわよ。まぁ他の男子と女子もだけど…」


ショウの前にヒナギクが現れてショウに事情を話していく。


「おはようヒナギク。そっか、どうりで麻弓や美希達もいないんだな」


「まぁ…あのメンバーはこんなイベントにはすぐ行っちゃうタイプだから」


呆れながらヒナギクと話しショウは席につく。


「まぁ、ヒナギクにはハヤテがいるから転校生なんてどうでもいいよな?」


席についた瞬間、ニヤリと笑いショウが口を開くとヒナギクは顔を真っ赤にして口を開いた。


「ちょっと!いきなり何言ってんのよ!」

「照れない照れない。図星のくせに…」


ヒナギクは拳を握り締めてショウを殴ろうとしたがなのは達に止められる。

すると―――


「「セーフ!!」」


教室の扉が開いて汗だくの稟とハヤテが現れた。


「お疲れさま二人とも。今日もいい運動したな」

「あぁ…お前が…いなかったからな…」


稟は眉をピクピクさせながらショウに言うが、ハヤテは走りすぎて疲れていた。


「親衛隊の皆さんのせいでお嬢様と一緒に行けなかった……」


よほどショックだったのかとても惨めな姿になっている。


「大丈夫だって!楓やシア達と一緒だから流石にナギだって怒らないと思うぞ」


必死にフォローする稟だが背後に殺気を感じてゆっくりと振り返りそれを確認するとそこには不機嫌丸出しのナギが仁王立ちで立っていた。


「ハヤテ、おはよう」


ドスの低い声でナギが言うとハヤテは汗を滝のように流しながらナギを見ていた。


「今日も一緒に行けなかったなハヤテ。……私はハヤテと行くために学園に来てると言うのにお前は朝からマラソンとは」

「お嬢様!これは全て親衛隊のせいであって僕は被害者ですよ!」

「ほぅ…親衛隊ね」


不機嫌丸出しのナギだったが次のハヤテの言葉で機嫌が治った。
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