賑やかな時間

チカが革命派にやって来て数ヶ月の月日が過ぎ、チカもこの生活になれたのか今はリナと一緒に食事を作っていた。

今日の当番はチカとリナの二人のようで厨房からは美味しそうなニオイが漂っている。


「いつもならつまみ食いに来る三人が来ないと調子が狂っちゃうねチカちゃん」

「烈架さんやハヤトさんは外にお出掛けですよね?BOTUさんは寝てるんでしょうか?」


チカは知らないが烈架とハヤトの二人はちょっと前から屋敷を離れて、守護派の駒を始末したり情報収集のためこの屋敷にはいない。

何故それをチカが知らないのか。

それはライバルとリナの二人がチカに知られないように隠しているからだ。

その事に関して烈架とハヤトを含め他のメンバーは反対していたが、二人はそれでもチカに隠すと決めて誰一人何も言わず話は終わった。

そのためチカは何も知らないままこの数ヶ月を過ごしていた。


「……ナさん!!リナさん!!」

「あっ、ごめんごめん。どうしたの?」

「あのお醤油が…」

「あっ!ありゃりゃ、かけすぎちゃったかな~」


リナはニャハハと笑いながらも脳裏には烈架とハヤトに言われた言葉がよぎる。

『いつまでも隠せる訳がない』

『大事にするのもわかるけど、僕達と一緒にいればいつかはバレるよ』


リナにだって分かっている事だ。

ただチカは記憶を失っている身でもある。

そんな状態の彼女に戦っている話や革命派が人を殺しているなど知ってどうなるか想像も出来ない。


「どうしよう…」

「大丈夫だよチカちゃん。お兄ちゃんや光さんに黙って食べさせるから」

「いいのでしょうか?」

「いいのいいの。早く残りも作っちゃおう!」

「はい!」


暗い気持ちを振り払うように息を吐きリナはニコッと笑い食事を作っていく。

そんなリナにチカは不思議そうな顔をしながらも同じように食事を作る。

ただリナは思う。

いつまでも変わらない日々が続けばいいな……と。




「このお味噌汁辛くないですか?」

「大丈夫!BOTUと冷の二人分しかまだ作ってないから」


今日の食事はどうやら失敗のようだ。


「あぁ~!!僕のお肉とらないでよBOTU!!」

「ちゃり娘が油断してるからだよ。こっちは辛い味噌汁飲んでんだから我慢しろ。……って!さりげなく俺の肉を食うんじゃねぇ冷!!」

「二人とも少しは黙って食えないのか?あと俺も味噌汁が辛いから我慢しろ」


チカとリナが食事を作り終え、ライバル達がいる部屋まで運び料理をテーブルに置いた瞬間に始まった争奪戦。

この争奪戦はチカがやって来る前から行われており、初めてこの争奪戦を見たチカは驚きのあまり固まってしまい、その間にチカの料理をハヤトがつまみ食いしてライバルとリナの二人にハヤトが説教されたのは懐かしい思い出である。


「んっ、何か俺の野菜だけ辛くないか?」

「ライバルもか?実は俺もなんだが…」


騒がしい争奪戦の隣で自分の目の前にある料理を食しながら首を傾げるライバルと光の二人。

お酒を飲みながら食べてはいるが、ツマミにならないのか二人はとても微妙な表情をしている。


「リナさん本当に大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫だよ。二人ともなんだかんだ言ってもちゃんと食べてくれるから」


チカの横でニコニコ笑うリナにチカは目をライバルと光に向けると二人は黙々と食べている。

ただ一口一口食べる度に光の眉がピクピクと動いている姿にチカは何とも言えない気持ちになった。


「それにしても遅いですね烈架さんとハヤトさん」

「二人ともどこをほっつき歩いてんだか。なぁ……ライバル」

「さてな」


ポツリと呟くチカの言葉に真っ先に反応して口を開くBOTU。

BOTUは二人が出掛けているのを知っているが、時々こうやって皮肉めいた口調でライバルやリナを困らせては笑っている男である。

ライバルはそんなBOTUの皮肉に一切動じる事なくただ言葉を返す。

チカがいる前で話すつもりはないらしい。

そんなライバルの気持ちを察してか、かふぇいんはBOTUに目を向けBOTUはそのかふぇいんの目に気付き口笛を吹いて押し黙った。


「やっぱり辛いな」

「この状況で平然と食べる光さんに僕は驚きです」

「いつもの事だからな。ちゃり娘の食事がいつの間にかなくなるのもいつもの事のように」

「うぇっ!?」


ちゃり娘に用意されていた食事はいつの間になくなりそれを食べた冷は満足そうに笑っていたそうだ。





食事も終わり食器を片付け終えたチカはリナを探すべく屋敷を歩いていた。

本当なら片付けはチカとリナの二人がやる事なんだが、リナは食事を終えると窓の外に目を向け鳥を見ながら微笑み小さく頷いていた。

その一連の仕草にチカは首を傾げつつも食器を片付けていたが、リナはいつの間にか姿を消していた。


(リナさんどこに行ったんだろ?)

屋敷を歩きチカは一つの部屋の扉が開いて電気がついている事に気付きそちらに足を運ぶ。

その部屋には、


(ライバルさんにリナさん?あれ、烈架さんにハヤトさんに光さんまでいる)


部屋の中にはここ最近いなかった烈架やハヤトがいて、ライバルやリナや光もそこにはいた。

部屋に入ろうとしたチカは足を止め何かを話している五人の声が気になり耳を傾けてしまう。

しかしその話の内容はチカが今まで知らなかった革命派の戦いに関してだったのだ。







―――――

「それでどうだった?」


ライバルの問いに烈架とハヤトは互いに目を合わせ頷くと、烈架がポケットから地図を取りだしテーブルに広げゆっくり話始める。


「やはりライバルさんの思った通りでした。守護派は旧大阪を占拠している宮崎一派と清水一派を襲撃する為に動いていたようです」

「成る程な。俺達の屋敷を襲撃する前に他の一派を壊滅させるつもりか。しかし旧大阪を狙うとはな」


烈架の言葉にライバルは顎に手を当て神妙な顔付きになる。

自分達革命派は旧京都を根城にしており、旧大阪は範囲も広く二派に別れて根城にしている場所だった。

宮崎一派と清水一派はお互い協力関係を築き旧大阪を根城にしており、守護派の人間が数回襲撃した時も協力して撃退していた。

しかし今回守護派の動きが怪しいと感じたライバルによって、烈架とハヤトの二人が旧大阪に潜入して二派の動きと守護派の様子見をしていたのだ。


「ただ守護派がどちらを襲撃するかまでは分かりませんでした。宮崎一派と清水一派の二派を襲撃するか、それともどちらか片方を襲撃するのか」

「どうします師匠。僕としては旧大阪の二派なんてどうでもいいですけど、このまま守護派のやつらに好き勝手されるのも気に食わないんですよね」


ハヤトにとってこの場所がこの家族がいればそれでいいのだ。

他の革命派がどうなろうと関係ない。

ハヤトの問いにライバルは目を閉じて腕を組んで考える。

(守護派のやつらの狙いが何であれやはり行くべきか。旧大阪を守護派に奪われたら残りの旧都が襲撃されるのも時間の問題。ただやつらがどう動くか分からないとこちらも迂闊に動けない)

「烈架、旧大阪を根城にしてる宮崎一派と清水一派が基地にしている場所ってどこなの?」

「んっ?宮崎一派は梅田屋という小さな店だったな。清水一派は天神橋周辺を基地にしていた」


リナの言葉に烈架は二派の基地を思い出しながら答える。

宮崎一派は基地こそ小さいが逆に潜入が難しく、梅田屋に置かれていた物も銃器がたくさんあり一人一人の警戒心が研ぎ澄まされていた。

清水一派は基地が大きい上に範囲も広く潜入は簡単で武器というよりは食料庫と呼べる場所だった。
警戒心も宮崎一派ほどなく隙を見て襲撃しようと思えば簡単に出来る。


「お兄ちゃん」

「守護派が二派を襲撃する可能性もある。宮崎一派の方にはハヤトとBOTUと冷が行ってくれ。清水一派の方には俺と烈架とかふぇいんで行く」


ずっと考えていたライバルは目を開け腕を組んだまま指示を出す。

片方だけが襲撃されるとも考えたが、もしかしたら二派とも襲撃される可能性がライバルの頭に浮かび二手に別れる事にしたのだ。

戦力的に言えばこれでバランスがいいのだが、ここで名前を呼ばれなかった光が口を開く。


「何故俺がいない?」

「光にはここを守ってもらいたいからだ。俺達六人がいない状態で守護派のやつらが攻めて来る可能性もある。残った戦力で戦えるのはフユキとちゃり娘だけになるとキツイからな。光にはもしもの時の為にここを任せる。頼めるか?」

「確かにここが狙われる可能性もあるか。なら仕方ない」


もしかしたら旧大阪を襲撃するという事が囮で本命はこの場所かもしれない。

警戒する必要があると判断しライバルは光をこの場に残すことにしたのだ。


「ところでリナさんやチカちゃんはどうするんです師匠?」

「どうするってここに残して……」

「ライバルさん。せめてどちらかを伝令役にしてもらいたいのですが」


烈架の言葉の意味がすぐに分かりライバルは鋭い目付きで烈架を睨む。

宮崎一派か清水一派のどちらかが襲撃された時に、伝令役がいればすぐに動けるから必要なのは分かる。

しかし納得はできない。

何故戦えない二人を指名したのか?

「リナもチカちゃんも戦えないんだぞ烈架。もし伝令する時に敵に狙われたらどうするんだ?」

「おっしゃる事は分かります。しかし誰かがそれをやらねば後手になるのはこちらです」

「そんなに心配なら師匠が守ればいいじゃないですか。宮崎一派と清水一派も守護派の動きをそれとなく調べているようでしたし分かったらすぐに伝えればいいじゃないですか」

「お前ら……」


烈架とハヤトの言葉にライバルは呆れたように溜め息を吐く。

二人はライバルに全てを押し付けるつもりなのだ。

厄介事はごめんだと言わんばかりの二人にただただ呆れる。


「それに…」

「んっ?」

「チカちゃんには見せたくないんでしょ?なら伝令役だけしたらリナさんと一緒にどこかに隠れてもらえばいいじゃないですか」

「ハヤト」


ライバルやリナの気持ちが分かっているのか、ハヤトは出来るだけチカに戦っている姿を見せないようにしようと考えているのだ。

伝令役なら多少は誤魔化せる可能性があるからだ。

仮にこの屋敷が襲撃されたら問答無用で戦いの場を見てしまう。

少しでも見せたくないなら伝令役がピッタリだとハヤトだけでなく烈架も思っていた事だ。


「とりあえず二人ともお腹すいたでしょ?今すぐご飯用意するから」

「リナさんの手料理?楽しみだな~」

「ハヤトの言う通りだな。前回はちゃり娘と冷の二人のせいで散々な目に合ったからな」


これからの方針が決まり五人はこの部屋から出ようと入り口を見て固まってしまう。

五人の前にはチカがいて、チカは不安気な表情をして入り口前に立ち尽くしていた。


「チカちゃん!?」


チカの姿にリナは驚いて傍に寄るとチカは震えた口調でリナだけでなく他のメンバーにも尋ねるように口を開く。


「戦いって何ですか?襲撃とかここが狙われるって…」

「チカちゃん聞いていたの?」

「ごめんなさい。でも皆さんが話してて声を掛けられなくて」


全てを聞かれてしまいライバルとリナは内心動揺の色を隠せないでいた。

一番知られたくない人に知られてしまった。

言い訳など出来ない。

答えようによってはチカは自分達を怯えた目で見ることになる。

それだけはイヤとリナは頭を横に振り口を開こうとしたが、

「言葉通りの意味だよ」

「ハヤト!?」


誰よりも先に声を出したのはハヤトであり、リナはハッとした表情でハヤトを見つめたがハヤトは笑みを浮かべ言葉を続ける。


「僕達はキミがここに来る前からずっと戦っているんだよ。守護派っていう組織とね」

「戦うって人を傷つけているんですか?」

「当たり前の事を言うんだね。人を傷つけてるどころか殺しているって言った方がよかったかな?」

「こっ……殺す」


殺すという単語に身体をビクリと震わせるチカ。

さすがにこれ以上知られたらヤバイと感じたライバルがハヤトを止めようと手を伸ばそうとした瞬間、


「全てはキミの為だよチカちゃん。師匠もリナさんもキミに知られたくなかったから、キミに汚れた部分を見せたくなくて黙っていたんだ。僕達も最初は反対したけど結局賛成したようなもんだし同罪かな」

「ハヤトさん…」

「あとは三人でどうぞ。僕達はご飯でも食べてきますよ」

「んっ?そういえば今日はアイツが来るんじゃなかったか」

「そうだった…」


ハヤトはチラリと視線をライバルとリナに向けアイコンタクトを送り烈架と光と一緒にチカの横を通りすぎ部屋から去っていく。

烈架もなにか口にしようと思ったが、ハヤトが自分の言いたいことを言ったためチカには何も言わず部屋から去っていく。

光もまたライバルをチラリと見たあと小さく、『話したらどうだ』とだけ残して部屋には三人だけが残り時間だけが過ぎるのだった。


フレンド第四話
END
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