ようこそ喫茶東方へ(東方)

【幻想郷】

博麗大結界により外の世界と隔離された世界。

外の世界では幻想やその存在が忘れられた者達がそこには住んでいた。

幻想郷に住まう者達はいずれも幽霊や妖怪や妖精や神といった常識外れの存在ばかり。

一応人間もいるのだがやはり妖怪達の存在と比べれば小さな存在となってしまう。

そんな人間達が住まう場所は【人里】と呼ばれており、その人里にはとある人間が経営している居酒屋が存在している。

その居酒屋に本日五人の客がやって来て貸切状態となっていた。


「先生!ビールおかわり!」

「こっちはワインを追加で!」

「じゃあ刺身とジャガバタも追加で」

「飲みすぎだぞ笑虎にライバルに光」


店主である男性に先生と言う男、笑虎はすでにビールをジョッキで五杯飲んでライバルはワインを六杯飲んで光は焼酎を水割りで四杯口にしていた。

その隣でカミカゼを飲むハヤトとオレンジジュースを飲む群青は焼き鳥を食べながら三人を呆れたように眺めている。


「こんなもん飲んだ事にならないっすよ先生!」

「もう先生と生徒って関係じゃないんだがなー」


ライバルから先生と呼ばれている店主。

実はこの人かつて群青達が幻想入りする前に通っていた高校の担任であり、いつの間にかこの幻想郷にやって来て教師ではなく居酒屋の店主をしていたのだ。

一番最初に先生に再会した群青はあまりの事に驚いたのはいい思い出である。


「それにしても今日集まったのはお前達だけか」

「仕方ないですよ。妖怪の山や地底や冥界や永遠亭にいる奴らとはなかなか会わないのもありますし」


先生の言葉にハヤトは親友達の顔を思い浮かべる。

自分も紅魔館で働いている為なかなか外に出ることはなく今日はレミリアの許可をもらいこの居酒屋に来ているのだ。

明日からまた仕事だなーと遠い目をするハヤトに群青は苦笑する。


「じゃあ野郎が集まったしいつものやつやるか!」


いい感じに酔っている笑虎は先生に顔を向けると、先生はため息を溢し割りばしの入った入れ物を笑虎に渡す。

今からやるのは男だから出来る事。

そうこのメンバーもだが、他の男達が集まってやる事は―――


「では!男達の男達の為の男達による暴露話!やるぞお前ら!」

「じゃあ全員割りばし持ったな?」


笑虎の言葉に先生以外のメンバーは小さく頷くと、勢いよく引き抜き自分の割りばしを確認する。

当たりを引いたのは――


「……俺かよぉぉぉぉ!」


絶叫するライバルとガッツポーズする笑虎達。

今日は三人暴露大会なので自分達も当たりを引く可能性があるのに他のメンバーは本気で喜んでいた。


「じゃあライバルはサイコロ振って話題を決めな」

「……ちくしょう」

「まぁまぁ、サイコロによっては大丈夫な話題もありますよライバルさん」

「群青だけが俺の味方だーーー!」


笑虎に苦渋の顔を向けていたライバルだが群青の言葉に顔を輝かせる。

そんなライバルがサイコロを振って出た番号は――


「……4だと?」

「先生、4の話題は何でしたっけ?」


光に呼ばれて先生は小さなボードを取り出して番号を確認するとゆっくり口を開く。


「4は好きな女性との懐かしい思い出だな」

「つまり俺ともこたんのラブストーリーを語れと言うのか!?」

「あーこれは長くなるぞ」


燃え上がるライバルに笑虎と光とハヤトはめんどくさそうに頷く。

ついでにビールと焼酎とカクテルをおかわりしてライバルの話を聞くことにする。


「あれは俺がいつものようにもこたんの下着を選んでいた時だった――」

「いつものようにって……」

「俺がそんな事したら秒で映姫の所に行くけどね」

「安心しろハヤト!このあとちゃんと映姫の所に行ったから!」


何を安心しろと言うのか。

しかも誇らしげに語っているがやっている事は最低である。

普通に下着を盗もうとしていたのではないかと笑虎は疑いの目を向けていたのだが、


「笑虎、お前もライバルと同じような事して幽香にマスパされてただろ?」


先生の言葉に笑虎は視線をサッとそらす。

何やってんだこの二人はと群青が呆れていると、


「もこたんが俺を燃やしている時に言ってたんだ。『ライバルはどうして私にかまうのよ?私と貴方は違う。貴方はいつか私より先に――』ってな。だから俺は言ったのさ。絶対にもこたんを一人にしない。一人にするぐらいなら俺は不老不死になるってな!」


まさかの不老不死発言である。

その言葉に全員真剣な表情でライバルを見つめる。

不老不死になるという事はつまり今の自分を捨てる事にもなる。


「お前らが言いたい事はわかる。けど俺はもこたんを一人にしたくないんだ」


初めて出会ったのはもこたんが不老不死になって、かぐや姫を探す旅をしてた時だったな。

俺が全裸で川を泳いでいた時にもこたんが妖怪と間違えて焼かれたっけ。

しかももこたんの悲鳴つきで――

それからもこたんと旅をしながらいろいろあっていつの間にかもこたんとずっといたいって思った。


「そんで不老不死になるって言った時にもこたんは―『そんな簡単に言わないで!不老不死になったら死ぬことのない人生になるのよ!それがどれだけ辛いか!』」


泣きながら言うもこたんを見たのはあれが初めてだったな。


「だから俺はもこたんに言ったのさ!そんなの関係ねぇ!俺は大好きなもこたんといれるなら不老不死になってやる!ってな」


大切な思い出のように語るライバルの話を真面目に聞いているのは先生と群青の二人だけ。

笑虎と光とハヤトの三人はというと――


「そういえばハヤトは紅魔館でハーレムしてるんだろ?」

「ハーレムじゃねぇよ。俺は今フランの執事をしているが本来はレミリアの執事だったんだ。確かに紅魔館の奴らは大切だが俺が一番忠誠を誓っているのはレミリア・スカーレットだけだ」

「かっこいいー。地底と妖怪の山にいるハーレム野郎にも聞かせてやりたいわ」


笑虎とハヤトと光の三人は全然関係ない話をしていたのである。


「てめぇらーー!!人の話を聞きやがれーーー!」












まだまだ男達の暴露は終わらない。

酔っぱらいの語り合いは続く。



「じゃあ次いくぞ!次は俺以外の誰だろうなー」


自分はすでに話したので参加しないのでニヤニヤとワインを飲むライバルに、残りのメンバーはイラッとしていたが自分が当たりを引かなければいいだけかと割りばしを握る。


「当たりはだーれだ?」


ライバルの声と共に勢いよく引き抜いた割りばしを確認する四人。

そして次の暴露話をするのは―――


「……クッ!」


光は割りばしを握りながら顔を歪める。

実は光はこの暴露話でよく当たりを引いては霊夢との話を口にしていたのだ。

その度にライバルや笑虎や今日参加していない男達にニヤニヤされて恥ずかしい思いをしていた。

唯一の救いは霊夢にバレていない事だけだろう。


「サイコロを振ろうぜ光。光はどんな数字を出すのかなー」


ワインを飲みながら楽し気に笑うライバルに対し光は苦渋の顔でサイコロを振るう。

そして光が出したサイコロの数字は――


「……2か。んっ?2といえば………はっ!待ってくれ!頼む!」

「そんなに慌ててどうしたんですか光さん?先生、2の暴露話って何でしたっけ?」


急に慌てる光に首を傾げる群青は視線を先生に向けると、先生はボードに目を向けて成程と小さく呟く。


「サイコロの2は好きな人とのラッキースケベだな」

「「「……プッ!」」」

「……あぁ」


先生の言葉に笑虎とライバルとハヤトは吹き出し、群青は納得したように苦笑していた。

光と霊夢のラッキースケベ話などなかなか聞けない話である。

もしここに射命丸がいればそれはもう輝かしい笑顔でインタビューしていただろう。


「けど霊夢とのラッキースケベね…」

「あの巫女とラッキースケベなんてあるのか?」


笑虎とライバルの脳裏によぎる自分達をボコボコにした巫女の顔。

容赦なく夢想封印を喰らわせるあの巫女とお手伝いさんの光にそんなハプニングがあるのだろうか?


「じゃあ話してもらおうか光」


ブラッディメアリーを飲み一息つくハヤトの声に光は一度ため息を吐くとポツリと話始めた。


「あれは群青の店から帰った日だった」


数日前の話だが神社に帰ったらいつもいる萃香がいなくてな。

今日は地底にでも行ったのかと部屋に行こうとしたんだ。

そしたら―――


「霊夢がお風呂上がりでちょうど着替えようとした時だったらしく…」


その時に霊夢の裸を見た光はもちろん霊夢による全力の夢想封印を喰らったが、それでも今でも忘れられない霊夢の身体。

本当に芸術品のように綺麗な身体で傷一つなかった。

本当に――


「綺麗だったなー」


霊夢には忘れたと言ったがあれを忘れるなんて無理である。

一生記憶に残るだろう。


「あの隙のない巫女が着替えを見られるなんてな…」

「それだけ光さんの前だと無防備なんだろうね」


ハヤトと群青は霊夢の強さや弱味を見せない姿を知っている。

それだけに光の前ではありのままの霊夢でいるのであろう。

そりゃ紫も楽し気にからかうよな。


「俺は話したぞ!次は誰だ!笑虎かハヤトか群青か!」

「こわっ!」

「何でそんなに怒ってんの?」

「光さん、とりあえず落ち着きましょう」


笑虎とハヤトと群青は冷や汗を流す。

笑虎とハヤトに至ってはすっかり酒が抜けてしまい、群青はお茶のおかわりを口にしていた。

今ここで盛り上がっているのは―――


「せんせー!樽を!ワインの樽をくれー!」

「あるかそんなもん。それよりお茶漬けでも食ってろ」

「なら梅味で頼む」

「ワサビにしとくわ」

「何でだよ!」


ライバルと先生だけが盛り上がっており、暴露話など最早聞いていないのではないかと思われる。


「とりあえず最後は誰になるのやら」


やれやれと割りばしを握る笑虎にハヤトはふと疑問を口にする。


「前回は誰だったんだ?」

「確かマッキーだったね。内容は光さんと同じラッキースケベだったけど」


ハヤトの問い掛けに群青は答えながら割りばしを握り、三人は勢いよく引き抜いて確認する。

そして最後の一人は――


「ぎゃああああああ!」


笑虎に決まった。

その笑虎の叫び声をBGMにハヤトと群青はガッツポーズをする。

しかもその二人にライバルと光が参加して四人がニヤニヤしながら笑虎に視線を向けた。


「ちくしょーーー!!」


居酒屋に笑虎の叫び声が響き渡るのであった。


「笑虎たんは何の番号を当てるのかな~?」


お茶漬けを食べ終えてニヤニヤするライバルに笑虎はジョッキのビールを一気に飲むとサイコロを振るう。


「……1か」

「1は確か好きな人と最近いつキスしたかだな」

「ぶっ殺すぞライバル!」

「何でだよ!?1を出したの笑虎じゃねぇか!」


笑虎の出した数字にライバルがニヤニヤしながら口を開くと、笑虎は拳を握り締めてライバルに詰め寄り、ライバルは酔いが覚めているのか本気で焦っていた。

だがサイコロを振るいその数字を出したのは笑虎だ。

つまり拒否権はなしである。


「これが幽香にバレたら俺は本気でオワル。いいかお前ら!絶対に!絶対に絶対に!誰にも言うなよ!」

「これはフリなのか?」

「フリだとしたら…」

「ぶっ殺すぞ光とハヤト!」


暴走する笑虎に光とハヤトはわざとらしく驚き二人の言葉に再び怒り狂う笑虎。

それほどまでに言いにくいのかと群青はとりあえず笑虎を宥めようとしたが、笑虎はライバルのワインと光の焼酎とハヤトのカクテルを飲み一息つき微かに酔いながら答える。


「幽香とのキスは今日ここに来る前だよ!」

「「「お、おう…」」」


笑虎のカミングアウトにライバルと光とハヤトはさすがに驚く。

まさかの今日でしかもほんの数時間前な事に三人は何も言えなくなるが、


「ちゃんと青春してるじゃねぇか笑虎」

「ラブラブですね笑虎さん」


先生と群青がうまい具合にまとめてくれて、とりあえず笑虎の怒りは静まったようだ。


「じゃあ最後に五人でアイスでも食べるか」

「先生いつものアイスを」

「あいよ」


笑虎とライバルに言われ先生は冷凍庫から、季節のアイスを取り出して五人の前に置いていく。


「本日のアイスは【パイナップル】味だ。ちゃんと味わえよ」


先生の言葉に五人は小さく頷きアイスを食べていく。

















「それでは笑虎さんにライバルさんに光さん!」

「おう!お前たちも気をつけて帰れよ!」


居酒屋から出て群青は笑虎とライバルと光に別れを告げると、ライバルが手を上げて笑虎と光と共に帰っていった。

その場に残ったハヤトと群青も帰るかと、歩き出そうとしてふとハヤトの足が止まる。


「ハヤト?」


足を止めるハヤトに群青が首を傾げると、


「いつまでもこんな時間が続けばいいな」

「………だな!」


ニッコリ笑い合う二人はこのまま帰っていく。

自分達がこの世界にやって来てかなりの年月が過ぎていった。

それでも月の光だけは変わらず照らし続けていく。













オマケ


「ライバル、今日はその私と一緒にお団子でも食べに行かない?」

「どうしたのもこたん!突然のデレ期突入なの!うはっ!胸が高まるー!」


妹紅とライバルが仲良さそうに人里を歩いていたり、


「光!アンタ二人だけの秘密を!」

「笑虎、覚悟はいいかしら?まぁ………答えは聞いてないけれど」

「えっ?霊夢?」

「ゆゆゆゆ幽香!?何で拳を握り…………!?」


光と笑虎が仲良く映姫の元に送り届けられ、


「ハヤト…」

「どうかしましたかレミリア様?」

「今日ぐらいは昔のアナタのままでいいわ。それより今日は私の執事でいなさい」

「……わかったよ。じゃあ何からやろうか?」

「そうね…」


レミリアとハヤトが楽し気にティータイムを楽しみ、


「群青ー!」

「んっ?お客さんかいルーミア?」

「お腹すいたのだー」

「………はいはい」


幻想期は変わらない日常に包まれていく。

次に語られるのは誰なのか?


「いらっしゃいませー!」

「なのかー!」
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