ようこそ喫茶東方へ(東方)

人里から少し離れた場所にある小さな喫茶店。

物静かで心地よい雰囲気に包まれ、耳をすませば鳥達の綺麗な鳴き声がハーモニーを奏でている。

そんな喫茶店には一人の青年と一人の妖怪が働いており、この妖怪を知る者ならすぐにでも来た道を全速力で戻るだろう。

何故ならこの妖怪は夜な夜な人を襲いお腹が減れば食べていたのだから。

だがそんな妖怪は今では人を襲うどころか、逆に人懐っこいタイプになりその愛らしい姿に人里の男達から人気をもらっていた。

さらに言えば‥‥

【ルーミアたん可愛いよ】というファンクラブがありかなりの人数が入団していたりする。

これには妖怪の賢者様も、

「幻想郷はすっ、全てを受け入れるのよ‥‥」


困惑したように口にしてその賢者様はドン引きしていたらしい。


そして、そんな静かな喫茶店の今日の一日はと言うと、


「群青~暇だよ。退屈だよ~」

「まだお昼前だからね。仕方ないよルーミア。今はゆっくりしてお昼に備えよう」

「ぶぅ~」


店主である群青は時計を見ながら苦笑してルーミアに伝えると、ルーミアはカウンター側の椅子に退屈そうに座り足をぶらぶらとさせていた。

そんなルーミアに群青は仕方ないな、と苦笑しながらクッキーと紅茶を出してルーミアの前に置くとルーミアは嬉しそうに笑いクッキーを口にしていく。


「美味しいよ群青」

「それは良かった。でもそんなに慌てて食べなくてもいいのに。ほらっ‥」


ルーミアの口にクッキーの一部が付着して群青は苦笑したままそれをハンカチで拭いてルーミアを見つめる。

そんな群青にルーミアはわは~と笑い再びクッキーを食べていく。

和やかに時間だけが進み群青はこのままルーミアを眺めていようとしたのだが、


「助けてくれ群青!!幽香が俺を土に埋めようとしているんだ!なんとかしてくれ!」

「またダイナミック入店ですか笑虎さん。毎度毎度窓から入るのやめてください。片付けるがめんどくさいんで」

「いいからお菓子だ!お菓子をくれ!とびっきり甘いやつ!」

「必死すぎです」


笑虎、この日通算十回目となるダイナミック入店をする男でありいつも風見幽香の逆鱗に触れる男でもある。


「それで今回は何をしたんですか?土に埋めようとするなんてよっぽどですよ」


カウンターにある椅子に座りコーヒーを飲んでいる笑虎に群青は呆れながらフレンチートーストを出しながら問い掛ける。

笑虎はフレンチトーストを一口食べてコーヒーを飲み、一息ついてキリッとした顔で答えた。


「よく聞いてくれた。実はなライバルと一緒に幽香の下着と妹紅の下着について話していたのがバレた」

「アホですかアナタ達?それとライバルさんはいい加減にしないと妹紅さんに全身焼かれますよ」

「安心しろ群青」

「えっ?」

「ライバルはすでに燃やされていたから」

「すでに罰せられてた!?」


つい先日も妹紅さんに焼かれていたのにライバルは本当に懲りない人だ。

いやライバルさんだけじゃない。

この笑虎さんもこうしてよく幽香さんにしばかれていた。

幽香さんが冷たい目付きで笑虎さんを踏んでいた時の顔は今でも忘れない。


「でもよ群青。これは仕方ないんだ」

「何がです?」

「考えてみろ。あの幽香が黒い下着を身に付けているんだぞ。男としてそれは非常にたまらないんだ!」

「‥‥だそうですよ幽香さん」

「‥‥‥はっ?」


笑虎の力説を聞いていた群青がチラリと笑虎の後ろを見ながら口を開くと、笑虎の頭をガシッと力強く誰かが掴み凍えるような声が笑虎の耳に届く。


「ようやく見つけたわよ笑虎。花達の肥料が足りなくて困ってたの。一緒に来てくれるわよね?」

「ゆゆゆ幽香!?何で‥」

「アナタがここにいるって教えてくれた親切な人形使いさんがいてね。彼女ったら嬉しそうにこう言ってたのよ。

『幽香の下着が白だったら俺死んでもいいわ』ってね」


ニコリと笑う幽香に対し笑虎はこの世の終わりを感じながらもなんとか逃げようと考える。

しかし――


「幽香さん。お店では暴れないでくださいよ。やるなら外です」

「なのだ~」


笑虎が考える前に群青とルーミアが入り口を開けて満面な笑みを浮かべながら立っていた。

どうやら自分に味方はいなかったようだ。


「安心しなさい。笑虎とは外で話し合うから。あと邪魔して悪かったわね」


ふわりと笑い幽香は笑虎をずるずると引き摺っていく。


「さてと、そろそろお昼だし用意しようかルーミア」

「わかったのだ~。あと群青~」

「んっ?どうしたの?」

「またクッキーお願いね」


ルーミアはそう言ってニッコリ笑って掃除を始めていく。

そんなルーミアに群青は頬を赤く染め頬をポリポリ掻きながら小さく呟いた。


「りょーかいお姫様」


とある喫茶店の日常。

騒がしくもあり穏やかな喫茶店で今日も一人の青年と一人の妖怪は日常を過ごしていく。

次のお客様は誰だろう?と青年は口笛を吹きながら考え、掃除をしている妖怪はそんな青年をキラキラした目で見つめていた。
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