取引と理解

チカの事をライバルとリナに任せ、ハヤトと烈架と光は他のメンバーが集まる部屋に来ていた。

全員が二人の方に視線を向け、二人が椅子に座るのを待つように誰一人口を開こうとしない。

重苦しい空気の中で椅子に座ったハヤトと烈架は息を吐くとハヤトがゆっくり口を開く。


「こんな時間帯に夜更かし?皆ちゃんと寝なよ」

「帰ってきて最初に言うことがそれ!?僕の予想の斜め上すぎるよハヤト」


あの重苦しい空気でハヤトの発した声にちゃり娘は思わず立ち上がり目を丸くする。

チカの事はここにいる全員が察しその事について話すもんだと思っていたのに、この男は自分の予想を遥かに彼方に追いやったのだ。

ちゃり娘の言葉にフユキやBOTUは苦笑してかふぇいんと冷はやれやれと肩をすくめる。

光に至っては呆れて溜め息を吐く。


「それでチカには話したのか?」

「大体の事は話したよかふぇいん。あとは師匠とリナさんに任せたからね。僕が話すよりはそっちがいいでしょ?」

「いつかは知ることだ。早いか遅いか。俺としては旧大阪の前にバレて正直ほっとしている」


ハヤトの言葉に同意するように烈架は目を閉じ頷きながら口を開く。

いつかは知ることである。

自分達革命派はのんびり生きている訳ではなく戦っているのだ。

死ぬかもしれないというギリギリの戦場で相手を殺している。

今までチカにバレなかった事が逆に奇跡に近かったとも言える。


「旧大阪の襲撃は本当だったんだな」


フユキは旧大阪に潜入していた二人に真剣な表情で問う。

そのフユキの問いは他のメンバーも知りたかった情報。

かつて旧都の襲撃は数回あったが今回は今までと違い本気で旧都を壊滅させようとしているのだ。


「俺やハヤトの考え通りなら早くても数日後には旧大阪は戦場となる。ライバルさんも言ってたが宮崎一派と清水一派のどちらが狙われるかわからないから俺達も戦力を二分するらしい」

「僕としてはどっちでもいいけどね。宮崎一派や清水一派がどうなろうと関係ない。守護派のやつらは殺す。今回の襲撃で幹部が出てきてもね」


ハヤトにとって守護派と戦うことに変わりはない。

革命派にとって敵になるものは殺すのみ。

ただそれだけなのだ。


「そろそろアイツが来る時間だな」


時計を見ていた光がポツリと呟き部屋の入り口に目を向ける。

その言葉に皆も入り口に目を向けると、扉が開いて一人の男が中に入ってきた。

その人物は大きな袋を背負ってウヒヒヒと笑いながら袋を床に置いて口を開く。


「お久しぶりですね皆さん。ライバルさんやリナさんがいませんがいいでしょヒヒ!近々戦争になると聞いて持ってきましたよ皆さんの武器をヒヒ!」

「相変わらず時間ピッタリだね」

「ウッヒヒヒ!!こんな私を必要としている人がいる限り私は動くのですよヒヒ!」


ハヤトの呆れた声に男は笑いながら袋の中身をテーブルに次々と並べる。

そのテーブルには血の入ったビンや爆薬や拳銃といった武器。

他にも植物の種や食料といった様々なものが置かれていく。


「今回は出血大サービスですよヒヒ!皆さんが使うものを多く持ってきましたよヒヒ!」

「用意周到だな」

「烈架さんはお得意様ですからヒヒ!ハヤトさんも必要でしょこれが?」

「僕はまだ何も言ってないけどね」

「言わなくても分かりますよヒヒ!今回はいつもより濃い血を持ってきましたよヒヒ!」


この男は革命派にとって大事な商売人。

一体どこから持ってきているのかわからないが革命派はこれを全て買っているのだ。

男はいまだに笑いながら口を開く。


「今回の戦争は私もどこかで見させていただきますよヒヒ!」

「別に止めるつもりはないが死ぬかもしれないぜ」

「かふぇいんさんは心配性ですなヒヒ!私は革命派の方々が戦う姿を見れればいいのですよヒヒ!それではまた」


最初から最後まで笑いを止める事なく男は去っていく。

その後ろ姿を見ながらちゃり娘は一言言葉を発する。


「相変わらず何を考えてるかわからないよね……闇市のおじさん」

「…ライバルもどこであんな男を見つけたのやら」


フユキもまたポツリと呟いてテーブルに置かれた物に目を向ける。

あの男はどこで旧大阪が戦場になるかを知ったのか?

ライバルが昔見つけたようだが果たしてあてになるのだろうか?

フユキは疑問を胸に抱きつつもそれを口にする事はなかったのだった。

革命派のメンバーが闇市と会っている時、チカとライバルとリナは畳に座り話をしている。


「すまないチカちゃん」

「ごめんなさい」


チカの対面に座り頭を下げるライバルとリナ。

ライバルに至っては頭を畳に擦り付ける勢いで謝りチカはその姿に目を丸くする。

ハヤトと烈架と光がこの部屋から去ってからライバルもリナも声を一切出す事なく座り急に頭を下げたのだ。


「お二人とも!?」

「キミには知られたくなかったんだ。俺達がやっている事を」

「お兄ちゃんだけじゃないの。私もチカちゃんに知られたくなくて黙ってたの。新しい家族に隠し事してたなんて酷いよね?」


頭を下げた二人にチカはあたふたしながら二人の傍に寄る。

いまだに頭を下げる二人を見ながらチカは口を開く。


「あの~私は怒ったりしてませんよ」

「えっ?」

「どうして…」


チカの言葉に二人は顔を上げてキョトンとした表情でチカを見つめる。

チカを慌ててはいるが、表情は全く怒っておらず笑っていたのだ。


「確かに最初に聞いた時はびっくりしました。けどライバルさんやリナさんや皆さんは私の為に黙っててくださったんですよね。それなのに私が怒る訳ないですよ。隠し事されて少しはショックでしたけどそれでも皆さんの事が知れて嬉しいです」

「チカちゃん」


チカの言葉にライバルは微かに驚いて目をパチパチさせるが、リナは少しだけ目に涙を滲ませてチカの名を呟く。

チカは自分達が思っていたより強い女の子だった。

弱かったのは自分達の方だったんじゃないか。


「それに皆さん、私が記憶を失ってるのに優しくしてくれて意地悪する人もいますけどこの生活が楽しいんです。だから私はここが大好きです」


チカの背後にまるで後光が差し込むように輝いて微笑む姿に二人は同じように笑う。

嫌われる覚悟だったのに目の前の女の子は、嫌うどころかこの場所を好きと言ってくれた。

それだけで充分だった。


「ならチカちゃん、革命派のリーダーとしてキミに頼みたい事がある」

「何でしょう?」

「俺達は近々旧大阪で守護派と戦うことになる。一緒に来てくれるか?」

「お兄ちゃん!?」


ライバルの突然の提案にリナは驚くがチカは動揺する事もなく真っ直ぐ向かい合いゆっくり答える。


「はい。私も皆さんの力になりたいです」

「チカちゃん。でも危ないよ。もしかしたら怪我したり…」

「大丈夫ですよリナさん」

「えっ?」

「だって皆さんがいますから」


曇りのない笑顔でリナに告げるチカにリナは何も言えず押し黙る。

この女の子は自分の意思を簡単に揺らがせる。

本当なら行かせたくないし、危ない目に合わせたくない。

しかしチカ本人が決めたなら自分がやる事は一つだ。


「じゃあ私はチカちゃんの傍にいる!いいよねお兄ちゃん」

「もちろんだ」


革命派の長い夜は終わり新しい一日が始まる。

旧大阪を舞台にした戦いはもうすぐ始まるのだった。

これが後に旧都だけでなく守護派に本格的に革命派の名前が伝わる事になるなど誰も知るよしもなかった。


フレンド第五話
END
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