襲撃の終わりで

梅田屋襲撃が始まりしばらくして梅田屋に辿り着いたライバル達は梅田屋の前で倒れている人物に近付き脈を確認しライバルは首を横に振る。


「ライバルさん」

「あぁ。こいつは間違いなく宮崎だ。額を撃ち抜かれたようだな」


死体となっている宮崎な身体を調べながら烈架とライバルは互いに顔を見合せ口を開く。

出血や身体の温もりから察するに撃たれてしばらく時間はたっていた。

守護派が攻めてきたのは間違いないが梅田屋から今は全くと言っていいほど音を感じない。

ハヤト達が乗り込んでいるなら音がしてもおかしくないはずなのにだ。


「お兄ちゃん、ハヤト達が気になるし早く行こう」

「あぁ。三人の動きがわからないし嫌な予感もするし行くぞ」


リナの言葉に同意するようにライバルが先に梅田屋に入り中を確認して目を丸くする。

梅田屋の中は数え切れないほどの死体が転がり辺り一面が血の海となっていたのだ。

その死体は宮崎の仲間と守護派の人間がごちゃごちゃになっており、その惨状にリナとチカの二人は無意識に息を呑む。


「あれ?やっと来たよ…」


五人が中に入り血の海を見ていると、階段で横になっていた影が動きだし五人がそちらに目を向けると影は月の明かりに照らされその姿を五人に見せていく。


「冷!」

「もうここは終わったよライバルさん」


五人の前に現れた冷は全身が赤く染まり、それが冷自身の血なのか返り血なのかわからないほど赤かった。

よく見ると服はぼろぼろで両指からは血が流れている。


「冷大丈夫か?」


階段に座っている冷にかふぇいんは近付き手を伸ばすと、冷はその手を取りゆっくり立ち上がりふらつく身体をかふぇいんが支える。

冷自身すでに満身創痍のようで指すらまともに動かせないようで身体に力が入らない。


「冷ここは全部お前がやったのか?」

「最初はハヤトとBOTUもいたけど、あの二人俺を置いて二階に行っちまってな。そんで置いてきぼりな俺は一階に残って戦ってたって訳だ」


かふぇいんに支えられながら歩く冷に烈架が問い掛ける。

冷としてはここまで守護派がいるとは思っていなかったようで、全力で両指を振っていたが守護派は次々と現れ無我夢中で戦って一階の戦いを終わらせたのだ。



「そういえばあの二人二階に行ったっきり戻ってこないけど大丈夫か…?」


冷はふとこの場に二人の姿がいない事に気付き口を開く。

二人が二階に行ってからかなりの時間が過ぎているはずだが、二人とも戻っていないうえに二階からは音すら聞こえてこない。


「チカちゃん!」


冷の言葉に誰よりも早く二階に駆け出したチカ。

二階に駆け出しすチカにリナが気付きあとを追うが、チカは顔色を真っ青にし廊下を走る。


(BOTUさん!ハヤトさん!)


廊下を走るチカはハッとした表情になりある場所に駆け寄る。

そこには口から血を流し倒れているBOTUがいたのだ。

BOTUはあの時殴り飛ばされたまま気を失い今もまた気を失っているのだ。

チカはBOTUに近寄りBOTUの身体を起こし口を開く。


「BOTUさん!BOTUさん!」


チカの声にBOTUの指がピクリと動きゆっくりと目が開く。

BOTUの視界には自分を心配した表情で見つめる少女の顔がうつりBOTUは次第に意識を取り戻すしハッとする。


「アイツは!?あの野郎は……ッ!!」


起き上がり辺りを見渡しBOTUは腹部の痛みで顔を歪める。

たった一撃で自分は気絶してしまった。

あの男にとって自分は眼中になく殺すことすら頭になかったのだろう。


「ちくしょうが…」


拳を握り締め唇を噛むBOTUにチカは心配したままBOTUを見つめる。



「BOTUさん大丈夫ですか?」

「ちょっと腹が痛むが動けない訳じゃない。それよりどうしてここに?」

「それは…」


BOTUの問いにチカが答えようとした時だった、BOTUの倒れていた場所の近くから銃声が聞こえ二人はハッとする。


「今のは…!」


今の銃声はおそらくハヤトが戦っていた場所からだと気づいたBOTUは立ち上がり向かおうとしたが腹部の痛みのせいで膝をついてしまう。

自分が思っている以上にダメージを負ったらしくBOTUは顔を歪めた。


「さっきのはハヤトがいる場所か。チカ!俺も後で行くから先にハヤトの所に…」

「はい!」


BOTUの言葉にチカは立ち上がり銃声がした場所に駆け出す。

チカの耳に聞こえてきた銃声はかなり大きかった。

だとしたら近くのはず。


(ハヤトさんはどこに――)


チカが廊下を走り一つの部屋の扉が少しだけ開いている部屋に気付き足を止めその扉を開ける。


「ハヤトさん!」


扉を開けチカの目に入ったのは血の海に倒れているハヤトとそのハヤトに銃を向けている男の姿だった。


「呆気なかったな革命派」

「ハヤトさん!」

「あっ?」


チカは部屋に入りハヤトに駆け寄り身体を起こし必死にハヤトを呼ぶ。

目を閉じ動かないハヤトにチカは震え必死に呼び掛ける中で銃を持った男はニヤリと笑いチカに銃を向ける。


「お前も革命派か?安心しろお前もそいつと同じ場所に連れていって…」

「…ッ!チカちゃん!そこを動かないで」

「なっ?」


今までピクリとも動かなかったハヤトが目を開け手のひらを男に向けると、ハヤトの手のひらから大量の血が吹き出しその血はまるで狼のように男の肩に噛みつきそのまま相手の片腕を消滅させる。


「ゲホッ!」

「ハヤトさん大丈夫ですか!?」


チカの支えから離れハヤトはゆっくり立ち上がり苦しそうに血を吐いていた。

チカから見ても分かるぐらいハヤトは血だらけで意識も朦朧としている。


「こいつは驚いた。さっきの弾丸で死んだと思ってたらまさか自分の血で受け止めて死んだふりなんてな。まんまとやられたぜ」


失った片腕から血を流し男はニヤリと笑いもう片方の手に握られた銃をハヤトではなくチカに向けた。

自分の邪魔をした女を許すつもりはないらしく殺そうとする男にチカはビクッと反応し怯えた表情になるが、まるでチカを守るようにハヤトが震える身体と朦朧する意識の状態で男と退治しゆっくり口を開く。


「まだ終わってないよね?この子にそんなもの向けないでくれる?」

「かっこいいね~。けどそんな身体で何が出来るんだ?もう立つことすら精一杯なのによ」


男はそう言い銃をしまい失った片腕の方をもう片方の手で押さえながら二階から飛び降りようとしていた。

ハヤトは男を逃がさないように血を出そうとするが、視界は虚ろになり片膝をついてしまう。


「また会おうぜ革命派!俺の名前は来栖。次は殺してやるからよ」


男はそう口にし二階から消えていきチカが安心したように息を吐くとハヤトは力尽きたように倒れていく。


「ハヤトさん。どうして‥いつも私を苛めているのに…」

「…家族なんでしょ…?…僕たち…」

「ハヤトさん!」


ドサッと音を立てハヤトは気を失いチカはハヤトの身体を支える。

チカの脳裏に浮かぶ【死】という単語。

このままではハヤトは死んでしまう。

でも自分は治療なんか出来ないし何も出来ない人間。


(どうすれば…!リナさん!ライバルさん!)


ハヤトが死んだら二人は絶対に悲しむ。

二人だけじゃなく家族全員が悲しむに決まっている。

そんなの嫌だ!


「ハヤトさん!死なないで!」


こんな時に何も出来ない自分の無力さにチカが唇を噛み締めている時だった、部屋の扉が勢いよく開いて中に入ってきたのはライバルとリナの二人だった。

二人はすぐに血だらけのハヤトに気づいて駆け寄りリナは急いで手当てを始める。


「ライバルさん…私…何も出来なくて…」

「いいんだチカちゃん。キミは悪くない。悪いのは間に合わなかった俺達だ…ッ!!」


ライバルの言葉にチカは顔を上げライバルに目を向ける。

ライバルは悔しそうに顔を歪ませ拳を強く握り締めていた。

あまりの力強さに血が流れチカは何も言えなくなる。

自分もまた何も出来なかったから。


「二人ともそんな顔をしないで。ハヤトは絶対に死なせない!私を信じて」


そんな二人の雰囲気にリナは手当てする手を止めず口を開く。

リナだってこんな所で家族を失いたくはない。

何が何でも助ける。


(私もちゃんと治療が出来れば)

チカはただ見ている事しか出来ない。

烈架が自分を守ってくれてハヤトまで守ってくれたのに自分は二人に治療すら出来ない。

(皆の足手まといにだけはなりたくない…)









こうして革命派の長い夜は終わりを告げる。

旧大阪を根城にしていた宮崎が守護派に暗殺され旧大阪は清水一派が守ることになるのだった。

守護派の幹部との戦いでBOTUとハヤトが敗北し、二人はしばらく戦えないほどのダメージを負うことになる。

そして、この戦いは『梅田屋襲撃』と呼ばれることになり守護派だけでなく他の革命派にもライバル達の事が知られることになり、この戦いはライバル達革命派の長い長い戦いの始まりを告げるものでもあったのだ。


フレンド第十話
END
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