一番組組長の実力の日

新選組一番組組長――

沖田総也。

自分は昔近藤さんや土方先輩から奴の事を聞いた事があった。

実力は本物で二人よりも強く土方先輩はどうやっても勝てないと口にしていた。

そして昨日の橋でのモモ先輩とのやり取り。

秘密基地でのまゆっちの言葉。

これだけで沖田の実力が本物なのは自分の目で確認できた。

だが認めたくない。

こんな男があの新選組の一番組組長だなんて。

礼儀もそうだしどこか人をからかう態度に自分は許せなかった。

だからこの戦いでその性格をなんとかしてやろうかと思ったが………


「……ッ!!」


今目の前で刀を構え鋭い目付きで自分と対峙しているのは誰だ?

本当に先程まで京と笑いながら話していた男か?

こんな風に切り替わるのか?


「どうかしたかい……クリスちゃん?」

「いっ、いや。問題ないぞ」


沖田の声にクリスはハッと我に返る。

ここまで強いのか沖田総也。

一体何をしたらここまで強くなれるんだ。


額からうっすらと流れてレイピアに落ちるがクリスはそれに気づく事もなく息をのむ。

すでに戦う前から決着がついているのではないかと、二人の姿を目にしている者達は感じ取っていた。


「まさかここまで……いや」


総也の戦う姿を円は実際目にしたのはこれが初めてだ。

幼き頃は近藤に総也と一緒に剣術を教え込まれて修行している姿は目にしていた。

しかし――

高校生になり成長した今の総也は円の予想を遥かに上回っていた。

あの天神館の十勇士を一人で倒したって松永から聞いた時や、総理から総也が黛を倒したって聞いた時は驚いたがこの姿を見れば納得できる。

しかも今の総也は確実に百代より強い。

もしかしたらヒュームさんよりも。


「……ルーよ」

「はイ。あの近藤が言ってた事は本当だったようですネ」


沖田総也。

現武道四天王よりも強い男。

百代なんか今にも飛び出しそうなほど興奮しておる。

目をギラつかせておるがあやつ大人しくしてくれるかのう。

不安じゃ。激しく不安じゃ。


おのれ圭介よ。

これほどの男を育てたか。

まさか百代よりも強い男がここにもおったなど驚きじゃわい。


「姉さん?」

「いいぞ。いいじゃないか沖田!そうだ!こいつだ!こいつなんだよ大和!私が求めていた相手は!!」


現武道四天王で最も規格外の存在。

武神川神百代は歓喜のあまり興奮して震えていた。

あの変態橋の一件で沖田が強いのはすぐにわかった。

何せ自分の渾身の一撃を何事もなく避けたのだから。

しかしそれでも実力はまゆっちよりも上ぐらいしか思えなかった。

なのに今クリスと対峙している沖田は別人のように刀を手にし構えていたのだ。

何でクリスなんだ!

何で!何で何で!!

何でアイツの相手が私じゃないんだ!

戦いたい。

本気で総也と殺り合いたい百代は己の体が震えていると理解しつつもただ真っ直ぐに総也を見つめていた。


「……沖田」


そんな百代の態度に大和はギュッと拳を握り締める。

俺では姉さんの相手はできない。

だから姉さんが退屈しないように色々やっていたし、川神大戦では姉さんにも勝ってこれからもこんな日々を過ごせると思っていた。

なのに総也が現れて姉さんの興味がアイツに向けられた。

こんな風に姉さんが楽しそうに笑っているのを見たのは久しぶりだけど――


「……何で俺じゃないんだ」


ポツリと呟いたその一言を近くにいた円と京が耳にしていた。


「いくぞ沖田!」

「おいでクリスちゃん」


クリスは沖田に接近しレイピアで鋭く突いていく。

その一撃一撃を沖田は刀で受け止めただジッとクリスを見つめるのみ。

積極的に攻めるクリスだが実際は沖田に攻めさせられていた。

その沖田にクリスは顔を歪めレイピアを突くと沖田は、


「……なっ!?」

「こんな感じかな?」


クリスのレイピアの突きをそのまま刀の先で受け止めていたのだ。

驚くクリスを尻目に総也は刀でレイピアを弾き一瞬でクリスに接近して首元に刀を当てていた。


「どう?まだやるかい」

「………自分の負けだ」


その言葉と同時に弾き飛ばされていたレイピアが床に落下して転がっていく。

たった一瞬の攻防戦。

だがそれだけでクリスは理解した。

この男は化け物クラスだと。

何せレイピアでの突きをそのまま刀の先で受け止めたのだから。


「……強いな沖田」

「僕は誰が相手でも負ける訳にはいかないからね」

「それは近藤さんの為か?」


クリスは知りたかった。

何故沖田総也はこんなに強いのか。

それには理由があるはずだ。

やはり新選組の一番組組長としてか。

近藤さんの新選組を守る為に沖田は強くなろうとしたのだろうか?


「僕には守りたい人達がいる。その人達の為なら誰が相手でも斬る。僕にできる事はそれだけだから」


だから強くなるしかなかった。

僕にはこれしかなかったから。

近藤さんや土方さんと僕は違う。

僕は二人のようにできない。

僕にできる事は――


「……沖田」

「どうかしたかなクリスちゃん?」

「すまなかった。自分はお前を新選組に相応しくないと思っていた」


だけどこうしてわかった。

沖田の剣術にはしっかりとした信念がある。

大切な人達を守りたいとい信念が刀に宿っていたし、対峙して戦って沖田の目を見て理解した。

この男にも【義】はあるのだと。


「お前の守りたい人達とは京の事か?」

「そうだね。他にもいるけど誰よりも大切なのは京ちゃんかな」


本当に総也は京が大切なんだな。

京を見つめる瞳が優しく愛おしい人を見るような瞳をしていたから。

だが京よ。

何故自分を見る瞳に光がないのだ?

真っ黒すぎて正直怖いのだが。

えっ?沖田との距離が近いだって?

何か問題があるのか?

何故そんなに怒るのだ京。

本当に怖いんだが。


「さて土方さん」

「何だ?」


京がクリスをハイライトのない瞳で見つめるなか総也は円の傍にやって来てにこやかに笑う。

この男一体何を考えているのかと言うと――


「とりあえず僕はこれから京ちゃんとデートをしてくるので」

「……あぁ。………って待て総也!」


言うだけ言って円の返事を待たずに京をお姫様ダッコして消える総也。

ムダに脚を鍛えやがって!

もう気配すら感じねぇ。


「…アイツ。誰が後始末すると思ってやがる」


鉄心さんや百代の相手を俺一人に丸投げしやがって。

アイツには俺からしっかり罰を与えてやるか。


「松永か。今どこにいる?……だったらちょうどいい。総也の奴が椎名とデートに……っておいっ!松永!………切りやがった」


何て声で返事しやがる。

まるで地獄から這い上がってきた鬼のような声をしていたが。

まぁ………総也なら大丈夫だろう。

俺はもう知らん。

それよりもだ―――


「鉄心さん、どう思いましたか?」

「いろんな意味で凄い男じゃのう。それより聞きたいのじゃが……」

「はい?」

「あやつあれで本気だったのかのう?」















そして―――


「……沖田総也か。面白い男だ」

「なぁ、モロ」

「言いたい事はわかるけどダメだよガクト」


総也と京が出ていった扉を見ながら笑うクリスにモロとガクトは遠い目をする。

この日ガクトの中で総也が敵となる。

イケメンは滅びろと呪詛を唱えるガクトにモロは苦笑してしまう。




真剣で武士に恋しなさい!
第七話
END
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