VSヒロシ

Aブロック一回戦。

サトシVSヒロシの戦いは観客の注目を集めていた。


「リザードン!ドラゴンクロー!」

「クルーズ!こっちもドラゴンクローだ!」


ドラゴンクローを構えたリザードンとバンギラスの攻撃がぶつかり互いに交差する。

両者がピクリとも動かずしばらく沈黙していたが、ヒロシのバンギラスがよろめいていく。


「クルーズ!」


ヒロシが必死な声を上げた瞬間バンギラスはなんとか踏ん張るが、リザードンがバンギラスをがっちり掴みそのまま上空へと飛び上がった。


「リザードン!そのままちきゅうなげだ!」

「クルーズ!」


ドラゴンクローの一撃が効いているせいかバンギラスはリザードンを振り払う事ができない。

そんなバンギラスをリザードンはがっちり掴み空中を旋回して勢いよく急降下すると目の前に迫る地面に向かって叩き付けた。

ドラゴンクローとちきゅうなげによるダメージのせいかバンギラスは、そのまま地面に倒れて目を回した状態で戦闘不能へとなってしまう。


「ありがとうクルーズ」


戦闘不能になったバンギラスをボールに戻しヒロシは小さく笑みを浮かべていた。

クルーズはヒロシの手持ちの中でエースと言えるポケモン。

この日の為にかなり強くしたのにサトシのリザードンには届かなかったようだ。


「次はキミの番だよ。レオン!」

「ピカッ!」


ヒロシの傍にいたピカチュウがフィールドに現れてリザードンを睨み付けていた。

サトシのリザードンとヒロシのピカチュウと言えば、セキエイ大会でも戦った組み合わせである。

前回はリザードン相手に何もできなかったレオンは気合いが入っているのかヤル気満々でフィールドに立っていた。


「いくよ、サトシ!」

「あぁ!リザードン、かえんほうしゃ!」

「避けろ!レオン!」


リザードンのかえんほうしゃをレオンは地を蹴りクルクル回り回避していく。

かえんほうしゃを放つリザードンの隙を狙っているのかヒロシは真剣な表情でリザードンを見つめていた。

いつまでもかえんほうしゃが続く訳がない。

必ずリザードンに隙ができるはずだ。


「リザードン、全方向に向けてかえんほうしゃだ!」

「なにっ!?」


突如リザードンにそう指示したサトシにヒロシは目を丸くした。

何故サトシはレオンじゃなく岩場ばかりに炎を?

何を考えているんだサトシ?

岩場に炎なんて――


「……暑い?……まさか!?」


サトシの狙いがわかったぞ。

岩や地面を熱していた理由は温度の上昇。

それによって今フィールドは熱々の鉄板に近い状態になっている。

いくらレオンでも長時間フィールドにはいられない。


「…ッ!レオン!」

「ピカッ!」


ヒロシの声でレオンはすぐに安全地帯にジャンプするが、サトシはそれを待っていたと言わんばかりにリザードンに指示を出していた。


「リザードン!着地した瞬間にドラゴンクローだ!」

「ピカッ!?」


レオンが岩場に着地したと同時にリザードンは急接近して、そのまま無防備なレオンにドラゴンクローを喰らわせるとレオンは思い切りそれを喰らい吹き飛んでいく。

あれほど綺麗にドラゴンクローが決まってはただではすまない。

現にレオンは地面に倒れたままなんとか起き上がろうとするが、


「レオン!」

「ピッ…カッ…!」


リザードンの一撃がかなりのダメージだったのか、レオンはパタリと倒れて戦闘不能になってしまう。


「よくやったよ、レオン」


クルーズにレオンがリザードン一体に負けてしまうなんてね。

最後に会った時からかなり強くなったねサトシ。

だけど僕はまだ諦めないよ。

これが僕の最後の一体だ!


「出番だよジッポ!」


ヒロシが最後に繰り出したポケモン。

それはサトシと同じリザードンだった。

熱々のフィールドに対峙するリザードンとリザードン。

サトシのリザードンが威嚇し、ヒロシのリザードンはそれを鼻で笑う。

一触即発の空気の中で二体のリザードンは勢いよく動き出した。


「リザードン!ドラゴンクロー!」

「ジッポ!空に飛んで避けるんだ!」


サトシのリザードンのドラゴンクローを、ジッポは空へ飛ぶ事で避けると空中に飛んだままかえんほうしゃを放つ。

サトシのリザードンもまた空中へ飛び上がり、二体のリザードンは空中で激しくぶつかっていく。

お互い体当たりを喰らわせ空中ではリザードンによる肉弾戦が繰り広げられる。


(ヒロシ、どう動く)

(僕から仕掛けるか。それとも……)


トレーナーの指示がないままぶつかり合うリザードンを、サトシやヒロシだけでなく観客達は静かに見守っている。

サトシがまだ仕掛けないなら僕から仕掛けさせてもらうよ。


「ジッポ!リザードンに組みつくんだ!」

「させるかよ。リザードン!振りほどけ!」


ジッポがリザードンを捕まえようとしたが、リザードンは尻尾でジッポの手を弾くと思い切り体当たりを喰らわせ怯んでしまう。


「しまっ…!」

「今だ!リザードン!」


たった一瞬の隙だった。

リザードンは無防備になったジッポに組み付いて、かなりの速さで上空に飛んでいきジッポはじたばた暴れるが振りほどけないでいた。

スタジアムから消えてしまう二体のリザードンを審判である志乃は、ただジッと見つめていたが次に彼女が目にしたのはかなりの速さでスタジアムに突っ込んでくるリザードンの姿だった。

おそらく最初のバンギラスよりも酷いことになるであろうと確信してヒロシはただ拳を握り締める。


「オレの勝ちだヒロシ!」

「ジッポーーー!」


地面に叩き付けられてなんとかジッポは立ち上がるものの、苦しそうな声を出したままその体をゆっくり倒してジッポは戦闘不能になる。

これによりヒロシは三体のポケモンを失い敗北となってしまう。

つまりこの戦いは―――


「リザードン戦闘不能!リザードンの勝ち!よって勝者はサトシ選手!」


志乃はそう口にしてサトシの方に手を上げるとスタジアム内に歓声が上がる。

たった一体のポケモンで三体のポケモンを倒した事に実況の二人はもちろん、観客席で応援していたタケシとミカンとリトの三人は驚いている。


「あのヒロシをリザードン一体で倒すとは…」

「サトシさん」

「凄いよサトシ!」


たった一ヶ月であそこまで強くなるのか。

サトシの素質もあるがタバネさんの修行はよほど凄かったのだろう。

ヒロシに勝つなんて本当に成長したんだなサトシ。


「さすがはサトシ!私の応援のおかげね」

「ちょっと!それは違うかも。サトシは私の応援のおかげで勝てたの!」

「違うわ!私の応援よ!」


サトシが勝利した事でセレナとハルカとヒカリが再びバトルを始めたが周りにいたメンバーは無視である。


「あのリザードン…」

「うん。強さだけならちーちゃんやタバネさんのエースポケモンと同じレベルだね。ちょっと驚いたかな~」


チフユとタバネもまたサトシのリザードンを褒めていたりする。


「強くなったねサトシ」

「ヒロシには負けたくなかったからな。今回はオレの勝ちだぜ」

「僕に勝ったんだから必ず代表になってよ。僕はサトシを応援してるんだからね」


固い握手を交わし笑い合う二人にスタジアム内では拍手が巻き起こっていた。

一回戦から素晴らしいバトルで観客はかなり盛り上がっているようだ。


「ヒロシ」

「何だいサトシ?」

「ガッチャ!楽しいバトルだったぜ!」


どこかのデュエリストみたいな事を言いながら笑うサトシにヒロシは大笑いしていた。

また戦おうねと約束し二人はフィールドからいなくなる。

これによりAブロック一回戦はサトシの勝ちとなりサトシは二回戦へと進む。


そして他のブロックは――


「エレキブル戦闘不能!ジュカインの勝ち!よって勝者はイチカ選手!」

「よっし!」


Bブロックでは審判の火野ライカの言葉と同時に、ダンとバトルしていたイチカがガッツポーズをして勝利を手にしていた。


「ビジョット戦闘不能!アブソルの勝ち!よって勝者はシン選手!」

「オレの勝ちですねアスラン」

「お前やキラには本当に驚かされるよ。このまま代表になれよ……シン」


Cブロックでは審判の風魔陽菜の言葉を耳にしながら、シンとアスランは握手を交わし合っていた。

自分よりも強くなったシンにアスランは悔しそうにしながらも柔らかな笑みを浮かべる。


「フーディン戦闘不能!カメックスの勝ち!よって勝者はシゲル選手!」

「まずは一勝かな?」

「負けちゃった…」


Dブロックでは審判の不知火亮の言葉にシゲルがほっと安心したように息を吐いてリラは膝をついて涙を耐えながら顔を俯かせていた。


こうして――

サトシとイチカとシンとシゲルの四人は無事に一回戦を突破し二回戦へと進んでいく。

果たして四人が次に戦うのは誰なのか?





そしてαブロックがどうなったのかと言うと、


「αブロック勝者はライバル!よって日本代表一名はライバルに決定!」

「バシャーモ、もう疲れたよ」

「シャモ…」


フィールドで倒れるライバルとバシャーモ。

ちなみに百人のトレーナーは黒焦げのまま放置されてフィールドは爆心地のように変わり果てていた。


「見ろよバシャーモ。空からトゲチックがオレ達を迎えに来たぜ」

「シャモ…」


世界ランカー一位はあまりの理不尽なバトルで燃え尽きて幻覚が見えているのだ。

空からトゲチックが舞い降りる幻覚を見て笑っているライバルにカレンはやれやれと呆れたようにため息を吐く。


「あぁ!光が見えて…」

「はいはい。終わった人は控え室に戻るわよ」

「カレーーーーン!!」


どうして世界はこんなにオレに冷たいんだー!

オレはランカー一位だぞー!

ライバルはカレンに引き摺られながらも心の底から悲しみの叫び声を上げていたらしい。
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