梅田屋の戦い

「おらよ!」


宮崎一派が拠点としている梅田屋ではすでに戦いが始まっており、ハヤト達三人が中に乗り込んだ時には守護派と戦っている者達もいたがほとんどが銃で撃たれたり、剣で身体を切り裂かれて倒れていた。


BOTUは自分に向かってくる鎧を着た者をトンファーで殴り飛ばす。


「無駄な事を」


冷が己の指をくいっと上げた瞬間に襲いかかってきた守護派の人間は一瞬でバラバラに切り裂かれてただの肉の塊と変わり果てる。

冷のグローブについている透明の糸が血で濡れて赤く輝く。


「二人とも避けてねー」

「「はっ?」」


ハヤトの呑気な声に二人はすぐにその言葉の意味に気付き横にずれると、二人の背後から一直線に赤い液体が勢いよく放たれその液体は鎧を着た者に付着して跡形もなく消していく。


「あっぶねぇ!」


跡形もなく消えた人間を見ながらBOTUは冷や汗を流す。

一瞬でも遅かったら自分もこうなっていたのかとジト目でハヤトを見るが、ハヤトはそのジト目を気にすることなく血をしまう。


「一階にいるやつらは片付いたか」

「それにしては数が少ない気がするけどな」


冷とBOTUは地に倒れている者達を見ながら口を開く。

屍となった者達の中に宮崎一派の人間もいたが、守護派の人間は思っているよりも少なかった。

さっき梅田屋に現れた守護派の人数はこれ以上いたはずだ。

だとしたら二階にいるのではないかと冷は視線を階段に向ける。


「じゃあお先に~」

「あっ!待てハヤト!」


階段を見ていた冷を尻目に階段の近くにいたハヤトがニヤッと笑って階段を上がっていく。

BOTUはそれに負けじとついていき、冷も階段を上がろうとしたが奥の扉が開いてそこから鎧を着た者達が現れて足を止める。

どうやら一階で何かを探していたであろう守護派の人間は、冷の存在に気づいて冷を囲うように集まり剣を抜く。


(二階も気になるが今はこいつらの方が先か)


チラリと二階の方を見ながら冷はゆっくり息を吐く。

ハヤトとBOTUの二人なら大丈夫だろうと冷は口元に笑みを浮かべ一人で戦うのであった。






二階に上がった二人はやけに静まり返っている場所に首を傾げる。

一階であれほど激しく戦っていたのにここはまるで別の世界かのように音さえしなかった。

不審に思いながらも二人は廊下を歩きながら人の気配を感じその部屋の扉を開ける。

そこにはまるで二人が来るのを待っていたかのように二人の男が立っていた。

一人は紫色の髪をオールバックにし、宮崎を撃ったであろう銃を片手に持ちニヤリと笑みを浮かべて、もう一人は黒髪をツンツンに立てて手をポケットに入れたまま目を閉じて立っていた。


「テメェら何者だ?」


トンファーを相手の方に向けBOTUは鋭い目付きで目の前に立つ男達に問う。

BOTUの問いに目を閉じていた男がゆっくり目を開け、まるで興味がないように息を吐いて答える。


「一階で戦ってきたなら分かるでしょ?俺達は守護派の人間だよ」

そう答えながら男はまるでガッカリしたように肩を落としそのまま二人に背を向ける。


「どこに行く気だ?」

「二階に上がって来る人間がどんなもんかと思ったけどあんまり強そうじゃないし帰る」

「なんだと!!」


BOTUやハヤトなど眼中にないのか背を向けた人物はそのまま二階から飛び降りようとしたが、その人物の言葉にBOTUが怒りの形相で突っ込んでいく。

眼中にないという事はザコという事だ。

男の言葉にプライドを傷つけられたBOTUは燃え上がる怒りをただトンファーに込める。

(テメェだけは殺す!)


最初から殺す気でトンファーを振り下ろそうとしたBOTUだったが、目の前の人物はそれを手で受け止め力強く握る。


「なっ!」

「革命派の人間がどんなもんかと思ったけど期待外れだよ」


トンファーを握る力をさらに強くしBOTUが目を見開くと同時に、握られていたトンファーにヒビが入り半分に折られた。

その力にBOTUは唖然としていたが、目の前の人物はその隙を見逃す訳もなく握り締めていた拳をBOTUの腹にぶちこみBOTUは口から血を吐き出しそのまま勢いよく廊下まで吹き飛び倒れる。


「くっ……」


BOTUはなんとか立ち上がろうとしたが、身体は起き上がれずそのまま気絶してしまうのであった。


「ちくしょうが…」


気絶する前にBOTUの視界に入ったのは自分を殴り飛ばした男の背中だった。


「へぇ~」


殴り飛ばされ気絶したBOTUを見ながらハヤトは目を細める。

あのBOTUを一撃で沈めた力はおそらく本物だ。

接近されたら自分でもヤバイとハヤトは冷や汗を流すが、BOTUを倒した男は背を向け二階から飛び降りていく。

自分の役目を終わったとも言わんばかりにその場から消えていった人物をハヤトは目で追っていたが、すぐにその目を残った人物に向けて警戒するように構える。


「少しは歯応えがあるんだよな?」


目の前の人物は両手に銃を持ちその銃口をハヤトに向ける。

この男はBOTUが戦っていた時も銃を撃たず傍観していた。

興味がないかのように欠伸までしていたのだ。


「あんまりなめてると後悔するよ」

「面白い。させてみろよ」


手のひらの血を剣に変えてハヤトは駆け出す。

放たれる弾丸を剣で弾き剣を横に振り男が後ろに飛んだ瞬間に懐に入り込み剣を振り上げるが銃で受け止められもう一つの銃から放たれた弾丸を肩に受けてハヤトは膝をつく。


「つっ…!」

「所詮その程度か…」


面白くなさそうに呟く人物にハヤトはキッと顔を上げ、手のひらから血の球体を出しそのまま放つ。

球体は男の至近距離で破裂して血の雨が男の身体をえぐり男は後退しながら目を丸くする。


「やるじゃねぇか」

「言ったよね?後悔するって」


口から血を流しながらハヤトは立ち上がり再び血を剣に変える。

目の前の人物は身体がえぐれてまともに動けないはず。

このまま突っ込んで剣を振り下ろせば自分の勝ちだ。


「悪いけど死んでもらうよ」

「あぁ…。お前がな…」

「一体何を言って…?」


その時ハヤトは違和感を感じ足を止める。

息苦しさを感じ呼吸をするのが辛くなっていく。

喉に何かが詰まったように感じ口からそれを吐き出し、口から吐き出したものをハヤトは確認して目を見開く。

それはいつも自分が使っている己の血だったからだ。


「ごほっ…!」


口を手で抑え自分の口から吐き出された血をハヤトは苦しそうに顔を歪めて見つめていた。


「これは……」

「さっきの弾丸にはある能力が込められていてな。撃った人間に厄を植え付ける能力があるのさ」


膝をつき苦しそうに血を吐くハヤトを見ながら男は銃口を向ける。

「少しは楽しめたぜ革命派」


苦しそうに血を吐くハヤトに男はゆっくり近づき銃口を向け引き金を引いていく。


「あばよ…」


一発の銃声が部屋を包み込んでいった。


第九話
END
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